ホテルの支配人、名倉は知るー。
10年前に自分の命を奪った彼女が
何者かに憑依されていたことをー
名倉は、全てに終止符を打とうとしていたー。
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暗い場所に居た。
闇に包まれた、不気味な空間に。
ホテルの支配人・名倉俊之は、
周囲を伺う。
「なんだ、ここは…?
私は、文香に憑依したはずだがー?」
10年前に、自分を殺した彼女・蛭間文香に
憑依したはずの名倉。
いつもだったら、すぐに身体の自由が利くはずなのだが、
今回は、そうではなかった。
「この感じー」
名倉は呟く。
以前、”すでに別の人間に憑依されている女性”に
憑依したことがあるー
その時と同じだー
”井澄ミスト”という憑依人に、憑依されていた女性に憑依した時と同じー。
文香の身体に憑依したのに、
謎の空間に飛ばされたということはー
ここはー
文香の深層心理の世界ー
「--お、、、お前は…!」
闇の中から姿を現した男が驚きの表情を浮かべた。
10年前に文香の身体に憑依して殺したはずの男ー
名倉俊之が、目の前に居るのを見て、
男は悲鳴を上げた。
「--…ここで何をしている?」
名倉は尋ねた。
男が文香の中に居るということは、
この男が、文香を操っているということだ。
「---な、、、な、、何故お前がここにいる…?
あんたは10年前に…!」
男が悲鳴をあげながら言う。
その言葉に、名倉は、衝撃を受けたー
まさか、10年前、文香が豹変したのはーーー
「---貴様…この女の中で何をしている?」
名倉が男を怨念に満ちた目でにらむと、
男は言った。
「ま、、待て待て待て!
こ、、この女に憑依したのは、、ふ、、深見に頼まれて」
男が土下座の姿勢をとって言う。
「---貴様!私の文香に何をした!」
名倉は怒りに満ちた形相で、
ホテル支配人としての仮面を殴り捨てて、
その男を掴んだ。
「---あ、、、や、、やめてくれ…
頼む…
い、、、今すぐ、、、出ていくから…!
こ、、、この女は、浮気なんかしてねぇよ…
お、、俺が憑依して、好き勝手やってただけだ…!」
男の言葉に
名倉は唇をかみしめた。
「ばっかみたい!だからその年まで彼女なしなのよ!
この童貞野郎!」
文恵の言葉を思い出す。
あれはーー文恵なんかじゃなかったーーー
ずっと、自分は文恵に裏切られたと思って、怨霊として、過ごしてきた。
けれどー、あれはーー
「お前の人生、終了させてやる」
名倉は男を投げ飛ばすと、そう呟いた
「--お前の人生ーーー」
名倉が憎悪に満ちた目で目を赤く光らせると、
男は「ひぃぃぃぃぃぃぃ」と叫んで、そのまま消滅した。
文恵の身体から抜け出したのだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おい!文恵~文恵!」
ホテルの305号室では
うつろな目で立ったままの文恵の目の前で
手を振って、深見が声をかけていた。
「ったく、なんだよ~」
深見が舌打ちをしながら文恵を見る。
「っかし、憑依した10年前に比べると
ババアになったもんだよな
まさに中古の女って感じだぜ!」
文恵の太ももを舌でなめながら
深見が笑う。
「--綺麗な太ももも、
もうすぐ賞味期限切れかなぁ~けけ」
その時だった。
突然、顔面に激しい痛みが走った。
深見は何が起きたのか分からず、
混乱する。
「---くはっ…!」
深見は鼻血を噴きだしていたー
文恵に、蹴られたのだー
「----あっひ…な、、何をす…」
深見は、文恵の目を見て凍りついた。
「----お前の人生、終了させていただきます」
文恵は、冷たい声で、そう呟いた。
「--な、、な、、なんだって?」
深見は、あまりの恐怖に失禁しながら叫んだ。
「---名倉俊之…」
文恵がそう呟くと、
深見は青ざめた。
10年前に自分たちが殺した男の名前ー
彼は、よくその名前を覚えていた。
「ひっ…!?」
深見が身体を振るわせる。
そしてーー
「うああああああああああ~~~!」と
叫ぶと、深見はそのまま走り去ってしまった。
「------」
文恵は後を追わなかった。
”この身体”で罪を犯すことはできないー
「---文恵」
名倉は、鏡に映った、少し年老いた文恵の顔を見つめた。
知らなかったー
最愛の彼女が、憑依されていたなんてー
彼女が、自分を裏切ったのだとずっと思っていたー
彼女は、自分を裏切ってなどいなかったー
「---もう、、、遅い」
文恵は、寂しそうに、そう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文恵から抜け出した名倉は、
支配人室で目を覚ました。
そしてー。
「--ちょっと、見回りに行ってくる」
名倉はそう告げると、305号室へと向かった。
そこにはー
混乱して泣きじゃくっている文恵が居た。
10年ぶりに解放されー
見知らぬホテルで、
10年経過していてーーー
文恵はパニックを起こしていた。
「---どうか、されましたか?」
名倉はそう呟いた。
「わ、、、私は…??
名倉さんと、、、レストランで食事して、、それから…?」
文香が涙をボタボタこぼしながら
入ってきた名倉の方を見たー
しかしー
文香は気づかない。
名倉が、今使っているのは別人の身体だー
だから、目の前に居るのは名倉だと気付かない。
「----あ、、あなたは?」
文香は涙目でそう言った。
名倉は、自分の名札を外すと、
文香に近づいて微笑んだ。
名札には”名倉 俊之”と書かれているー
身体は別人だが、彼は今も名倉と名乗っているー
だがー、
もう自分は悪霊になってしまったー
だからー
彼女に名乗ることは、できなかったー。
「---このホテルの支配人です。
どうかされましたか?
良ければ、お話を聞きますよ」
名倉は、10年前、自分が生きていたころと同じように
優しい笑みで、語りかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・」
文恵をなんとか落ち着かせた名倉は
305号室を後にした。
文恵は、10年間以上、
憑依され続けて、人生を奪われたー。
そして、突然、10年の時が経過した状態で、
目を覚ましたー
混乱するのは当然だ。
落ち着けと言われる方が無理があるー。
「・・・・・・・・・・・・」
名倉は、ホテルのお手洗いに入り、
自分の顔を見たー
今の身体は自分の身体ではない。
自分は、この人間の人生を奪っている。
いやー
今まで何人もの幸せを壊してきたー
「うふふふふふふ~
はい、私の人生終了しちゃった~あは♪」
「あはははははははっ!
そろそろ終わりにしよっかな♪」
名倉は今まで、自分が人生を終了させた
少女たちの姿を思い出していたー。
「--私がしていたことは、
あいつらと、同じかー」
名倉の最愛の女性、文香の人生を奪った男たちと、
自分は同じー。
名倉はそう思い、自虐的に笑い始めた。
名倉の目には、涙が浮かんでいるー
「--くくく、今更改心すると思うか?
いや、しないね…」
名倉は呟いた。
既に自分は怨霊と化してしまった。
今更、改心などしないー
そして、今まで自分がやってきたことを後悔もしないー
「--ーだがーーー」
名倉は鏡を見て、言葉を発した。
「--次に人生を終了させるべきなのはーーー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--くそっ!」
「--まさか、そんなことがあるとはな」
名倉の彼女に友人を憑依させて愛人にしていた男・深見が呟く。
「--まぁ、いいさ。あの女もちょうど中古になってたし、」
深見の横には、
文恵に憑依していた男・森瓦が居た。
「---また新しい女に憑依して、楽しもうぜ」
深見の言葉に、森瓦が呟く。
「また、俺に女に憑依しろってのか?」
その言葉に、深見は頷く。
「あぁ。したいだろ?」
「まぁな」
懲りない2人は、次の女を見つけようとしていたー。
そしてー
「おっ…!」
ちょうど、大学帰りの女子大生たちが、
手を振って別れの挨拶をしていたー
そのうちの一人は、とてもスタイルが良い、
美脚の持ち主だった。
「--どうだ?あの女」
深見が笑みを浮かべる。
「--あぁ、いいね」
森瓦がそう呟くと、自分の身体を霊体化させて、
その女子大生の方に向かった。
「ふぅ…今日も遅くなっちゃったな」
女子大生・彩恵はそう呟きながら夜道を歩いていた。
「---!?」
ふと、身体にゾクっとした違和感を感じる。
”お前の身体、貰うぜ!ケケケ”
「---えっ!?」
”綺麗な身体してるじゃねぇか。
エロエロだぜ。”
「---な、、何なの?」
頭の中から響く声に不気味さを感じる女子大生。
”今からお前の身体は俺のものだ”
「---ちょ、、な、、何言ってるの?
だ、、誰だなの!?」
”体も、声も、記憶も、思考も、ぜ~んぶ俺のものだ!”
「ふ、ふざけないで・・・!」
”うるせぇな、とっとと消えろ”
女子大生の意識を無理やり、森瓦は心の奥底へと押し込めようとした。
「…や、、、やめて!」
そう思ったその瞬間、
彼女の意識は一気に奪われた。
ニタリと笑みを浮かべると、
物陰に隠れていた深見の方に向かって
腰に手を当てながら色っぽく歩いていき、
深見にキスをした。
「---いい身体じゃねぇか」
深見はそのまま、今、憑依されたばかりの女子大生に抱き着くと、
そのまま2人はディープキスをし、
夜の裏路地に女子大生の喘ぐ声が響き渡るーー
「あっ♡ やっぱ、若いって、最高♡
あっ♡ あっ♡ あぁあ♡」
乗っ取られたばかりの女子大生は、
嬉しそうに、甘い声を裏路地に響かせたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ーー」
名倉俊之は、ホテルの屋上に立っていた。
人生を終わらせるべきは、
自分だ。
今までずっと、最愛の彼女に裏切られたという怨念から、
この世に留まっていた名倉。
しかし、彼女が憑依されていたという真実を知り、
その怨念は消えつつあったー
もう、十分自分はやりたい放題した。
そもそも、もう、自分は死んでいるー。
「---私の人生、終了でございます」
名倉はそう呟くと、
ネオンが輝く街を見下ろしながらーー
自分が支配していた男から、抜け出したー
霊体になった名倉は呟いた。
「---最後に一つ、やることがあるー」
名倉には、やることがあった。
それはー
奴らの人生を、終わらせることー
③へ続く
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コメント
次回でホテルノシハイニンは完結です!
私も、憑依空間初期のころを思い出しながら書いているので、
懐かしい感じがします~
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