<洗脳>ぼくの”ママ”①~ママになってよ~

とある純粋な少年は、目の前で、
母親を殺された。

そいつは言った。
「欲しいモノは、奪うものだぜー」と。

少年は”新しいママ”を探し求めるー。

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塚田 裕樹(つかだ ゆうき)-。
4歳の元気な男の子だ。

しかし、彼には母親が居ない。

元々居なかったのではない。
母親が居なければ、人間は生まれてくることはできない。

しかしー
彼の母親は、1年前に”奪われた”

あっという間の出来事だった。

父は仕事の会議で遅くなる日、
母と、晩御飯を食べている最中の出来事だったー。

インターホンが鳴った。

「お届け物です」
宅急便の男はそう言った。

何も疑いはしなかった。

けれどー。
玄関に向かった母親の悲鳴が聞こえた。

慌てて裕樹が、玄関に向かうと、
そこには倒れた母親と、
母親の胸にナイフを突き立てた男の姿があった。

目的は分からないー。
何故、母さんは殺されなければいけなかったのか。

わからないー。

「---ママ!」
当時、3歳だった裕樹は、悲痛な叫びをあげた。

そんな裕樹を見て、
母親にナイフを突き立てていた男は言った。

「---小僧…」
男は不気味に笑った。

「--あっ、、、あ、、、あ」
裕樹は、震えて泣くことしかできなかった。

「欲しいモノは、奪う物だぜ…
 自分の手でな」

男が笑いながら、裕樹に近づく。

男の欲しいモノー?

裕樹は、足元が震えて動けなかった。
男がニヤリと笑いながら、
ナイフを輝かせる。

”ホシイモノハ、ウバウモノ”

「--わああああああ」
まだ物心ついたばかりの裕樹は
ただただ怖い、怖い、という思いで
暴れた。

死ぬ、死なないもまだはっきりと
分かっていない年頃ー

ただ、怖かった。

そして、気づいたときにはー

血まみれになった自分と、
ボロボロになって、目を見開いたまま
息絶えている母親を刺した男の姿があった。

パニックになって揉みあいになっているうちに、
3歳だった裕樹は、犯人の男の命を奪ってしまったのだ。

前代未聞の悲劇としてー
この事件は人々に大きな衝撃を与えた。

もちろん、3歳だった裕樹を責めることなど、
誰にもできなかった。
しかしながら、周辺住民は、塚田家を
腫れものを見る様な目で見つめ、
父親の正信(まさのぶ)は、
残された息子の裕樹をつれて、遠い地へと
引っ越したのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから1年が経過した今、
裕樹は、元気に育っている。

「--……父さん、仕事に行ってくるからな」
正信がそう言うと、
裕樹は「うん!行ってらっしゃい!」と笑顔で
父を見送った。

「--あとは、よろしくお願いします」
玄関先で、正信が頭をさげた相手は、
ホームヘルパーの草野 美都子(くさの みつこ)
26歳という若い年齢ながら、しっかりもので、
よくしてくれている。

保育園とこのホームヘルパーを利用しながら、
正信は、子育てと仕事を両立させていた。

妻はもう、居ないのだからー。

「-----今日もよろしくね」
美都子が優しく微笑む。

まだまだ若々しい美都子は、
年齢的にも、本当のおかあさんのように見えた。

保育園で、友達たちに言われて、
裕樹はいつもおもぅていた。

”どうして、ぼくにはママが居ないのか”

”ママと会いたい”

”ママが欲しい”

毎日のように、悪夢にうなされたー
あの日、”ママ”の命を奪ったあの男の命を
自分が奪ったときの夢をー。

ママが欲しい

ママが欲しい

いつしか、その、呪いにも似た執着は、
裕樹に、悪魔の力を発現させつつあった。

「ねぇ…」
裕樹が電車のおもちゃで遊びながら、
ホームヘルパーの美都子に言う。

「どうしたの?」
美都子がほほ笑みながら、裕樹の方に
近づくと、裕樹は、美都子の目を
じっと見つめた。

「--ママがほしいよ」
裕樹はそう呟いた。

「--ゆ、裕樹くん…」

裕樹が、1年前に母親を失ったことは、
美都子も父親の正信から聞かされている。

「--」
無邪気な子供の質問だからこそー
答えにくいー。

どう、答えれば良いのか。
美都子はいつも、自問自答する。

「--ねぇ、ぼくのママになってよ」
裕樹がつぶやいた。

「え?」
美都子が裕樹の目を見る。

裕樹の無邪気な目は、
まるでー
美都子を、吸い込むかのような、
不思議な目だった。

「---わたしが、、まま…」
美都子はしばらく何も考えられなくなった。

しかしー

「ご、ごめんね裕樹くん。
 わたしはね、裕樹くんのママにはなれないの」

そう言うと、
裕樹が「え~~~ケチ~~!」といつものように
無邪気に叫んだ。

「---」
美都子は”今のは?”と思う。

一瞬、自分が、裕樹のママになってしまわなくては
いけないような、そんな、不気味な感覚に襲われた。
そのまま、ママになってしまいそうなー。

「-----…」
美都子は今の”異様な感覚”に少し恐怖を覚えた。

昼ー。
裕樹は、自宅の庭で一人、遊んでいた。

たまたま、隣の家の夫婦と、3歳の息子が
庭に出てきて、楽しそうに遊びだした。

20代後半の夫婦と、子供。

裕樹は、その家族を見ながら呪文のように
呟いた。

「いいな~ママ、欲しいな~」
「いいな~ママ、欲しいな~」
「いいな~ママ、欲しいな~」

ずっと同じことを呟き続ける。

美都子は、裕樹の様子を見ながらも、
少し恐怖を覚えるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

「今日も、よろしくお願いします」
父親の正信が、ホームヘルパーの美都子に頭を下げる。

美都子は「分かりました」といつものように
愛想よく笑みを浮かべた。

正信が出かける。

すると、裕樹が近づいてきた。

「ねぇ、ぼくの”ママ”になってよ」

まただ。

「--ご、ごめんね裕樹くん、わたしは…」
美都子がそう言うと、
裕樹の目が赤く光った。

「ねぇ、ぼくのままになってよ」
「ねぇ、ぼくのままになってよ」

呪文のように、繰り返される言葉ー

そしてー

「--わ、、、わたしは…ママ」
「わたしは…ママ」

美都子がの思考が変えられていくー

そしてー
昨日とは違い、その考えを振り払うことが
できなくなった。

「--わたし…ママになる」
美都子がうつろな目で言う。

「ほんと?やった~!」
裕樹が無邪気に笑った。

昼ー

美都子と裕樹は、庭で遊んでいた。

「ママ~ボールとって~!」
裕樹が言うと、
「は~い!」
と美都子が嬉しそうにボールを渡す。

まるで、本当の親子のように。

「あらー?」
たまたま家の前を通りがかった
近所のアパートで独り暮らしをしている
女子大生・彩香(さいか)が、声をかけた。

「--祐樹くん、今、ママって言ってなかった?」
彩香が言うと、
裕樹が微笑んだ

「うん!僕の新しいママ! ね?ママ!」
裕樹が言うと、

「--わたしはずっと、裕樹くんのママだからね」
と美都子がほほ笑んだ。

「--へぇ~そうなんだ~よかったね~!」
そう言いながらも女子大生の彩香は
”再婚でもしたのかな?”と首をかしげながら立ち去って行った。

夜ー。

「--今日もお疲れ様でした」
帰宅した父親の正信が言うと、
美都子は帰ろうとせずに、微笑んだ。

「わたし、裕樹くんのママになりました」
嬉しそうに告げる美都子。

「--え、何のことです?」
正信が言うと、裕樹がほほ笑んだ。

「パパ~!ママができたの~!」
嬉しそうに言う裕樹

「-はは、息子のたわごとに付き合わせて
 申し訳ありません」

正信がそう言うと、美都子が言った。

「わたしは裕樹くんのママです!
 たわごとなんかじゃありません!」

美都子が顔を赤くして叫ぶ。

「--ちょ、それは、それは無理でしょう。
 あなた、確か夫がいるって?」

若いホームヘルパーの美都子には夫が居た。
だがー

「--夫?そんなことどうでもいいんです
 今の私は、裕樹くんのママです。

 ね~!裕樹くん」

美都子が言うと、裕樹の「ね~!」と仲良さそうに
繰り返した。

「--ちょっと!それは駄目だろう!
 それじゃあ浮気だ!」

正信が言うと、
美都子がうつろな目になって、考えるような
表情を浮かべた。

「---あんた、自分の言ってることが分かってるのか!」
正信が声を荒げた。

するとー

「は…!わ、、わたし、、、」
美都子が混乱した様子で言う

「どうしたの?ママ~?」
裕樹が背後から声をかける

「--あ、、ご、、ごめんなさい、、
 ゆ、、裕樹くんも…わ、、わたし、
 あなたのママにはなれないの」

美都子は慌てて言った。

どうして自分はあんなことー?

「え~~~~うそつき~!」
裕樹が言った。

そしてー
”嘘をつくママなんて、死んじゃえ!”

裕樹は、そう叫んだ。

「こら!裕樹!」
父の正信が裕樹に怒る。

「---失礼します」
美都子は足早に玄関から出て行った。

「----…」
正信は裕樹の方を見ながら
「全く…」とつぶやいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

交差点。

赤信号を待ちながら美都子は考えていた

”嘘をつくママなんて、死んじゃえ”

「---わたしはうそつき」
「わたしは嘘をつくままー」
「わたしは、死ななくちゃいけない」

うつろな目で美都子は、多くの車が走っている交差点に
向かって歩き出した。

歩行者用の赤信号を無視してー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「-----」
翌朝。

正信はホームヘルパーの美都子が交通事故で
死んだことを知った。

「---」
正信は昨日の出来事を思い出しながら
”まさかな”とつぶやいた。

夕方。
保育園から帰ってきた裕樹は、
隣の家の、家族を見つめた。

森川家ー。

幸せそうな若い夫婦と、
3歳の息子のいる家。

裕樹は、おもむろに自分の家に
入らず、森川家の方に
近づいて行った。

「あら?裕樹くん、こんにちは」
森川家の母、28歳の藍(あい)がほほ笑む。

そんな藍の目をみながら、裕樹は言った。

「ねぇ、ぼくの”ママ”になってよー」

と。

②へ続く

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ママを欲する4歳の少年…
憑依空間では数少ない洗脳モノです!
最後までお楽しみ下さいネ!

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