<入れ替わり>くらやみ①~悪意~

その男は、入れ替わりを利用して、
相手を地獄に突き落とし、それを見るのが生きがいだった。

身体を奪われ、目の前で大切なものを奪われるー
そして、少女に地獄を見せる。
未来など全て絶たれた”くらやみ”をー。

※ダーク展開注意です!苦手な方はご注意ください!

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「--今日は部活で遅くなるから、よろしくね~!」
高校2年の、福本 愛紗美(ふくもと あさみ)が、母親に言う。

「--美術部も大変ねぇ」
母親の湯子(ゆこ)が、そう言うと、
愛紗美は得意げに答えた。

「こう見えても、部長さんだからネ♪」
と。

整った黒髪と、大きめの瞳が特徴的な愛紗美は、
美少女と呼ぶにふさわしい少女だった。

「--姉さんが、部長なんてな~
 おせっかいやきだから、部員たちも迷惑だろ」

弟の喜義(きよし)が言う。

「ちょっと、喜義~何よそれ~!」
「--ほんとうのことだろ」

いつもの日常ー
福本家は、幸せだった。

「--そろそろ行くか」
新聞を読んでいた父親の、譲二(じょうじ)が言う。

「あ、お父さん、いってらっしゃい!」
愛紗美が言うと、娘を溺愛している父親は
微笑んで「行ってきます」と答えた。

愛紗美も、そろそろ学校に行かなくてはならない。
手早く準備を済ませて、程よいメイクをすると、
玄関から飛び出した。

「---幸せな家族」
福本家の玄関を見つめる男が居た。

「--決まりだ。今回のターゲットは、こいつらだ」

明るい表情で学校に向かう愛紗美を見ながら、
男は不気味な笑みを浮かべた。

・・・・・・・・・・・・・・

放課後。
美術部の活動を終えた愛紗美は、
友達と別れて、一人、下校していた。
冬場で火が沈むのが早いから、
既に周囲は暗くなっていた。

「う~ん、今日も楽しかった」
そう言いながら、横断歩道の信号待ちで
スマホを取り出し、母親に「これから帰るね」と
LINEを送る。

母親からは、謎のLINEスタンプですぐに
返信が届いた。
使い方を間違っているような気がするが、
いちいち突っ込むのは、母に悪い気がする。

「--今日の晩御飯はなにかなー」
そんなことを考えながら、人気のない道に
差しかかったそのときだった。

突然、路地の部分から伸びてきた手に掴まれて、
さらに人毛のない裏路地に引きずり込まれた。

「--い、、、いや、、、な、、えっ!?」
突然裏路地に引きずり込まれた愛紗美は、
わけがわからずにそう叫んだ。

乱暴に投げ飛ばされる愛紗美。

「きゃあっ!」
裏路地の行き止まりの部分に倒れた愛紗美は
慌てて顔を上げた。

すると、そこには、痩せ細ったがりがりの男が居た。
目に、生気を感じない。

「--ひっ…」
愛紗美は思わず悲鳴を漏らした。

誘拐?暴漢?
いきなり女子高生をつかんで裏路地に引きずり込み、
投げ飛ばす男なんて、まともじゃないことは確かだ。

「---幸せそうだな」
痩せ細った男は、そう言った。

「---え?」
愛紗美は目に涙をためながら、やっとの思いで返事をした。

「--俺はさ、ずっとずっと、不幸だった。
 小さいころに両親は死んで、親戚をたらいまわしにされて、
 学校では「ゾンビ爪楊枝」だとか言われていじめられたよ

 高校の時、初恋の相手に告白したら
 「わたしはゾンビじゃなくて人間としか付き合わないから」と
 言われたし、
 バイトでは「いかにも盗みしそうな顔してるな」とか言われて
 クビにされたよ」

痩せた男が一人で身の上話を語っている。

「--会社はリストラされて、
 いまじゃ俺はホームレスだ!!
 わかるか?
 いつか楽しいことがある?いつだ?いつだ?
 俺の幸せはいつだ?もう40だぞ?
 ハゲて、やせ細って、仕事もない、ホームレスだぞ?」

男が一人で怒りをあらわにしながら言う。

「---け、、、警察、呼びますよ!」
愛紗美は叫んだ。
明らかに普通じゃない。
警察を呼んだ方が良いのは、明らかだった。

「---だからさ、俺はむかつくんだよ。
 お前みたいな、幸せな家族を見るとー」

男は初めてニヤリと笑った。

「---ひっ…」
愛紗美は慌ててスマホで警察に連絡を入れようとした。

しかしー
男が、突然、愛紗美の方に向かって走ってきた。

「--や、、やめて、来ないで!」
愛紗美は叫んだ。

”殺される”

そう思ったー。

男はーーーー
そのまま、愛紗美にキスをしたーーー

「むぐっ!?」

警察への連絡がつながる。

愛紗美は、意識を失い、
男もその場に倒れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もしもし?
どうされましたか?

もしもし??
もしもし???

「う…」
愛紗美が目を覚ました。

そして、慌てた様子でスマホを探すと、
警察からの問いかけに応答した。

「あ、ごめんなさい、間違えてかけちゃいました…!」

そう言うと、スマホの通話を終了させた。
そして、スマホを乱暴にゴミのように投げ捨てる。

「--ふふふふ・・・」
愛紗美が気味の悪い笑みを浮かべると、
倒れたままの、男を蹴り飛ばした。

「ほら、起きろ!」
愛紗美が乱暴な口調でそう言うと、
男は目を覚ました。

さっきまでとは異なり、男は怯えた様子で、
愛紗美の方を見て、
「え…わたし…?」とつぶやいた。

「--ふふふ、お前の身体と俺の身体を
 入れ替えたんだよ」

愛紗美は得意げな表情でそう言った。

「--え?うそ?…い、、いやっ!
 わたしの身体を返してっ!」

痩せ細った男が叫ぶ。

「---うるさいなぁ、返すよ。
 ”ひとつだけ”やることやったらね」

愛紗美が腕を組みながら、
泣き叫ぶ男を見下している。

「や・・やること?」
男が泣きながら言うと、
愛紗美は、ニヤリと笑みを浮かべた。

「-お父さんと、お母さんと、弟を
 殺すの!ふふっ♡」

無邪気に笑う愛紗美ー。

「--え…な、、や、、やめてよ!ねぇ!」

男が叫ぶ。

愛紗美はそんな男を見ながら言った。

「--幸せな家族見てると、むかつくんだよ。
 だから、そんな幸せを壊してやるー。

 それが、俺の、喜びだ。
 お前の身体で、お前の大事なものを奪ってやる」

愛紗美は憎しみを込めて言い放つ。

「---やめてよ…ねぇ、わたしの身体…返して・・・」
泣き出してしまう男。

愛紗美はそんな様子を満足げに見つめる。

男は、憎かった。
この世の幸せそうな家庭がー。

だから、これまでも繰り返してきた。
他人から幸せを奪い、
そして、壊す―。

そんな行為を、何度も何度も繰り返してきたー。

今回で、何人目だろうかー。
幸せそうな家庭で育っている少女を見つけては、
それを、壊すー。

それが、この男の楽しみであり、
生き甲斐なのだー。

「---じゃあ、一つだけチャンスをやるよ」
愛紗美は耳をほじりながら微笑む。

愛紗美を支配した男にとって、
愛紗美が周囲にどう思われようと関係ない。
もっとも、この裏路地にはほぼ誰も入ってこないがー。

「---今から1時間、俺はここで
 一人でオナニーしてるからよ、
 その間に、なんとかしてみせろよ」

愛紗美は笑う。

中身が愛紗美の男は、絶望した表情で、
目の前で、邪悪な表情を浮かべている
自分の身体を見つめたー

「んあぁ♡ あっ♡ あっ♡ いい身体じゃねぇか♡」
愛紗美は胸を触って、喘ぎ始めた。

「---や、やめて!わたしの身体でー!」
そこまで言いかける男を愛紗美は制した。

「--いいのか?1時間後には、この身体で
 ”ただいま~♪”って言いながら、お前の家に行くぜ。
 お前の親は、何の疑いもなく俺を招き入れるだろう。

 そして、この身体で笑いながら家族を地獄に
 送っちゃうよ?ふふふ…」

愛紗美の言葉に、絶望しながらも、男は走り出した

「はははははは!そうだそうだ!
 家族、大事なんだろ~?なら救ってみろよ!
 んあぁっ♡ あああっ♡」

愛紗美は、人気のない裏路地でスカートをめくって
大胆に喘ぎ始めた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---はぁっ はぁっ…お父さん、お母さん、
 喜義…!」

男は走った。
身体の感覚が違うー。

しかも、男なのに、愛紗美よりも体力がないー

けれどー。
家族になんとかわかってもらって、
みんなを逃がさないとー。

支配された自分が浮かべた笑みを思い出すー。
あの目には狂気が宿っていた。

あの男は、やるー。
きっと、このままじゃ、お父さんもお母さんも殺されちゃう!

そう思いながら、やせ細った男の姿で、
愛紗美は自分の家までやってきていた。

インターホンを押す愛紗美。

「はい?」
母である湯子の声が聞こえた。

「--お母さん、わたし」
男の弱弱しい声で、そう言うー。

しかしー
信じてもらえるはずがなかった。

「あの…どちら様ですか?」
湯子がそう答えた。

当然の答えだ。

「--こ、、こんな姿だけど、お母さん!わたし!
 愛紗美よ!」

夜に、やせ細った男が、
女言葉で娘の名前を語る。

こんなに不愉快で、気味の悪いことはない。

「--あの…あ、、愛紗美の知り合いですか?」
気味悪い、と言いたげな感じでそう答える母。

愛紗美はなおも、叫んだ。

「わたしなの!ねぇ!信じて!!
 これからわたしが、みんなを殺しにくる!
 お願い!逃げて!ねぇ!!!」

男の声で叫ぶー。

「--あの…警察呼びますよ?」
母が言う。

「---違うの!ねぇ、
 そうだ、ほら、わたしの誕生日は、9月30日で、
 血液型はA型、弟の喜義がー」

そこまで言うと、
インターホンから、怒りの怒声が聞こえた。

「--おい、娘のストーカーなら、
 忠告しておくぞ」

父親の譲二だった。

「--二度と、娘に、近寄るな」

それだけ言うと、インターホンが切られた。

「ね…ねぇ!ねぇ!お母さん!お父さん!信じて!
 お願い!ねぇ!!」

夜の住宅街に響く、男の叫び声ー。
近所の家の住人が、一人、二人と出てくる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---はぁ…♡ はぁ♡ あぁああ♡
 さいこうっ♡」

裏路地で一人、エッチをしていた愛紗美は、
可愛らしい腕時計を見たー。

1時間経過したー。

「---ふふ・・・
 わたしの手で、わたしの幸せを壊してあげる…!」

スマホを踏みつぶして、
腕時計を笑いながらその場に投げ捨てる。

大事なモノを、”捨てさせている”
男は、いつも、少女を乗っ取った後にそうしている。
”本人が大切にしているものを、本人が嬉しそうに捨てる”

”支配”しているという実感を得ることができるからだー。
そして、その集大成が、本人の大切にしている
家族を、本人の手で奪うこと―。

愛紗美は歩き出した。

そう、愛紗美にはわかっているー。
突然、別人の身体で、家族のもとに帰っても、
家族は信じないー。

家族は”外見”でしか判断しないー

所詮、おまえらの幸せなど、偽りだとー。

もちろん、時間をかければ、
家族も身体の入れ替わりを信じてくれるかもしれない。

だが、1時間という短い時間で、
娘の身体が奪われて、娘が痩せ細った男になってしまった
などという現実を受け入れられるほど、
人間は強くないー
非現実的なことを前にした人間は、弱く、そして、脆いー。

乱れた髪や、服装を即興で
整える。
多少乱れていても、問題はない。
どうせ、不審がられても、家族はすぐに、地獄行きなのだからー

「さ、帰ろっと♪」
愛紗美は少女のような優しい微笑みを浮かべる。

愛紗美は、帰るべき場所へと向かって歩き出したー。
家族は、愛紗美を、暖かく迎え入れるだろうー。

迎え入れた最愛の娘の中身が、
悪魔だとも知らずにー。

悪魔を、招き入れるだろうー。
それが、幸せの終わりだとも知らずにー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回からが本番(?)ですよ~
ダークな入れ替わりモノをお楽しみ下さい☆

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入れ替わり<くらやみ>

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    9/19日リクエストの入れ替わり作品を早く書いて欲しいです
    無名さんの作品がほんとに好きなんです、お願いします

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 9/19日リクエストの入れ替わり作品を早く書いて欲しいです
    > 無名さんの作品がほんとに好きなんです、お願いします

    ありがとうございます~
    リクエストは、週1,2個のペースなので、
    時間がかかりますが、お許しください~!

    先日、ツイッターの方で紹介しましたが、
    9/19のリクエストは、11月下旬に執筆予定です!