<憑依>逃亡少女②~絶望の逃避行~

梨桜は、逃げる―。

男の魔の手からー。
妹も、親友も、誰も、信用できない

みんな、男の手の内なのだからー

-------------------------–

梨桜は、自宅へは戻れない…と思いながら
走っていた。

家には、当然警官がいるだろうし、
妹の文香を助けたいけれど、男に乗っ取られているかもしれないー。

「--どうすればいいの…?」
梨桜はそう思いながら
頼れそうな人間を浮かべるー

父ー。
親友の映奈ー
高校の先輩の晴美ー

色々な候補が浮かんでくる。

「--わっ!?」

走っていた梨桜の前に、
映奈が姿を現した。

「--ふふふ…逃げられると思ってるのぉ~?」
映奈が不気味に微笑む。

「--え…映奈…」
梨桜が、息切れしながら映奈の方を見る。

「ーーふふふふ~わたしも憑依されちゃったぁ~!
 今のわたしは、梨桜ちゃんを追い詰める為なら
 なんでもするよ~!」

映奈がクスクスと笑いながら、鋭い目つきで
梨桜を睨んだ。

「や…やめて…!
 映奈!目を覚まして!ねぇ!映奈!」

梨桜が映奈の身体に触れると、
映奈は笑う。

「ーー呼びかけてもむ~だ!
 わたしの心は、
 こ・こ・に、封じ込められてるから!」

胸のあたりをつつきながら映奈は笑う。

「--お前を地獄に落としてやる…
 ククク…」

そんな…と思いながら梨桜は後ずさるようにして
映奈から離れていく。

梨桜は思うー
この状況を打開するにはー
あの男ー
みんなを操っている男を見つけ出さないといけないー

男が何者かは分からないー

写真も無いー

けれど、梨桜は、男の本体を見つけ出すことを決意したー

そうしなければ、
自分は母親殺しの殺人者として逮捕されてー
映奈や妹の文香も、男に好き勝手されてしまうかもしれない

「---あぁ♡ いい胸してるじゃ~ん♡」
映奈が胸を触りながら笑っている。

「---わ…わたしは、あんたのこと、許さないから!」
そう叫ぶと、梨桜はそのまま映奈から逃げるように
走り去った。

「--ふふふ♡ 逃げられないっつ~の!
 あぁっ♡ この女のおっぱい♡ 最高じゃん♡ ふぅ♡ はぁ♡」
映奈はそのまま路上で、眼鏡を振り落とすと、
大声で喘ぎ始めた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

父と連絡がつかないー
梨桜はそう思いながら、必死に身を隠す場所を
探していた。

パトカーの音がする。

身を隠しながら、あの男を見つけ出して、
白状させるー
それが、自分とみんなが助かる唯一の道ー。

梨桜は、そう思った。

「なんとか、しないと…」

憑依された女性警官の姿を思い出すー

「--えへへへぇ♡
 俺が憑依した体は、
 誰であろうと思いのままだぜ…!
 俺に恥をかかせた罰だ~!
 お前を殺人犯に仕立て上げて、
 地獄に突き落としてやるぜ」

「ぜったい・・・ 許せない!」

母親を殺された悲しみ、怒りー
そして無関係の人を弄ぶあの男を
梨桜は、許せなかった。

制服姿のまま、梨桜は走り出したー

彼女は、逃亡を決意したー
男を見つけ出し、真実を、暴くため。

そう決意した梨桜の元に、
連絡が入ったー

妹の文香からだー。

「もしもし…?」
梨桜が恐る恐る電話に出ると、
妹の文香は笑っていた

”ねぇお姉ちゃん、
 わたし~、
 帰ってきたお父さんを
 ぶっ殺しちゃった♡ えへ”

ポトリ…

梨桜は返事をすることもできず、
スマホを道路に落としてしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

松川 梨桜(まつかわ りお)ー
母親を殺害し、現在、逃亡中のー

「--…」
梨桜は、駅ビルのニュースを見ながら思うー。

実名報道されていて、
顔写真も出されているー

普通じゃ、こんなこと…?

けれどーもしもあの男が
たくさんの人間に憑依しているなら、
そういうことも可能なのかもしれないー

梨桜はそう思いながら
足早にその場所を離れようとしたー

妹の文香まで殺人鬼にされてしまった。

しかしー
それはニュースにはなっていない。

どうなっているのだろうかー。

梨桜は、あの男の”憑依”とやらがどれだけのものか
分からず、困惑した。

一度に大勢の人間に憑依できるのかー
それとも、一人だけなのかー
憑依されている間の影響はどうなのかー

分からないことだらけだー。

しかし、自分がこうして実名報道まで
されているところを見る限り、
憑依能力を駆使すれば、何でもできてしまうことになる。

そう、最悪の場合ー
梨桜が逮捕されたら死刑が即実行される恐れもー

「---」
梨桜は、スマホで憑依薬について調べていた。

ほとんど、情報はない。

それでも、梨桜は、ある情報を見つけた。
憑依薬に関する情報ではない。

けれどー

梨桜にとっては大事な情報だった。

それはー
あの日の駅のこと…

”今、報道されている母親殺しの女子高生って、
 この前、駅でうるさいやつ注意してたやつじゃね?”

”あぁ、わたしもみたみた~”

”あの注意されてたのって、ストリートミュージシャンの風間だよね?”

ツイッター上に、あの日、駅で梨桜が男を
注意したのを見た、というツイートが
相次いでいたのだった。

そして

梨桜を罠にはめた男の正体が判明したー。

ストリートミュージシャン・
風間 新之助(かざま しんのすけ)

ネットでその名前を検索して出てきた写真はー
あの日…駅で、梨桜が注意しー
家に乗り込んできて母親の命を奪った、その男そのものだった。

「風間…新之助」
梨桜は、そう呟きながら、
自分の無実を晴らすために、風間を探すことを
決意したのだった…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--ふふふふ♡」

妹の文香がバニーガール姿で
笑みを浮かべている。

高級そうな椅子に座り、
足を組むと、文香は笑うー

「逃げられると思うなよ…
 ”お姉ちゃん”」

片手でワインを飲みながら、
モニターを見つめる文香―。

彼女は今、風間に憑依されている。

身体は中2の少女だが、
そんなこと、風間には関係ない。
どうせ、いつか捨てる身体なのだからー

「--ふぅぅぅぅぅぅ…
 お姉ちゃん…地獄まで追いつめてあげる~♡」

文香は笑みを浮かべると、
スマホを手に、誰かに連絡をし始めた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

梨桜は、とある民家に身を隠していた。

スマホは駅のコインロッカーに入れて、そのまま置いてきた
何故なら、スマホから位置を割り出されるからだ。

「だいじょうぶかい?」
おばあさんが梨桜に声をかける。

「はい…ありがとうございます」

逃亡生活から1週間。
ほとんど食べ物を食べることもできず、
田舎の村を歩いていた梨桜は、
このおばあさんに保護されたのだった。

当初、梨桜は、村に迷惑をかけるから、と
すぐに立ち去ろうとした。

しかし、村長が
「君の正体は知っている」としたうえで、
「君が、こうして逃げているということは、
 君は、やっていないんだろう?」と、しずかに語ったのだった。

村の人達は、梨桜が指名手配されていると知ったうえで
匿ってくれている。

梨桜は、そんな村人たちの暖かさを感じながら、
潜伏生活を続けていた。

「---」

村の役場にあるパソコンを借りて
情報収集をする梨桜。

ストリートミュージシャンの風間…
そいつを、見つけ出さなくてはならない。

ネットでニュース番組を見る梨桜。

異常なまでに梨桜のことを報道している。
明らかにおかしい。

「--どうなってるの…?」

あの男は、世界を支配できるほどの力を
持っているのだろうか…
そんな風にまで思い、不安になる。

アナウンサーの若い女性が、
梨桜への怒りを露わにしている。

「--お母さんを刺して逃げるなんて、
 最低ですよねっ!ホント、人間のクズだってこと
 分かってるの?って言いたいですね」

周囲の出演者が驚いた表情で、若いアナウンサーを見ている。

このアナウンサーは、おしとやかな雰囲気だったはずだ
無理もない。

「--なぁ、梨桜ちゃんよ!
 早く出てこいよ!あぁ?この人殺し!」

女性アナウンサーは激しい形相でカメラに
向かってそう怒鳴りつけたー

「・・・・・」

梨桜は思う。

あの男は、複数の人間に同時に憑依できる可能性が高いー

だから、こんなにー

パァン!

ーー!?

パァン!

パン! パン!

「きゃああああああ!」

役場の外から悲鳴が聞こえた。

「--な、、なに…?」
梨桜が慌てて役場から飛び出すと、
そこには制服姿の警官が居た。

そしてー
まるで悪の女性幹部かのような
エッチな衣装に身を包んだ女が叫んだ。

「ついに見つけたわよ~!
 松川梨桜~!
 母親殺しの殺人犯~!」

梨桜はその姿を見てはっとするー

悪の女幹部みたいな姿をして、
鞭を持っている女はー

取り調べの時の若い女性刑事―。
確か、永橋とか呼ばれていたー

警官たちが次々と村人を射殺していくー

警官が、人を射殺ー

ありえないー

「---…あ、、あんた…!
 ストリートミュージシャンの風間ね!」

梨桜が叫んだ。

すると女性刑事の永橋は、不気味な笑みを浮かべる。

「--えっへへへへ♡
 そうだなぁ~♡
 でも、俺には何個でも身体があるからなぁ~!

 あははははは!

 さぁ、お前たち!やっておしまい!」

鞭を持って高飛車に叫ぶ女性警官。

射殺されていく村人を見ながら、
彼女は微笑む…

”俺の憑依能力は無限大だ…
 一度魂を憑依させた人間は
 いつでも操ることができるー

 そして、キスをして、魂の一部を
 送り込めば、その人間を
 操り人形にすることもできるー”

ここに来ている警官は、全員、
女性刑事・永橋の手ごまに
なってしまっていた。

「-----にげなさい!」
梨桜の耳に言葉が届いた。

「--お、おばあさん!」
梨桜を匿ってくれていたおばあさんだった。

「はやく!」

直後、銃声が響き渡り
おばあさんの身体を貫いていく。

「あああああああ!」
梨桜はそう叫びながらも、
”ここでつかまったら全てが無駄になる”と
思いながら、その場から走り出した。

「--ケッ!
 ま~た逃げられたか!」

女性刑事が不機嫌そうに鞭を振るう。

「まっいっか…♡
 今はまだ逃がしてあげる…♡」

不気味に微笑むと、彼女は
甘い声を漏らしながら胸を触り始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから3日…

梨桜は、行くあてもなく、
人気のない道を歩いていたー。

自分は母親殺しとして、
このまま、追いつめられて、
全てを失ってしまうのかー。

「----…」
目から涙が零れ落ちる。

父も殺されてしまった。

妹の文香も奪われてしまった・・・。

友人の映奈も…
みんな、狂わされてしまった…

スマホも手元になく、
情報収集もできないー

ストリートミュージシャンの風間の手の内で
踊らされて、
このまま、自分は…

梨桜は、道の隅っこにある
古びたベンチに腰かけると、深くため息をついた。

「もう…疲れちゃった…」

「-ー他の人の迷惑も考えて下さい」

駅で自分が、
ストリートミュージシャン・風間は注意したときのことを思い出す。

「あんなこと…言わなきゃよかった…」
梨桜の目から涙がぽたぽたと零れ落ちる。

「あれ…梨桜?」
聞き覚えのある声がした。

「---!」
梨桜が顔をあげると、
そこには、高校の先輩・晴美の姿があった。

「せ…先輩!?」
梨桜は驚く。

高校から少し離れた場所で晴美に会うとは思っても見なかった。

そういえば、今日は土曜日。
この時間に晴美が外に居るのは別に
おかしなことではない。

清楚な雰囲気の晴美は、
頼れる高校の先輩で、
誰からも頼りにされる3年生の生徒だ。

「---…何があったのか、聞かせて?」

晴美が優しく微笑む。

本来であれば、
偶然遭遇するなんて、出来過ぎているのだが、
心の弱っている梨桜は、そんなことすらも
考えることはできなかったー

晴美に全てを話した梨桜。

晴美は、話を聞き終えると、
「辛かったね」と言って、梨桜を抱きしめた。

そしてー

「ストリートミュージシャンの人…
 わたし、どこを活動拠点にしているか知ってるの」

晴美はそう呟いた。

「えっ…?」
梨桜が聞き返すと、晴美は
「わたしも一緒に行くから、
 真犯人捕まえて、疑いを晴らそう!」
と、笑みを浮かべるのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日が沈む。

晴美に案内されてやってきた場所は廃工場だった。

そこにー
ストリートミュージシャンの風間は居た。

「よぉ~!」
母親を刺殺した人物。
それが、目の前に居るー

「---あ…あんた!」
梨桜が叫ぶ。

すると、風間は立ち上がって
優しく微笑んだ。

「ご苦労だったな…!晴美!」

その言葉に、
晴美は「はい、ご主人様!」と微笑んで
嬉しそうに風間の方に向かっていく。

「ど…どういうこと…?」
うろたえる梨桜。

そんな梨桜を見ながら、風間は笑う。

「---俺が憑依して、
 この女は忠実なしもべに作り替えてやったんだ。
 今じゃ、ゼンブ俺のいいなりだぜ?
 なぁ、晴美!」

「はい…ごしゅじんさま…」

嬉しそうに晴美が呟く。

「--せ、、、先輩…!
 う、、、嘘だと言ってください!」

梨桜が叫ぶと、
晴美は

「嘘じゃないわよ。
 わたしはご主人様に頼まれて
 あんたをここまで連れてきたんだから」

悪い笑みを浮かべる晴美。

風間は呟いた。

「駅で俺に恥をかかせたバツだ…。
 お前に最後の地獄を見せてやるぜ。

 ここで”真犯人逮捕”だ!」

風間はそう呟いて、
指を鳴らすと、
奥から2人の少女が出てきたー

メイド服姿の妹…文香と、
チャイナドレス姿の親友…映奈…。

「文香!映奈!」
梨桜は叫ぶー

けれど、その叫びは二人には届かないー

「---さぁ…お前の逃亡はここで終わりだ!」
ストリートミュージシャン・風間は
不気味に微笑んだ…。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回が最終回デス!
憑依も入れつつ、
本格的な逃亡モノを書くには
3話だとちょっときついですネ~
なんて思いながら書いてます笑

どうしても展開が早くなってしまいます!

 

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憑依<逃亡少女>

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