そのゲームセンターには”悪魔”が居た。
男は、格闘ゲームを得意としていた。
いつしか、男は、さらなる刺激を求める。
何も知らずに遊びに来た女子高生を前に、
ゲーセンの悪魔は、笑みを浮かべた…
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今日も、そのゲームセンターは賑わっていた。
しかしー
その一角に、誰も近寄らないゲームがあった。
それが、
”ストリートキャリバー”と呼ばれる格闘ゲームである。
2台の筐体が置かれており、
二人でストリートキャリバーを楽しむこともできる。
だがー。
そこに近づくものはいないー。
ストリートキャリバーの筐体には、
見た目が、ストリートファイトしてそうな男が
座っていた。
目を閉じて、精神統一しているようだー。
いつ、対戦相手が現れても良いように…。
「ねぇ、俊子(としこ)、
どうして、あのゲーム、誰も近寄らないの?」
友達に誘われて、休日にゲームセンターに
遊びに来ていた女子高生、
高崎 静華(たかさき しずか)が不思議そうに聞くと、
友達の俊子は答えた。
「--あぁ、、あれね…
あそこになんかヤバそうな人が座ってるでしょ?
あの人、格闘ゲームの達人みたいなんだけど…」
俊子がストリートファイトしそうな男を
指でこっそりとさしながら、
静華に耳打ちした。
そして、さらに続ける。
「--実は、あの人と対戦で負けた人、
みんな意識不明になって搬送されてるの。
いまもみんな、意識を取り戻してないみたい」
俊子はそう言った。
そうー。
何故か、その男に対戦で負けた人は、
魂が抜かれたかのようにこん睡状態になってしまう。
今までに9人が餌食になったー。
警察も何回か調べに来たが、
その男は”本当にただゲームをしているだけ”であり、
警察も何もできずに退散していったのだ。
しかしー
9人が意識不明になったという噂が広がり、
誰も、格闘ゲーム、”ストリートキャリバー”には近づかなくなったのだ。
「へぇ…面白そう…!」
静華が笑みを浮かべた。
ショートヘアーで負けず嫌いの少女・静華は
ゲーマーでもあった。
可愛くて、活発で、明るく、
スポーツなどのアウトドアから、ゲームなどのインドアまで
何にでも精通しているのが、この静華だった。
「---ちょ、、ちょっと!やめなよ!」
俊子が言う。
もしも本当に、意識を奪われてしまうとしたら、
このゲームは危険すぎるー
しかし、
静華はそういう迷信を信じる様な子では無かったし、
何よりも負けず嫌いだった。
負けると意識不明になってしまうのであれば、
負けなければいいー
「あんた、そんなに強いの?」
静華は自信に満ち溢れた表情で、
ストリートキャリバーの筐体の前に立った。
「----あぁ」
男はそれだけ答えると、静華の方を
一切見ずにゲームの画面を見つめていた。
「ね…ねぇ、やめなよ!静華!」
俊子が今一度、静華をなだめたが、
静華の意思は固かった。
「--あんたより、上がいるってこと、教えてあげる」
可愛らしい顔に自信を浮かべながら
静華は微笑んだ。
「---ふぅ」
男は、ため息をついた。
「俺にとって、ゲームとは”戦争”だ。
生と死をかけた、戦い。
戦争と何も変わらない。
勝てば生き、負ければ死ぬ。
そう、俺たちにとって、ゲームとは
命のやりとりだ!」
男が強い口調で言った。
「ーーふぅん。まぁ、どうでもいいけどさ。
あたしとやるの?やるの?やらないの?」
静華が言うと、
男は、席につくように促した。
「--2ラウンド制、キャラクターは自由だ」
男が言うと、静華が頷いた。
静華は、可愛らしい女忍者を選択する。
静華が一番得意とするキャラクターだ。
一方の男は、
ゲーム中でも最弱と言われる、
少年剣士を選択した。
あまりのキャラ性能の低さに、
舐めプ用のキャラクターとまで言われている。
「ちょっと、あたしを舐めてるの?」
静華はそう叫んだ。
だが、男のまなざしは真剣だった。
「ステージも、お前が選べ」
ゲーマーが言う。
ステージ選択画面を見つめる静華。
”躯の墓場”というステージに目をやる。
このステージは”呪いのステージ”とも呼ばれている。
ゲーム内に表示される人魂のようなものが、
日に日に増えているのだー。
ゲーム開発者によるアップデートと噂されたが、
開発者はそれを否定している。
まぁ、開発者の遊び心だとは思うのだが―。
静華は、そんなことを考えながら
得意のステージ”戦士眠る火山”を選択したー。
「ーーあたしは静華。あんたは?」
静華がそう言うと、男は答えた。
「名前などない。
どうしても呼びたいのなら
ゲーマーとでも呼べ」
それだけ言うと男は、ゲームの画面に
視線を集中させた。
「---…バカにして!
後悔させてあげるからっ!」
静華はそう言うと、ゲーム画面に集中したー
ラウンド1-
ファイト!
静華は格闘ゲームには自信があった。
活発な彼女は何にでも”一番”になってきた。
それは、今回も変わらないー
一番になるはずだった。
しかしー
「うそっ…」
ゲーマーと名乗る男の使っている少年剣士を前に、
比較的強キャラだと言われている女忍者を使っていた
静華は、パーフェクトでKOされてしまったのだ。
「-----所詮はお遊びか」
ゲーマーは呟いた。
「---ち…違う…あ、、あたしは…!」
静華は認められなかった。
いくら相手が強いとは言え、
こんなに一瞬で自分がまけるなんて、
信じることができなかった。
「さっきも言ったはずだが、
俺にとって、ゲームとは”戦争”だ。
生と死をかけた、戦いだと。
貴様には覚悟が足りない」
そう言うと、ゲーマーは目を赤く光らせた。
その光に包まれた静華は、悲鳴をあげた。
「静華!!」
俊子が叫ぶ。
光が消えると、
そこにはー
無表情で筐体の前に座っているゲーマーと、
意識を失ってぐったりしている静華の姿があった。
白目を剥き、身体がピクピクと痙攣している。
「--し、静華!」
俊子が静華に駆け寄る。
そして、ゲーマーの方を見て言った。
「静華はまだ負けてないのに…
どうして!?」
俊子の言葉に、ゲーマーは笑う。
「あぁ…もちろんだ。
このゲームは2ラウンド先取。
彼女はまだ負けていない。
だがな、彼女には覚悟が足りなかった。
俺にとってゲームは死をかけた戦だ。
それに引き替え、彼女は遊びー。
それ故、本当の勝負ができないー」
ゲーマーが訳の分からないことを呟く。
そしてー
笑みを浮かべた。
「彼女は生きているー
”ゲームの中で”なー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うっ…」
静華は目を覚ましたー。
周囲は見なれぬ光景だった。
炎が吹き荒れる場所。
「---こ、、ここは…」
静華はそう呟くと、
自分の今、居る場所に見覚えがあることに気付いた。
ここはーー
”ストリートキャリバー”のステージ
戦士眠る火山 だーー。
「--え??ど、、どういうこと?」
ふと自分の身体を見るとさっきまで自分が
使っていた女忍者の身体になっていた。
とてもスタイルが良く、色っぽいー
「え…嘘?わ、、わたし…」
静華は周囲を見回した。
ここはやはりー
”戦士眠る火山”ー
ザッ。
目の前に、少年剣士が現れた。
ゲーマーが使っていた
ストリートキャリバーでも最弱と言われるキャラだ。
”どうだ?女?”
空から声が聞こえてきた。
さっきのゲーマーの声だ。
「ど…どうだって…?なんなのこれ!」
静華が女忍者の身体で叫ぶと、
空から返事が来るー
”お前はゲームを遊び半分でプレイした。
これは、ストリートキャリバーへの侮辱だ。
これでは俺と真剣勝負などできない。
だから、生死を賭けた戦いを味あわせてやろうと
思ってな。
お前の魂を、ゲームの中のキャラに憑依させたー”
「---な、、何言ってるの…?」
いつもクールな女忍者のキャラが唖然とした表情を浮かべる。
”お前は、ゲームの中に封じ込められたんだよ
もとの世界に戻る方法は一つだ。
俺とのゲームに勝つことだ”
空から響き渡る声。
「---う、、、嘘…」
唖然としながらも、静華は、
武器を構えた。
さっき、俊子が言っていたことを思い出す。
あのゲーマーとの戦いに負けた人は意識を失って
こん睡状態になるー と。
つまり、今までの9人もーーー
「---や、、やってやるわ!」
静華はクナイを構えて、戦いの体勢を取る。
”ククク…いいぞ…俺を楽しませろ”
上空から声が聞こえると共に、
”ラウンド2”というゲーム内音声が聞こえた。
ファイト!
少年剣士とくノ一のキャラクターが激突する。
しかしー
「---あ・・・あれれ…」
思うように身体が動かないー
「---ちょ、、ちょっと、!」
静華は叫ぶ。
しかしー
いつものような技が出ない。
”今はその女忍者がお前の身体だ。
ボタンで操作するときのようには
いかないだろう?”
男の声が聞こえる。
「---そ、、、そんな…」
静華は運動神経が良いとは言え、
普通の女子高生だー
ゲーム内の女忍者のような動きは、
とてもじゃないが、できない。
初年剣士に切り刻まれていく
女忍者。
「い…痛い…やめて!助けて!」
クールな女忍者は表情を乱して、
泣きそうな表情をしていたー
「うっ…うっ…うぅぅぅぅぅ…」
静華は泣き出してしまった。
「---おねがい!助けて!おねがい!
許してください…!」
静華はプライドを捨てて命乞いをした。
しかしー
”勝負は、生か、死か。
それだけだ”
ゲーマーの声が聞こえてきた。
女忍者はぽろぽろと涙をこぼしながら思う。
ゲームのキャラクターたちは、
いつもこんなに苦しかったのか、
痛かったのか、と。
少年剣士が近づいてくるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
現実世界。
「ゲーム・セットだ」
格闘ゲーム
”ストリート・キャリバー”のゲーム画面には、
体力ゲージが残りわずかな女忍者、
そして、体力ゲージ満タンの少年剣士が
映し出されていたー。
女忍者は、ゲームではありえない
”土下座”をしていたー
静華の魂が憑依している女忍者は
ゲームのプログラムの枠を超えて、
静華の意思で行動していたー
「---ククク」
ゲーマーが笑う。
”命のやりとり”
これぞ、生きている証明。
格闘ゲームは、彼にとって”現実(リアル)”なのだー。
もちろん、彼は、彼自身が負けたら、死ぬつもりだ。
だがー
”生死をかけて”
文字通り命をかけている彼に、かなう人間などいなかったー
「--やめてーーーー!」
俊子が叫んだ。
しかしー
”パーフェクト”
ゲーム画面にその表示が出る。
女忍者は、少年剣士の体力を1ミリも削ることなく、
そのまま倒されてしまったー
「---」
ゲーマーがプレイしている筐体の反対側には、
白目を剥いたまま、涎をたらしている静華が
1ミリも動かずに横たわっていたー。
「---静華!静華!ねぇ、起きて!!ねぇ!」
俊子が叫ぶが、
静華は微動だにしない。
何故ならー
彼女はゲームの中で死んでしまったからー
「---店長、対戦相手が倒れました。
警察と救急車を」
ゲーマーが言うと、
店長は「あぁ」と言って、
まるで”日常茶飯事”かのように、
警察と救急車を呼んだー。
そしてー
静華は救急車で運ばれていき、
ゲーマーは警察の取り調べを受けた。
だが、ゲーマーの
人をゲーム内のキャラクターに憑依させる能力など、
非現実的すぎて、誰も信じることなど
できるはずはなく、
”直接何も手を下していない”
ゲーマーを連行することはできなかった。
立ち去る警官。
「--これで10人目だな」
ゲーセンの店長が小声で言うと、
ゲーマーが「クク、俺は負けない」とつぶやいた。
彼は再び、
”ストリートキャリバー”の筐体の前に座り、
ゲーム画面を見つめ始めた。
次の対戦相手を求めて―。
俊子は病院に救急車で共に向かったが、
白目を剥いたままの静華が意識を取り戻すことはなかったー。
確かに、身体は生きている、
だがー
彼女の魂はもう、ゲームの世界のキャラに憑依させられてー
倒されてしまったのだからー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
静華はーーー
躯の山の上にいたー
”ここはー?”
静華は思うー
ここは、
ストリートキャリバーのステージ
”躯の墓場”
日に日に背景の人魂が増えているとファンの間で
噂されていた呪いのステージ。
周囲に人魂が飛び交っている。
その数ー
”9”
まさかー、
”や、、、いやだ…いやだ…!
たすけて…!だれか・・・!”
静華は、
”躯の山”の新たな人魂として、
ゲームの中を彷徨い続けるーーー
永遠にーーー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
一風変わった憑依小説でした!
エロ要素はあまりないですが、
たまにはこういう憑依も…!
お読み下さり、ありがとうございました~!
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