<憑依>ホテルノシハイニンFINAL②~怨念~

ホテルの支配人、名倉は知るー。

10年前に自分の命を奪った彼女が
何者かに憑依されていたことをー

名倉は、全てに終止符を打とうとしていたー。

--------------------------

暗い場所に居た。

闇に包まれた、不気味な空間に。

ホテルの支配人・名倉俊之は、
周囲を伺う。

「なんだ、ここは…?
 私は、文香に憑依したはずだがー?」

10年前に、自分を殺した彼女・蛭間文香に
憑依したはずの名倉。

いつもだったら、すぐに身体の自由が利くはずなのだが、
今回は、そうではなかった。

「この感じー」
名倉は呟く。

以前、”すでに別の人間に憑依されている女性”に
憑依したことがあるー

その時と同じだー
”井澄ミスト”という憑依人に、憑依されていた女性に憑依した時と同じー。

文香の身体に憑依したのに、
謎の空間に飛ばされたということはー

ここはー
文香の深層心理の世界ー

「--お、、、お前は…!」
闇の中から姿を現した男が驚きの表情を浮かべた。

10年前に文香の身体に憑依して殺したはずの男ー
名倉俊之が、目の前に居るのを見て、
男は悲鳴を上げた。

「--…ここで何をしている?」
名倉は尋ねた。

男が文香の中に居るということは、
この男が、文香を操っているということだ。

「---な、、、な、、何故お前がここにいる…?
 あんたは10年前に…!」
男が悲鳴をあげながら言う。

その言葉に、名倉は、衝撃を受けたー
まさか、10年前、文香が豹変したのはーーー

「---貴様…この女の中で何をしている?」
名倉が男を怨念に満ちた目でにらむと、
男は言った。

「ま、、待て待て待て!
 こ、、この女に憑依したのは、、ふ、、深見に頼まれて」
男が土下座の姿勢をとって言う。

「---貴様!私の文香に何をした!」
名倉は怒りに満ちた形相で、
ホテル支配人としての仮面を殴り捨てて、
その男を掴んだ。

「---あ、、、や、、やめてくれ…
 頼む…
 い、、、今すぐ、、、出ていくから…!

 こ、、、この女は、浮気なんかしてねぇよ…
 お、、俺が憑依して、好き勝手やってただけだ…!」

男の言葉に
名倉は唇をかみしめた。

「ばっかみたい!だからその年まで彼女なしなのよ!
 この童貞野郎!」

文恵の言葉を思い出す。

あれはーー文恵なんかじゃなかったーーー
ずっと、自分は文恵に裏切られたと思って、怨霊として、過ごしてきた。
けれどー、あれはーー

「お前の人生、終了させてやる」
名倉は男を投げ飛ばすと、そう呟いた

「--お前の人生ーーー」
名倉が憎悪に満ちた目で目を赤く光らせると、
男は「ひぃぃぃぃぃぃぃ」と叫んで、そのまま消滅した。

文恵の身体から抜け出したのだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おい!文恵~文恵!」

ホテルの305号室では
うつろな目で立ったままの文恵の目の前で
手を振って、深見が声をかけていた。

「ったく、なんだよ~」
深見が舌打ちをしながら文恵を見る。

「っかし、憑依した10年前に比べると
 ババアになったもんだよな
 まさに中古の女って感じだぜ!」

文恵の太ももを舌でなめながら
深見が笑う。

「--綺麗な太ももも、
 もうすぐ賞味期限切れかなぁ~けけ」

その時だった。

突然、顔面に激しい痛みが走った。

深見は何が起きたのか分からず、
混乱する。

「---くはっ…!」
深見は鼻血を噴きだしていたー

文恵に、蹴られたのだー

「----あっひ…な、、何をす…」
深見は、文恵の目を見て凍りついた。

「----お前の人生、終了させていただきます」
文恵は、冷たい声で、そう呟いた。

「--な、、な、、なんだって?」
深見は、あまりの恐怖に失禁しながら叫んだ。

「---名倉俊之…」
文恵がそう呟くと、
深見は青ざめた。

10年前に自分たちが殺した男の名前ー
彼は、よくその名前を覚えていた。

「ひっ…!?」
深見が身体を振るわせる。

そしてーー

「うああああああああああ~~~!」と
叫ぶと、深見はそのまま走り去ってしまった。

「------」
文恵は後を追わなかった。

”この身体”で罪を犯すことはできないー

「---文恵」
名倉は、鏡に映った、少し年老いた文恵の顔を見つめた。

知らなかったー
最愛の彼女が、憑依されていたなんてー
彼女が、自分を裏切ったのだとずっと思っていたー

彼女は、自分を裏切ってなどいなかったー

「---もう、、、遅い」
文恵は、寂しそうに、そう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

文恵から抜け出した名倉は、
支配人室で目を覚ました。

そしてー。

「--ちょっと、見回りに行ってくる」
名倉はそう告げると、305号室へと向かった。

そこにはー
混乱して泣きじゃくっている文恵が居た。

10年ぶりに解放されー
見知らぬホテルで、
10年経過していてーーー

文恵はパニックを起こしていた。

「---どうか、されましたか?」
名倉はそう呟いた。

「わ、、、私は…??
 名倉さんと、、、レストランで食事して、、それから…?」

文香が涙をボタボタこぼしながら
入ってきた名倉の方を見たー

しかしー
文香は気づかない。
名倉が、今使っているのは別人の身体だー
だから、目の前に居るのは名倉だと気付かない。

「----あ、、あなたは?」
文香は涙目でそう言った。

名倉は、自分の名札を外すと、
文香に近づいて微笑んだ。
名札には”名倉 俊之”と書かれているー
身体は別人だが、彼は今も名倉と名乗っているー

だがー、
もう自分は悪霊になってしまったー
だからー
彼女に名乗ることは、できなかったー。

「---このホテルの支配人です。
 どうかされましたか?
 良ければ、お話を聞きますよ」

名倉は、10年前、自分が生きていたころと同じように
優しい笑みで、語りかけた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・」
文恵をなんとか落ち着かせた名倉は
305号室を後にした。

文恵は、10年間以上、
憑依され続けて、人生を奪われたー。

そして、突然、10年の時が経過した状態で、
目を覚ましたー

混乱するのは当然だ。
落ち着けと言われる方が無理があるー。

「・・・・・・・・・・・・」
名倉は、ホテルのお手洗いに入り、
自分の顔を見たー

今の身体は自分の身体ではない。
自分は、この人間の人生を奪っている。

いやー

今まで何人もの幸せを壊してきたー

「うふふふふふふ~
 はい、私の人生終了しちゃった~あは♪」

「あはははははははっ!
 そろそろ終わりにしよっかな♪」

名倉は今まで、自分が人生を終了させた
少女たちの姿を思い出していたー。

「--私がしていたことは、
 あいつらと、同じかー」

名倉の最愛の女性、文香の人生を奪った男たちと、
自分は同じー。

名倉はそう思い、自虐的に笑い始めた。

名倉の目には、涙が浮かんでいるー

「--くくく、今更改心すると思うか?
 いや、しないね…」

名倉は呟いた。

既に自分は怨霊と化してしまった。
今更、改心などしないー
そして、今まで自分がやってきたことを後悔もしないー

「--ーだがーーー」
名倉は鏡を見て、言葉を発した。

「--次に人生を終了させるべきなのはーーー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--くそっ!」
「--まさか、そんなことがあるとはな」
名倉の彼女に友人を憑依させて愛人にしていた男・深見が呟く。

「--まぁ、いいさ。あの女もちょうど中古になってたし、」

深見の横には、
文恵に憑依していた男・森瓦が居た。

「---また新しい女に憑依して、楽しもうぜ」
深見の言葉に、森瓦が呟く。

「また、俺に女に憑依しろってのか?」

その言葉に、深見は頷く。

「あぁ。したいだろ?」
「まぁな」

懲りない2人は、次の女を見つけようとしていたー。

そしてー

「おっ…!」

ちょうど、大学帰りの女子大生たちが、
手を振って別れの挨拶をしていたー

そのうちの一人は、とてもスタイルが良い、
美脚の持ち主だった。

「--どうだ?あの女」
深見が笑みを浮かべる。

「--あぁ、いいね」
森瓦がそう呟くと、自分の身体を霊体化させて、
その女子大生の方に向かった。

「ふぅ…今日も遅くなっちゃったな」
女子大生・彩恵はそう呟きながら夜道を歩いていた。

「---!?」
ふと、身体にゾクっとした違和感を感じる。

”お前の身体、貰うぜ!ケケケ”

「---えっ!?」

”綺麗な身体してるじゃねぇか。
 エロエロだぜ。”

「---な、、何なの?」

頭の中から響く声に不気味さを感じる女子大生。

”今からお前の身体は俺のものだ”

「---ちょ、、な、、何言ってるの?
 だ、、誰だなの!?」

”体も、声も、記憶も、思考も、ぜ~んぶ俺のものだ!”

「ふ、ふざけないで・・・!」

”うるせぇな、とっとと消えろ”

女子大生の意識を無理やり、森瓦は心の奥底へと押し込めようとした。

「…や、、、やめて!」

そう思ったその瞬間、
彼女の意識は一気に奪われた。

ニタリと笑みを浮かべると、
物陰に隠れていた深見の方に向かって
腰に手を当てながら色っぽく歩いていき、
深見にキスをした。

「---いい身体じゃねぇか」
深見はそのまま、今、憑依されたばかりの女子大生に抱き着くと、
そのまま2人はディープキスをし、
夜の裏路地に女子大生の喘ぐ声が響き渡るーー

「あっ♡ やっぱ、若いって、最高♡
 あっ♡ あっ♡ あぁあ♡」

乗っ取られたばかりの女子大生は、
嬉しそうに、甘い声を裏路地に響かせたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--ーー」

名倉俊之は、ホテルの屋上に立っていた。

人生を終わらせるべきは、
自分だ。

今までずっと、最愛の彼女に裏切られたという怨念から、
この世に留まっていた名倉。
しかし、彼女が憑依されていたという真実を知り、
その怨念は消えつつあったー

もう、十分自分はやりたい放題した。
そもそも、もう、自分は死んでいるー。

「---私の人生、終了でございます」

名倉はそう呟くと、
ネオンが輝く街を見下ろしながらーー
自分が支配していた男から、抜け出したー

霊体になった名倉は呟いた。

「---最後に一つ、やることがあるー」

名倉には、やることがあった。

それはー
奴らの人生を、終わらせることー

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回でホテルノシハイニンは完結です!

私も、憑依空間初期のころを思い出しながら書いているので、
懐かしい感じがします~

コメント