大切な心優しい彼女が二重人格だった。
もう一人の彼女の存在ー。
その存在が、彼を大きく動揺させるー…
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「優香(ゆうか)ちゃん、浮気してるんじゃね?」
友人の言葉に、住崎 誠吾(すみざき せいご)は耳を疑った。
「--え?田内さんが?」
誠吾は思わず聞き返す。
「--あぁ、この前さ~
部活で帰りが遅くなったとき、
見ちゃったんだよな~!
空き教室でA組の後藤とイチャイチャしてるの」
友人の三郎の言葉を信じられず誠吾は
「そんなことあるわけないよ」と答えた。
彼女の優香は
とてもまじめで、大人しく、心優しい性格。
そんなことをするわけがない。
しかも、A組の後藤と言えば、
停学歴2回の、お世辞にも素行が良いとは言えない不良生徒だ。
そんな後藤と、優香がイチャイチャしていたなど、
信じられない。
「三郎の、見間違いでしょ?」
誠吾が言うと、
いやいやいや、と三郎は首を横に振った。
小学生時代からの付き合いの三郎は、
たまに嘘をつく。
今回も、そんな嘘だろう、と
誠吾はそう思っていた。
ーー昼休み。
図書委員として活動をしている誠吾は、
ため息をつきながら、カウンターの方を見た。
カウンターには、彼女の優香が座っている。
本を借りに来た生徒と笑顔で談笑する優香。
その笑顔は、いつも通り眩しかった。
「--ーーー」
誠吾は思うー。
優香と自分が付き合いだしたのは、去年の6月のことー。
図書委員会として仕事をし始めた誠吾は、
「面倒くさいなぁ」などと思いながら図書委員の仕事をしていた。
不真面目ではないが、何事にも無気力な生徒ー。
それが、誠吾だった。
クラスメイトからも苛められてはいないものの、
特に目立たない存在ー。
幼馴染の三郎以外とはそこまで親しくもない。
そんな感じの生徒だった。
しかしー
図書委員の仕事を始めて、彼は変わった。
「ーーーよろしくね」
2年生になって初めて同じクラスになった田内 優香。
1年生のころは全くと言っていいほど、接点がなく、
なんとなく顔を見たことあるなぁ~程度の存在だったが、
それが大きく変わった。
図書当番として、一緒に仕事をするうちに、
誠吾は優香のことが好きになったー。
そして、優香も、なんだかんだ言いながら不器用に優しく、
仕事はちゃんとやる誠吾のことを気になりだしていた。
6月ー。
優香のほうから、誠吾に告白した。
今まで、彼女なんていたことがない誠吾が
顔を真っ赤にして共同不審な態度をしながらも
それを受け入れてー
2人は付き合うことになったのだー
あれから半年以上ー
未だに「田内さん」と呼び、下の名前で呼ぶこともできないような
状態だが、
彼女も、誠吾が初めての彼氏だったらしく、恋愛に奥手な人間同士、
上手くやってきていた。
「--あぁ、この前さ~
部活で帰りが遅くなったとき、
見ちゃったんだよな~!
空き教室でA組の後藤とイチャイチャしてるの」
幼馴染の三郎の言葉を思い出す。
「---どうしたの?」
ふと、我に返った誠吾は「え?」と言いながら、
近くに来ていた優香の顔を見た。
「あ、、い、、いや、、あの…」
誠吾が顔を赤らめてパニックを起こすと
「ぼ~っとしてたよ?大丈夫?」と
優香が心配そうに誠吾の方を見つめた。
たまにー
優香をお姉さんのように感じることがあるー。
実際には年齢も同じで、彼女彼氏の関係なのだけれども…。
「あ、今度の土曜日のことだけど~」
優香が微笑みながら、
土曜日に一緒にショッピングする約束について
口にし始めた。
「---あ、うん」
誠吾はそんな優香と話しながら
”やっぱ三郎の見間違えだよ”と
内心で笑うのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
土曜日。
2人はショッピングを終えて、
ファミレスに入り、ランチを食べていた。
「---ふ~ん、そっか、でも僕はな~」
誠吾も、三郎の話など忘れて楽しそうに談笑している。
優香も、とても楽しそうに笑っていた。
穏やかな優香は、服装も落ち着いた感じで、
清楚という言葉の似合う女子高生ー。
「---そういえば、誠吾さ…」
優香がそう口にしたその時だった。
「おい!待てよ!この野郎!」
店内を走り回っていた小さな兄弟が、
喧嘩し始めて、
小さな子が、兄と思われる子に、
押し倒されて、顔をつねくられている。
「---俺のウィンナーだろ!それ!」
兄が叫ぶ。
どちらも小学生ぐらいだ。
弟の方は幼稚園か保育園かもしれない。
「---あはは…」
誠吾が苦笑いしながら、自分たちの座席の近くで
喧嘩し始めた少年たちを見つめる。
子供の喧嘩に介入しても良かったが、
このぐらいの歳のころは仕方がないことだからなぁ、
などと誠吾は思っていると、
喧嘩している兄が、弟を叩き始めた。
どよめく店内。
やがて、母親と思われる人物が
息子たちの喧嘩に気付いて駆け付けた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ーー?
誠吾がふと、その声に気付き、優香の方を見ると、
優香は冷や汗をかいて、コップのストローをコンコンコンコンと
何度もグラスの底に叩きつけていた。
「ーーー田内さん?」
心配になって誠吾が優香に声をかける。
「-ーーこいつがいけねぇんだよ!」
喧嘩している兄弟の兄が叫ぶ。
そして、弟の頬をビンタしたー
母親が息子たちの喧嘩を止められずに
困惑している。
弟が、兄に反撃するー
「---うるせぇんだよ!クソガキ!」
大声で叫ぶ声がー
兄弟の喧嘩を止めた。
誠吾は驚いて優香の方を見るー
優香が立ちあがって、
唖然とする親子の方を見ている。
怒鳴ったのはーー
優香だった。
「---ごちゃごちゃごちゃごちゃ言いやがって!
わたしの目の前から消えろ!」
そう言うと、優香は不機嫌そうに座り、
イライラした様子でドリンクを飲み始めた。
兄弟の母親は優香と周囲の客に謝ると、
2人の息子をつれて自分たちの座席へと戻って行った。
「た…田内さん?」
誠吾が心配そうに優香の名前を呼ぶー
しかし、優香は無言で、
デザートのスイーツを食べている。
普段の彼女からは想像もできないほどに
イライラした様子でー。
気まずくなった誠吾は、
そのまま言葉をかけることもできず、
沈黙してしまった。
しばらくして
優香の方から口を開く。
「…そろそろいこっか…」
優香の言葉に、誠吾はうなずいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
街を歩きながら、優香が静かに語りだす。
「わたし…最近ね…ちょっとおかしいの」
その言葉に、誠吾が足を止める。
近くの木々が風に揺られる中、
優香は悲しそうに呟いた。
「ーーー時々、なんだかわけが分からなくなって
気づくと少し時間が進んでいるというか…
意識が飛んでる時があるの…
ぼーっとしてるというか…」
優香は不安そうな表情で誠吾の方を見た。
「---…田内さん…」
誠吾はどう言葉をかけていいか分からず、
困惑する。
「--さっきも、そう…
なんか、ぼーっとしていたというか…
自分が何していたか…
ハッキリわからないの…
気づいたら食べ終わってて…」
その言葉に、
誠吾はさっきの優香の姿を思い浮かべる
子供に対して突然豹変して怒鳴り散らした優香。
優香は、
そのことを、覚えていない?
「---田内さんは…」
誠吾はそこまで言うと、不安そうな表情の優香を見て
言葉を止める。
「----ちょっと、眠そうだったよ。
うとうとしてた」
誠吾はそこまで言って、
少しだけ笑いながら続けた。
「いつも頑張りすぎなんだよ。
田内さんは」
そう言うと、優香も少しだけ微笑んだ。
「そっか…寝不足なのかなぁ…」
とー。
「---大丈夫。何かあったら、、
その、、、」
誠吾は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言葉を口にする。
「その、、僕が、、ま、守るから…」
その言葉に
「ありがと…!」と優香は嬉しそうに微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガチャー。
帰宅した優香は、閉じられている部屋の方から
聞こえてきた音に耳を傾ける。
「んっ♡ あっ♡ はぁぁ♡」
昼間からー。
母親の喘ぎ声が聞こえる。
優香は表情を歪めた。
母はー、再婚相手の父と毎日のように
エッチをしているー
娘の前だろうと何だろうとお構いなしにー
優香の本当の父はーーー
優香は、仏壇に目をやるー
そこには、どことなく彼氏の誠吾と雰囲気の似た
幼い少年の姿ー。
「・・・・・・」
喘ぎ声が聞こえる。
優香は嫌悪感を浮かべると
そのまま部屋へと戻った。
自分の部屋に戻った優香は持っていたバッグを
勢いよくベットに投げつけた。
「---何が、僕が守るだ…!」
優香の表情が鬼のような形相になっている。
「---もうすぐ…」
優香は鏡の方を見つめる。
もうすぐ、自分が、自分になるー
”今の優香”はそう思ったー。
「--ウザい、ウザい、ウザいうざいうざいうざいうざいうざいうざい」
呪いのように呟くと、優香は部屋の中で暴れはじめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月曜日ー
「おはよう!田内さん」
「あ、おはよう誠吾!」
いつものように挨拶を交わす2人。
「--あれ?」
誠吾が、優香の手の絆創膏に気が付くと、
優香は「あ~なんか料理中に切っちゃったみたい」と微笑む。
「そっか~」
誠吾が気を付けてね、と笑いながら言う。
優香も誠吾に微笑み返すー
しかしー
優香には”怪我をした記憶がない”
土曜日ー
誠吾と別れて自宅に帰った直後から
記憶がおぼろげでよく覚えていない。
気付いたら、散らかった自分の部屋にいたー。
何をしていたのか、分からない。
「---」
優香は不安でいっぱいになりながらも、
誠吾の”僕が守るから”という言葉を
支えにして、なんとか普段通りを
装っていたー。
誠吾がふと、教室の隅にある
1つの机を見つめる。
そこにはー
誰も座っていないー。
そこの座席の主は、1か月前にー
チャイムが鳴るー
誠吾は「あ、授業の準備しないと!」と
呟きながら自分の机へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼休みー
誠吾と優香は、図書室に向かおうとしていた。
図書当番の仕事をするためだ。
その時だったー
「--よぉ、田内はいるかー?」
ゴツイ大柄の男が入ってきた。
A組の後藤ー。
誠吾の友人・三郎が、
”優香とイチャイチャしていたやつ”として
名前を挙げた不良生徒だ。
「---え?」
優香が不安そうな表情で後藤の方を見る。
「--今日、またどうだよ?」
後藤が笑いながら教室に入ってくる。
キャラメルポップコーンの袋を持ちながら
それを口の中に放り込みながら
後藤は、優香の方を見る。
「え…な、、何のこと?」
優香が困惑した様子で言う。
後藤は、キャラメルポップコーンを
わざと音を立てて噛み砕きながら微笑んだ。
「とぼけんじゃねぇよ…
先週の火曜日のこと…
お前も乗り気だっただろうが」
後藤の言葉に怯える優香。
「--や、、やめろよ…!田内さん、
嫌がってるじゃないか」
誠吾は止めに入ろうとしたー。
しかし…
後藤は誠吾の方を見ると、
口の中から噛み砕いたキャラメルポップコーンを
取り出して微笑んだ。
「--テメェも、こうなりてぇか?」
後藤の迫力に、誠吾はビビッてしまった。
「はひっ…?な、なんでもありません」
誠吾は今にも漏らしそうになりながら、
その場で震え上がった。
「--ーーおい、やめろよ!」
誠吾の友人・三郎が誠吾に代わり、止めに入った。
しかしー
「うるせぇ!」
後藤や三郎を殴り飛ばした。
三郎が音を立てて、近くの机に激突するー
「-----あっ…ひ…」
それを見ていた優香の様子がおかしい。
優香は、
はぁ、はぁ…と言いながらパニックを起こしているかのように
身体を震わせた。
ボウリョクーー
ボウリョクーーーーー
「--このクソガキがぁ!」
暴れ狂う父ー
泣きじゃくる自分と母ーーー
暴力で、血だらけになる弟ー
ボウリョクーーー
マタ、アノトキノヨウニー
ナニモー
ツヨクーー
モットツヨクーー
ダレニモタヨラナクテスムヨウニツヨクー
コンナクダラナイセカイナンテーー
「----いいわよ」
優香がはっきりとした口調でそう言った。
腕を組みながら後藤の方を見る優香。
「---ほぅ。最初からそう言えばいいんだよ」
後藤がそう言うと、
優香が後藤の顎をつかんだ。
「んがっ…」
後藤が驚いて食べていたキャラメルポップコーンを口から吐き出す。
「--あんたこそ、わたしを楽しませてくれるのかしら?」
優香がそう言うと、
後藤はにやりと笑みを浮かべて
「も…もちろんだぜ」と呟いた。
優香が手を放すと、後藤は
「放課後、楽しみにしてるぜ」と言って、
教室から立ち去って行ったー。
「た…田内さん?」
誠吾がそう声をかけると、
優香は無言で教室から出て行ってしまった。
「ちょっ…!」
誠吾が慌ててそのあとを追うー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
優香を追ってやってきたのは図書室だった。
そういえば、図書当番だったー。
誠吾はそう思いながらも、イラついた様子でカウンターに座る優香を見て
不安になった。
思い切って声をかける誠吾。
声をかけられた優香は誠吾の方を見たー。
「--へぇ、あんたがわたしの彼氏?」
誠吾はその言葉の意味が分からず、困惑する。
そんな誠吾を睨みつけて優香は言った。
「---ウザい」
とー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
二重人格を題材とした小説デス!
初挑戦のジャンルなので、色々調べながら書いています!
次回もぜひお楽しみください!
コメント
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<入れ替わり>一往復の不思議な旅③~後編~(完)
にリクエスト書いてるのでお願いします。
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ありがとうございます!
リクエストは読みましたが
お返事とスケジュールへの貼り付け作業がまだでした!
ご指摘ありがとうございます!
リクエストの執筆には時間がかかりますので
気長にお待ち下さい☆
SECRET: 1
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
作者様は男性ですか?女性ですか?案外こういう作品の作者に女性がおられますので。
というのは、リクエストしたい時に作者様が男性のつもりで男性なら当たり前にわかる状況、感情、体のつくりをコメントしても女性なら通じないからです。内密なら仕方ないですが‥
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すみません!こちらでは非公開にしておりますので、
皆様のご想像にお任せします!