その日ー
甲子園球場では高校球児同士の熱い戦いが行われていた。
両チームのコーチが試合を見守る中、
”それは”起こるべくして起こったー。
※「甲子園憑依モノ」のリクエストにお応えした作品です!
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甲子園球場ー
高校球児同士の熱い戦いが、
そこでは行われていた。
脳洗高等学校(のうせんこうとうがっこう)と、
依憑高等学校(いひょうこうとうがっこう)
その2つの高校の試合だ。
「---」
4回裏ー。
脳洗高等学校の攻撃。
試合は2-2。
依憑高等学校のエースと呼ばれるピッチャー、
龍王寺 卓(りゅうおうじ すぐる)は、
ここまでノーヒットだったが、
ここで、ピンチを迎えていた。
龍王寺はフォアボールで、先頭バッターを歩かせた上に、
デッドボールを与えてしまい、
さらには、ヒットを打たれて満塁のピンチを迎えてしまった。
「--くそっ」
龍王寺は、ベンチの方を見る。
鬼コーチとも呼ばれるコーチ、若本(わかもと)がこちらを
睨みつけていた。
マネージャーの姫山 杏子(ひめやま あんず)が、
不安そうに、試合を見つめている。
杏子は、龍王寺の彼女だー。
脳洗高校の
4番打者が、意気揚々とマウンドに立つ。
4番打者ー
里鋤(りすき)-。
これまでの試合でも、ホームランを何度も
放っているバッターだ。
「負けてたまるかよ!」
龍王寺は、持ち前の剛速球ストレートを投げたー
カキィン!
もの凄い音がした。
ーー走っていた。
既にー。
里鋤は走っていた。
唖然とする龍王寺。
そう、満塁ホームランだ。
2-6。
盛り上がる脳洗高校。
絶望する依憑高等学校ー。
龍王寺は、マウンド上で立ち尽くした。
マネージャーの杏子も、悲しそうな表情を
浮かべた。
龍王寺がちらっと杏子の方を見る。
杏子はとてもかわいらしく、一生懸命の少女だった。
だからこそ、野球部員たちは、杏子のことが好きだった。
試合に勝って、彼女の喜ぶ顔を見ることが
何よりの喜びでもあったのだ。
2-6。
「---くそっ…」
龍王寺は、怒りをにじませた。
脳洗高校の5番打者、
割橋がさらにトドメの一撃を加えようと、バッターボックスに立った。
しかしー
龍王寺はプライドも高い高校球児だったー。
このまま屈辱にまみれたまま負けるわけにはいかないー。
5番打者の割橋、
6番打者の藍原、
7番打者の柚子葉を
あっという間に3アウトにしてみせた
がー
目に見えて、チームメイトの戦意は下がっていた。
「・・・・」
コーチの若本は、そんな様子を見かねてある秘策を
思いついた。
「姫山ーちょっといいか?」
「え?は、はい」
マネージャーの杏子を呼び出して、コーチの若本は
奥へと向かう。
ピッチャーの龍王寺は、そんな様子を不思議そうに
見つめていた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
裏へとやってきたコーチの若本の
マネージャーの杏子は、立ち止まる。
そして、若本が杏子の方を見て、ほほ笑んだ。
「--このままでは俺たちは負ける」
若本は言った。
「え、あ・・・はい、で、、でも、
まだ5回表ですから…」
杏子が言うと、
若本は首を振った。
「2-6だ。まず無理だろう」
若本は、”どんな手段でも使って勝つ”ことから、
鬼コーチと呼ばれていた。
「---あ、、諦めたらそこで試合終了ですよ!」
杏子があたふたしながら言う。
すると、若本はニヤリとほほ笑んだ。
「そうだ。諦めたらそこで終了だー。
だからー」
若本が、信じられない言葉を口にした。
杏子は、思わず言葉を失った。
若本はー
”きみの身体を貸してくれ”
そう言ったのだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
依憑高校の5番バッター、大道が
外野フライに倒れた。
1アウト。
「---くっそ~」
大道が戻ってくる。
そのタイミングで、
マネージャーの杏子が戻ってきた。
6番バッターの阪下(はんげ)も、
相手ピッチャーの前に苦戦を強いられている。
杏子は苛立った様子で舌打ちした。
そして言う
「みんな、この試合、負けたら承知しないから」
低く、脅す様な声だった。
ふがいない試合に、苛立っているのだろうか-
「ひ、姫山さんー」
エースピッチャーの龍王寺が、困惑した様子で杏子を見る。
杏子は龍王寺を睨んだ。
「--だいたいテメェがしっかり抑えねぇからそうなるんだろうが」
杏子はぶち切れた様子で、龍王寺を蹴り飛ばした。
「--ひ、姫山さん!?」
周囲の選手たちが驚く。
そんなのお構いなしで、杏子は怒鳴り声を上げる。
「いいかお前ら!無様な醜態晒してみろ?
絶対許さねぇからな」
杏子はそこまで言うと、
今度は不気味な笑みを浮かべたー。
「--その代わり…
活躍したら、わたしがご褒美あげる…♡
ふふふ…」
杏子の豹変ぶりに、
選手たちは驚く。
杏子はー
憑依されていた。
コーチの若本に。
若本は、目的のためなら手段を択ばない。
”勝つ”という目的のためなら
マネージャーの身体だって使って見せる。
6番の阪下が三振になって戻ってくる。
「--バカ野郎が」
杏子は乱暴にそう吐き捨てると、
7番バッターの紫亜乃巣に向かって言う。
「--打てたら、ご褒美…よ?ふふ♡」
その言葉に、紫亜乃巣は、嬉しそうに
微笑み、バッターボックスへ向かって行った。
カキィン
ホームランが放たれた。
紫亜乃巣は、嬉しそうに手を上げながら、
戻ってくる。
「--ふふ、やればできるじゃない」
3-6
杏子は、紫亜乃巣に太ももを差し出した。
「--ご褒美よ。ほら、お舐めなさい」
その言葉に紫亜乃巣は嬉しそうに、
杏子の太ももを舐めはじめた。
「なーー何やってるんだよ、杏子…!」
ピッチャーの龍王寺が言う。
龍王寺は杏子の彼氏だった。
「--なにって?勝つための応援よ。
無能なアンタは黙ってて頂戴」
杏子がきつい口調で言うと、
龍王寺は周囲を見渡した。
「コーチ!あんただな!
あの噂は本当だったのか!」
龍王寺の言葉に、杏子はニヤリと笑った。
「…フン、そうさ。俺は人の身体に憑依することができる!
いま、マネージャーの姫山は、俺が自由に
操ってるんだよ!」
ざわめく選手たちをよそに
龍王寺は叫んだ。
「あ、杏子を返せ…!返してください!」
龍王寺が、杏子の目の前で土下座をすると、
杏子は微笑みながら、龍王寺の足を踏みつぶした。
「なら、勝て。」
杏子が冷たい声で言い放った。
そして、ベンチに座ると、足を組んで
自分の足を撫で回しながら呟く。
「負けたら…わたし、変えられちゃうから…ネ?ふふ」
それだけ言うと、自分の髪をいじくっては
ニオイを嗅いだりして、一人、ほほ笑み始めた。
8番バッターの濁里がアウトになり、
スリーアウト。
試合は6回表に進むー。
「どうにか、しなくてはー」
龍王寺がマウンドに上がる。
不気味な笑みを浮かべて、手と足を組んで
ふんぞり返った態度で、龍王寺を見つめる杏子。
もしも・・・
もしも負けたら、杏子はどうなってしまうんだ?
龍王寺はそう思った。
そして、龍王寺は今まで以上の気迫で、
ボールを投げ始めた。
「-ストライク!バッターアウト!」
龍王寺は3人を完璧に抑えると、
ベンチに戻っていく。
「--餓鬼が」
杏子は呟いた。
「たるみやがって…」
杏子はイライラした様子で貧乏ゆすりを
しながら、舌打ちをしたー。
カキィン!
5番バッターの大道が2ランホームランを放つ。
5-6。
8回裏。
試合は終盤。
杏子は大道の方に近づいていき、
キスをした。
「ご褒美よ♡ やるじゃない」
そう言って、大道の手を自分の胸に触らせると、
大道の肩を叩いて、満足気にベンチに座る。
「---勝てばいい。勝てばな」
杏子は微笑みながら、そう呟くー。
・・・・・・・・・・・・・・
「逆転ホームランー!」
歓声が上がった。
6番バッターの阪下が逆転2ランホームランを放った。
「うぉおおおおお!」
仲間たちが歓声をあげる。
「--流石ね…」
杏子は戻ってきた阪下にキスをすると、
阪下の顔を撫で回した。
「---あとで、いいことしてあげる♡」
そう言うと、若本に憑依されたままの杏子は
偉そうにイスに座り、足を組みながら微笑んだ。
7番バッターの紫亜乃巣はアウトになり、
いよいよ最後の守りに入ることになった。
「-ーー杏子」
ピッチャーの龍王寺は、杏子の方を見た。
大事なマネージャーでもあり、
彼女の杏子を、奪われるわけにはいかない。
「---ふふ、勝てたら、わたしを助けることができるわよ?」
杏子は甘い声で囁いた。
挑発的なその態度に龍王寺は腹を立てて叫んだ。
「俺は、ゼッタイに、勝つ!」
とー。
「うおおおおおおおお!」
龍王寺は雄叫びをあげ、
マウンドに上がる。
脳洗高校の2番打者・根月がバッターボックスに上がった。
だが、龍王寺は根月をストライク3球で仕留めた。
続く、3番打者の見尾がバッターボックスに上がる。
しかしー
「なっ…!」
龍王寺の投げたボールは、ヒットとなり、
見尾が1塁へと進んだ。
「---…」
龍王寺は額から汗を流す。
彼女である杏子の方を見る。
杏子は睨むようにしてこちらを見ている。
あの日ー、
彼女に呼び出されて告白されたー
可愛いマネージャーに告白されて
カップルになれるなんて思わなかった。
彼女のために龍王寺はいつも必死だった。
彼女の喜ぶ顔を見るために…!
「--俺は、、負けられないんだ!」
龍王寺がボールを投げた。
しかしーーー
4番打者・里鋤は無情にもホームランを放った。
”逆転ホームラン”
球場が歓声に埋め尽くされる。
逆転のサヨナラホームラン。
龍王寺は絶望してマウンド上に膝をついた。
そして、杏子の方を見ると、
杏子は失笑して、ベンチの奥へと下がって行った。
龍王寺は試合後の挨拶そっちのけで杏子を追いかけたー。
「---杏子!」
叫ぶ龍王寺。
歩いていた杏子が振り返る。
「--無能が…逆転を許しやがって」
杏子が龍王寺を睨んだ。
バッ!
龍王寺が土下座をした。
「--たのむ、コーチ…
杏子を、返してくれ・・・!
彼女は、何も悪くない…!
俺と彼女の思い出を、奪わないでくれ・・・」
龍王寺が嘆願するようにして言うと、
杏子は微笑んだ。
「---俺はな、憑依した相手の記憶を
いじることができるんだよ。
だから、お前への好意も消すことができるー」
龍王寺は杏子の言葉を聞いて絶望する。
コーチは、杏子の”好意”を消そうとしている。
「---だが」
杏子が続けた。
「逆に”お前を好きだ”という記憶を刷り込むこともできる」
ーーー!?
龍王寺は、杏子が何を言いたいのか分からず困惑する。
杏子はニヤリと笑った
「---この女はな、
元々野球になんて興味はなかった。
入学当時は美術部に入ろうとしていたよー。
だがな、憑依して、それを変えた。
”野球部への興味”を刷り込んでやったんだ」
龍王寺はその言葉を冷や汗をかきながら聞いていた。
杏子は自分の髪の毛をいじりながら笑う。
「わたしみたいに、可愛い子がいれば
み~んなやる気になるでしょ?」
そして、杏子は続けた。
「---そして龍王寺…
エースであるお前の力を最大限引き出すためにー」
龍王寺はそこまで聞いて、
杏子が何を言うのか分かってしまった。
「やめろ・・・聞きたくない…」
龍王寺が首を振る。
「--この女がお前に告白したのは何故だと思う?
俺がこの女に憑依して”お前が好きだ”と刷り込んだからだよ!
はははは!
お前の性格なら、彼女のためにってなると思ったからなぁ!」
杏子が両手を広げて笑う。
「だがーー」
杏子は冷たい目で龍王寺を見つめた。
「お前は、負けた。
もう、用済みだ。
この女の記憶を”元に戻す”
刷り込んだ、お前への好意をーー消す
彼女彼氏の関係であったころの記憶を、消すー」
杏子の言葉に
龍王寺は叫んだ
「やめろーーーーーー!」
杏子は笑いながら「ばいばい」と手を振ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。
練習試合では龍王寺はベンチにいた。
マネージャーの杏子はいつも通り、
他の部員たちと話している。
「---あら…今日もベンチにだけは座ってるのね」
杏子が冷たい口調で言うー
あの日、コーチに好意を消去され、
さらには、龍王寺に対する敵意まで刻み込まれてしまった。
「よっしゃ!今日も調子がいいぜ!」
龍王寺に代わってエースピッチャーとなった男が杏子に言う。
「ふふ、今日も絶好調ね♪」
杏子が微笑みかける。
若本コーチによって記憶を操作されてしまい、
杏子は、また別の男に寄り添うようになった。
「くそっ…」
龍王寺は、コーチの若本を睨みつけた。
”俺と杏子の心を弄びやがって…”
龍王寺は思う。
”コーチを叩きのめしてやるー”
と。
だが、若本コーチは、そんな龍王寺の怒りに
気づいていたー。
「---くく」
もしも、
もしも龍王寺が、若本を襲うようなことがあれば
若本は、杏子に憑依して、杏子を盾にするつもりだー
「ーーー勝つためなら、手段を択ばない」
練習試合を見つめながら、若本コーチは微笑んだ。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
「甲子園憑依モノ」のリクエストにお応えした作品です!
時期はずれてしまいましたが、なんとか書くことができました~
以前書いた「球場の悲劇」と同じ野球モノなので、
前回のと内容が被らないように気を付けました。
コメント
SECRET: 0
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憑依で彼女の体を好き勝手されるどころか、
好意すら植え付けられたものだったところは、意表を突かれて面白かったです。
選手たちの名前が見覚えあるのは気のせいでしょうか…?w
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 憑依で彼女の体を好き勝手されるどころか、
> 好意すら植え付けられたものだったところは、意表を突かれて面白かったです。
> 選手たちの名前が見覚えあるのは気のせいでしょうか…?w
お楽しみ頂けて何よりです~♪
ありがとうございます!
選手たちの名前…
確かにどこかで聞いたことがありますネ(笑
SECRET: 1
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
リクエスト書いていただきありがとうございます。
何と前に似たような作品が!さっそく読まねば
確か最初くらいのリクエストでマネかチアどちらかの娘が憑依されるだろうと思ってましたが、まさか味方の士気を上げるためとは意表を突かれた感じで面白かったです。
あと申し訳無いが、またリクエストしたいのを思い付いてしまったので書きます。
もちろんたくさんなので、オリンピック記念もしくはそれ以降で良いです笑
会長の野望(仮)
会長が自分亡き後の会社を心配して、小学生だった孫娘のカラダに憑依し、意識があり戸惑う孫を上手く説得。見事息子を会長にする事に成功するが、自身も孫の生活が気に入り嫌がる孫の意識をイカせることで昇天させ、そのまま乗っ取ってしまう。
ちなみに意識ありの憑依という事で、憑依当初は孫のサポートで上手く体を使いこなす感じ。そしてダーク路線に堕ちイッた後は、記憶も問題無く引き出せるようになる、と言う流れ。
三態大戦(仮)
固体・液体・気体状の憑依体がみつどもえの争い。以下特徴
固体
発見される可能性が高いものの、長時間支配をもくろむ体をじっくり吟味出来る。いわゆる低リスク低リターン?
液体
支配・乗り換え力双方とも普通。
よって、支配力は固体以上で、乗り換え力は気体以上。
気体
気付かれずに接近出来るので、支配力は抜群。反面乗り換えは素早くやらないと消滅してしまうと言うリスクも。いわゆる高リスク高リターン?
通学路の怪?(仮)
通学路で悪さをする地縛霊と思われる奴がいた。それに気付いた霊能力者の娘が成仏させた。かに思えたが実は、通学路にいる娘が気に入って憑依しまくって裏路地で自慰するのが好きなだけで、地縛霊でもなく上手く逃げ延びていた。そして反撃で霊能力者の娘に乗り移ってしまい、以降はそのカラダを起点に通学路で気に入った子に憑依し学校でオナニーをしたりと、より一層楽しみを増すことに。
憑依部(仮)
まさに幽霊部で他の女子部活部員のカラダに憑依していく。今日は女子バスケ部、ついで剣道部のカラダに憑依。(もちろん、他にも魅力的な女子がいる部活がいれば追加で)
古代の悪霊(仮)
田舎に遊びに来ていた姉妹が誤って古い石塔を壊してしまう。解き放たれた悪霊は妹に憑依。しかし幼過ぎてあまり楽しめなかったため夜秘かに姉をイカせて乗り換える。
その後、悪霊に支配されたまま姉妹は帰宅。忙しくて田舎へ行けなかった長女の姉を二人掛かりで襲い、憑依するのだった。
ちなみに三姉妹の長女姉は文武両道の高校生。次女妹は活発系の中学生。末っ子妹は賢い系の小学生。