<憑依>隠された秘密③~別れ~(完)

彼女のヒミツを知った遼平は、
それを全て受け止める決意をする。

彼女のためにー。
隠れた秘密の憑依物語、最終回です!

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幸恵の自宅にやってきた遼平は
幸恵の部屋へと入る。

この前、憑依した時には散々
好き勝手やってしまった。

部屋の隅に飾るようにしておかれている制服を見て、
ドキドキしてしまう。

憑依した、あの日のことを思い出してしまう。

「---…どうして、わたしの病気のこと、知ってるの?」
幸恵が言う。
その表情は不思議そうな表情だった。

「---聞いたんだ。友達から…」
まさか、未来の自分から聞いただなんて言えない。

そう言うと、幸恵は「そう…」と答えた。
誰かしらに、自分の病気のことは話していたのだろう。

「---俺を避けてたのは…」
遼平が言うと、
幸恵は目から涙をこぼした。

「遼平を…心配させたくなかったから…」
手を震わせて言う幸恵。

「---幸恵…」
遼平は、泣きじゃくる幸恵を前に、
どれだけ幸恵はつらい思いをしたのだろうー、と思う。

幸恵の家庭は母子家庭だと聞いている。
母親を助けるために、一生懸命勉強し、
学費はバイトで稼ぎ、
そして今、介護職への道を切り開こうとしていた幸恵。

そんな矢先に、余命宣告。

とても、つらかっただろう。

「--いっぱい心配かけてくれよ」
遼平が言った。

「-ーーそんな、心配かけないように、
 一人で死んじゃうなんて、寂しいじゃないかよ…」
遼平が言うと、
幸恵は「ごめん…」とつぶやく。

「でも…遼平には、わたしのこと忘れて、
 前に進んでほしいから…」

遼平はその言葉を聞いて思う。

”自分は、前には進めない”とー

未来からやってきた自分はー
生涯独身だと言っていたー。
それどころか、ずっと幸恵のことだけを考えて、
50年間、研究に時間を費やした。

”遼平に、前に進んでほしい”

幸恵の願いは、叶わないー。
仮に、幸恵が、遼平に対して手紙を送らなくても、
幸恵の死は、いずれ遼平の知るところとなるだろう。

共通の友人もたくさんいる。
誰かひとりでも、幸恵のことを知れば、
遼平は幸恵の死を知ることになるのだ。

そうなればー、
やはり、自分は幸恵のことを忘れられず
人生を幸恵のために捧げるだろう。
幸恵のためにずっと人生を捧げるのであればー。

遼平は決意した。

「幸恵…」
幸恵を抱きしめて、幸恵にキスをする遼平。

未来の自分からもらった
紫色の薬の効力で、幸恵の病気を、
これで、自分が受け取ることができる。

「-----…」
突然キスされて、驚いている幸恵。

「---ごめん」
遼平はそう呟いた。

幸恵は、高校時代のトラウマから、
男女のこういう関係が嫌いだ。

「---ううん…大丈夫」
幸恵は少しだけ微笑んだ。

遼平は立ち上がって窓の外を見る。

「--幸恵…
 俺が、幸恵が元気になる魔法をかけてあげるよ」

遼平が言うと、
幸恵は「なぁにそれ?」と笑う。

遼平は、子供がやるような、
おふざけの魔法を幸恵にかけると
微笑んだ。
悲しそうな目でー。

そして、幸恵に手をやると、
遼平は呟く。

「---もう、これで、大丈夫だ」

遼平の言葉に
幸恵は戸惑いながらも微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。
幸恵は病院の検査で衝撃的な
事実を知るー

自分の病気が、突然完治したのだ。

主治医は「ありえない…」とつぶやくばかりだった。

身体の調子もいい。

だがーーー。
あの日を境に、大学に遼平が姿を現さなくなった。

LINEを送っても返事がない。

幸恵は意を決して、
遼平が一人暮らしをしているアパートへ
向かうことにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

遼平は、吐血していたー。

「---…っこんなに、辛いんだな」
遼平は自虐的に呟く。

身体が弱っていくのを感じる。
それも、急激な速度で。

紫色の薬の副作用で、
病気の進行が、通常よりも早まっていた。

遼平は、
遊園地で撮影した、幸恵との写真を見て、
弱弱しく微笑む。

「---頑張って、生きろよ…
 幸せに、、なれよ」

遼平はそう呟くと、
目をつぶった。

まだ、死なない。

けどー
数日のうちに、死ぬだろう。

ーーそれでもーー

自分は、幸恵を救うことができたのだー
それは、遼平にとって、誇りに思うべきことだ。

「----ちょっと!」
ふいに、声が聞こえた。

幸恵の声ー。

「---幸恵の幻聴が聞こえるなんてな…」
弱っていく自分の意識。
遼平は、苦笑いしながら目をつぶる。

「--ちょっと!!!起きてよ!」
幸恵の声がまた聞こえた。

ーーーー!?

「---ゆ、幸恵…」
目を開けると、そこには幸恵が居た。

「な、、、何で?」
幸恵は唖然とする。

自分がその病気だったのだから、
見ればなんとなくわかる。

自分の病気は治り、
代わりに、遼平が同じ病気になっている。

「---元気になってよかった」
遼平がつぶやくと、
幸恵が涙を流しながら言った

「ど、、どういうこと?」
病気が治ったことは、遼平にはまだ言っていない。
それなのに、何故「元気になってよかった」などと言うのか。
そして、何故、遼平が自分の病気をまるで
”吸収”したかのように病気になっているのか。

「---え…?なんで、どうして…?」
幸恵は戸惑う。

遼平が自分の病気を引き受けたかのように思えて…。

「こ…細かいことは気にするなよ…
 とにかく、元気になってよかった」
遼平は、苦しみながらそう呟いた。

「良くないよ!」
幸恵が叫ぶ。

遼平は、苦しみながら
目を開いて、ふと、幸恵の目を見た。

その目はー”よく似ていた”

未来からやってきた自分と。

愛するものを失い、
生きているけど、死んでいるー
そんな目ー。

心が、まるでここにないかのような目ー。

幸恵は、そんな目をしていた。

「---!!」
遼平はふと思う。

このままもし自分が死んだら、
幸恵は、未来の自分と同じ運命をたどるのではないか、と。

ずっと遼平のことを忘れられず、
未来を無駄にしてしまうのではないか、と。

そんなこと、遼平は望んでいない。
幸恵には、幸せな人生を送って欲しい。

だからこそー
こうして、病気を引き受けたのだー。

「---」
遼平は、枕元に置いてある、
憑依薬の入れ物を見た。

憑依薬は、まだ少し残っている。

「---あのさ…」
遼平は苦しみながら声を出す。

今や、声を出すのもやっと。

「---話があるんだ」
泣きじゃくる幸恵のほうを見ると、
遼平はそう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ライトアップされた夜の遊園地。

まだ付き合い始めのころに、
幸恵と遼平が、デートしにきた遊園地ー

そこに、幸恵はいた。
観覧車に乗りながら、一人、何かを呟いている。

「---そんなことって…」
幸恵は、遼平からすべての事実を聞かされた。

このまま死ぬより、
信じてもらえるかは分からないけれど、
全てを話した方が良いと判断したからだ。

「未来から、来た遼平くんが…」
幸恵が言うと、
続けて幸恵が口を開いた。

「--ーー俺もびびったよ」

とー

遼平は、残っていた憑依薬を飲み、
幸恵に憑依した。

もう、遼平の身体は動かない。
だから、幸恵に憑依して
”最後のデート”にやってきたのだ

「--でも、本当なんだよね。きっと。
 こんな風にわたしに憑依できてるんだから…」

幸恵が言う。

「--あぁ…」

周囲から見れば、幸恵は一人で一人二役をやりながらブツブツしゃべっている
危ない女性だが、
観覧車の中なので、誰にも見られる心配はない。

「幸恵にはーー
 幸せになって欲しい…
 未来の俺のように、ならないで欲しい…
 誰かを好きになって、誰かと結婚してー
 そうやって、幸せに…」

遼平が幸恵の身体で言うと、
幸恵は涙ぐんで言った。

「でもーー、でも…わたしは…」

遼平は、涙する幸恵の感情が、
伝わってきて、胸を痛めた。

分かっている。
自分が反対の立場だったらー
泣くだろうー。

未来の自分のように、
いつまでも幸恵のことを
忘れることができないだろうー。

「---」
遼平は思うー。

老人は言っていた。
憑依薬は、乗っ取った身体の記憶に
干渉することができる、とー

遼平は、決意していたー

憑依から抜け出す直前に、
幸恵の記憶に干渉してー
自分への好意を消すことをー

「・・・・」
観覧車が、ちょうどてっぺんにまで登る。

「---遼平…」
幸恵が口を開いた。

「……これで、最後なら…
 わたしのこと…好きにしていいよ…
 いままで、何もしてあげられなかったから・・・」
幸恵はそう言って目をつぶった。

遼平と幸恵は、
カップルではあったものの、
一度もエッチなことも、何もかも
したことがなかった。

幸恵がそういうことが苦手だったからだ。

「---幸恵」
遼平は、幸恵の身体で口を開いた。

観覧車の眼下に広がる景色を見ながら、
幸恵は少しだけ微笑む。

「無理すんなよー」
遼平はそれだけ言って、
観覧車の窓に映る自分を見つめた。

この前、憑依したときには
事の重大さも知らず、幸恵の身体でエッチしてしまった。

だがー
今はそんな気分じゃない。

「---じゃあ、最後にキスだけ、していいかな?」
幸恵の中にいる遼平がそう言うと、
幸恵は「うん・・・」と答えた。

幸恵が、観覧車の窓に映る自分とキスをする。

顔を真っ赤に赤らめながら…

「------」
キスを終えると、幸恵が目から涙をこぼした。

本当はーー
ちゃんと、二人でー。

「---幸恵…これから、頑張れよ…
 俺は、後悔してないから」
遼平がそう言うと、
幸恵は「でも…でも…」と涙を流し続けている。

観覧車は、まもなく、終点に辿り着く。

「---幸恵…俺さ…
 幸恵と出会えて…」

幸恵に感謝の言葉を述べようとしたその時だった。

ーーーーーーーー!!!

突然、幸恵に憑依している遼平は
激しい痛みを感じた。

”そっか、もう時間かー”

自分の身体が、まもなく死ぬのだー
身体が死ねば、霊体も消えるー
この憑依薬は、そういう憑依薬だった。

「---幸恵、お別れだ」
遼平が手短に言う。

「そんな!嫌だ!嫌だよ…!!!」
幸恵が泣きながら言う。

一人でお芝居をしているヤバイ人に
しか周囲からは見えないだろう。

でも、そんなことはどうでもよかった。

「----幸恵…ありがとう…
 大好きだー」

そう言うと、遼平は、最後の力を
振り絞って、幸恵の記憶をコントロールしようとしたー

けれどー

「-------…」
遼平は少しだけ笑うと、
そのまま、消えて行ったーー

自宅に放置してあった
肉体が死を迎えたのだー。

「---・・・」

観覧車の係員が、扉を開ける。
中から出てきた幸恵が泣いているのを見て、
係員は首をかしげたが、失恋でもしたのだろう、と判断した。

幸恵は、悲しそうに観覧車の方を振り向いて
「私こそ、ありがとうー」とつぶやいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後。

大学で嬉しそうに笑う幸恵の姿があった。
友達と一緒にー。

そして、大学の講義が終わった後に、
幸恵は、とある場所を訪れた。

それはー
遼平の墓だった。

「--わたし…遼平のこと、忘れないよ、
 ずっとー。

 でも…大丈夫。
 わたし、遼平からもらったこの命、
 ちゃんと、大切に…
 前向きに生きていくからねー」

幸恵が涙ながらに微笑むと、
「また来るね」と言って
墓地を後にしたー。

「-----」
上空では、遼平の霊体がそれを見つめていた。
今度は、本当の霊体だー。

遼平は、
最後の瞬間、
幸恵から自分に対する好意を消そうとした

しかしーー

”幸恵なら、大丈夫だよなー”

そう思った。
幸恵は自分のように、研究に没頭して、
虚ろな目で50年を過ごしたりはしない、と。

だから、記憶はいじらなかったー

それに、幸恵の人生は、幸恵が決めることー
遼平がいじるべきものではない。

「---幸恵…
 幸せになれよ」

遼平は、幸恵の後姿を見ながら、そう呟いた。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

久しぶりにホワイトな方面に
憑依を利用した小説でした!

お読み下さり、ありがとうございました~!

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憑依<隠された秘密>

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    タイムパラドックスネタは読んでいて悩むところ。遼平が死んじゃうと、研究はできないから、薬も作られないのでは?とか、平行世界へ行ったのか?とか。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > タイムパラドックスネタは読んでいて悩むところ。遼平が死んじゃうと、研究はできないから、薬も作られないのでは?とか、平行世界へ行ったのか?とか。

    難しいですよネ…!
    一応、彼女が助かった時間軸は、並行世界へと分岐した~
    みたいな感じになっています。