家具に憑依させられてしまった結衣。
自分の身体が好き勝手されて、
奪われていく様子を、何もできないまま、見つめることにー。
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え…ちょ、、ちょっと…。
わたしは、どうしていいか分からず、
茫然としたー
「--え…?」
それは、彼氏の明人くんも同じだった。
いつも仲良し、喧嘩もしたことがないわたしたちー。
なのにー”わたし”が突然別れを告げたのだからー。
「--え?じゃないわよ。聞こえなかった?
わたしと別れてって言ってるの!」
わたしはいらだった様子で言う。
「--は…?ど、、どうして、、?
僕、何か悪い事したか?」
明人くんが言う。
し、してないよ!
明人君は兄も悪い事してないよ…!
目の前に居るわたしはわたしじゃないの!
気付いて!
…でも、
わたしの声は届かないー
わたしはいま、口も、目も、鼻ももたない
ただの置物なんだからー。
目が無いのに、なぜ、こうやって物事を
見ることができているのかは分からないけれど、
そもそも身体を奪われる!なんてことが起きているのだから、
何が起きてもおかしくないー
「--あんたとはさ、遊びだったの!
あはは、わかる?
あ・そ・び♡
だいたいさ~、
あんた、わたしと付き合うまで童貞だったでしょ?」
わたしが腕を組みながら、
明人くんをあざ笑うようにして言う。
明人くんは身体をぷるぷると震わしていたー。
「--童貞とか…
気にしないって…言ってくれたじゃないか…!」
明人くんは、怒りをにじませながら言う。
「--あっはは、冗談よ冗談!
あんたみたいな魅力のない男、
そ~やって言えば、ひっかかると思ったの!」
わたしはそう言うと、
ベットの上に座って、足を組んで微笑んだ。
「--どうしたの?泣きそうな顔しちゃって!
だいたいさ~
わたしみたいな可愛い女と、あんたみたいなキモい戸尾子、
釣り合うと思ってんの?」
わたしが、酷い言葉を次々と口にするー。
わたしが、こんな酷い事を言っちゃうなんて…
ねぇ、明人!それはわたしじゃない!気づいて!!
「--つ、、釣り合うって…
そ、、、それが…それが結衣の本性なのか!」
明人くんが叫ぶ。
違うよ!わたしは…わたしは!!
「--そうよ。
ま、暇つぶしになったけどさ、
そろそろあんたみたいなやつと遊ぶのも、飽きたのよね。」
「--ふ、、ふざけるな!
ぼ、、僕を騙していたのか…!
あんなに、、あんなに…!」
明人くんが悔しそうにしている。
わかる!
わかるよ!その気持ち!
と、いうか気づいてよ!
わたし、そんなこと言う人じゃないでしょ!
「---あ、何だったらさ~
最後にエッチしてあげよっか?
まだ童貞なんでしょ?
童貞卒業、させてあげよっか?」
わたしが、太ももをわざとらしく強調しながら笑っている。
「ば…ばかにするな!
誰がお前みたいな女と…!」
・・・そんな…!
”お前みたいな女”
ショックだったー。
明人くん…
どうして気づいてくれないの?
「--お前みたいな女?ふ~ん…
ま、いいからさ、別れてよ。
うざいんだけど」
わたしが言うと、
明人くんは「あぁ、別れてやるよ!」と叫んだ。
「--あ、そうだ!セフレにならなってあげてもーー」
「ふざけんなーーー!!!」
明人くんは怒鳴り声をあげて、
部屋の外に出て行ってしまった。
「ふふふふふ…
あはははは、だっさい男!
あははははははははははは~~!」
わたしが大声で笑っている。
ふざけないで!!!
わたしと明人くんの関係を引き裂いて…
「--そうだ…!」
わたしがポンと手を叩いて微笑んだ。
「--この部屋も、模様替えしなくちゃね」
そう言うと、わたしは、にやりと笑みを浮かべて、
部屋の外へと出て行った。
ひどい・・・
わたしは、彼氏である明人くんとの思い出を頭の中に
浮かべながら、泣いたー。
泣けているのか、分からないけど、
泣きじゃくったー。
外から見れば、ただの置物なんだろうけどー。
静寂ー
誰もいないー
時計の針の音だけが、
カチ、カチと音を立てている。
ーー家具って
こんな気持ちなのかなぁ…
わたしは、とてもさみしい気分になりながらも、
どうにか自分の身体を取り戻す方法を考えた
けれどー
そんな方法、浮かぶはずもなかった。
どうすれば良いか分からないー。
時間だけが過ぎていくー
数時間後ー
わたしが部屋に戻って来た。
大きなゴミ袋を手に。
「---きゃははは!
この女も、少しは可愛くなるじゃない!」
部屋に入ってきたわたしは、
わたしが絶対に着ないようなミニスカートと、
胸を強調した服を着て微笑んでいた。
ちょ、、ちょっと!
ゴミ袋の中には、わたしが大切にしていた服が入っている。
「---ふふ、身体もきっと喜んでるわ!」
わたしが嬉しそうにそう叫ぶと、
今度は部屋にあるものを乱暴にゴミ袋に投げ始めた。
「--料理の本?
くっだらない!」
そう吐き捨てると、わたしは本を叩きつけるようにして、
ゴミ袋に放り込む。
部屋にあった、わたしの好きな映画のポスターを
引き千切ると、それをゴミ袋にー
部屋で育てていた小さなサボテンも
容赦なくゴミ袋にー
小物類から、CD、本、いろいろなものが
ゴミ袋に入れられていくー
「あ~~スッキリ!
わたしは今日から生まれ変わるの!」
そう言うと、わたしは机に飾ってある
明人くんとの写真を見つめた。
「ば~~~か!」
そう叫ぶとわたしは写真をびりっと破り捨てて
そのままゴミ袋に放り込んだ。
「--さ、まずはお部屋づくりを始めなきゃ!」
わたしは口に手を当てながら、
小さく微笑んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自分の大切なものが捨てられていくー。
部屋が、変えられていくー。
そして、わたし自身も、変えられていくー。
眼鏡をかけていたわたしは、
今はコンタクトレンズをしているー
長かった黒髪は、カールがかった茶髪になっていてー、
服装も少し派手になった。
「--あ、もうバイト行かないんで!」
わたしはスマホを手に、不機嫌そうな様子でそう言った。
私は、パン屋でバイトをしていた。
優しい先輩やお世話になっている店長。
いい人ばかりの、バイト先ー
そんなバイト先を今、わたしは裏切っているー
やめて!やめてよ!
そう叫んでもー
今のわたしは置物ー。
どうすることも、できないー
「--え?急に辞められたらこまる?
ふふふ、そんなこと知りませんよ~!
だいたい店長、どうせ、わたしのような
可愛い女子大生を下心ある目で
見てたんでしょ~?
わたしには分かるんですからね!」
そんなことない。
店長は、みんなのことをちゃんとー
・・!?
”わたし”スマホを持って近づいてきた。
そしてー
「--結衣ちゃんがそんな子だとは思わなかった。
もう、2度と店に来ないでくれ!」
店長が、電話先でそう言ったー
そんな・・・
そんな・・・
違う!これは、
これはわたしじゃないのに…
涙を流そうとしても、
流れないー
わたしがにやりと意地悪そうな笑みを浮かべると
「--わたしの方こそ、
お前らの焼くようなパンなんか見たくも食べたくもありませんから!
この変態店長!」
と罵声を浴びせてスマホの電源を切った
「あ~すっきりした!
時給安すぎ!マジ、ありえない!」
わたしはそう叫ぶと、
「いいの見つけちゃった~」
と言いながら、
求人の広告みたいのをこちらに
みせつけてきたー。
その求人は、メイドカフェの求人だったー。
いや…
やめて…!!
いやだ…
わたしをこれ以上、弄ばないで…!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間が経過した。
外で、わたしは何をしているのだろうー。
メイドの制服のようなものを持って
笑ってたから、おそらくメイドカフェでの
バイトを始めてしまったのだろう。
ーーでも・・・
大学で、わたしは、今、何をしているんだろうー?
誰も、わたしの異変に気付いてくれないのかな・・・?
それとも、気づいても、
”わたしがおかしくなった”
”わたしが変わった”
ぐらいにしか、思わないのかな。
大学のみんなと、わたしは、どうしてるのかな…
ガチャ…
わたしが…帰ってきた。
「いやぁ~結衣ちゃんから誘ってくれるなんて夢みたいだよ」
「うふふ~♡わたしのほうこそ、夢みたい!」
ーーわたしはーー
男と一緒に部屋に入ってきたー。
しかも、男を誘うような格好で、
甘い声でその男の腕にしがみついているー。
「うわぁ~もっと控えめな部屋かと
思ってたけど、案外、可愛いんだな」
男が言うー。
今のわたしの部屋はーー
ピンクを基調とした、まるでお姫様のような、
ちょっとやりすぎのような気もする部屋だったー。
わたしは…落ち着いたあの部屋が好きだったのに…
「茂~、わたしと、しちゃう?」
わたしがそう言う。
やめてよ!
いきなり男を連れ込んでえっちだなんて・・・!
茂…?
そういえば、私を乗っ取った人…
”わたしの大好きな茂”って言ってたような…
「--ずっとずっと、結衣ちゃんのこと、
見てたんだ。
そんな結衣ちゃんから告白されるなんて、夢みたいだよ!」
茂と呼ばれた男の人は笑うー
そうだ…
この人…
たまに見かけた人だー。
いつも、わたしのこと、物陰から見ていたー
ストーカーっぽい人だー。
そんなヒトを家に連れ込むなんて…!
「---でもさ、結衣ちゃん、彼氏いただろ?」
「--別れたわよ!ふふふ…」
「うそだぁ~浮気しようとしてるんじゃないの?」
二人が会話を続ける。
「--え~?疑うの~?ひど~い!
じゃあ、今ここで、電話するから、ちゃんと聞いて」
そう言うと、わたしは、彼氏の明人くんに電話を始めた。
「あ、もしもし~童貞くん?
あはは、そ~んな不機嫌な声出さないでよ!
わたしね、新しい彼氏見つけたから
これからエッチするの!
あ、そうそう、ご挨拶してもらうね!」
そう言うと、わたしは茂という男の人に
スマホを渡した。
「どうも!茂で~す!」
調子に乗っているのか、茂という人は、
ふざけた様子で明人くんに言葉を告げた。
「-そうそう、俺が今日から結衣ちゃんの彼氏になるんで!
え?嘘?
いやいや、まじでこれからエッチするんで!」
ひどい・・・
明人君にどうしてそんなこと、するの…
「あ~電話切られちゃったよ~」
「え~ホントに?童貞くん、器がせま~い!」
笑う二人。
そして、二人は微笑むと、
「じゃあ、さっそくエッチはじめよっか!」
と、わたしが嬉しそうに言ったー
やめてー
やめてよー
わたしの甘い声が聞こえる
喘ぐ声が聞こえる
知らない男のヒトとー
嬉しそうにエッチしているー
ひどいーー
ひどいーーー
わたしのこんな声、聴きたくないー
でもー
耳をふさぐことも、、、できないー
・・・・・・・・・・・・・・
それからー
毎日のようにその男のヒトはやってきた。
表面上は優等生っぽいけど、
内面は歪んでいるみたいで、だんだんと
わたしに対する要求がエスカレートしている。
それなのにわたしは、大好きな茂くんのためなら、と
なんでもしているー
ふざけないでよ!!
わたしの身体ーー返して・・・
そしてー
「--今日は、結衣ちゃんに着てもらいたい服があるんだ」
そう言うと、その人は、
チャイナドレスやエッチな下着、スクール水着など、
色々な服が入った紙袋をわたしに手渡した。
「え~やだ~!茂くんったらエッチ!」
そう言いながらも、
わたしは「ふふふ、どれを着よっかな~!」
と嬉しそうに微笑んだ。
やめてー
もうやめてー
目も逸らせないー
耳も、ふさげないー
わたしは、
自分が目の前で変わって行く
地獄のような光景をーー
何も出来ないまま、見せつけられていたー
わたしは、無力だー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
目を瞑ることも、耳をふさぐこともできず、
変えられていく自分を見るー
なかなか、辛いですよネ…!
コメント
SECRET: 0
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置物と化した結衣と、憑依された結衣の体が両方区別なく「わたし」表記になってるのが好きですねぇ。"自分"が自分の意志に寄らず変えられている理不尽を一人称でしっかり味わえます。
商業小説だとややこしいからと修正くらっちゃいそうですけど、"分かってる人"に向けて書かれた小説だからこそできる良さ…!
SECRET: 0
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> 置物と化した結衣と、憑依された結衣の体が両方区別なく「わたし」表記になってるのが好きですねぇ。"自分"が自分の意志に寄らず変えられている理不尽を一人称でしっかり味わえます。
> 商業小説だとややこしいからと修正くらっちゃいそうですけど、"分かってる人"に向けて書かれた小説だからこそできる良さ…!
ありがとうございます~!
描写はいつも色々チャレンジしてみています(笑
私は商業化するつもりは全くないので、
自由にできる良さを生かしていきたいですネ☆