2XXX年ー
人々は記憶と意識を機械に移すことで
永遠の生を手に入れていた-。
近未来TSF小説!
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2XXX-
人間は”死”から逃れることに成功していた。
コンピューターによる永遠の生を手に入れたのだ。
世界的企業である、ゼロ・ネットワークが、
人類の記憶を保管する究極のサーバー・”イヴ”を開発し、
そこに人々の記憶と意識を移し替えることで、
人間は、肉体を失っても、電子の世界の中で
生きることが可能になっていた。
「うん…こっちは大丈夫」
男子大学生の塚井 武男(つかい たけお)が微笑む。
武男の前には、ホログラム映像の女性が立っている。
「よかった~!あ、じゃあ、就職活動も順調なんだね?」
可愛らしい女子高生が微笑むと、
武男は「あぁ」と返事をする。
「---さっすがお兄ちゃん!」
武男と話しているのは、武男の妹である
菜月美(なつみ)ー。
菜月美は、高校1年の時に交通事故にあって、
下半身が動かない状態になってしまった。
それで、苦しんだ末に、
菜月美は決意したー。
”自らを電子化”することをー。
”電子化”
それは、人間としての身体を捨てて、
コンピューター上に自分の記憶と意識を移しかえること。
ただし、心と記憶を失った身体は
数日で腐敗してしまうから、
二度と、元に戻ることはできない。
それでもー
菜月美は”電子化”を選んだ。
ネット上に移し替えられた菜月美の意識と記憶は
こうして、今も生きているー
電子の世界でー。
この世界では、
電子の世界には、いつでもアクセスできるようになっていて、
基本的に、現代で言うスマートフォンのような、誰でも持っている端末から
簡単にアクセスすることができる。
ホログラム映像として、
こうやって姿を見ながら会話出来る為、
触れることはできないまでも、その人と”会う”ことはできる。
「そっちはどうだ?」
武男が言うと、
菜月美の映像が一瞬乱れる。
「--あ、うん、だいじょうぶ!元気でやってるよ!」
菜月美が笑顔を浮かべる。
究極のサーバー・イヴによって
作り出されている”電子の世界”は
通称・エデンと呼ばれている。
現実世界と同じように、色々な施設が存在し、
そこでは、仕事は、機械が勝手にやってくれるために、
現実世界よりも快適なのだと言う。
世の中には、進んで、”エデン”に行く人までいた。
もはや、人間は”生きること”に執着する必要など
なくなったのだった。
”身体の衰えを感じる”
”病気になる”
”交通事故に巻き込まれる”
”自殺を考えるほどに追い込まれる”
”コスパを考えて、自ら電子化する”
色々な人々が、身体を捨てて、
電子の世界へと旅立つのだー。
市役所や病院など、公共施設で
簡単に電子化することができる。
だが、
もちろん、電子化する前に、死んでしまえば、それまでだ。
記憶や意識が失われてしまえば、
機械の世界に行くことなく、その人は死んでしまう。
だからー、
人々は”早めに電子化”することが多かった。
電子化すれば、永遠に生きていられる。
人工知能・イヴによる自動プログラミングによって
作りだされた世界・エデンで、人々は永遠に生きることができる。
”食糧問題”も、”領土問題”も、
”自然災害”も、そこには、何もない。
一人ひとりが自分の世界を作ることができる、
夢の、世界。
「お兄ちゃんも、早くこっちに来たら?」
菜月美が微笑む。
「--え~?いや、俺はまだ
こっちでやりたいことがあるからな」
武男がそう言うと、
少しだけ不貞腐れたような表情を浮かべる菜月美。
「--あ、そうだ、お料理してる最中だった!
またね!」
菜月美はそう言うと、にっこりとほほ笑んで
ホログラム映像は消滅したー。
「---電子化…ね」
武男は呟く。
武男は、どうも電子化が好きになれなかった。
何故ならー
”理想”は完璧ではないからだー。
少なからず、電子化には、問題がある。
時々ー
起こるのだ。
”エラー”が。
「--晴美(はるみ)」
武男は、晴美と呼ばれる女性を呼び出した。
晴美のホログラム映像が、表示されるー。
「---またお前かよ?くくく…
いい加減しつこいなぁ」
晴美は自分の胸を触りながら
挑発的な目線で、武男を見つめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1年前ー
大学に通っている武男は、
ある女性から告白されて付き合い出していた。
それがー
晴美。
眼鏡をかけた大人しい女性で、
晴美が一人で泣いていたところ、声をかけて
2人の関係は始まった。
なぜ、晴美は泣いていたのか。
それは、晴美の母が、
会ってくれなくなったからだった。
晴美の母は、武男と出会う数年前に、
病気になったため、電子化した。
最初は毎日のように話していたのだが、
ある日を境に、呼んでも返事をしてくれなくなった。
”死んだ”
ということはあり得ない。
電子化すれば人間は永遠の生を手に入れられる。
無視されている。これが、答えだ。
電子化した人間とは、この世界の専用端末”ZERO”で
スマホで電話をかけるかの如く、簡単に呼び出すことができる。
だが、他の人と話し中だったり、
相手が無視すれば、呼び出すことはできない。
そんな晴美を武男は慰めた。
そして、仲良くなり、告白したー
2人の間柄は順調だった。
しかしー
ある日、晴美は言った。
”わたし、電子化したい”
とー。
武男は反対した。
それでも、晴美の意思は固かった。
近くの役所で手続きする晴美に
武男は付き添った。
晴美の身体に、専用のヘルメットが取りつけられる。
「--あっちについたら、すぐに連絡するからね」
晴美が優しく微笑む。
「---あぁ」
武男は少し悲しそうな表情をしながらそう返事をした。
”パチっ”
一瞬だー。
電子化は、一瞬だー。
晴美の身体は白目を剥いて、痙攣して、
すぐに動かなくなった。
脱皮した、昆虫のようにー
ぬけがらとなった晴美の身体ー
そしてー
「----晴美!」
武男はすぐに晴美のアドレスにアクセスして、
電子化した晴美を呼び出した。
しかしー
「~~は~~!ここが電子の世界・エデンかぁ」
晴美の様子がおかしいー
「---晴美?」
武男が言うと、晴美が不満そうな顔を浮かべた。
「あぁ?女扱いすんじゃねぇよ!俺は男だ!」
可愛らしい声ー
可愛らしい容姿ー
だがー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”電子化”には時々、エラーが発生する。
晴美は、そのエラーによって、
コンピューター上に記憶と意識が移動する際に、
人格が変わってしまった。
長かった髪は男のように短くなり、
ランニングシャツ姿の晴美が映し出されている。
「--今日は、晴美の誕生日だからさ」
武男がそう言いながら、
端末”ZERO”を操作して
”プレゼント”を購入した。
電子の世界にいる人間には
こうして、プレゼントを購入することができるのだ。
晴美のいる場所に、
武男が購入したプレゼントが出現する。
まるで、育成シミュレーションゲームかのように。
「---おい!俺は男だぞ!」
晴美が叫ぶ。
「女扱いするんじゃねぇ!」
電子化の際のエラーは、
時々発生する。
晴美以外にも、被害者はいたー。
だがー
”確率はごくわずか”として
世界的企業 ゼロ・ネットワークは、
責任を追求されることもなかった。
今の世界で
”ゼロ・ネットワーク”を敵に回すことは、
死を意味するー。
電子化を拒否されれば、永遠の生を受けることはできない。
いや、それどころか、
社会的なシステムにもなっている、
ゼロ・ネットワークと究極のサーバーであり、高性能AIであるイヴを
敵に回すことは、
この世から追放されることを意味していた。
「お前もこっちに来いよ」
晴美が笑う。
あぐらをかきながら
まるでおっさんのように笑う晴美。
晴美がまだ生きていたころの笑顔を思い出す。
「--晴美…覚えてるか?
俺と大学で出会った時のこと」
武男が言うと、
晴美は笑った。
「あぁ、覚えてるよ
くくく…懐かしいなぁ」
がに股で歩きながら
武男の方に近づいてくる
晴美のホログラム映像。
「--じゃあ、自分が女だって
覚えてるはずだ!」
武男はこれまでにも、
元の晴美に戻ってほしいと思い、
何度もこうして説得を試みた。
しかしー
「うるせぇよ!俺は男だ!」
の一点張りだった。
電子化する際に、
何らかの原因で、こうして
人格が豹変してしまうことは、
これまでにも多数報告されている。
中には、廃人のようになってしまった人もいるし、
連絡がつかなくなってしまった人までいる。
しかし、
これらの追求に対しても、
”ゼロ・ネットワーク”は対応をすることはなかった。
”些細なことで、楽園を壊すのか?”
ゼロ・ネットワークのCEO
ボル・ガイツは、そう全世界に言い放った。
世界は、ボル・ガイツに支配されていると言ってもイイ。
「くそっ…」
晴美との会話を終えた武男は、
一人、寂しそうに街を歩く。
空中に設置された浮遊するモニターには
ゼロ・ネットワークのCEO ボル・ガイツが映し出されている。
彼も、既に”電子化”していて、
この世に身体は存在しない。
「--全世界の皆さん
エデンは、楽園です。
身体の調子が悪くなったとき、悲しいとき、
仕事で疲れたとき…
どんな些細なことでも構いません。
この世に悩んだときー
あなたは電子化という道を選ぶべきです。
エデンは、あなたを見捨てません
紛争も、食糧問題も、人間関係も、
パワハラも存在しない。
お金で悩む必要もない
欲しいものがいつでも手に入り、
寝たい時に寝て、遊びたいときに遊ぶ。
わが社が作り出した最高のAI・イヴが、
理想の世界を皆様に提供することを、お約束します」
ゼロ・ネットワークのロゴが表示される。
「---ふざけるな」
武男は呟く。
晴美は、自分を奪われた。
あれじゃ、晴美のホログラムをまとった別人だ。
本当にあれが晴美なのかも分からない。
「--武男くん」
背後から、声がした。
武男が振り返ると、
そこには、可愛らしい女子大生がいた。
里恵(さとえ)-
武男の女友達だ。
晴美が、電子化したあと、
里恵は、武男に急接近して仲良くなった。
だが、武男には晴美がいる。
たとえ、男のようになってしまっても
武男には新しい彼女を作るつもりはなかった。
「晴美、どうだった?」
里恵が尋ねる。
「ん?あぁ…いつも通りだよ」
武男がため息をつくと、
里恵が苦笑いした。
「ま…まぁ…
どんなになっても晴美ちゃんは晴美ちゃんでしょ?」
里恵の言葉に、
武男は頷いた。
電子化ー。
本当にー
本当にー
これが、正しいことなのか?
機械の中で生きることが、
本当に、正しいことなのかー
武男は思うー。
それにー。
「---」
「お兄ちゃんも、早くこっちに来たら?」
妹の菜月美ー
「お前もこっちに来いよ」
彼女の晴美ー
「この世に悩んだときーあなたは電子化という道を選ぶべきです。」
ゼロ・ネットワークCEOのボル・ガイツー
なぜ、電子化して、
ネット上に移動した人間は、
誰もが「こっちに来い」と言うのだろうかー。
武男は、それに違和感を感じていた。
まるでー
何かに操られているかのように。
話をしている菜月美は、晴美は、ボル・ガイツはーー
本当に、”本人たち”なのかー
実は、
プログラミングと話しているだけなのではないかー
武男は、そう思わずにはいられなかった。
「---俺、ちょっと確かめたいことがある」
武男は、近々、
ゼロ・ネットワークの日本支社に乗り込もうと考えていた
”あること”を確かめるために。
歩き出す武男。
「む、無理しないでね」
里恵は、武男に向かってそう声をかけた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
武男と別れた里恵の背後から、
不気味な黒い影が浮かび上がるー
「!?」
里恵が気付いたときには、もう手遅れだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
永遠の生を手に入れた世界…
でも、なんだか不穏なようです…
コメント
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不穏なうえに「サーバー・ダウン」というタイトル……むむっ!
これは何かあるに違いないっ!(触手並の感想)
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美少女の姿で電子化できるなら私もしてみたいものですが、
第1話からいきなり不穏な要素が……
続きが気になりますねぇ
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> 不穏なうえに「サーバー・ダウン」というタイトル……むむっ!
> これは何かあるに違いないっ!(触手並の感想)
コメントありがとうございます~!
ぺち~っ!
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> 美少女の姿で電子化できるなら私もしてみたいものですが、
> 第1話からいきなり不穏な要素が……
> 続きが気になりますねぇ
コメントありがとうございます~☆
電子化はいいですよぉ~笑