梨桜は、逃げる―。
男の魔の手からー。
妹も、親友も、誰も、信用できない
みんな、男の手の内なのだからー
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梨桜は、自宅へは戻れない…と思いながら
走っていた。
家には、当然警官がいるだろうし、
妹の文香を助けたいけれど、男に乗っ取られているかもしれないー。
「--どうすればいいの…?」
梨桜はそう思いながら
頼れそうな人間を浮かべるー
父ー。
親友の映奈ー
高校の先輩の晴美ー
色々な候補が浮かんでくる。
「--わっ!?」
走っていた梨桜の前に、
映奈が姿を現した。
「--ふふふ…逃げられると思ってるのぉ~?」
映奈が不気味に微笑む。
「--え…映奈…」
梨桜が、息切れしながら映奈の方を見る。
「ーーふふふふ~わたしも憑依されちゃったぁ~!
今のわたしは、梨桜ちゃんを追い詰める為なら
なんでもするよ~!」
映奈がクスクスと笑いながら、鋭い目つきで
梨桜を睨んだ。
「や…やめて…!
映奈!目を覚まして!ねぇ!映奈!」
梨桜が映奈の身体に触れると、
映奈は笑う。
「ーー呼びかけてもむ~だ!
わたしの心は、
こ・こ・に、封じ込められてるから!」
胸のあたりをつつきながら映奈は笑う。
「--お前を地獄に落としてやる…
ククク…」
そんな…と思いながら梨桜は後ずさるようにして
映奈から離れていく。
梨桜は思うー
この状況を打開するにはー
あの男ー
みんなを操っている男を見つけ出さないといけないー
男が何者かは分からないー
写真も無いー
けれど、梨桜は、男の本体を見つけ出すことを決意したー
そうしなければ、
自分は母親殺しの殺人者として逮捕されてー
映奈や妹の文香も、男に好き勝手されてしまうかもしれない
「---あぁ♡ いい胸してるじゃ~ん♡」
映奈が胸を触りながら笑っている。
「---わ…わたしは、あんたのこと、許さないから!」
そう叫ぶと、梨桜はそのまま映奈から逃げるように
走り去った。
「--ふふふ♡ 逃げられないっつ~の!
あぁっ♡ この女のおっぱい♡ 最高じゃん♡ ふぅ♡ はぁ♡」
映奈はそのまま路上で、眼鏡を振り落とすと、
大声で喘ぎ始めた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
父と連絡がつかないー
梨桜はそう思いながら、必死に身を隠す場所を
探していた。
パトカーの音がする。
身を隠しながら、あの男を見つけ出して、
白状させるー
それが、自分とみんなが助かる唯一の道ー。
梨桜は、そう思った。
「なんとか、しないと…」
憑依された女性警官の姿を思い出すー
「--えへへへぇ♡
俺が憑依した体は、
誰であろうと思いのままだぜ…!
俺に恥をかかせた罰だ~!
お前を殺人犯に仕立て上げて、
地獄に突き落としてやるぜ」
「ぜったい・・・ 許せない!」
母親を殺された悲しみ、怒りー
そして無関係の人を弄ぶあの男を
梨桜は、許せなかった。
制服姿のまま、梨桜は走り出したー
彼女は、逃亡を決意したー
男を見つけ出し、真実を、暴くため。
そう決意した梨桜の元に、
連絡が入ったー
妹の文香からだー。
「もしもし…?」
梨桜が恐る恐る電話に出ると、
妹の文香は笑っていた
”ねぇお姉ちゃん、
わたし~、
帰ってきたお父さんを
ぶっ殺しちゃった♡ えへ”
ポトリ…
梨桜は返事をすることもできず、
スマホを道路に落としてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
松川 梨桜(まつかわ りお)ー
母親を殺害し、現在、逃亡中のー
「--…」
梨桜は、駅ビルのニュースを見ながら思うー。
実名報道されていて、
顔写真も出されているー
普通じゃ、こんなこと…?
けれどーもしもあの男が
たくさんの人間に憑依しているなら、
そういうことも可能なのかもしれないー
梨桜はそう思いながら
足早にその場所を離れようとしたー
妹の文香まで殺人鬼にされてしまった。
しかしー
それはニュースにはなっていない。
どうなっているのだろうかー。
梨桜は、あの男の”憑依”とやらがどれだけのものか
分からず、困惑した。
一度に大勢の人間に憑依できるのかー
それとも、一人だけなのかー
憑依されている間の影響はどうなのかー
分からないことだらけだー。
しかし、自分がこうして実名報道まで
されているところを見る限り、
憑依能力を駆使すれば、何でもできてしまうことになる。
そう、最悪の場合ー
梨桜が逮捕されたら死刑が即実行される恐れもー
「---」
梨桜は、スマホで憑依薬について調べていた。
ほとんど、情報はない。
それでも、梨桜は、ある情報を見つけた。
憑依薬に関する情報ではない。
けれどー
梨桜にとっては大事な情報だった。
それはー
あの日の駅のこと…
”今、報道されている母親殺しの女子高生って、
この前、駅でうるさいやつ注意してたやつじゃね?”
”あぁ、わたしもみたみた~”
”あの注意されてたのって、ストリートミュージシャンの風間だよね?”
ツイッター上に、あの日、駅で梨桜が男を
注意したのを見た、というツイートが
相次いでいたのだった。
そして
梨桜を罠にはめた男の正体が判明したー。
ストリートミュージシャン・
風間 新之助(かざま しんのすけ)
ネットでその名前を検索して出てきた写真はー
あの日…駅で、梨桜が注意しー
家に乗り込んできて母親の命を奪った、その男そのものだった。
「風間…新之助」
梨桜は、そう呟きながら、
自分の無実を晴らすために、風間を探すことを
決意したのだった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ふふふふ♡」
妹の文香がバニーガール姿で
笑みを浮かべている。
高級そうな椅子に座り、
足を組むと、文香は笑うー
「逃げられると思うなよ…
”お姉ちゃん”」
片手でワインを飲みながら、
モニターを見つめる文香―。
彼女は今、風間に憑依されている。
身体は中2の少女だが、
そんなこと、風間には関係ない。
どうせ、いつか捨てる身体なのだからー
「--ふぅぅぅぅぅぅ…
お姉ちゃん…地獄まで追いつめてあげる~♡」
文香は笑みを浮かべると、
スマホを手に、誰かに連絡をし始めた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
梨桜は、とある民家に身を隠していた。
スマホは駅のコインロッカーに入れて、そのまま置いてきた
何故なら、スマホから位置を割り出されるからだ。
「だいじょうぶかい?」
おばあさんが梨桜に声をかける。
「はい…ありがとうございます」
逃亡生活から1週間。
ほとんど食べ物を食べることもできず、
田舎の村を歩いていた梨桜は、
このおばあさんに保護されたのだった。
当初、梨桜は、村に迷惑をかけるから、と
すぐに立ち去ろうとした。
しかし、村長が
「君の正体は知っている」としたうえで、
「君が、こうして逃げているということは、
君は、やっていないんだろう?」と、しずかに語ったのだった。
村の人達は、梨桜が指名手配されていると知ったうえで
匿ってくれている。
梨桜は、そんな村人たちの暖かさを感じながら、
潜伏生活を続けていた。
「---」
村の役場にあるパソコンを借りて
情報収集をする梨桜。
ストリートミュージシャンの風間…
そいつを、見つけ出さなくてはならない。
ネットでニュース番組を見る梨桜。
異常なまでに梨桜のことを報道している。
明らかにおかしい。
「--どうなってるの…?」
あの男は、世界を支配できるほどの力を
持っているのだろうか…
そんな風にまで思い、不安になる。
アナウンサーの若い女性が、
梨桜への怒りを露わにしている。
「--お母さんを刺して逃げるなんて、
最低ですよねっ!ホント、人間のクズだってこと
分かってるの?って言いたいですね」
周囲の出演者が驚いた表情で、若いアナウンサーを見ている。
このアナウンサーは、おしとやかな雰囲気だったはずだ
無理もない。
「--なぁ、梨桜ちゃんよ!
早く出てこいよ!あぁ?この人殺し!」
女性アナウンサーは激しい形相でカメラに
向かってそう怒鳴りつけたー
「・・・・・」
梨桜は思う。
あの男は、複数の人間に同時に憑依できる可能性が高いー
だから、こんなにー
パァン!
ーー!?
パァン!
パン! パン!
「きゃああああああ!」
役場の外から悲鳴が聞こえた。
「--な、、なに…?」
梨桜が慌てて役場から飛び出すと、
そこには制服姿の警官が居た。
そしてー
まるで悪の女性幹部かのような
エッチな衣装に身を包んだ女が叫んだ。
「ついに見つけたわよ~!
松川梨桜~!
母親殺しの殺人犯~!」
梨桜はその姿を見てはっとするー
悪の女幹部みたいな姿をして、
鞭を持っている女はー
取り調べの時の若い女性刑事―。
確か、永橋とか呼ばれていたー
警官たちが次々と村人を射殺していくー
警官が、人を射殺ー
ありえないー
「---…あ、、あんた…!
ストリートミュージシャンの風間ね!」
梨桜が叫んだ。
すると女性刑事の永橋は、不気味な笑みを浮かべる。
「--えっへへへへ♡
そうだなぁ~♡
でも、俺には何個でも身体があるからなぁ~!
あははははは!
さぁ、お前たち!やっておしまい!」
鞭を持って高飛車に叫ぶ女性警官。
射殺されていく村人を見ながら、
彼女は微笑む…
”俺の憑依能力は無限大だ…
一度魂を憑依させた人間は
いつでも操ることができるー
そして、キスをして、魂の一部を
送り込めば、その人間を
操り人形にすることもできるー”
ここに来ている警官は、全員、
女性刑事・永橋の手ごまに
なってしまっていた。
「-----にげなさい!」
梨桜の耳に言葉が届いた。
「--お、おばあさん!」
梨桜を匿ってくれていたおばあさんだった。
「はやく!」
直後、銃声が響き渡り
おばあさんの身体を貫いていく。
「あああああああ!」
梨桜はそう叫びながらも、
”ここでつかまったら全てが無駄になる”と
思いながら、その場から走り出した。
「--ケッ!
ま~た逃げられたか!」
女性刑事が不機嫌そうに鞭を振るう。
「まっいっか…♡
今はまだ逃がしてあげる…♡」
不気味に微笑むと、彼女は
甘い声を漏らしながら胸を触り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから3日…
梨桜は、行くあてもなく、
人気のない道を歩いていたー。
自分は母親殺しとして、
このまま、追いつめられて、
全てを失ってしまうのかー。
「----…」
目から涙が零れ落ちる。
父も殺されてしまった。
妹の文香も奪われてしまった・・・。
友人の映奈も…
みんな、狂わされてしまった…
スマホも手元になく、
情報収集もできないー
ストリートミュージシャンの風間の手の内で
踊らされて、
このまま、自分は…
梨桜は、道の隅っこにある
古びたベンチに腰かけると、深くため息をついた。
「もう…疲れちゃった…」
「-ー他の人の迷惑も考えて下さい」
駅で自分が、
ストリートミュージシャン・風間は注意したときのことを思い出す。
「あんなこと…言わなきゃよかった…」
梨桜の目から涙がぽたぽたと零れ落ちる。
「あれ…梨桜?」
聞き覚えのある声がした。
「---!」
梨桜が顔をあげると、
そこには、高校の先輩・晴美の姿があった。
「せ…先輩!?」
梨桜は驚く。
高校から少し離れた場所で晴美に会うとは思っても見なかった。
そういえば、今日は土曜日。
この時間に晴美が外に居るのは別に
おかしなことではない。
清楚な雰囲気の晴美は、
頼れる高校の先輩で、
誰からも頼りにされる3年生の生徒だ。
「---…何があったのか、聞かせて?」
晴美が優しく微笑む。
本来であれば、
偶然遭遇するなんて、出来過ぎているのだが、
心の弱っている梨桜は、そんなことすらも
考えることはできなかったー
晴美に全てを話した梨桜。
晴美は、話を聞き終えると、
「辛かったね」と言って、梨桜を抱きしめた。
そしてー
「ストリートミュージシャンの人…
わたし、どこを活動拠点にしているか知ってるの」
晴美はそう呟いた。
「えっ…?」
梨桜が聞き返すと、晴美は
「わたしも一緒に行くから、
真犯人捕まえて、疑いを晴らそう!」
と、笑みを浮かべるのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日が沈む。
晴美に案内されてやってきた場所は廃工場だった。
そこにー
ストリートミュージシャンの風間は居た。
「よぉ~!」
母親を刺殺した人物。
それが、目の前に居るー
「---あ…あんた!」
梨桜が叫ぶ。
すると、風間は立ち上がって
優しく微笑んだ。
「ご苦労だったな…!晴美!」
その言葉に、
晴美は「はい、ご主人様!」と微笑んで
嬉しそうに風間の方に向かっていく。
「ど…どういうこと…?」
うろたえる梨桜。
そんな梨桜を見ながら、風間は笑う。
「---俺が憑依して、
この女は忠実なしもべに作り替えてやったんだ。
今じゃ、ゼンブ俺のいいなりだぜ?
なぁ、晴美!」
「はい…ごしゅじんさま…」
嬉しそうに晴美が呟く。
「--せ、、、先輩…!
う、、、嘘だと言ってください!」
梨桜が叫ぶと、
晴美は
「嘘じゃないわよ。
わたしはご主人様に頼まれて
あんたをここまで連れてきたんだから」
悪い笑みを浮かべる晴美。
風間は呟いた。
「駅で俺に恥をかかせたバツだ…。
お前に最後の地獄を見せてやるぜ。
ここで”真犯人逮捕”だ!」
風間はそう呟いて、
指を鳴らすと、
奥から2人の少女が出てきたー
メイド服姿の妹…文香と、
チャイナドレス姿の親友…映奈…。
「文香!映奈!」
梨桜は叫ぶー
けれど、その叫びは二人には届かないー
「---さぁ…お前の逃亡はここで終わりだ!」
ストリートミュージシャン・風間は
不気味に微笑んだ…。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が最終回デス!
憑依も入れつつ、
本格的な逃亡モノを書くには
3話だとちょっときついですネ~
なんて思いながら書いてます笑
どうしても展開が早くなってしまいます!
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