彼女のヒミツを知った遼平は、
それを全て受け止める決意をする。
彼女のためにー。
隠れた秘密の憑依物語、最終回です!
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幸恵の自宅にやってきた遼平は
幸恵の部屋へと入る。
この前、憑依した時には散々
好き勝手やってしまった。
部屋の隅に飾るようにしておかれている制服を見て、
ドキドキしてしまう。
憑依した、あの日のことを思い出してしまう。
「---…どうして、わたしの病気のこと、知ってるの?」
幸恵が言う。
その表情は不思議そうな表情だった。
「---聞いたんだ。友達から…」
まさか、未来の自分から聞いただなんて言えない。
そう言うと、幸恵は「そう…」と答えた。
誰かしらに、自分の病気のことは話していたのだろう。
「---俺を避けてたのは…」
遼平が言うと、
幸恵は目から涙をこぼした。
「遼平を…心配させたくなかったから…」
手を震わせて言う幸恵。
「---幸恵…」
遼平は、泣きじゃくる幸恵を前に、
どれだけ幸恵はつらい思いをしたのだろうー、と思う。
幸恵の家庭は母子家庭だと聞いている。
母親を助けるために、一生懸命勉強し、
学費はバイトで稼ぎ、
そして今、介護職への道を切り開こうとしていた幸恵。
そんな矢先に、余命宣告。
とても、つらかっただろう。
「--いっぱい心配かけてくれよ」
遼平が言った。
「-ーーそんな、心配かけないように、
一人で死んじゃうなんて、寂しいじゃないかよ…」
遼平が言うと、
幸恵は「ごめん…」とつぶやく。
「でも…遼平には、わたしのこと忘れて、
前に進んでほしいから…」
遼平はその言葉を聞いて思う。
”自分は、前には進めない”とー
未来からやってきた自分はー
生涯独身だと言っていたー。
それどころか、ずっと幸恵のことだけを考えて、
50年間、研究に時間を費やした。
”遼平に、前に進んでほしい”
幸恵の願いは、叶わないー。
仮に、幸恵が、遼平に対して手紙を送らなくても、
幸恵の死は、いずれ遼平の知るところとなるだろう。
共通の友人もたくさんいる。
誰かひとりでも、幸恵のことを知れば、
遼平は幸恵の死を知ることになるのだ。
そうなればー、
やはり、自分は幸恵のことを忘れられず
人生を幸恵のために捧げるだろう。
幸恵のためにずっと人生を捧げるのであればー。
遼平は決意した。
「幸恵…」
幸恵を抱きしめて、幸恵にキスをする遼平。
未来の自分からもらった
紫色の薬の効力で、幸恵の病気を、
これで、自分が受け取ることができる。
「-----…」
突然キスされて、驚いている幸恵。
「---ごめん」
遼平はそう呟いた。
幸恵は、高校時代のトラウマから、
男女のこういう関係が嫌いだ。
「---ううん…大丈夫」
幸恵は少しだけ微笑んだ。
遼平は立ち上がって窓の外を見る。
「--幸恵…
俺が、幸恵が元気になる魔法をかけてあげるよ」
遼平が言うと、
幸恵は「なぁにそれ?」と笑う。
遼平は、子供がやるような、
おふざけの魔法を幸恵にかけると
微笑んだ。
悲しそうな目でー。
そして、幸恵に手をやると、
遼平は呟く。
「---もう、これで、大丈夫だ」
遼平の言葉に
幸恵は戸惑いながらも微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。
幸恵は病院の検査で衝撃的な
事実を知るー
自分の病気が、突然完治したのだ。
主治医は「ありえない…」とつぶやくばかりだった。
身体の調子もいい。
だがーーー。
あの日を境に、大学に遼平が姿を現さなくなった。
LINEを送っても返事がない。
幸恵は意を決して、
遼平が一人暮らしをしているアパートへ
向かうことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遼平は、吐血していたー。
「---…っこんなに、辛いんだな」
遼平は自虐的に呟く。
身体が弱っていくのを感じる。
それも、急激な速度で。
紫色の薬の副作用で、
病気の進行が、通常よりも早まっていた。
遼平は、
遊園地で撮影した、幸恵との写真を見て、
弱弱しく微笑む。
「---頑張って、生きろよ…
幸せに、、なれよ」
遼平はそう呟くと、
目をつぶった。
まだ、死なない。
けどー
数日のうちに、死ぬだろう。
ーーそれでもーー
自分は、幸恵を救うことができたのだー
それは、遼平にとって、誇りに思うべきことだ。
「----ちょっと!」
ふいに、声が聞こえた。
幸恵の声ー。
「---幸恵の幻聴が聞こえるなんてな…」
弱っていく自分の意識。
遼平は、苦笑いしながら目をつぶる。
「--ちょっと!!!起きてよ!」
幸恵の声がまた聞こえた。
ーーーー!?
「---ゆ、幸恵…」
目を開けると、そこには幸恵が居た。
「な、、、何で?」
幸恵は唖然とする。
自分がその病気だったのだから、
見ればなんとなくわかる。
自分の病気は治り、
代わりに、遼平が同じ病気になっている。
「---元気になってよかった」
遼平がつぶやくと、
幸恵が涙を流しながら言った
「ど、、どういうこと?」
病気が治ったことは、遼平にはまだ言っていない。
それなのに、何故「元気になってよかった」などと言うのか。
そして、何故、遼平が自分の病気をまるで
”吸収”したかのように病気になっているのか。
「---え…?なんで、どうして…?」
幸恵は戸惑う。
遼平が自分の病気を引き受けたかのように思えて…。
「こ…細かいことは気にするなよ…
とにかく、元気になってよかった」
遼平は、苦しみながらそう呟いた。
「良くないよ!」
幸恵が叫ぶ。
遼平は、苦しみながら
目を開いて、ふと、幸恵の目を見た。
その目はー”よく似ていた”
未来からやってきた自分と。
愛するものを失い、
生きているけど、死んでいるー
そんな目ー。
心が、まるでここにないかのような目ー。
幸恵は、そんな目をしていた。
「---!!」
遼平はふと思う。
このままもし自分が死んだら、
幸恵は、未来の自分と同じ運命をたどるのではないか、と。
ずっと遼平のことを忘れられず、
未来を無駄にしてしまうのではないか、と。
そんなこと、遼平は望んでいない。
幸恵には、幸せな人生を送って欲しい。
だからこそー
こうして、病気を引き受けたのだー。
「---」
遼平は、枕元に置いてある、
憑依薬の入れ物を見た。
憑依薬は、まだ少し残っている。
「---あのさ…」
遼平は苦しみながら声を出す。
今や、声を出すのもやっと。
「---話があるんだ」
泣きじゃくる幸恵のほうを見ると、
遼平はそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ライトアップされた夜の遊園地。
まだ付き合い始めのころに、
幸恵と遼平が、デートしにきた遊園地ー
そこに、幸恵はいた。
観覧車に乗りながら、一人、何かを呟いている。
「---そんなことって…」
幸恵は、遼平からすべての事実を聞かされた。
このまま死ぬより、
信じてもらえるかは分からないけれど、
全てを話した方が良いと判断したからだ。
「未来から、来た遼平くんが…」
幸恵が言うと、
続けて幸恵が口を開いた。
「--ーー俺もびびったよ」
とー
遼平は、残っていた憑依薬を飲み、
幸恵に憑依した。
もう、遼平の身体は動かない。
だから、幸恵に憑依して
”最後のデート”にやってきたのだ
「--でも、本当なんだよね。きっと。
こんな風にわたしに憑依できてるんだから…」
幸恵が言う。
「--あぁ…」
周囲から見れば、幸恵は一人で一人二役をやりながらブツブツしゃべっている
危ない女性だが、
観覧車の中なので、誰にも見られる心配はない。
「幸恵にはーー
幸せになって欲しい…
未来の俺のように、ならないで欲しい…
誰かを好きになって、誰かと結婚してー
そうやって、幸せに…」
遼平が幸恵の身体で言うと、
幸恵は涙ぐんで言った。
「でもーー、でも…わたしは…」
遼平は、涙する幸恵の感情が、
伝わってきて、胸を痛めた。
分かっている。
自分が反対の立場だったらー
泣くだろうー。
未来の自分のように、
いつまでも幸恵のことを
忘れることができないだろうー。
「---」
遼平は思うー。
老人は言っていた。
憑依薬は、乗っ取った身体の記憶に
干渉することができる、とー
遼平は、決意していたー
憑依から抜け出す直前に、
幸恵の記憶に干渉してー
自分への好意を消すことをー
「・・・・」
観覧車が、ちょうどてっぺんにまで登る。
「---遼平…」
幸恵が口を開いた。
「……これで、最後なら…
わたしのこと…好きにしていいよ…
いままで、何もしてあげられなかったから・・・」
幸恵はそう言って目をつぶった。
遼平と幸恵は、
カップルではあったものの、
一度もエッチなことも、何もかも
したことがなかった。
幸恵がそういうことが苦手だったからだ。
「---幸恵」
遼平は、幸恵の身体で口を開いた。
観覧車の眼下に広がる景色を見ながら、
幸恵は少しだけ微笑む。
「無理すんなよー」
遼平はそれだけ言って、
観覧車の窓に映る自分を見つめた。
この前、憑依したときには
事の重大さも知らず、幸恵の身体でエッチしてしまった。
だがー
今はそんな気分じゃない。
「---じゃあ、最後にキスだけ、していいかな?」
幸恵の中にいる遼平がそう言うと、
幸恵は「うん・・・」と答えた。
幸恵が、観覧車の窓に映る自分とキスをする。
顔を真っ赤に赤らめながら…
「------」
キスを終えると、幸恵が目から涙をこぼした。
本当はーー
ちゃんと、二人でー。
「---幸恵…これから、頑張れよ…
俺は、後悔してないから」
遼平がそう言うと、
幸恵は「でも…でも…」と涙を流し続けている。
観覧車は、まもなく、終点に辿り着く。
「---幸恵…俺さ…
幸恵と出会えて…」
幸恵に感謝の言葉を述べようとしたその時だった。
ーーーーーーーー!!!
突然、幸恵に憑依している遼平は
激しい痛みを感じた。
”そっか、もう時間かー”
自分の身体が、まもなく死ぬのだー
身体が死ねば、霊体も消えるー
この憑依薬は、そういう憑依薬だった。
「---幸恵、お別れだ」
遼平が手短に言う。
「そんな!嫌だ!嫌だよ…!!!」
幸恵が泣きながら言う。
一人でお芝居をしているヤバイ人に
しか周囲からは見えないだろう。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「----幸恵…ありがとう…
大好きだー」
そう言うと、遼平は、最後の力を
振り絞って、幸恵の記憶をコントロールしようとしたー
けれどー
「-------…」
遼平は少しだけ笑うと、
そのまま、消えて行ったーー
自宅に放置してあった
肉体が死を迎えたのだー。
「---・・・」
観覧車の係員が、扉を開ける。
中から出てきた幸恵が泣いているのを見て、
係員は首をかしげたが、失恋でもしたのだろう、と判断した。
幸恵は、悲しそうに観覧車の方を振り向いて
「私こそ、ありがとうー」とつぶやいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後。
大学で嬉しそうに笑う幸恵の姿があった。
友達と一緒にー。
そして、大学の講義が終わった後に、
幸恵は、とある場所を訪れた。
それはー
遼平の墓だった。
「--わたし…遼平のこと、忘れないよ、
ずっとー。
でも…大丈夫。
わたし、遼平からもらったこの命、
ちゃんと、大切に…
前向きに生きていくからねー」
幸恵が涙ながらに微笑むと、
「また来るね」と言って
墓地を後にしたー。
「-----」
上空では、遼平の霊体がそれを見つめていた。
今度は、本当の霊体だー。
遼平は、
最後の瞬間、
幸恵から自分に対する好意を消そうとした
しかしーー
”幸恵なら、大丈夫だよなー”
そう思った。
幸恵は自分のように、研究に没頭して、
虚ろな目で50年を過ごしたりはしない、と。
だから、記憶はいじらなかったー
それに、幸恵の人生は、幸恵が決めることー
遼平がいじるべきものではない。
「---幸恵…
幸せになれよ」
遼平は、幸恵の後姿を見ながら、そう呟いた。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
久しぶりにホワイトな方面に
憑依を利用した小説でした!
お読み下さり、ありがとうございました~!
コメント
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タイムパラドックスネタは読んでいて悩むところ。遼平が死んじゃうと、研究はできないから、薬も作られないのでは?とか、平行世界へ行ったのか?とか。
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> タイムパラドックスネタは読んでいて悩むところ。遼平が死んじゃうと、研究はできないから、薬も作られないのでは?とか、平行世界へ行ったのか?とか。
難しいですよネ…!
一応、彼女が助かった時間軸は、並行世界へと分岐した~
みたいな感じになっています。