その眼鏡は、危険な眼鏡だったー。
”禁忌の眼鏡”
そう呼ばれ、封印されてきた。
ある日、その眼鏡をかけてしまった少女はー?
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禁忌の眼鏡ー。
その眼鏡には、悪魔が宿っていた。
一見、何の変哲もない、
可愛らしい眼鏡なのだが、
かけてしまった人間は、発狂し、
最後には死に至ってしまうー
そんな、眼鏡だ。
これは、そんな眼鏡をかけてしまった
一人の少女の物語ー。
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「--眼鏡壊れちゃった…」
昼休み、図書室で本を片づけている最中に
バランスを崩して転倒してしまった少女・
早崎 朱莉(はやさき あかり)は、ため息をついていた。
「--まったく、ドジなんだから」
幼馴染で、大の親友の女子生徒・
眞篠 郁恵(ましの いくえ)は呆れた様子で言う。
ショートへアーで活発な女子生徒の郁恵と
ロングヘアーで大人しそうな眼鏡女子の朱莉。
二人は性格は正反対だったが
小学生のころから、とても仲が良く、
高校でも、仲良しな二人として、知られていた。
「--ま、怪我がなくて良かったじゃない」
郁恵が言うと、
「う~ん、でもまたお父さんとお母さんに怒られるよ~」と
朱莉が悲しそうに笑う。
「--まったく~朱莉はドジなんだから」
郁恵があきれた様子で言う。
朱莉は小学生のころからドジだった。
給食の準備中に転んで給食をこぼしたこと、8回ー。
小学生時代の運動会の際に、100m走るで走る方向を間違えて大恥をかいたり
中学時代の修学旅行では、別の方向の電車に一人で乗ってしまい大騒ぎになったりー
「---ドジなのは昔からだもん!」
不貞腐れたように言う朱莉。
「--またまた~そうやってすぐ拗ねる~!」
郁恵の言葉に「からかわないでよ!」と顔を赤くして朱莉は反論したー
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「はぁ~」
放課後。
朱莉は、重い足取りで自宅へと向かっていた。
眼鏡を壊してしまった。
また両親にドジだと呆れられるだろうー
せっかくのバイトで稼いだお金を
使うことになるだろうかー。
数万円で済むとは言え、
高校生にとっては大きな出費だー。
「---もし、そこのお嬢ちゃん」
背後から、声がした。
「え?」
朱莉が振り返ると、
そこには老婆が居た。
人懐っこそうな笑みを浮かべた老婆は
朱莉に対して手招きをする。
首をかしげながら近づいてきた朱莉に対して、
老婆は笑った。
「その眼鏡ー」
ヒビの入った眼鏡を指さす老婆。
「あ…こ、これは、ちょっと
図書室で転んじゃって」
朱莉が笑いながら言うと、
老婆が「おやおや」と優しく微笑んだ。
「だったら、あんたにこれをあげるよ」
老婆が可愛らしい眼鏡を取り出した。
「---え??わたしに?」
朱莉が不思議そうに尋ねる。
何か、怪しい人なんじゃないかと
警戒するー。
当然の反応を見て、老婆は笑った。
「わたしはね…
あんたぐらいの年の孫がいたんだー。
けどね…
わたしの孫は事故で死んじゃってね…」
悲しそうな顔で語る老婆。
老婆の目からは涙がこぼれていたー
「わたしの孫も、あんたみたいな眼鏡をかけていたー。
だから、ちょっと孫のことを思い出しちゃってねー」
老婆が笑う。
朱莉は、もしかして…と口にして、続けたー
「--その眼鏡は…」
朱莉の言葉に、老婆は頷く。
「わたしがね…次に孫にあったときにプレゼントしようと思ってた
眼鏡だよ…
でも、あの子が死んじゃったから、使い道がなくてね」
老婆はそこまで言うと微笑んだ。
「だから、あんたみたいなカワイイ子に使って
もらえれば、きっと、この眼鏡も、あの子も
喜ぶと思うんだー」
老婆の顔は嘘をついているようには見えないー
そして、何のたくらみがあるようにも見えないー
けれどー
普通だったら、やっぱり何だか気が引けてしまって
見たこともない人から眼鏡を受け取ったりはしないだろうー
だがー
朱莉は天然だったー
「--あ、、、ありがとうございます。じゃあ…」
眼鏡を受け取る朱莉。
「--ちょっと、かけてごらん」
老婆が言う。
朱莉は「あ、はい」と言って、その眼鏡をかけた。
眼鏡は、朱莉によく似合っていた
「おやおや、よく似合ってるよ」
手鏡を取り出して、朱莉に見せる老婆。
「---あ、、ありがとうございます」
朱莉は嬉しそうにお礼を言ったー
少し雑談をしたあとに老婆は
「急に呼び止めて悪かったね」と呟き、
朱莉は「あ、もうこんな時間」と微笑んだ。
「じゃあね…。眼鏡を大切にするんだよ」
老婆の言葉に、
朱莉はお礼の言葉を述べて
その場を立ち去ったー
老婆は、そんな朱莉の後ろ姿を見つめながら
悲しそうに微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま~」
帰宅した朱莉。
眼鏡が変わっていることに気付いた母親が
「それどうしたの~?」と聞いてくる。
朱莉は、適当にバイトで貯めたお金で、と
誤魔化してそのまま自分の部屋へと上がった。
「ふぅ~。
親切なおばあちゃんだったな~!」
朱莉は嬉しそうに微笑む。
晩御飯を済ませて、
勉強をしてー
好きなテレビ番組を見てー
ベットに入り、朱莉は眠りについたー
いつもの日常ー
そう、この日はまではー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝。
いつものように朱莉が朝食を食べているー。
母親も、弟も、父親もいつも通りだ。
「---朱莉」
母親が、朱莉のことを呼び、振り返った。
ーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?
「きゃあああああああああああああ!」
朱莉が悲鳴をあげる。
「---え?」
振り向いた母親の顔がーー
”醜悪な怪物”のような顔になっていたー
「---ど、、どうしたの!」
母がただ事ではない娘の悲鳴に驚き、
声をあげた。
しかしー
「---あ、、、あれ…?」
朱莉がもう一度母の顔を見ると、
そこにはいつもの母の顔があった。
「ど、、どうしたのよ、急に悲鳴なんかあげて」
母の言葉に、朱莉は
「ううん、なんでもない」とだけ答えた。
確かに今一瞬、母の顔が
化け物のように見えたー
「…ま、まだ寝惚けてるのかな、わたし」
そんな風に想いながら、朱莉は学校へと向かうのだったー
学校についても、特に異変はない。
”さっきのはなんだったんだろう?”と
不思議に思いながらも、朱莉はいつも通りの
時間を過ごしていく。
やっぱり、自分は寝惚けていたのかもしれない。
そんな風に想いながら
昼休みの図書室当番の仕事をしていたー
「どうしたの?今日は?」
友人の郁恵が声をかけてくる。
朝からずっと何か、考え込んでいる様子の
朱莉を見て、郁恵が心配したのだった。
「え…?」
ぼーっとしていた朱莉が返事をすると、
郁恵は溜息をついた。
「はぁ…何か悩みでもあるの?
わたしで良ければ、相談に乗るよ…?」
「---」
朱莉は迷った。
”朝、一瞬だけ母親の顔がモンスターのように見えた”
なんて言ったら、郁恵は信じてくれるだろうか?
それとも、いつもみたいにどじっ子扱いされて、
笑われるのだろうかー
ガラガラ…
図書室の入り口が開く。
ふと、朱莉が目をやると、そこには、
ーーーガスマスクのようなものをした重武装の
特殊部隊のような人間が3人程立っていた。
「---え…な、、何あれ?」
朱莉が驚いて指を指す。
特殊部隊のような格好をした人物たちは、
”銃”を持っていた。
「え…ええ…っ!!…い、、郁恵ちゃん!あれ!」
朱莉の慌てた様子に、郁恵もその方向を見るー
そこにはー
C組の男子生徒の3人組が居た。
今、図書室に入ってきた生徒たちだー
「---あぁああ…あああああ…」
朱莉が恐怖に満ちた表情で身体を震わしている。
「え?ど…どうしたの?」
”図書室に入ってきた3人”が、
朱莉には、武装集団に見えていた。
「--ひっ…こ、、来ないで!」
朱莉が叫ぶ。
「ーーーちょ、どうしたの?」
唖然とする郁恵。
「----!!」
朱莉はふと周囲を見渡した。
よく見ればー
図書室には武装した兵士がたくさん座っている。
「きゃあああああああ!」
朱莉は読んでいた本を投げ飛ばして走り出した。
「---せ、、先生を呼ばなきゃ!」
慌てて走る朱莉。
職員室に駆け込んだ朱莉は、
驚きの光景を目にするー。
そこではーー
先生たちが皆、血を流して倒れていた。
「いやあああああああああああああっ!」
朱莉は恐怖のあまり大声で叫んだ。
そして、スマホを取り出す。
スマホで、警察を呼ぼうと必死に
110と入力する朱莉ー
ーーーー?
職員室に居た先生たちが首をかしげる。
入ってきた朱莉が突然一人で悲鳴をあげて
スマホをいじりだしたのだ。
「ーーおい?早崎?どうした?」
先生の一人が朱莉に近づく。
朱莉はスマホで、
出会い系サイトにアクセスして、
自分の写真をアップロードしようとしていた。
「---お、、おい?」
先生が唖然とするー
朱莉はーー
出会い系サイトに自分の意思でアクセスしているわけではないー
朱莉はー
警察に電話をしようとしているつもりだったー
「---はぁ…はぁ…
どうして??操作ができない…
このスマホおかしい!」
朱莉が叫ぶー
”眼鏡ー”
眼鏡から映し出される光景はー
現実世界のものと、少し異なっていたー
この眼鏡には、
悪魔が宿っていたー。
朱莉は、悪魔の眼鏡に実際に見えているものとは
違う光景を見せられて、巧みに操られていた。
「ーーーはぁ…はぁ…はぁ」
過呼吸を起こしそうな様子で、朱莉は職員室から立ち去る。
警察への電話も通じない。
どうしようー?
「----」
朱莉はふと、深呼吸をして冷静になった。
そういえばー。
眼鏡のせいではないか?
そう思った。
「--」
眼鏡を外してみようー
廊下にあった鏡を見つめながら、
朱莉は、眼鏡を外そうとしたー。
しかしー
「----!?」
朱莉は突然
”眼鏡を外したら自分は死ぬ”という恐怖に襲われた。
「---え…あ…」
慌てて眼鏡から手を放す朱莉。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
朱莉は狂ったように周囲を見渡しながら、
小走りで廊下を走り始めたー
サブリミナルー。
眼鏡はほんのごくわずかな時間ー
一瞬だけ”眼鏡を外したら死ぬ”という文字を
表示していたー。
人間には認知できない、ほんの一瞬ー。
それを一瞬のうちに何百回も行うことで、
朱莉は、”眼鏡を外したら死ぬ”と思い込んでしまったー
「---はぁ…誰か…誰か助けて…!」
パニックになりながら走る朱莉はー
完全に眼鏡の術中にはまっていたー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
視覚一つで狂わされていく朱莉ー。
果たしてどうなってしまうのでしょうか?
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