<憑依>雨水Ⅱ~雨の降る街~②(完)

昨日の大雨の光景はきっと夢だったんだ…。

親友の亜彩菜が破裂して中からスライムのような
生き物が出てきたなんて、ありえない…

涼花はそう思いながら、学校に登校するー

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「おはよ~!昨日は大丈夫だった?」
友人の哲子が声をかけてくる。

哲子は少しぽっちゃりした感じの女子生徒だ。

「だ…大丈夫…ちょっと疲れてたみたい」
ツインテール少女の涼花がそう答える。

「あんなに慌てちゃって~
 びっくりしたよぉ~!」

笑いながらそう呟く哲子。

涼花はそんな哲子から目を逸らして、
友人の亜彩菜の方を見ていた。

いつも通り、亜彩菜は授業の準備を終えて
読書をしている。

いつもの亜彩菜の行動だ。

何も、違いはない。

けれどー。
涼花は、昨日の放課後の出来事を思い出す。

「に…んげん…!
 私の出産を…み、、み、、みたな…!」

あれは、夢だったのか?
大雨の中、傘も差さずに山奥に向かった
亜彩菜ー

それを追いかけると、
そこでは亜彩菜が苦しみながら腹を膨張させていてー
最後に”破裂”したー

破裂した亜彩菜の身体から出てきたスライムの一体は、
そのまま亜彩菜の姿へと変化して、こう言った。

「こうやってね…わたしたちは、
 人間をどんどん支配しているの。

 人間を乗っ取って、男とヤッて、
 仲間を生むー。
 そして、出産の際に死んだ人間に
 とって変わるー

 知らなかった?あなたのクラスにも”わたしたち”の仲間が
 3人いることー。」

”わたしたちの仲間が3人居るー?”

涼花はその言葉を思い出して
クラスメイトたちを見つめる。

しかしー
そこにはいつものクラスメイトたちの姿。

「ねぇ、顔色悪いけど?」
哲子が心配そうに尋ねる。

「--え、あ、いや、ごめん!なんでもないよ!」
涼花は、そう呟くと、亜彩菜の座席の方に向かった。

「おはよう、亜彩菜!」
いつも通り、自然に挨拶をしてみたー

そんなことはないー
昨日、自分が見た光景は”幻”だ。

涼花はそう思ったー

人は、あまりにも非現実的なものを
目の前にすると、
それを、信じることができなくなってしまうー

涼花も、そうだった。

涼花に声をかけられた亜彩菜が
”いつもの笑み”を浮かべて返事をした。

「おはよう!」

とー

その笑顔は、まぎれもなく亜彩菜のものだった。

”なんだ、いつも通りじゃん”

涼花はそう思うと、少し心を落ち着けて、
亜彩菜と他愛ない雑談をしながら、
授業の開始時間を待ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼休み。

涼花がトイレに行くと、
物凄い勢いで水道が出ていることに気付く。

「--?」
手を洗うにしちゃ、ずいぶん勢いよく水を出してるなぁ、
などと思いながら涼花が水道の方に目をやると、
そこには、トイレの蛇口を上に向けて、
水をごくごくと飲んでいる亜彩菜の姿があった。

「んふぅ~♡ みず~♡ みずずううぅぅう♡」

亜彩菜は涼花に気付いておらず、
不気味な態勢で、水を飲み続けている。

どう考えてもおかしいー。

そもそも、涼花からすれば、お手洗いの中の水道を
飲み水にする、ということが考えられなかったが
それ以上にー

”飲みすぎ”だー

「---んぐぅぅ♡ んはぁあああ♡」

亜彩菜が蛇口ごと口でしゃぶるようにして
水を飲んでいる。

「ん~~~♡ は~~~~~♡ あ~~~~~」

物凄く嬉しそうな声を出しながら…。

「---ひ…」
涼花は昨日のことを思い出し、
亜彩菜に声をかけることもできないまま
その場を後にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

涼花は、昼休みの亜彩菜の行動を
頭から振り払えないまま、
放課後の時間を迎えた。

「いっしょにかえろ!」
亜彩菜に声をかけられた涼花は
「う、うん…」と言いながら、
2人で帰ることにした。

夕日が2人を照らす。

今日の天気は、快晴。

「いい天気だね~!」
亜彩菜が嬉しそうに言う。

「そ…そうだね」
涼花は気が気でない、という状態で
返事をした。

この亜彩菜は、ほんとうの亜彩菜なのか。

そんな疑念がー
どうしても、頭から離れないー

「ーーーふふ」
ふと、亜彩菜が笑った。

涼花が亜彩菜の方を見ると、
亜彩菜は顔半分をスライムのようにドロドロにしながら微笑んだ。

「昨日は命拾いしたじゃん…!
 でも…
 ”次の雨の日”が楽しみねー」

亜彩菜はそれだけ言うと微笑んで、
いつものような雑談をしはじめるのだった

・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜ー

涼花は自宅で震えていたー。

やはり、今、学校に来ているのは
亜彩菜の姿をした”何か”だー

そして、天気予報を見るー

「---ひっ…」
涼花は思わずスマホを落とした。

金曜日。
降水確率90パーセント・・・

雨がーー
降るーー

涼花は、亜彩菜が”破裂”したのを思い出す。

そんなことないー
絶対に、ありえないー

涼花は自分に言い聞かせる。

涼花は、ホラー漫画や怖い話の類が
大好きだ。
普段から、そういう話はよく見ている。

そう。だからなんだ。

涼花は自分に言い聞かせる。

そして、深呼吸をする。

怖い話を見過ぎて、
あんな幻覚まで見てー

そう、あんなこと、ありえない。

スライムのような物体に人間が支配されたあげく、
破裂してー
さらにそのスライムが人間に成りすましているー

絶対に、ありえない。

涼花はもう一度深呼吸をして、
”勉強ばかりで疲れているのかな”と
ため息をついたー

水曜日ー

木曜日ー

次第に、金曜日が近づいていく。

亜彩菜は、普通だった。
何も、おかしな行動はない。

いやー

違うー

涼花は、現実から目を逸らしていた。
亜彩菜のおかしな行動から、目を背けていたー

トイレで蛇口を咥えて水を飲んだりー
晴れている空を見て舌打ちしたりー

そういう小さな異変から
涼花は、目を背けていたー

そして、金曜日ー

天気予報の通り、大雨が降っていたー

「ーーねぇ、今日、いっしょに帰ろ?」
亜彩菜が微笑みながら言う。

その笑みはーー
なんだかとても冷たい笑みに見えた。

「え…あ、ご、、ごめん…
 き、今日、美術部の活動があって…
 ごめんね!」

涼花はそう言って、亜彩菜の返事も待たずに
部室へと駆け込んだー

本当は、今日は美術部の活動日ではないがー
亜彩菜と一緒に帰るのは怖かった。

美術室に駆け込むと、自主的に作品を作っている
1年生の生徒2人が居て、涼花はほっと溜息をつくのだったー。

2時間後。

涼花は昇降口から出て、
傘を手に、外を歩きだす。

ポン。

肩に、手が触れた。

「---ひっ!?」
涼花は思わず声を上げてしまうー

そしてー

「---な~によ、ひっ!?って」

背後を振り返ると、
クラスメイトの英玲奈(えれな)がいたー

「あーー、え、、英玲奈」
涼花はほっとした様子でため息をつく。

「-ちょっと~!せっかく見かけたから声をかけたのに、
 まるでわたしがおぼけみたいじゃない」

英玲奈の言葉に、涼花はごめんごめん、
と呟きながら2人で歩き出した。

英玲奈はクラスメイトの一人で、
おしゃれ好きのちょっと気の強い生徒。
彼女はたしか、手芸部に所属していた。

雑談しながら歩く2人。

やっぱり、あの日のスライムみたいな光景は
見間違えだー

涼花はそんな風に思った。

しかし、何気なく歩いていた涼花は
あることに気付くー

「ねぇ…」
涼花が声を出すと、英玲奈は「ん?」と返事をした。

いつも、英玲奈と帰るときは、少しだけ遠回りをして、
英玲奈の家の前まで行くのだがー
よくよく考えると、今日は違う方向に向かっているー

「--どこに行こうとしてるの?」
涼花は、人気のない通りに来ていることに気付き、
英玲奈に尋ねた。

するとー
英玲奈は傘を放り投げた。

「---んはぁぁああ~♡」
制服とおしゃれな髪の毛を濡らしながら
両手を広げて雨を浴びる英玲奈。

「--えっ、、英玲奈…!」
涼花が怯えながら声をかけると、
英玲奈は微笑んだ。

「--本当の英玲奈は-
 3か月前に死んだよ?ふふふ…」

英玲奈の顔半分がスライムのような形に変形したー

「知らなかった?あなたのクラスにも”わたしたち”の仲間が
 3人いることー。」

あの日の亜彩菜の言葉を思い出す。

「う…嘘…!きゃあああああああ!」
涼花は、路地の反対側に向かって走り出したー

しかし、そこにはー

亜彩菜が居たー

腕を組んだ亜彩菜が、傘も差さずにズブ濡れになって
微笑んでいるー

「--雨は自然の恵みよ…ふふふ」

涼花は恐怖して、その場に座り込んでしまう。

亜彩菜と英玲奈に囲まれる涼花。

そしてー
亜彩菜の背後から、人型のスライムがやってきた。

「お前も、わたしたちの仲間になるのよ…!」

震える涼花。

人型のスライムは涼花の口に手を突っ込むと、
ひと思いに、涼花の口の中に飛び込んだ。

「んんんんっ!」
涼花がそれを拒もうと、喉のあたりを抑える。

しかし、それは無駄だったー。

スライムが体内へと侵入する。

「んっ…ごほっ!!ごほっごほっ!ごほっ!」

傘を落として、その場に膝をつくと、
涼花は激しく咳き込んだ。

ツインテールと制服をずぶ濡れにしながら
涼花は必死に咳き込んでいる。

お腹がボコッボコッと波打って不気味に膨らんでいる。

「んああああああああ!」
仰向けになってもがき苦しむ涼花を、
2人のクラスメイトはニヤニヤしながら見つめている。

やがて、胃から何かが逆流すると、
口からーーー
それを吐きだすことなく、脳のあたりに何かが流れ込んでいくーー

「んへぇあ♡」
今まで感じたことのない快感を感じて、
苦しんでいた涼花は変な声を出してしまう。

頭の中に別の意識が広がる。

お腹の苦しみが無くなった涼花は、
立ち上がって、ふらふらしながら逃げ出そうとするー

しかし、
そんな涼花に亜彩菜が抱き着いた。

「もう、何も考えなくていいの。
 ほら、雨の水…気持ちイイでしょ?」

抱き着いて優しく囁く亜彩菜

「いや……だ…」
涼花はそう呟く。

けれどー
少しすると、笑みを浮かべたー

「きもちいい…♡
 しぜんの…めぐみ…♡」

涼花はー
支配されてしまった。

スライムのような生命体にー。

「さぁ、お前もその身体で子供を作るのよー」

亜彩菜が言う。

涼花の身体で子供を作り、
新たなスライムを生むー
そして、涼花が出産により、破裂したら、
涼花を支配していたスライムは死んだ涼花の代わりに
涼花に変身するー

「--ふふふふふふふふふ」

3人の女子高生が、ずぶ濡れになりながら笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいま~」

涼花が帰宅した。

「あれ~?ちょっと、ズブ触れじゃない~」
母親が言う。

「--ふふふ…ちょっとね」
涼花はそう言いながら、2階への階段を上がって行く。

そして、濡れた髪の毛をペロリと舐めると、
涼花は自然の恵みの味を味わって
静かに微笑んだ…

おわり

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コメント

雨水の第2弾でした!
お楽しみ頂けたでしょうか!

こうしてスライムが増えていくわけですネ…!

お読み下さりありがとうございました~

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憑依<雨水>

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