<憑依>理想郷③~誤算~(完)

理想郷を生み出した輝明。

佳奈の身体で女王として君臨し、
今まで自分を蔑んだ奴らを見返してやるつもりだった。

しかしー

--------------------------

「あはははははは!この女も、
 みんなも、全部、おれのものなんだよ!佳奈!」

ポニーテール少女の身体で笑う輝明。

周囲の側近にされた女子生徒たちも笑っている。

佳奈は縛り付けられていて、
身動きをとることができない。

「-そ…そんな」
絶望する佳奈。

「そうだ、佳奈ぁ~!
 お前、いい身体してるよなぁ」

可愛い声で笑うポニーテールの少女。
佳奈は困惑した表情で輝明を見つめる。

「---たっぷり堪能させてもらったぜ~
 女王にふさわしい身体だ!」

アイドルのような衣装を着せられた佳奈は
悔しそうに少女を見つめる。

「---この学校は俺の理想郷だ!
 あははははは!女も何もかも、全部俺のものだー!」

ポニーテール少女は、表情を歪めて
大笑いしたー。

「ここが、俺の理想郷だ!」
両手を広げて少女が宣言したその時だった。

「---ほどきなさい」
佳奈がそう呟いた。

「---!?」
ポニーテール少女が佳奈の方を見る。

するとー、
側近にしていた女子生徒たちが、
縛り付けていた佳奈の身体を解放した。

「---な、何をやってる!」
ポニーテール少女が叫ぶと、
側近の女子生徒たちは笑う。

「---わたしたちは、女王様のしもべですから」

ーと。

輝明は、はっとする。

”わたしは女王様にお仕えします”と
この女子生徒たちに刻み込んだー

女王様とは佳奈のことだー。

つまりー

「ーーーそう、わたしが女王よ」
佳奈が悪い笑みを浮かべて立ち上がった。

「な…なんだと??」
ポニーテールの少女は叫ぶ。

佳奈は勝ち誇った表情で
輝明が支配している少女の方に近づいた。

「---わたしは女王。
 あんたもひれ伏しなさい」

佳奈が腰に手を当てながらそう呟く。

「--な、、か、、佳奈!
 何を言ってるんだ!」

輝明はそこまで言うと、
さらにはっとするー

佳奈の身体に憑依している間、
輝明は何度も何度も
”わたしはじょおう”だと、
念じていたー

「ま…まさか!」
少女が叫ぶと、佳奈は笑った。

「---女王はわたし、あんたはしもべ」

輝明の意図しないところで、
佳奈の思考は変わってしまっていた。

「--こいつを押さえつけなさい!」
佳奈が、周囲の女子生徒に命令をする。

ポニーテール少女は佳奈の指示を受けた
女子生徒たちに抑え込まれてしまう。

「---うあっ!か…佳奈!やめろ!」
悲鳴をあげるポニーテール少女。

そんな少女の手を、佳奈は踏みつけた。

「ふふ、ならわたしに許しを乞いなさい。
 お許しくださいませ、女王様ってね」

佳奈が見下すような目でそう言った。

「うああ!」
ポニーテール少女は悲鳴をあげながらも
内心で”バカめ”と思った。

佳奈の精神が汚染されて
まさか自分から自分を女王だと
言い出すとは思わなかった。

けれどー
そんなことは問題ではない。

何故なら
”憑依能力”を持っているのは輝明だからだ。
いかに、佳奈が女王になっても、
憑依能力がない佳奈に何ができる?
また、輝明が佳奈の身体に憑依すればいいだけのこと。

「---あはははははははははは!」
ポニーテールの少女は笑った。

佳奈が表情を歪める。

「佳奈!お前、俺に影響されて自分が女王だと
 思ってるみたいだけどよ…!
 憑依能力のないお前なんて怖くないんだよ!」

そう言うと、ポニーテール少女はガクッと気絶した。

”この理想郷は、俺のものだ”

霊体になった輝明は佳奈の身体をめがけて、
動き出した。

ズキッ

「---!?」
輝明に激しい痛みが走った。

「---な、なんだ?」
輝明は佳奈の方に向かうのをやめて、
周囲を見渡す。

もちろん、霊体になっているのは自分ひとりで、
何の異変もないし、周囲に他の霊体が
いるわけでもない。

ズキッ

ズキッ

しかし、身体が連続して痛む

「な、、何が起こっている!」
輝明は叫んだ。

当然、霊体なので、その言葉は
誰にも届かない。

しかしー
輝明は何が起こっているかを知ることになるー。

「--輝明の身体を壊すのよ!」
佳奈が叫んでいたー

「---!!」
輝明は恐怖したー

そうー
別の教室に保管してある自分の身体が
攻撃されているのだー

この痛みは、その痛みー。

女王と化した佳奈が、
他の生徒に指示をしたことで、
輝明の本体が、暴力を受けているのだった。

「くそっ!」
輝明は、自分の身体が保管されている部屋に向かう。

そこではー
輝明が世話役に任命した2人の女子生徒が
輝明の身体に殴る、蹴るの暴行を加えていた。

「やべぇ!」
輝明は叫ぶ。

自分の身体がもしもこのまま死んでしまったら自分はどうなるー?
輝明は元々小心者だったー。

そんな恐怖に支配され、
輝明は慌てて自分の身体に戻った。

もしもー…

もしも、輝明が小心者ではなく、
合理的に物事を考えられる人間だったら、
理想郷は彼のものだっただろうー。

何故なら、
慌てず、佳奈に再び憑依して
佳奈を支配したら
”輝明への攻撃をやめなさい”と
宣言すればそれで済んだ話なのだから…

けれどー。
輝明は小心者だった。

自分の身体に、戻ってしまった。

「---はぁ…はぁ…」
自分の身体に戻った輝明は、
周囲の女子生徒たちに
殴る・蹴るの暴行を受けていた。

「や・・やめろ!やめろぉ!」
輝明は叫びながら思うー

これじゃあ、何も変わらない。
いじめられていた時とー。

理想郷を作る前と、何も変わらない。

「に、逃げないと!」
輝明は一目散に逃げ出そうとしたー

しかしー
そこに、別質に居た佳奈がやってきた。

「-逃げられると思ってるの?
 わたしの理想郷から」

アイドルみたいな衣装をして、
黒タイツを穿いている佳奈が
笑いながら近づいてきた。

「女王のわたしに、従いなさい」

優しかった佳奈が、高圧的に言う。

輝明は、悲しい表情で佳奈の方を見た。
思えば、佳奈だけはいじめられている自分を
助けてくれていた。

それなのにー、
こんな、こんな女に変えてしまったー。

「--わたしに土下座しなさい!
 忠誠を誓うのよ!」
佳奈がいらだった様子で叫ぶ。

佳奈がこうなってしまったのはー
自分のせいだ。

輝明が憑依している間に
”女王”だと、何度も叫んでいたからー
他の女子生徒たちと同じように、
思考が染まってしまったー

「---め、、目を覚ましてくれ…」
輝明はすっかり気弱な様子で言うと、
佳奈は笑った。

「わたし、輝明に変えられちゃったのよ?
 でもね~ふふ…今、わたしはとっても幸せ!

 自分の本当の魅力に気づくことができたし、
 こうして女王様になれたんだからね!
 あはははははははっ!」

笑う佳奈に、元の佳奈の面影など、なかった。

「--ふふふふ…さぁ、忠誠を誓いなさい。
 私の足を舐めて掃除なさい」

佳奈が黒タイツに包まれた足を差し出す。

「---…お、、、俺は…俺は
 憑依する力を持っているんだぞ!
 佳奈!お前にもう一度憑依して、
 俺が女王になることだって…!」

輝明はそう叫んだ。

そうだ。
憑依能力は自分にしかない。
不利なのは、佳奈の方だ。

「---試してみれば?」
佳奈が笑う。

佳奈の取り巻きの女子生徒たちが、
刃物を手に微笑んでいる。

「あんたが私に憑依するのが先かー
 それとも、あんたの身体が死ぬのが先かー」

不気味に笑う佳奈。

輝明は周囲を見渡した。

幽体離脱から憑依までは3秒程度で済むー

けどー
もしも、その間に、自分が殺されてしまったらー?

身体が死んだら、魂はどうなる?
本体が死んでも、俺は佳奈を支配したままでいれるのか?
それとも、俺は、消えるのか?

いや、3秒もあれば、佳奈を支配して、
この染め上げたしもべどもに命令を下すことはできるはずだー

3秒で殺されるほどー

…待て…
ナイフで首をやられたら俺の身体はーー

くそっ・・・
俺は、、、俺は…

輝明の身体は震えていたー
恐怖にー

おそらく、瞬間的に憑依して佳奈になって
命令を下すことはーー

できたはずだー

しかしー
輝明は、小心者だったー

「---女王様」
そう言うと、膝を折って、輝明は佳奈の黒タイツを
舐めはじめた。

勝ち誇った表情で輝明を見つめる佳奈。

「お前は今日から、わたしの掃除係よ。」

その言葉に
「はいー」
と輝明はうなずいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

屋上から正門を見つめる佳奈。

報道陣や警察が集まってきている。

だがー。

「---もし一人でも近づいてい来たら、
 ここから飛び降りなさい」

佳奈は輝明によって”女王様に服従”と刷り込まれた
男子生徒に指示をする。

「はい…」

報道陣も警察官も、
学校に近寄ることができず、困惑している。

「--ふふふ、ここはわたしの理想郷」
佳奈が嬉しそうに微笑む。

隣に居る輝明は、思うー

最初の目的とは変わってしまったけれどー。
佳奈の隣で理想郷を堪能するのも悪くないー。
自分を女王様だと思い込んで、
高飛車に振る舞う彼女は、魅力的だー。

彼は、そう思いはじめていた。

「--さぁ、わたしの部屋に戻るわよ。

 それとー
 もし校舎に近づいてくるやつがいたら、
 すぐにそいつに憑依して、始末なさい」

佳奈に命じられて、
輝明は「はい!」と嬉しそうに返事をするのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

理想郷の主導権は取られてしまいましたが、
彼はそれでも良いようです…!

お読み下さり、ありがとうございました!

PR
憑依<理想郷>

コメント

  1. 飛龍 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    強大な力を持っても性根がヘタレだと使いこなせない、そんなお話でしたね。
    変えられてしまった佳奈を悲しんだのは一抹の良心が残っていたとみるべきか、覚悟が定まってないと評すべきか。
    もっとも、本人が幸せそうなのでこれはこれで一つの理想郷なのかもしれませんね…w

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 強大な力を持っても性根がヘタレだと使いこなせない、そんなお話でしたね。
    > 変えられてしまった佳奈を悲しんだのは一抹の良心が残っていたとみるべきか、覚悟が定まってないと評すべきか。
    > もっとも、本人が幸せそうなのでこれはこれで一つの理想郷なのかもしれませんね…w

    コメントありがとうございます~!
    彼はヘタレすぎましたネ…!
    でも、飛龍様の言うとおり、彼は幸せそうですネ笑

  3. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    憑依した場合のエンドも見てみたいです!

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 憑依した場合のエンドも見てみたいです!

    ありがとうございます~!
    機会があれば考えてみます!

  5. より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    憑依も上手く使わないと失敗するんですね。
    勉強?になりました。ククク