残り3時間ー。
4人の少女は、次第に狂っていくー。
”無事にここから出たい”
そんな想いがー、
理性を失わせていくー
男は呟く。
”君たちは愚かだ”と。
--------------------—
「---選択を強いられた時、
人は、本性を露わにする。
例え、”光”がそこにあったとしても、
狂気は、それをも蝕む」
男が、モニターに映る4人の少女を見つめながら微笑む。
「--さて…僕が手に入れる身体は、
誰の身体になるかな…?」
男が笑みを浮かべると、
時計を見つめた。
そしてー
呟いた。
「それとも”ゲームオーバー”かな…?くくく」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
残り3時間ー
「--どうして!どうしてパパとママは
助けに来てくれないの!?」
芸能事務所所属で、
プライドの高い女子生徒・冬美が
ヒステリックに喚き散らしている。
「--早く!誰か立候補してよ!」
冬美が叫ぶ。
4人のうち、誰か一人が、
謎の男に身体を捧げれば
残りの3人は解放される。
もちろん、冬美は、自分がその”ひとり”に
なるつもりは全くない。
なんとしても、和歌奈、桃子、志穂の誰かに
犠牲になってもらう必要がある。
「--冬美ちゃんが立候補したら?」
先ほどまで穏やかな雰囲気だった
生徒会の和歌奈がとげとげしい口調で言う。
「はぁ?」
反論する冬美。
「---自分が出来もしないくせに
ごちゃごちゃうるさいのよ!」
和歌奈が叫ぶ。
和歌奈は、
学校では、穏やかに、優しく振る舞っているがー
本当は優しいわけではないー
”褒められて”
”頼りにされて”
”好かれて”
そんな、自分が好きなだけー。
誰からも嫌われたくないだけー。
本当は、この4人の中の誰よりも
強い自尊心を持っていたー
さっきー
男に憑依された和歌奈は
”実際に憑依される”という経験をしたことによって、
恐怖に支配されてしまった。
恐怖に支配された和歌奈は、
もはや、”優しくて、穏やかな優等生”を演じることが
できなくなっていた。
「---あたしはここから出たいの!
立候補するつもりなんてないから!」
冬美が叫ぶ。
4人の中で唯一冷静さを保っていた男勝りの桃子が言う。
「みんな落ち着け。
助けは必ず来る。」
桃子は、下校時にここに連れられてきた時間から
考えるに、そろそろ誰かの親が、異変を感じて
自分たちを探し始める時間だと考えていた。
ここで、パニックを起こせば、ヤツの思うつぼだ。
「--落ち着いてなんていられないわよ!」
冬美が叫ぶ。
そしてー
「うっ…うっ…」
泣いているツインテール少女・志穂の方を見る冬美。
冬美は少しだけ笑みを浮かべた。
「--そうだ!あんた、ちょうどいいじゃん!」
冬美が志穂の方に向かっていく。
「え…?」
志穂が泣きながら冬美の方を見た。
「--ねぇ志穂!立候補しなさいよ!」
冬美が志穂に言う。
「え…い、、いやだよぉ…わたし、ここから出たい!」
志穂が泣きながら言う。
「うっさいわね!いつもドジなあんたと
今日まで仲良くしてきてやったのよ!」
冬美が辛辣な言葉を叫ぶ。
「--そうね」
生徒会の和歌奈も口を開いた。
「志穂ちゃん、悪いけど、わたしたちのために
犠牲になってくれる?」
”優しい優等生”の顔はもうそこにはない。
自分が助かることしか考えていない和歌奈が、
そう言い放った。
「い…いやだ!わたし…わたしはいやだ!」
志穂が泣き叫ぶ。
「おい!二人とも!」
桃子が叫ぶ。
「-ーー決まりね」
冬美が立ち上がる。
”あたしは芸能界にも選ばれたのよー。
こんなところで終わるわけにはいかない”
冬美はそう思いながら
部屋の隅にあるインターホンを鳴らす。
”5時間以内に、”誰の身体”を僕にくれるか、
4人で話し合って決めて下さいねぇ~
決まったら、そこのインターホンを押して
僕に教えてくれれば、
僕がその子の身体を貰う。
残りの3人は解放してあげるよ”
「あたしはーー解放されたいの!」
冬美が叫ぶ。
”おや…?
もう決まったのかな?”
インターホンから声がする。
「---えぇ。
ーー志穂ーー
あそこにいる、ツインテールの志穂」
冬美が、泣いている志穂を指さしながら言う。
「---志穂をアンタにあげるわ!
だから、あたしたち3人を出して!」
冬美が叫ぶ。
男勝りの桃子は「やめろ!違う!」と叫ぶ。
しかし、生徒会の和歌奈が
「桃子ちゃんは黙ってて!」と叫ぶ。
和歌奈はもはや自分のことしか頭にない。
”そっか~。
ツインテールの妹キャラ~
ふふふ…
僕の身体にはふさわしいな”
男が嬉しそうに言う。
冬美と和歌奈は笑みを浮かべたー
”これで、自分たちは助かる”
とー。
しかしー
”丸川 志穂ちゃんー
君の身体ーもらっていいかな?”
スピーカーの男が、志穂本人に確認した。
「…だ…、、、や…だ…!」
志穂が小声で言う。
”聞こえないよ?僕に聞こえるように言ってごらん?”
スピーカーの声がそう告げると、志穂が大声で叫んだ。
「いやだ!!!
誰かに身体を奪われるなんて、嫌だもん!!!」
泣きながら叫ぶ志穂。
”あらら~
ちゃんと話し合い出来てないじゃないか”
スピーカーの声が言う。
”勝手に人に押し付けようとしちゃだめだよ。
きみにはお仕置きだ”
スピーカーの声が消える。
「---ひっ!?」
冬美が苦しみだす。
「や、、、やめて…ご、、、ごめんなさい!
入って来ないでぇ!」
おしゃれな冬美が
もがき苦しみ始める。
「---ひっ!?」
さっきの自分と同じ目に遭っている…
そんな光景を目の当たりにして、和歌奈が
恐怖に身を震わせる。
「--あっははは~!
友達を犠牲にして助かろうなんて最低~!」
冬美が突然笑い出す。
「こういう女にはお仕置きが必要だ~!」
憑依された冬美は、そう言うと、突然服を脱ぎ始めた。
「---な、、何を!」
桃子が叫ぶ。
下着姿になった冬美が
サルのようなポーズを取って踊りだす。
「うききききき~!」
プライドの高い冬美にとっては
屈辱中の屈辱。
しかし、冬美は嬉しそうにサルのような踊りをしている。
恥ずかしがることもなくー
「--あはははははは!
あたしぃ~!友達を売ろうとして
罰ゲーム受けちゃった~!あははははは!」
冬美の姿を泣きながら見つめる志穂。
「もうやめて…!やめてよぉ!」
志穂の目からぽたぽたと涙がこぼれている。
「--うひひひひひ~!
あたしは罰ゲームを受けてますぅ~!」
がに股で歩き回りながら
うへうへと笑う冬美。
おしゃれな冬美のプライドは
ずたずたに引き裂かれた。
「--ふん」
生徒会の和歌奈は”自業自得”と言わんばかりに
冷たい目線を送る。
「---おい!やめろ!」
男勝りの桃子が叫ぶ。
「えへへ~!おバカさんなあたしは
おバカさんなことさせられちゃってるんですぅ~!」
ふざけた口調で答える冬美。
「--もう十分だろ!」
桃子が叫ぶ。
この状況で頼れるのは、もはや桃子だけだと言ってもいい。
そんな桃子を見つめると
冬美は微笑んだ。
「いつまで、冷静で、いられるかな…ふふ」
とー
そして、冬美はそのまま気を失った。
「冬美!」
桃子が叫ぶ。
冬美は意識を取り戻すと、悲鳴を上げて、
脱ぎ捨てた服を掴むと、
そのまま部屋の隅っこでがくがくと震えはじめた。
「あは…」
ツインテールの志穂が笑いはじめる。
「--志穂?」
桃子が志穂の方を不思議そうに見ると、
志穂は、身体を震わせながら笑っていた。
「あははは…怖いよぉ…
あはは、あはは、あははははははははは~!」
泣きながら笑う志穂ー
志穂は、恐怖に耐えきれずに狂ってしまった。
「あははははは~!ばっかみたい~!あはははは!」
「おい!志穂!志穂!」
桃子が志穂の肩を掴んで、しっかりしろ!と叫ぶ。
しかし、志穂は狂ったように笑いつづけるだけだった。
がくがくと震える冬美は反応しない。
そんな”壊れた友達”たちの姿を見て
生徒会の和歌奈は微笑んだ。
「桃子ちゃんー
もう無駄よ。」
和歌奈の表情には、笑みが浮かんでいる。
「--どっちかを犠牲にして、ここから出ましょ?」
和歌奈の言葉に、桃子は怒りを露わにする。
「おい和歌奈!本気で言ってるのか!?」
桃子は和歌奈の胸倉をつかむ。
まるで、イケメン男子に胸倉をつかまれているかのような
感覚に陥りながら和歌奈は笑う
「--わたしは今までもこうして生きてきたの。
知ってる?小さい頃、わたしはいじめられてたの。
でもね。わたしは自力でそこから抜け出した。
どうやって抜け出したか分かる?
わたしをかばってくれた友達を裏切って
わたしがいじめっ子たちと仲良くなったの。
ふふふ…
あの子は、わたしに裏切られて不登校になった」
そうー
この世は冷たいー
だからー
和歌奈は思うー
裏切られる前に、裏切ればいいー
利用できるものは、骨の髄まで利用してやればいいー
偽善だって構わないー
優しくしていれば、優等生で通るー
この世界は、そういう世界。
「和歌奈ー!」
桃子が怒りを露わにする。
「--これがわたしの本当の姿なの。
文句ある?
わたしは、自分が生き延びるためなら
迷わず、あんたたちを切り捨てるわ!」
和歌奈が叫んだ。
桃子は和歌奈から手を放すと、くそっ!と叫ぶ。
残り2時間ー
志穂の笑い声と
支離滅裂な発言だけが部屋に響き渡るー
”愚かだー”
モニターで4人の様子を見ながら男は笑うー
人はーー
愚かだーー
30年前ー
彼は、とある事件に巻き込まれたー
ちょうど、高校生のときー
彼女らと、同じぐらいの年齢だ。
とある場所に友人と遊びに行った際のことー。
運悪く、近くで別の事件を起こして
逃亡中だった男にナイフを突きつけられてしまったー
自分と友人は、男に人質にされー
男は近くの空家に立てこもったー
警察たちが駆けつけるー
その時、男は言った。
”2人のうち、どちらかだけ助けてやる!
どちらか選べー”
と。
警官たちは、必死に男を説得してくれたー
けどー
彼の親友は言った。
”俺を助けてくれ!
そいつはどうなっても構わない!”と。
親友だと思っていた。
けれど、違ったー
2人で生き延びたいー
そう思っていた彼の気持ちは裏切られた。
必死に叫ぶ親友を見て、
逃亡犯は笑った。
”じゃあ、望み通りにしてやるよー”
とー。
彼は、その日ー
死んだー。
あの日ー
親友が裏切らなければ、
警察の説得が成功して、2人とも助かる道があったかもしれないー
モニターを見ながら、
彼は思うー
「人間は愚かだー」
あの時、
親友が”友を売らなければ”、2人とも助かったかもしれない。
けどー
親友は、自分を裏切った。
結果、助かったのは、親友だけー
彼はモニターを見ながら微笑む。
あの時と同じだー。
人は”全員助かる可能性があるのに、自分のことしか考えない”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
残り1時間30分。
「---くそっ!」
桃子は壁を蹴る。
落ち着いていた桃子も、だんだんと苛立ってきている。
”5時間以内に、身体を一つ選ばなければー
”ゲームオーバー”
その言葉が桃子に恐怖を与えていた。
「あははははははは~~~~~!
ひーひひひひひ!」
笑いつづける志穂。
彼女はもう、狂っている。
「うるせぇ!」
怒鳴り声をあげる桃子。
彼女はー
友達を守りたいー
そう思っていた。
小さい頃から、正義感が強かった。
友人がいじめられているのを見て、
守る為に”強くなりたい”と思った。
強く、強く。
そう思ううちに、彼女は、
男のように、かっこよく、強い少女になった。
けれどー
和歌奈もー
志穂もー
冬美もー
非協力的。
「どうしてだよ…!」
桃子は悔しそうに壁に拳を叩きつけた。
「-----…はぁ…はぁ」
冬美は部屋の隅で震えていた。
さっき、憑依されたショックを隠しきれない。
「---」
和歌奈と、志穂と、桃子の方を見つめるー
小さい頃から裕福で、何の不自由もなかったー
けれどー
彼女は孤独だった。
金持ちの娘であるがゆえに、周囲との距離感を
いつも感じていたー
けれどー
この3人と出会ってからは毎日が楽しかった。
「---…」
冬美は、3人との思い出を振り返りながら、
時計を見つめたー
「--ひぅっ!?」
桃子がビクンと震えた。
「---ひ、、、ひ、、ひひひ!」
笑う桃子。
「--桃子?」
冬美が声をかける。
桃子は、男に憑依されていた。
「---君たちさぁ、あと1時間だよ。
どうするの?僕にあげる身体は決まったぁ~?」
桃子が笑いながら言う。
いつもの凛とした彼女の姿は失われて
欲望の笑みを浮かべている。
「---そこの狂ったツインテールはどう?」
生徒会の和歌奈が、
発狂している志穂を指さす。
「--それは君の意見だろ?」
桃子が微笑む。
「--ちゃんと話し合って決めなくちゃ…くく」
桃子はそう言うと、そのまま地面に倒れたー
残り55分ー
”決断”の時は間近に迫っていたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
身体を奪われるのは誰かー
明日が最終回デス!
コメント