公衆電話に意識を乗っ取られた穂乃香は、
仲間に会うために、街を歩き続ける。
数少ない公衆電話に出会うたびに、綺麗に
掃除をしていく穂乃香。
そして…
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「ありがとうございます!ありがとうございます!」
電話ボックスから出てきた老人に、
突然お礼を言いはじめる穂乃香ー。
夜ー。
妹の萌未と別れた穂乃香は
街にやってきていた。
「--へ…?わし、何かしたかね?」
紳士風な老人がきょとんとした様子で言うと、
穂乃香は
「いえ、公衆電話を思いやってくれるのが嬉しくて…」
と穂乃香は目から涙を流し始めた
老人は、公衆電話をとても優しく、丁寧に扱っていた。
その姿に、公衆電話の思念に憑依されている穂乃香は
感動し、思わず老人に声をかけた。
「--へぇ…若いのに珍しいねぇ」
老人はそう言うと、
公衆電話の方を振り返って微笑んだ。
「昔…そう、携帯電話がない時代は
よくお世話になったもんだよ。」
そんな老人の言葉に穂乃香は
嬉しそうにうなずいた。
「若い頃はよく、上司に報告するために
電話ボックスに駆け込んだもんだよ」
「--嬉しいです!」
穂乃香は嬉しそうに微笑んだ。
「--あ、そうだ、お嬢ちゃん、これを見るかい?」
おじいさんが、鞄から何かを取り出した。
おじいさんが取り出したクリアファイルには
限定のテレホンカードがたくさんしまわれていた。
「--わぁぁあああ♡」
穂乃香はとても嬉しそうに目を輝かせた。
「おいしそう~」
「え?」
穂乃香の言葉に老人は一瞬首をかしげた。
公衆電話にとって、テレホンカードは
人間で言う食事なのだ。
「--す、、すごい…
わたし、すっごく嬉しいです!」
穂乃香は顔を赤らめながら言う。
老人は、”公衆電話マニアの子かな?”と思いながら微笑む。
「--わしは今でも公衆電話に感謝してる。
最近はもう使わない人も多くなっちゃったけど、
あの電話ボックスの独特の空気だとか、
残り時間気にしながら電話したり、
10円玉を握りしめたり…」
「--~~あぁ~♡ わかりますぅ~♡」
穂乃香は恋する乙女のように、
目を輝かせた。
しかしー
「あ、ちょいと待ってな」
おじいさんが鞄から
スマホを取り出した。
「----あ?」
穂乃香の表情が一変する。
「--…おい!」
穂乃香がスマホを取り上げた。
「---な、何をするんだ?」
穂乃香がおじいさんの言葉を無視して
スマホを地面に叩きつけた。
この人間は、公衆電話の味方ー
そう思っていた。
まるで、信じていた男性に浮気されたかのような
気持ちでいっぱいになった穂乃香は、
男性が公衆電話を大事にしてくれていることも忘れて
スマホを無我夢中で踏み続けた。
「---うらぎりもの!」
穂乃香はそう叫ぶと、泣きながら走り出した。
「--人間は、もうわたしのことなんて
必要としていないんだ!
もう…!俺のことなんて!」
穂乃香が大泣きしながら夜の街を走る。
高校の制服姿の穂乃香を見て
通行人たちは驚く。
夜の街を、
泣きながら走る高校生。
普通の光景ではない。
「---!!」
穂乃香はあるものを見つけてしまった。
それはー
公衆電話にとって最大の敵ー
あってはならない存在ー
cocomoショップだったー。
「----くそっ!許せない!」
穂乃香の記憶を引き出し続けた結果、
公衆電話の口調は女っぽくなりはじめていた。
携帯ショップに入った穂乃香は、
笑顔でスマホを見つめる客たちに向かって叫んだ。
「--どいつもこいつもスマホスマホスマホスマホ!
私たちへの感謝の気持ちを忘れたのか!」
叫ぶ穂乃香。
利用客も、店員も唖然として穂乃香の方を見る。
「--許せない!許せない!」
穂乃香は陳列されているスマホのダミーを
勢いよく倒すと、店内を滅茶苦茶に荒らし始めた。
「--ちょっと!お客様!」
店員が叫ぶ
「どけぇ!」
穂乃香は、怒り狂って、店内で暴れる。
「お前らは、わたしたちを利用するだけ利用して
ゴミのように捨てていく!
お前らは!お前たちは!」
穂乃香は泣き叫んでいた。
可愛らしい女子高生が突然、店内に入ってきて
店内を破壊している。
店員も、利用客も唖然とするしかなかった。
「---こんなもの!こんなもの!」
スマホを叩きつける穂乃香。
「---け、警察を!」
店員の一人が事務所にいる店員に叫ぶ。
「お前ら!
みんなみんなわたしのこと笑いやがって!
不便だの汚いだのなんだの…
笑いやがって!」
完全に公衆電話に支配されている穂乃香は
感情をむき出しにして叫んだ。
「--な、、何を言ってるんだ?この子…?」
「可哀想に…」
周囲の人間が口々に穂乃香のことを
呟いている。
「-ーーわたしはお前たちを許さない!
許さない!」
穂乃香が大声で叫ぶ。
そして、
警察が店内に駆け込んでくる。
取り押さえられる穂乃香
「離せ…!はなせ~!」
髪の毛をぐちゃぐちゃに乱しながら泣き叫ぶ穂乃香。
警察官たちが暴れる穂乃香を
無理やり抑え込む。
それでも暴れる穂乃香。
穂乃香は滅茶苦茶にされて、ようやく
取り押さえられた。
店から連行されていく穂乃香。
先ほど、穂乃香と話していたおじいさんがそこには居た。
「---君は…」
おじいさんが穂乃香に声をかける。
「……」
穂乃香は老人を睨みつけた。
「---そうか」
その目を見て、老人は何かを悟る。
「確かに、公衆電話はもう時代遅れだ。
昔とは違う。
時代と共に、ものは消えていくー。
でも…。
まだ君たちを必要としているものたちはいるし、
昔、君たちを使った人々の中には
ちゃんと感謝の気持ちを持ってる人もいる
わしだってそうだ。」
穂乃香を連行する警官たちが
”何言ってんだこいつ?”という目で
老人を見つめる。
穂乃香は言う。
「綺麗事言いやがって…!」
穂乃香は老人を睨む。
老人は静かに呟いた。
「--きみは確かに時代遅れで、
笑われたり、きついことを言われたりするだろう。
だが、わしもそうだ。
働き盛りのころは、会社に必要とされ、
おだてられて利用された。
でも、年老いたらどうだ?
わしは自主退職を勧告され、退職したよ。
”老いぼれ”だとか、時代遅れだとか言われてな」
老人が言うと、
穂乃香は叫んだ。
「だったら、だったらわたしの気持ちも分かるはずだ!」
とー
「--あぁ、だが、それでいい。
わしも、君も、もう時代遅れだ。
仕事は、若い者が支えていくべきだと思うし、
電話も、スマホが中心になっていくー。
わしらは役目を終えたんだ。」
老人の言葉に
警官たちは困惑している。
「でもー
それでも、どこかにわしや君を必要と
してくれている人がいるし、
どこかで、感謝してくれている人がいるー。
わしには妻がいるし、後輩から、2人だけだけど
年賀状も来る。
公衆電話だってそうだ。
時々だろうと、使う人はいただろう?
それでいいじゃないか」
老人がそこまで言うと、
警察官は「何をブツブツ言ってるんだ」と言葉を口にして
そのまま穂乃香を連行し始めた。
「今、若い人たちだって、いつかはわしと同じような思いをする!
スマホだって、いつかは公衆電話と同じように時代遅れになる!
みんな同じなんだ!
時代が流れて、みんな、新しいものにとって代わられていく
それは仕方のないことなんだ!
でも、わしは君たち公衆電話に感謝しているー
ありがとうー」
老人は、自分語りを終えると、満足したのか、
そう呟いて、頭を下げた。
野次馬たちが笑う。
「あの爺さん、何言ってるんだ?」
「女の子を公衆電話と間違えてるんじゃない?」
「ぼけたのか・・」
口々に野次馬が囁く中、
穂乃香はその様子を見て、
納得いかない様子で呟いた。
「わかったよ…」
とー。
老人のように公衆電話に感謝している人もいる。
数は減ったけれど、必要としてくれる人はいる。
穂乃香は連行されながら思うー。
この身体を返すには、自分が
元の場所に戻らなくてはいけない。
電話ボックスまで行き、
受話器を持たないといけないー
だがー
警察とやらに捕まってしまった。
もうー
電話ボックスに行くことはできない。
「-----…ま…どのみち…」
穂乃香は自虐的に微笑むと、
こう呟いた。
「最後にあんたみたいな爺さんに
出会えてよかった」
とー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
穂乃香を乗っ取った公衆電話の
撤去工事が行われていた。
元々ー
今日、撤去される予定だったのだ。
穂乃香に憑依した公衆電話の思念は
それを知っていた。
明日、自分は死ぬー。
とー。
破壊されていく公衆電話。
穂乃香は微笑んだ。
「いてっ…」
”自分に最後の時が来たと知る”
「---くそっ…
次生まれるときは、スマホに生まれてぇな…」
取調室ー
穂乃香はそう呟いて、意識を失った。
「おい?どうした?」
取調べしている警察官が言う。
目を覚ました穂乃香は
悲鳴を上げた。
「--ど、、どうしたんだ?」
警察官が言うと、穂乃香は呟いた。
「こ、、、ここ、どこですか…?」
と。
・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
穂乃香は、厳重注意の末に
釈放されたー
家へと帰宅する穂乃香。
「…わ、、わたし、どうして?
なにをしたんだろう?」
帰宅した穂乃香には地獄が待っていた。
自分のスマホを壊したことで母親に怒られ
父親に怒鳴られ、
妹からは無視されるようになったー
「えぇぇ…」
自分の部屋に入った穂乃香は
目に涙を浮かべて叫んだ。
「どうしてわたしがこんな目に!?
わけわからない!」
穂乃香は、この件がきっかけで
家族との関係が悪化してー
グレてしまった…。
半年後にはー
穂乃香は家に帰らず、夜の街を
ミニスカート姿で歩くような子に
なってしまうー
が、それはまた別のお話ー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
穂乃香の自宅の裏側にある公衆電話ー
”気持ちよかったなぁ”
乗っ取られた穂乃香に舌で掃除して
もらったときのことを思い出す。
”人間の身体、欲しいなぁ”
公衆電話に芽生えた意識ー
ガチャ…
そして、そこに女子大生が入ってきた
「は~、スマホの電源切れちゃった~
これ使お!」
公衆電話を操作し始める女子大生。
”いい身体がきたぁ~”
公衆電話に芽生えた意識は、
極上の獲物が来たことを喜ぶのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
変な作品が出来上がってしまいました(笑
スケジュールを組む際に没にしようか迷ったのですが、
毎日書いているんだし、変なのがあってもいいかな!
ということで、書いてしまいました笑
お読み下さり、ありがとうございました!!
コメント
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公衆電話に憑依されるというカオス感がすごかったですねw
老人の話で良い話風に終わるのかと思いきや、穂乃香は散々な目にあってかわいそう
そして、新たなる犠牲者が…?
時々はこういう話もいいですね!
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> 公衆電話に憑依されるというカオス感がすごかったですねw
> 老人の話で良い話風に終わるのかと思いきや、穂乃香は散々な目にあってかわいそう
> そして、新たなる犠牲者が…?
> 時々はこういう話もいいですね!
ありがとうございます~!
かなりカオスだったので、書いてる私も困惑しました~笑
公衆電話本人にとっては良い話だったかも…ですけどネ!