<憑依>ばれんたいん・デス②~揺らぐ男~(完)

バレンタインデー!

男は憎んでいた!
その日を!
その風習を!

男は、一人、バレンタインデーを破壊するための
孤高な戦いを続ける。

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「き、急にどうしたんだよ!利恵(りえ)!」
男子大学生が叫ぶ。

彼女の利恵が、バレンタインに、とくれようとしていたチョコを
突然、舐めはじめたのだ。

「うふふ…どう?チョコを舐めるわたし…?
 素敵だと思わない?」

訳のわからないことを言いながら、
普段おとなしい利恵は、
その表情をゆがめながら、
手作りのチョコをイヤらしく舐めている。

唾液が地面に落ちる。

「---…り…利恵…」
彼女の意図が分からず困惑する彼氏。

だがー
いつも大人しい彼女なりのアピールなのだろうか。

チョコをいろっいぽく舐める彼女の姿は美しかった。

「利恵…それは…僕を、誘っているのか?」
彼氏が言う。

「はぁ~?わたしは、ただ、えへ♡ 
 バレンタインを~♡壊したいだけぇ♡」

チョコをさらに激しく舐める利恵。

利恵という女子大生は、
バレンタインデーを憎む男・昭義に憑依されていた。

昭義に身も心も奪われ、
大好きな彼氏のために頑張って作ったチョコを
彼氏の目の前で、色っぽく舐めさせられている。

「うふぅ♡
 愛なんて、わたしの舌一つで、消せるのよ」

ドロリと地面に落ちたチョコ。

自分の手に付着したチョコを、利恵は色っぽく舐めたー

「わたしたちのバレンタイン、滅茶苦茶になっちゃった~!」
利恵が笑うー

それを見た彼氏は突然、利恵を押し倒した。
利恵の色っぽい”チョコ舐め”を見て、
彼氏は普段おとなしい利恵が、不器用に自分を
誘っていると感じたのだー

「ひっ!?」
急に押し倒されて驚く利恵。

「次は、僕たちが滅茶苦茶になろう。
 あのチョコのように、溶け合おう」

「--ひ~~~っ!?」
利恵の中にいる昭義は、慌てて利恵から抜け出した。

”きゃあああああああ!”

利恵の悲鳴が響き渡る。

昭義は、振り返りもせずに微笑んだ。

「---溶けちまうのは、体同士じゃなくて、
 愛になりそうだな…クク」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---きゃ~~~~っ!」

別の場所。

とある極道組織のお嬢が、
悲鳴を上げていた。

「お嬢!」
「お嬢!」
「テメェー!」

荒々しい男たちが集まってくる。

「え???俺?」
誰かから貰ったチョコを手にしている男が、
荒々しい男たちに突然、ボコボコにされた。

「お嬢!ご無事ですか!」

18:00-。
昭義は、とある組織のお嬢に憑依して、
街に飛び出し、
チョコを貰ってそうな男に近づいては、
悲鳴をあげて、
その男を、取り巻きたちにボコボコにさせていた。

「--ふふん!ご無事ご無事~!」

そう言うと、お嬢はまた新しい獲物を見つける。

「お兄さん~!わたしとエッチしない~?」

「--え?カワイイなぁ…マジで言ってるの?」
チャラい男が言う。

「--うん!わたしとエッチ」

お嬢は、護衛の男たちが、
こっちに気付いたタイミングを
見計らって叫ぶ。

「きゃ~~~~~~!助けて~~~~!」

突然騒ぎ出したお嬢に、
チャラい男は戸惑う。

「お嬢!」
「お嬢!」
「テメェー!」

荒々しい男たちが集まってくる。

「~~!?ひっ!?」
チャラい男も、お嬢が憑依されていることも知らずに
集まってきた男たちにボコボコにされるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

埠頭ー

夜の街を見つめながら
マフラーに身を包み、寒そうにしている女子高生が呟いた。

「あの…」

となりにいる男子高校生が、彼女の方を見る。

「これ…よかったら…
 雄太くんのために…」

彼女が顔を真っ赤にしながら言うー。

彼女は引っ込み思案な性格で、
幼馴染の雄太のことが、
中学時代から好きだったが、告白できずに居た。

しかしー
高校卒業も目前に迫ったこの
バレンタインデーで、ついに告白しようとしていた。

「----え…」
雄太が、本命チョコであると理解しそうになった
その瞬間だった。

「わたし…雄太くんのこと…
 ずっと…ずっと…s…ひぅ・・・?き…
 きらい…嫌いだったんだよぉ!ははははははは!」

「--恵麻(えま)?」

突然笑い出した女子高生・恵麻に違和感を感じる雄太。

「---わたしがテメェなんかに本命チョコ
 あげると思った?
 うはは!笑わせんじゃねぇよ~!」

恵麻は笑いながら、綺麗に包まれた手作りのチョコを
開けると、ニヤニヤしながらそれを見つめた。

ラブレターが地面に落ちる。

それを踏みにじる恵麻。

「---お、、おい!」
雄太が叫ぶ。

「うるせぇ!幼馴染面しやがって!」
可愛らしい声で暴言を吐く恵麻。

そして、♡型の「だいすき」と書かれたチョコを
見つめると
「なにがだいすきだ!」と鼻で笑い、
そのチョコを、海の方に向かって投げた。

「--あははははははは!
 バレンタイン壊すのだ~いすき!」

そう大声で笑う恵麻。

ーーー!?

恵麻は目を疑った。
雄太が、埠頭から海に飛び込んだのだー

「はー?」
唖然とする恵麻。

本命チョコを渡そうとした恵麻が
パニックになって取り乱したー

雄太はそう理解していた。
恵麻は昔からパニックになると、おかし行動を起こす。

「---恵麻の気持ち、ちゃんと受け取ったからな!」
海に飛び込んだ雄太はそう叫ぶ。

そして、海に潜って、
沈むチョコを探しに行く。

「は?バカじゃねぇの!?あははははははは!」
笑う恵麻。

しかしー
雄太が上がって来ない。

「--お、、おいおい」

恵麻は焦る。
昭義は、毎年バレンタインを滅茶苦茶にしているが、
人の命を奪ったことはない。

そこは”してはいけないライン”
として、彼なりの美学があったからだ。

「くそっ!何考えてんだよ!」
大声で叫ぶ恵麻。

いつまで経っても雄太は上がって来ない。

「あ~~~~~!」
恵麻はイライラした様子で髪の毛を掻き毟ると
叫んだ。

「--くそ野郎が!」
恵麻もそのまま海に飛び込む。

死なれては後味が悪い。
憑依してるだけだから、
恐らくは、自分の元に罪が及ぶことはないが、
それでもー
後味が悪い。

昭義にとって
”バレンタインの破壊”は
命のやり取りではない。

あくまでも娯楽でなくては、ならないのだ。

「--くそっ!どこにいきやがった!くそっ!?」

恵麻の身体で、ずぶ濡れになりながら
雄太を探す。

そしてー

「うっ…!?」
思ったより海が冷たかったー

2月14日ー
考えてみれば当たり前だ。

ここは、温水プールなどではない

「くそっ…!」
スカートがずぶ濡れになる。

「--こいつ、泳ぎやすい格好して来いよ…!」
身勝手なことを呟きながら恵麻は表情を歪める。

「やばい…」
このままじゃ雄太とかいう男を助ける前に、
自分も…

身体の自由が効かなくなってくる

「やっべ…」
たまらず、恵麻の身体から昭義は抜け出す。

意識を失った恵麻は、そのまま海の中へと沈んで行った。

「--あ、、、あぁぁああ…」
昭義は慌ててその場から立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アパートの一室。

昭義が目を覚ますと、
昭義は身体を震わせていた。

「はぁ…はぁ…」

あの二人はおそらくー
死ぬー

「はぁ…はぁ…はぁ…」
本来、小心者の昭義は恐怖に身を震わせていた。

明日の新聞ー
いや、明後日かも知れないー

高校生2人が無理心中という記事が載るだろう。

俺が、殺したー

「うあああああああああ!」
昭義は、パニックを起こして、
キッチンにある包丁を手にした。

「すまない!すまない!すまない!」
人の命を奪うつもりはなかった。

昭義は、罪悪感に押しつぶされそうになり、
自ら死をー

”ピンポーン”

インターホンが鳴る。

「あ…?は、、はい…」
昭義は目に涙を浮かべながら玄関に向かう。

するとー

隣の部屋に住む若い女性がいた。

「あ、、あの…
 これ…良ければ」

女性は、朝会ったときに持っていた紙袋を
そのまま手渡した。

「あ…あの…朝渡そうと思ってたんですケド、
 なかなか勇気が出なくて…」

「え…」
昭義が混乱していると、
女性は笑った。

「--年の差はありますけど…
 ほ、、、本命なので…
 ご、、、ごめんなさい!」

そこまで言うと、女性は自分の部屋に
駆けこんでいってしまった。

「ほ…本命?」

渡された紙袋を開くと、
そこには、あまり上手でないながらも
頑張りが伝わってくる手作りのチョコレートが
入っていた。

「ま…まじで?」
昭義は笑みを浮かべる。

「やったあぁああああああああああああ!」
昭義が大声でスキップしながら
テーブルに向かうと、
ニヤニヤしながらそのチョコを見つめた。

「~~~あ~~~!ありがとうございますぅ~~~!」
昭義は大喜びでそのチョコを食べ始めた。

「バレンタインデー最高!
 お菓子屋さんありがとう!!!」

朝とは真逆のことを呟きながら、
昭義は大喜びでチョコを食べるのだったー

もう、彼の頭の中に、命を奪ってしまった
2人の学生のことなど、微塵も残っていなかったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

バレンタインデーということで、
バレンタインものでした!

来年もまたバレンタインものを
この時期に書けるように頑張ります~!

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ハ、ハッピーエンド??
    学生達の無駄死に感がひどいですね
    無名さんの作品はさくっと無意味に人死にが出たりするので油断ができません…w

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > ハ、ハッピーエンド??
    > 学生達の無駄死に感がひどいですね
    > 無名さんの作品はさくっと無意味に人死にが出たりするので油断ができません…w

    全然ハッピーエンドではないですネ…!
    憑依能力を悪用するヒトが現れたら
    生半端じゃすまないこともあると思うので
    ブラックな結末も多くなってます汗