ホテル支配人・名倉俊之は、
成仏しようとしていたー。
けれど、最後に
”人生を終了”させなくてはいけないヤツらがいたー。
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名倉俊之は空中を浮遊しながら思うー。
もしも、あのとき、彼女の文恵が
憑依されなかったら、今頃自分の人生はどうなっていたのだろうー。
文恵と結婚して、
真っ当なホテルの支配人として、生きていたのだろうか。
人々の幸せを壊す
”ホテルノシハイニン”にならずに、
普通のホテルの支配人として、幸せな時を送っていたのだろうかー。
「--ふん…考えても、無駄なことか…」
名倉は呟く。
人間に許される幸福の量は決まっているー
自分は、それを早く使い果たしてしまっただけだー。
名倉はそう自分に言い聞かせながらも、
彼女と幸せな人生を送っていたらどうなっていたのか、
ということを考えることをやめられず、苛立ちを覚えていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--じゃ~ん!」
女子大生の彩恵が嬉しそうに、ポーズを決める
「ひゅ~!最高だぜ!」
チンピラ二人組の一人・深見が笑う。
「---どう~?
わたしの太もも!」
深見の相方である男に憑依された女子大生の彩恵は、
身も心も完全に乗っ取られていた。
バニーガールの格好をして、
足を深見の前に差し出していた。
「くへへへ…この網に包まれた太もも、最高だぜ」
深見が指で、彩恵の足をなぞる。
「んふふふ♡ でしょ?」
彩恵に憑依している男・森瓦は
名倉の彼女・文恵に憑依していた10年間で
すっかり女らしい仕草を身に着けていた。
深見が彩恵の太ももを舐めはじめる。
「--くふふふふっ・・・
おじさんに太もも舐められて喜んでるわたし~!
へんた~い!」
表情を歪めた彩恵は、嬉しそうにそう叫んだ。
興奮しているのか、口からはだらしなく涎を垂らしている。
「---ほら、この髪もどう~?」
彩恵がサラサラの髪をふわりとさせながら笑う。
「---あぁ、最高だぜ」
深見はそういうと、今度は、髪の毛のニオイを嗅ぎ始めた。
「んんんん~♡
可愛い女の子にこんなこと”させてる”って感じが
またたまらない~」
彩恵はゾクゾクしながら笑う。
身体が興奮しているー
男に支配された彩恵の身体は、男の意思に従って
興奮していたー
ゾクゾクが止まらないー
数日前まで普通の女子大生だったこの彩恵とかいう女に、
こんなことをさせている。
しかも、彩恵は喜んでいる。
「ぐへへへ・・・たまんねぇ~」
彩恵はそう叫ぶと、
興奮を抑えきれずに、髪の毛を触っていた深見を押し倒した。
ガンガン!
ガンガン!
”御届け物です~”
女性の声がした。
気持ちよい気分になっていた彩恵が振り返る。
「あぁん?」
不機嫌そうに彩恵が言うと、
深見が笑った。
「あぁ、その身体にぴったりの大人のおもちゃを
ネットで注文しといたんだ。それだろ?」
深見の言葉に、彩恵は「あ~そうなの」と呟いて
玄関に向かう。
「おい!バニーのまま受け取りかよ!」
深見が笑うと、彩恵は笑った。
「いいじゃない~
今は”私の身体”なんだし♪」
彩恵は玄関の扉を開けた。
玄関を開けるとー
そこにはーーー
制服姿の女子高生が立っていた。
「え…御届け物?」
バニーガール姿の彩恵が、不機嫌そうに言う。
何だこの女子高生は?
誰だ?と首をかしげながらも彩恵は、
何も言わない女子高生を不審そうに見つめていた。
その時だったー
突然、女子高生がポケットから
刃物を取り出して、
それを彩恵の手に突き刺した。
「ぎゃああああああ!?」
彩恵は驚いて悲鳴をあげる。
玄関から強引に入ってきた女子高生が、
玄関の扉を乱暴に閉める。
「--な、なんだお前は?」
深見が叫ぶ。
強引に部屋に入ってきた女子高生は呟いた。
「--お前たちの人生、終了させて頂きますー」
と。
名倉だったー。
名倉は、自分の彼女である文恵に憑依した二人組の
行方を突き止めて、
偶然近くを通りかかった女子高生に憑依、
二人を”この世から消し去るために”やってきたのだー
この女子高生の身体は何の関係もないー
ここで、騒動を起こせば、この子は困るだろうー。
ポニーテールの可愛らしい少女の人生は
壊れるだろうー
だがー
今更、そんなことは、名倉にはどうでも良かった。
今まで数多くの人間の人生を壊してきて、
今更改心も何もない。
最後まで、自分らしさを貫いたやり方で、
こいつらの人生を終了させる。
「---貴様」
深見が、女子高生の方を見た。
こいつー
深見は女子高生の正体に気付いた。
「---しつこい亡霊野郎が!」
深見は女子高生に襲い掛かった。
「---くくく…お前ら、もう十分幸せを味わっただろう?」
女子高生が、目を赤く光らせて、
髪の毛を逆立たせながら呟いたー
名倉の怨念に支配された少女は、
鬼のような形相で、深見を睨みつけた。
「ひっ…からだが…うごか…!」
深見がおびえた表情で叫ぶ。
金縛りにあったかのように、身体が動かないー
「--あなたの人生、終了させて頂きます」
鬼の形相で、少女は、深見を押し倒し、
そのまま深見の息の根を止めたー
「ひっ…!」
バニーガール姿の彩恵が悲鳴を上げる。
「---そうやって、また、人の身体を奪って
好き勝手するのか…!」
女子高生が言うー
彩恵は悲鳴をあげながら言った。
「--な、、名倉!
お前だって同じだろ!!
そうやって、見ず知らずのJKの身体を使って…」
バニーガール姿の彩恵が叫んだ。
顔を真っ赤にして怒りと恐怖を露わにしている。
「--そうだ…私は悪党だ。
何人もの人間を弄び、人生を終了させてきたー。」
女子高生は笑う。
「---今更詫びる気もない。
後悔する気も無い。改心する気もない」
だが、と名倉は、女子高生の身体で
目の前に居る彩恵を睨みつけた。
「---どうしても、お前たちの人生だけは終了させなくてはならない」
憎しみと憎悪が宿る眼差しを前に、
彩恵は悲鳴をあげた。
彩恵の中に居る森瓦は一瞬、彩恵の身体から
逃げようとした。
しかしー
「----ひっ…!」
女子高生の背後に名倉の怨霊が見えたー。
もし、彩恵の身体から抜け出したら”霊体ごと自分は消される”
そんな気がした。
ならーー
「--や…やめろ名倉…!
こ、、この女、、この彩恵とか言う女子大生は無関係だぞ!
俺に乗っ取られてこんな風に恥ずかしい格好を
させられている被害者だ!」
彩恵は表情をゆがめながら叫ぶ。
「--俺を傷つければ、、この子は死ぬぞ!!
何の罪もない、この女はーーー」
「----そんなこと、関係ないー」
女子高生は冷たく言った。
「--その女がどうなろうと、私が憑依したこの子が
どうなろうと、私には関係ないー
言っただろう?私は改心するつもりはない」 と。
「---あひぃっ!」
彩恵は、涙目で投げ出そうとした。
しかし、女子高生はそれを掴み、
投げ飛ばすと、彩恵は相棒の深見の身体に激突して
悲鳴をあげた。
「---お前の人生、終了でございます」
名倉は憎悪の言葉を口走り、
彩恵に覆いかぶさった。
悲鳴をあげる彩恵。
そして、彩恵は動かなくなった。
「----ひぃぃっ!」
彩恵の身体から霊体が飛び出す。
死者の身体に憑依し続けることはできないー
「---ーー」
名倉も女子高生の身体から抜け出す。
そしてー
「---お前の人生、終了だ…!」
強大な怨霊と化した名倉に、森瓦の霊体は呑みこまれて、
その存在は木端微塵に消滅したーーーー
「-----」
名倉は呟く”終わりだ”とー。
眼下には、さっきまで憑依していた女子高生が悲鳴を上げている
光景が映っていた…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい、明日からですか?はい、ありがとうございます!」
数日後ー
名倉の彼女で、10年ぶりに正気を取り戻した文恵は、
笑顔で電話口の相手に向かって、そう答えていた。
「---」
彼女は強かった。
10年の空白を乗り越えて、
アパートを借りて、パートを始めていたー。
名倉がこっそりと資金援助したこともあり、
彼女は、止まった自分の時計の針を、動かし始めていたー
「---もう、大丈夫そうだな」
名倉の霊体は、そう呟いた。
文恵の部屋の隅には、名倉の写真があるー。
名倉俊之という男は10年前に死んでいるー。
彼女はそのことを知った。
もちろん、自分が殺したなんてことは知らないー。
それを、教える必要もなかった。
「---あなたの人生に、幸がありますように…」
名倉は穏やかな表情でそう呟き、立ち去ろうとした。
もう、この世に未練はない。
自分には、地獄が待っている。
多くの人間を壊したー。
当然の報いだ。
今更、改心などしない。
だが、もうこの世に留まる理由はなくなった。
「----名倉さん?いるの?」
文香が振り返った。
文香がこちらを見ている。
名倉は驚きの表情を浮かべる。
馬鹿なーーー
見えるはずがないーーー
と。
「----いるわけ…ないか」
文香が自虐的な笑みを浮かべた。
そして、続けた。
「---ありがとう」
とー。
文香が何に対してありがとうと言ったのか分からないー。
10年前に付き合っていたことに対してかー
それとも、自分が憑依されている状態から救ってくれたことにたいしてかー
憑依されていたことに、気づいている素振りはないー
けれどー
もしかしたら彼女もどこかで、なんとなく察しているのかもしれない。
「---」
名倉は何も答えなかった。
もう、自分は死んでいるー
10年前にーーーー
そして、そのままその場を立ち去った。
”どうか、この先の人生、彼女には幸せであって欲しいー”
そう願いながらー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜の街の上空。
ネオン輝く街並みを見ながら、名倉俊之は呟いた。
「--多くの幸せを壊し、
人生を終了させてきたー。」
名倉はどこか穏やかな表情でそう呟いた。
謝罪はしないー
改心もしないー
悪いとも、思わないー。
今更、心を入れ替えて何になる?
何にもならない。
犠牲者たちは帰ってこない。
壊された人生は、もう元には戻らない。
ただ、
ただ、最後に
最後に人生を終了させるべき人間が居る。
名倉は微笑んだー
「名倉俊之ー
私の人生、終了でございますー」
そう呟くと、
名倉の怨念はーー
そのまま、夜の闇に消えたー
彼は、大好きだったホテルが並ぶ街並みを見ながらー
この世からー消滅したーーー。
名倉が最後に見ていた眼下に輝く
夜の街のネオンは、
何事もなかったかのように、いつものように輝きを
放っていたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最後までお読みくださりありがとうございました!
名倉さんが改心したらオカシイよね…ということで、
最後まで、改心することなく、成仏していただきました…!
初期の作品をこうして、完結、というかたちで閉じることが出来たのは
嬉しい限りです!
ありがとうございました。
コメント
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とうとう作中最強の名倉も成仏したか。
これで新たにジョーが最強になったのかな(ただしゲスト様は除く。チート級だしね)
最後に文香だけは助けたのは、彼女だったからだけでなく僅かな罪滅ぼしな気も。
もう今年も後2か月か何かあっという間だったです。
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> とうとう作中最強の名倉も成仏したか。
> これで新たにジョーが最強になったのかな(ただしゲスト様は除く。チート級だしね)
> 最後に文香だけは助けたのは、彼女だったからだけでなく僅かな罪滅ぼしな気も。
>
> もう今年も後2か月か何かあっという間だったです。
コメントありがとうございます~!
彼が成仏しても、まだまだ怪しい人はたくさんいますし、
今後も登場しますので、お楽しみに~(?)