<憑依>リストカット③~好き好き好き好き好き~(完)

好き好き好き好き好き好き好き好き…

陽奈子に憑依された冬香の運命は…

豹変した彼女の真相を知った、省吾の行動は…?

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「陽奈子…?」
省吾が勇夫の方を見る。

勇夫は”もっと聞け”と、省吾に合図を送る。

「ど、どういうことだよ?
 陽奈子って?」

省吾が聞くと、
冬香は、酔っ払い特有の反応で叫んだ。

「だ~か~ら、わたしは陽奈子だって
 言ってるでしょ~!
 えへへ、省吾くんだいすきー!」

まるで子供のようにはしゃぐ冬香。

「---お、お前、冬香だよな?
 陽奈子って?」

省吾がなおも聞くと、
冬香が笑いだした

「あははははは!
 この女の身体、奪ったの~!
 えへへ~
 省吾くんに振り向いてほしくて、
 ひょういやくって薬使って
 うばっちゃったの~!

 えへ~!」

半分寝そうになりながら冬香が言う。

酔いつぶれた冬香が、省吾の膝に頭を
乗せて、ウトウトし始める。

省吾は困惑して勇夫の方を見る。

勇夫は肉を食べながら呟いた。

「--人格が分裂するとか、って、
 アレじゃね?」

とー。

「--」
省吾は「なんか違う気がするなぁ」と思い、
冬香にさらに質問をする。

「体奪ったって、どういうことだよ?」
省吾が言うと

「え~~わたしの鞄の中見てみてよぉ~!」
と冬香が笑う。

膝枕されてて動けない省吾に代わり、
勇夫が、冬香のバッグを確認するとー
中から”憑依薬”と呼ばれる薬が出てきたー。

「--な、なんだこれ!?」
勇夫が声をあげる。

「--ひ、人に憑依する薬?」

怪しい日本語で書かれた説明書も一緒に出てきた。
輸入品か何かだろうか。

「--ま、、まじで…?」
省吾は、目の前にあるカレーライスを見つめながら
そう呟いた。

「…っか、お前、ここでもカレーかよ」
勇夫が、遅すぎるツッコミを入れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜ー

冬香を家まで送った省吾は、
自宅に帰宅した。

一人にすると、何をするか分からなかったから
本当は一人にしたくなかったが、
実家暮らしなので、帰らないわけにはいかないー

帰宅した省吾に、
勇夫から連絡が来た。

”ひなこ”

”わかったぜ!”

とー。

冬香が「私は陽奈子」と言っていたのを聞いて、
勇夫が調べてくれた。

”砂川 陽奈子”
省吾は、顔写真を見て、思い出したー

「あーーー」

数日前”ありがとうございました”と突然
お礼を言ってきた女性ー。

「--この子が、どうして冬香にー?」

きっかけは、省吾が2か月前に、陽奈子が落とした
スプーンを拾ったことなのだが、
省吾はそこまで思いだせなかった。

”とにかく、明日、話をしてみるといいぜ”

勇夫のLINEに、
”あぁ、助かったよ”と省吾は返事を送った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

朝から”寂しい”
”死んじゃう”みたいなLINEがたくさん届いた。

そんな冬香を、省吾が呼び出した。

大学の人気のない建物の裏側に
やってきた冬香は微笑む。

「しょうごく~ん♡」
物凄く嬉しそうだ。

「---」
そこに、待ち伏せしていた勇夫が姿を現す。

「昨日は、ご機嫌だったな」
省吾が言う。

「--え…な、、何…?」
冬香が戸惑った表情で省吾たちを見るー。

今日も、まるで子供かのような
格好の冬香ー。

ツインテールで、ロリコンが悦びそうな格好をしているー。

省吾は
”ボイスレコーダー”を取り出して再生した。

「あははははは!
 この女の身体、奪ったの~!
 えへへ~
 省吾くんに振り向いてほしくて、
 ひょういやくって薬使って
 うばっちゃったの~!
 えへ~!」

「---!!」

冬香が顔色を変える。

「---これは、どういうことだ?」

省吾と勇夫は、今日、大学にやってきて確認したー。

ちょうど、数日前から
砂川 陽奈子が大学に来ておらず、連絡も取れていないことをー。

「--え、、え~と…よく覚えてないや!」

冬香がちょっとイライラした様子で吐き捨てる。

「--覚えてないじゃ、済まされないぜ。砂川さん」
勇夫が、”憑依薬”の殻容器と説明書を取り出して
冬香に見せた。

「---あ・・・」
冬香が唖然としている。

「--俺の冬香を返せ!」

反応から、憑依が本当だと確信した省吾は叫んだ。

するとー
冬香は笑い出した。

「---だったらどうだっていうのよ!?
 わたしはあなたが大好き!
 あなたはわたしが大好き!
 別にそんなことどうだっていいじゃない!」

冬香が笑いながら叫ぶ。

「ふ、ふざけるな!」
省吾が言うと、
冬香は叫んだ。

「見た目はおんなじなんだからいいじゃない?
 あ、何ならこの女と同じように振る舞ってもいいし、
 いくらでもエッチだってしてあげる!」

冬香の中にいる陽奈子は
”人に憑依できた”という事実から
気が大きくなっていた。

「---俺が好きなのは冬香だ!
 きみじゃない!」

省吾が叫ぶ。

「---…は~?
 わたし、こんなに省吾くんのこと大好きなのに!」

冬香がヒステリックに喚き始めた。

「--こんな女が好きなんて…!
 許せない…許せない…!死んでやる!」

冬香がカッターを取り出して、
躊躇なく、腕を切りつけた。

血が噴き出す。

「--死んでやる!死んでやる!」

「やめろぉ!」
省吾は冬香に突進した。

カッターが宙を舞う。

「勇夫!」

省吾が叫んだ。

勇夫が、昨日、冬香の鞄から
取り出した”もう一つのもの”を使うー

”憑依状態から抜け出すための薬品”

それが、冬香の鞄の中に入っていた。
陽奈子自身も、自分の身体に
少しは未練があったのかもしれない。

陽奈子が手に入れた憑依薬は、
自分が飽きた時の為に憑依から抜け出すための薬も
セットになっている商品だったー

「---冬香から、出ていきやがれ!」
省吾が、勇夫から受け取ったそれを注射すると、
冬香は「あああああああ!」と悲鳴を上げて、
口から霊体のようなものを吐きだした。

「----はっ!?」
吐きだされた陽奈子は、
慌てた様子で逃げ出した。

冬香はピクピクと痙攣している。

「ふ…冬香!」
省吾が冬香に駆け寄ろうとしたが、
その直後、少しだけ考えて叫んだ。

「--勇夫!冬香を頼んだ!」

「え?お、おいっ!」

省吾は逃げた陽奈子の方を追うー
彼女と話をしなければ、また冬香が
憑依される可能性があるー。

省吾は必死に追いかけたー

そして、陽奈子はボロいアパートの一室ー
自分の部屋に駆け込んだ。

省吾は一瞬ためらいながらも中へと入ったー

すると、そこにはー
部屋中に貼られた省吾の写真。
省吾の写真が貼られたくまのぬいぐるみー
植木鉢に突き立てられた省吾の写真ー

色々なものがあった。

「こ…これは…」
省吾は驚く。

「---ごめんなさい…ごめんなさい…」
元々気弱な陽奈子は、冬香の身体から
追い出されて、すっかり弱気になっていた。

「--……」
省吾は陽奈子に近づいていって口を開いた。

陽奈子の腕には、リストカットの痕があるー

「--ごめんな…」
省吾は呟く。

「でも、俺はさ…
 冬香が大好きなんだ」

省吾は、どう言葉をかけるか迷ったが
本当のことを言うのが一番だと感じて、
小細工はやめて、本当のことを告げた。

「俺が冬香のこと大好きなように、
 君が俺のこと好きだって気持ちもわかる…」

省吾は座り込んで泣きじゃくる陽奈子に語りつづける。

「けど…もしも、冬香に好きな人が他にいたら、
 俺だったら諦める…

 悔しいし、悲しいけど、諦める。
 だってさ…
 自分の好きな人が、悲しむのなんて
 見たくないだろ?

 俺が冬香に付き纏えば、
 冬香が悲しむー
 だから、もし、冬香に他の人がいたなら、
 俺だったら諦める」

その言葉に、陽奈子は無言でうなずいた。

「---俺、単純だからさ、
 浮気とかできないし、
 そもそも、浮気なんかする俺、みたくないだろ?」

省吾が笑いながら言うと、
陽奈子が頷いた。

「---友達として…」
陽奈子が呟いた。

彼女がダメなら、友達としてー

「--…」
省吾は少しだけ迷って振り返った。

「--俺とも、冬香とも、仲良くしてくれるなら」

それだけ言うと、
省吾は、陽奈子の部屋から
立ち去ろうとしたー

もう、これ以上、言うことはないー

下手に怒っても、逆上させるだけー
なら、シンプルに伝えるべきことだけ伝えて
もしもまた何かしてくるのであればー
その時はー

「あ!」
省吾は玄関先で立ち止まった。

「?」
陽奈子が不思議そうな顔をする

「好きなものもう一つあった!」

「え?」

省吾は振り返って笑った。

「--カレー」

と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

勇夫が冬香に事情を説明してくれており、
冬香も取り乱すことなく、落ち着いて話を
聞いてくれた。

健康的にも問題なく、
憑依されていた間のことを省吾に謝ってきた。

「--いいよ、見た目は冬香でも
 中身は違ったんだから」

省吾がカレーを食べながら笑う

「--ふふふ、ありがと!」
冬香が、カレーを食べる省吾を見つめながら言う。

「--」
省吾はふと、陽奈子のことが気になった。

だが、あれから陽奈子は特に何もしてきていない。
翌日に自分と冬香に謝りに来て、
それっきりだった。

「ーーそれにしても、やっぱ、カレー大好きだよね?」
冬香が笑うと、
省吾は「カレーは俺のガソリンだからな」と微笑んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

省吾の友人・勇夫が、
人気のない場所を歩いていた。

「----…」
”憑依薬”と書かれた容器を手に持っている。

あの日ー居酒屋で、
憑依されている冬香の鞄から
”憑依薬”の容器を2つ発見していた勇夫―

1つは使用済みー
もう一つはー中身が入ったままー

「----」
勇夫はそれを見つめて少しだけ微笑んだ。

「こんなあぶねぇもの、あっちゃいけないよな!」
勇夫は容器を地面に置いて、それを踏みつぶした。

「--俺は、良識のある肉食動物だからな」
そう呟くと、持ち出した憑依薬を処分して、
勇夫はいつものように大学に向かうのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガチャ。

帰宅した冬香は、
ほっと一息をつく。

一人暮らしー
それにもだいぶ慣れた。

こうやって家に帰ってきた瞬間は、
なんだかんだでほっとするー

冬香は手を洗ってうがいを済ませると、
居間の方に向かったー

そして、自分の机の引き出しを開くー

そこには1冊のノート。
冬香はそれを開いて、微笑んだ。

ノートの中にはー
大量のハートマークと”省吾だいすき”の文字ー
そして好き好き好き好き好き好き好き好きと刻まれていたー

さらにー
引き出しの底にはー
釘だらけになったカレーの空箱と、
赤いマジックで”死”と塗りつぶされた陽奈子の写真ー
綺麗に保存された、省吾の写真がしまわれていたー

「--省吾…ふふふふふふふふふ…
 大好きな省吾…大好きな省吾…ふふふふふふふふふふふふ♡」

冬香は、狂った目つきで、それを見つめたー

彼女は”良識のある女性”だー。

だからー
表だっておかしな行動はしないー

だがー

ペロリー
省吾の写真を舐める冬香ー

「あなたという存在すべての味を知りたい…
 ふふふ、ふふふふふふふふ♡」

省吾はまだ、気づいていなかったー。
冬香の本当の姿にー

陽奈子以上に歪んだ、
本当の狂気にー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

表に出さないなら別にそれはそれで…?

いつの日か、冬香ちゃんが暴走しないことを
祈るばかりですネ!

お読み下さりありがとうございました☆

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憑依<リストカット>

コメント

  1. 飛龍 より:

    SECRET: 0
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    ハッピーエンドかと思いきや……ガクガクブルブル
    陽奈子はどうなっちゃったんでしょうか、怖っ
    表面上は取り繕えるだけある意味性質の悪いですね
    驚愕のエンドで面白かったです!

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
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    > ハッピーエンドかと思いきや……ガクガクブルブル
    > 陽奈子はどうなっちゃったんでしょうか、怖っ
    > 表面上は取り繕えるだけある意味性質の悪いですね
    > 驚愕のエンドで面白かったです!

    コメントありがとうございます~

    陽奈子ちゃん??

    ”陽奈子は一度謝ってきて、それきりだった”

    ”陽奈子の写真に赤い文字で死”

    ”冬香は理性を持つ女性”

    あとはご想像にお任せします~☆

  3. 匿名 より:

    SECRET: 1
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    みたらわかる、冬香、ヤバイやつやん‼
    続編で、冬香の狂気がどんな方向に行くのか、見てみたいですね…

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
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    コメントありがとうございます~

    冬香の狂気…!
    続編も…いつか書くかもしれません!