少女の逃避行は終わる。
真犯人である
ストリートミュージシャンと対峙した彼女。
容赦なく牙を剥く友人や妹を前に、
彼女は真相を暴くことができるのか…
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とある廃工場の中ー。
3人の少女が、微笑みながら
ストリートミュージシャン・風間の周りに立っている。
「---どうだった?
殺人鬼として、追われる気分は?」
風間が、チャイナドレス姿の映奈に
煙草を要求すると、映奈は煙草を風間の口に
持っていき、火をつけた。
「---ふ…ふざけないで…!
お母さんとお父さんを返してよ!」
梨桜が叫ぶと、
風間は首を振った。
風間の代わりに、梨桜の妹である文香が
笑いながら答えた。
「お父さんとお母さんはもう死んじゃったのよ~
生き返るわけないじゃない!
そんなことも分からないの~?」
馬鹿にしたような口調で文香が言う。
「--ふふふ…おバカさん!」
先輩の晴美も笑いながら言う。
「--ね…ねぇ…!
文香も先輩も…映奈も…!
目を覚ましてよ!」
梨桜が叫ぶ。
しかし、3人ともクスクス笑いながら
「わたしたち、ご主人様のしもべだもんねー!」と
嬉しそうに囁いた。
「---さて…と
せっかくここまで来てもらったんだ…。
お前に、事件の真相を教えてやろう」
風間がそこまで言うと、
にやりと笑みを浮かべた。
「--お前、俺がお前の母親を殺した瞬間を
見たのかー?」
梨桜はその言葉に、
あの日の光景を思い出す。
友人の映奈と一緒に、
自宅に入った時には、
既に、母親は死んでいた。
男が血の付いた包丁を持っていたが、
男が刺した瞬間は見ていない。
「それは…」
梨桜が言うと、
「なに?瞬間も見てないのにご主人様を
殺人犯だと決めつけたの?」
と、友人の映奈が、うんざりした様子で言う。
「---え…映奈…」
梨桜が泣きそうになりながら
チャイナドレス姿の映奈を見つめる。
映奈の目は、敵意に満ち溢れていた。
「---あ~あ~あ!
これだから母親殺しは!」
先輩の晴美が笑う。
「---殺したのは、お姉ちゃんじゃない!」
メイド服姿の妹が微笑む。
「--ち、、違う!私はやってないし、
そいつがやったに違いないの!
みんな、目を覚まして!!!」
梨桜が泣き叫ぶと、
風間は鼻でそれを笑った。
「--”憑依”ーーー」
風間がボソっと呟く。
「---お前にだって、できるんだぜ?」
とー。
「え…?」
梨桜が声を出すと、
風間は「あの日の動画、見せてやるか~!」と叫ぶ。
「--お前の母親が殺された瞬間を
お前の妹が、ちゃんとスマホで撮影してたんだぜ!」
風間が言うと、
妹の文香は微笑みながら、スマホを姉に向けて見せた。
「--…ど…どういうこと…?」
梨桜は、不安に思いながら、その映像を見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「やめて…!やめて…!」
母親が必死に逃げ惑っている。
「--あはははははははは!あははははははは!」
誰かに追い回されている母ー
しかし、追い回しているのは、男ではない-
女の声だ。
「あはははははは~♡
クソババア~!
逃げたって無駄よ~!うふふふふふぁ♡」
母親が四つんばいで逃げ惑う。
それを追う、スカート姿の女。
女は足元しか映らないから、
誰だか分からないー
スカートは高校の制服ー。
同級生だろうか。
「おらぁ!いつもの母親ぶった態度はどうしたぁ!」
大声で叫ぶ女。
やがて、母親は、あおむけに倒されて、
その女が上に乗るー。
母親が泣き叫ぶ中、女は嬉しそうに笑いながら
包丁を母親に突き立てた。
そして、何度も、何度もー
母親が動かなくなるー
「ひひひひひひ…」
映像がーー
その女の顔を映したー
母親を殺したのはーーーー
「お姉ちゃん…サイテ~!」
妹の文香の映像に映ったのはーーー
自分自身ーーー
母親を包丁で刺して微笑む梨桜の姿だった。
「んはははははは~♡
わたし、お母さんを殺しちゃった~!テヘッ☆」
嬉しそうにピースする梨桜ー。
梨桜はそのまま「あ、そうだ、お風呂に入っとかなきゃね~!」と
言って浴室へ向かう。
「--あはははははははは!あ~~~ははははっはあはははは!」
大笑いする梨桜はー
まさに、殺人鬼だったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うそ…」
その動画を見せられた梨桜はその場に座り込む。
「う…うそよ…!
わたしはあの日、普通に授業を受けて、普通に映奈と…!」
「--違う」
風間が呟いた。
「---え」
梨桜は目に涙を浮かべながら風間を見る。
「--俺は憑依した人間の記憶をいじることができる。
あの日、お前は俺に憑依されて、母親を殺したー
そして、そのまま、放課後の学校まで歩いていき、
そこで、映奈と合流したー
”学校に行っていた”って記憶を刷り込んだだけさ
くくく…
母親を殺したのは俺じゃねぇ!
お前自身なんだよ~!
くくく、ふひひひひひひひ~!
あの日俺は、ただ、お前の母親の死にざまを見に
行ってただけさ!くへへへへへ!
お前は自分で自分の母親を殺したんだ…!」
風間の言葉に梨桜は、泣きだしてしまう。
「違う…わたしは…」
動画の中の自分が笑いながら母親を襲うシーンを思い出す。
「人殺し!人殺し!」
風間が嬉しそうに手を叩きながら、人殺しコールを始めた。
「人殺し!」
「人殺し!」
「人殺し!」
妹の文香も、親友の映奈も、先輩の晴美も、
同じように、人殺しコールをしている。
4人に蔑むような目で見られた梨桜は、
思わずその場にしゃがみこんでしまう。
「--やめて!もうやめて!」
梨桜が泣き叫ぶ。
「--どうだ?お母さんを殺した気分は?
えぇ?すっごく楽しそうに母親を刺してたじゃないか」
風間が言う。
「--お姉ちゃん最低!」
妹の文香が敵意をむき出しにして言う。
「--そうやって被害者ぶって!
ご主人様にごめんなさいは?」
親友の映奈が近づいてきて、梨桜に対して
責める口調で言う。
「ーーあんた本当に人間のクズね」
先輩の晴美が言うー
3人とも、完全に風間に思考を
変えられてしまっている。
映奈が、ヒールで梨桜の足を踏みつけた。
「あああああぁ…」
梨桜はうめき声をあげるだけで、
何の抵抗もしなかった。
「--ご主人様に、謝れ!」
映奈が梨桜の髪を引っ張りながら、
強い口調で言う。
「--あぁああああぁ…」
梨桜は、精神的におかしくなってしまったのか、
うめき声をあげるのがやっとだった。
「謝れ!」
映奈が梨桜をビンタする。
チャイナドレス姿の映奈は、
もはや梨桜の親友などではなかった。
ストリートミュージシャン・風間の忠実なしもべ。
「--あんたいい加減にしなさいよ」
映奈が太ももに巻きつけていたポーチから
ポケットナイフを取り出すと、梨桜の首筋に
つきつけた。
「ご主人様に、ごめんなさいは?」
映奈の言葉に梨桜は涙を流しながら映奈の方を見る。
「どうだ!すごいだろ?
俺の憑依能力!
3人とも今じゃすっかり俺のしもべだ!」
風間が勝ち誇った表情で言う。
「--この能力があれば、
俺は何だってできる!
ほら!駅で偉そうにしていた時の
態度はどうした?
ほら!?
あの時の偉そうな顔!
もう1回見せてみろよ!」
風間が、梨桜を挑発する。
映奈は梨桜に「謝れ!」と何度も叫んでいる。
「まぁまぁ、映奈。いいじゃないか。
そいつは警察に逮捕されて死刑になるんだ」
風間はそう言いながら、晴美と文香を呼び、
自分の近くにやってきた2人を抱き寄せた。
「んはははははは~!
この女たちは俺のものだ~!
梨桜ちゃんだったか?
お前は、死刑になりな!
母親殺しの罪でな!」
そう叫ぶ風間。
それと同時に、廃工場の扉が開いた。
「---くくくくく…」
梨桜を追っていた女性刑事が狂気の笑みを浮かべながら入ってきた。
「刑事さん!こいつです!」
ストリートミュージシャンの風間が笑いながら言う。
この永橋という女性刑事も、
風間に変えられてしまったのだろうー
「ほら!映奈!そんな女、放っておいて、
こっちに来いよ!」
梨桜にポケットナイフを突きつけていた映奈を
呼びつける風間。
風間に呼ばれた映奈は
とろんとした表情で
「はい…ごしゅじんさまぁ♡」と嬉しそうに風間の方を見た。
「どうだ!母親殺しで逮捕される瞬間はぁ?
ひゃははははははははははは!」
風間が、晴美の口にアレを突っ込みながら笑っている。
そしてー
女性刑事の永橋が近づいてくるー
その時だった。
「うああああああああああああああああ!」
梨桜が叫んだ。
風間の方を見て、
顔を赤らめていた映奈からポケットナイフを奪うと、
そのまま風間の方に突進したー
「うぎゃああああああ!」
悲鳴が廃工場に響き渡る。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
梨桜はー
血まみれになっていたー。
風間をーー
風間を刺した。
「--そんなにわたしを人殺しにしたいなら…
本当に人殺しになってやる!」
梨桜が泣き叫んだ。
風間は先ほどまでの勝ち誇った表情を失い、
青ざめて恐怖を浮かべていた。
「ほら!勝ち誇った表情はどうしたのよ!
ほらぁ!」
泣き叫びながら怒鳴りつける梨桜。
家族を奪われ―
親友も先輩も奪われた
もう、自分には何もないー
風間は「やめ…」とだけ言うのが精いっぱいだった。
けれどー
もう、手遅れだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーー」
雨が降ってきた。
風間は死んだ。
風間が死んだことで、
他の人間に巣食っていた
風間の心の一部が、消えていくー。
映奈も、晴美も、文香も、
ぼーっとその場に人形のように立っている。
女性刑事の永橋もぼーっとしている。
「---みんな…ごめんね 巻き込んで」
梨桜はそれだけ言うと、
呆然とした表情で歩き出したー。
本当に、人を殺してしまったー
例え、風間のような悪党でもー
そしてー。
憑依されていたとは言え、母親をー。
梨桜は目から大粒の涙を流しながら、
そのまま姿を消したー
彼女がどこに”逃亡”したのかー。
それは、誰にも分からないー
おわり
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コメント
お読み下さりありがとうございました!
やっぱり憑依を悪用されると、大変なことになってしまいますネ…!
コメント
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母親を殺したのが"自分"だったと明かされたときの絶望感が良き…!
元凶を倒す事には成功したものの、失ったものは何一つ戻らない、寂寥感漂うエンドで味がありました
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> 母親を殺したのが"自分"だったと明かされたときの絶望感が良き…!
> 元凶を倒す事には成功したものの、失ったものは何一つ戻らない、寂寥感漂うエンドで味がありました
コメントありがとうざいます~!
最後の展開にはいつもこだわっているので、
印象に残ったのでしたら嬉しいです!