女体化してからもうすぐ3年ー。
恭一は、すっかり女子高生になっていた。
しかし、ある日、事件は起きた…
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3年生の冬ー。
3学期を迎えて、恭一や卓は、
まもなく卒業するタイミングを迎えていた。
女体化して京香になった恭一も、その親友の卓も
大学進学が決まり、
あとは、卒業の日を待つだけだった。
恭一は日に日に女らしくなり、
今ではすっかり女子高生になっている。
1年生のクリスマスの時から、付き合っている卓も、
恭一が、元々男子だったことなど、
忘れてしまいそうな勢いだった。
しかし、ある日ー。
卓が家で朝食を食べていると、
父親が近づいてきた。
「卓、例の事だが…」
と父は言う。
「例のこと?」
卓が聞き返すと、父は小声で言った。
「女体化した、お前の友達のことだー」
卓は、恭一が女体化したあと、研究者である父親に
”男に戻してあげられる方法はないか”と相談したことを
思い出した。
「--え?」
卓が”まさか”という表情で言う。
「あぁ…完成したよ。
男に戻すための薬がな。
企業秘密だから成分は言えないが、
とにかく、必ず男に戻れる」
その言葉に、卓は複雑な感情を抱いた。
最初は”元男”である恭一と付き合うことに
違和感をぬぐえなかったが、
今は本気で女体化した恭一のことが
女として大好きだ。
だがー。
「--お前の、ためだもんな…」
卓は悲しそうにそう呟いた。
自分の想いのために、
恭一を女のままにしておくわけにはいかない
”俺は男だ!”
と必死に叫んでいたころの恭一を思い出す。
「---俺が、元に戻してやるからな」
卓は、そう呟いた。
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翌日。
卓は、恭一を自宅に招いた。
「--わ~!卓の家に来るなんて初めてだよ~!」
嬉しそうに言う恭一。
女子高生らしく、とてもおしゃれな格好だ。
「はは…ま、たまにはと思ってよ」
「おじゃまします♪」
礼儀正しく言う恭一。
卓はチラッと恭一の方を振り返る。
いつもの優しい笑みを浮かべる恭一。
もう、すっかり女子になりきっているー
”無理しているのか”
それともー心身ともに女になってしまったのかー
「ま、茶でも飲めよ」
リビングに恭一を通した卓は、お茶を出した。
「--うん!ありがと♪」
スカートを整えながら座る恭一。
「------」
卓は神妙な面持ちでそれを見ていた。
”ある日、急に男に戻った”
そういうことにするー。
それが卓と父親に出した結論だった。
父親によれば、
この薬はまだ明るみに出してはいけない薬なのだという。
そのため、恭一にも伝えることはできないー。
卓も、恭一に余計な心配をかけたくないとの思いから
自分の父親が、恭一を男に戻す方法を探っていた、
などと恩着せがましく言うつもりはなかった。
「--なんか、変わった味だね?」
恭一が微笑む。
「--ん?あぁ、親戚から貰ったお茶でさ。
口に合わなかったか?」
卓が言うと、「ううん、美味しいよ」と恭一は答えた。
卓は、少し複雑な思いだった。
そのお茶には”男に戻す薬”を混ぜてある。
味に違和感があるのはそのためだ。
これを飲むと、1、2週間ほどかけて
少しずつ身体が男に戻って行くのだと言う。
「--お前のためだもんな」
女としての恭一ともっと一緒に過ごしたかった、と
思いながらも、それは自分の勝手な都合だ、と
卓は自分を押し殺して、恭一に男に戻らせるための
薬を、密かに飲ませたのだった。
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翌日。
「おはよ~!」
恭一の様子に変わりはない。
卓は、”やっぱ、父さんの薬、効果ないんじゃね?”などと
思いながらも、いつも通り、恭一に接していた。
2日目も、3日目も、変わらなかった。
しかしー
金曜日の放課後ー
4日目のことだった。
「--卓…」
放課後、一緒に歩いていると、恭一が口を開いた。
「-ん?」
卓が恭一の方を見ると、
恭一が呟いた。
「-ーーわたしに、何をしたの?」
恭一の言葉に、卓が「え?」と返事をする。
「---な、、何って?」
卓が返事をすると、
恭一は続けた。
「---わたしに、何かしたよね?」
恭一が問い詰めるように言う。
「-は、、?お、、俺は何も」
卓はとぼけようとした。
しかしー
「ねぇ!教えてよ!」
恭一が叫んだ。
「---ちょ、、お、、落ち着けよ」
卓がそう言うと、
恭一はセーラー服をまくってみせた。
腕にはー
男のような毛がはえはじめていた。
「---ねぇ!わたしに何したの?
あの日ーー
お茶に何か混ぜたでしょ?」
恭一の言葉に卓は動揺する。
「--嘘をついてるときの卓の顔、分かるもん!」
叫ぶ恭一。
「--お、、、落ち着け…
お、、俺は!」
卓はどう返事をしていいか分からず、
困惑していた。
「---何を混ぜたの?
ねぇ!教えて!」
恭一の言葉に、
卓は観念して答えた。
「----男に戻る…薬を…」
卓がそう言うと、
恭一は呟いた。
「どうして…?」
恭一が手を震わしている。
見た目はもうすっかり女の子ー
いや、高校生活3年間の間で、中身も女の子になったー。
「---お前が…男に戻りたいと…・言ってたから…
ずっと、、父さんが研究してくれてたんだ…
3年間…ずっと」
卓がそう言うと、
恭一がため息をついた。
「---急に女にされて、
やっと女の子としての暮らしとか、
生活とか楽しみ方に慣れたのに、
今度は急に男に戻れって?」
恭一が問い詰める口調で言う。
「わ、、、悪かったよ…」
卓は困惑していた。
確かに、2年生になったあたりぐらいから、
恭一は”元に戻りたい”だとか
”俺は男だ”だとか、言わなくなった。
けどー
それは、無理をしているだけだと、そう思ってた。
「---ふざけないで!
勝手に、、勝手に決めないでよ!
なんで私に相談してくれないの!」
恭一が泣き叫ぶ。
「い…いつまでも…!
いつまでも女で居るわけにはいかねぇだろ!」
卓が叫ぶ。
「大学は高校側の配慮でなんとかなったけど、
就職はどうする?
京香って名前は所詮偽名だ。
お前は、恭一なんだよ。
将来、そのままじゃ必ずお前は、壁に
ぶち当たることになる。
だから…」
「もう、いいよ!」
恭一は泣きながら走り去ってしまった。
卓は、恭一の後姿を見ながら思う。
”これで、いいんだ”
とー
例え、自分が嫌われても、
恭一を、男に戻すことがー
正しい事なのだとー。
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「いやだ…!いやだ!!」
恭一は自宅で泣き叫んでいた。
髪が1日1日、少しずつ変質していくー
短く、なっていく。
胸が、しぼんでいくー
そしてーー
股間に異変が起きるー
「---いやだ!!!!戻りたくない…!
いやだ!!
私は女よ…!男になりたくない…!」
恭一は、連日、泣き叫んだ。
しかし、
無情にも、1週間が過ぎたころには、
彼は男に戻っていた。
だがーーー
「----・・・」
学校で、恭一は卓と口を利かなくなっていた。
卓も、今はそっとしておいたほうが良い、と
恭一に話しかけることはしなかった。
「--」
卓の視線の先には、いつものように女子達と
おしゃれトークをしている恭一の姿がある。
髪も長く、
いつも通りー
「---」
卓には分かっていたー
もう、身体はとっくに男に戻っている。
だがー
恭一は女装をしているのだと。
男に戻った自分を受け入れることができずー
女装を続けているのだとー。
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そして、卒業式の日がやってきたー
卒業式が終り、
桜が散る中、卓は恭一に声をかけた。
振り返った恭一は、笑顔だった。
「卓…」
その言葉に、卓は言う。
「---もう、とっくに身体は男に戻ってるんだろ?
…ずっと、そのまま、生きていくつもりか…?」
卓の言葉に、恭一は微笑むだけで、
返事はしなかった。
そしてー
「不思議だよね…
最初は”俺は男だ”って思ってたのに、
急に女になっちゃって、
高校生活3年間を過ごしていたら、
今度は私は女よ、って思っちゃってる」
悲しそうに言う恭一の言葉を、
卓は静かに聞きつづけた。
「---3年間で人ってこんなに
変わっちゃうんだなぁ…って」
そこまで言うと、
恭一は卓の方に近づいて微笑んだ。
「---もう、お別れしましょ?」
と。
「---別れって…」
卓が言う。
卓と恭一は付き合っていた。
別れ、ということはもう自分は
嫌われてしまったということなのだろうー
だが、違ったー。
「---だって、男同士、付き合うわけには
いかないでしょ?」
と恭一は微笑んだ。
顔は可愛いまま…
だが、よく見ると、男っぽい特徴が見受けられる。
必死に女装しているのだろうー
「--た、、確かにな」
卓は笑いながら返事をした。
そして、恭一は言う。
「ありがとうー」
と。
確かに男には戻りたくない。
けれど、卓が自分のことを必死に
考えてくれていたことは、
よく、分かる。
だから、恭一はお礼の言葉を述べたー
「--今日で…卒業かなぁ」
卓に背を向けて、恭一は桜を見上げながら微笑む。
「--高校だけじゃなく、
女の子も卒業…」
その言葉は、女体化して、
再び男体化させられた人間にしか分からない
悲しい感情に満ちていたー
「---卓…
ありがとう…
ううん、ありがとな…」
そう言うと、恭一はにこっと微笑んで
そのまま立ち去って行った。
「---恭一…
俺の方こそ、ありがとな…」
何だかんだで楽しい3年間だったー
卓は、悲しそうに恭一の後姿を見つめながら、
そう呟いた。
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4月ー
大学の門をくぐる、
爽やかな男子大学生の姿があった。
彼は、微笑んだー
「俺は、男だー」
と。
おわり
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コメント
3年間も過ごせば、
違う性別での生活にもきっと、
慣れちゃいますよネ…!
そんな心情の物語でした!
お読み下さりありがとうございました!
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