処刑はやめないー。
世間が、憑依の存在を認めるまでー。
全ては、汚名を晴らすためー。
そのためなら、何人にでも憑依して、
何回でも、騒ぎを起こすー。
-------------------------—
「-----」
処刑人は、いつもの廃墟で、
新聞を見ていた。
5年前の新聞記事ー。
そこには、
女子大生の凶行ーと一面記事に
書かれていた。
「--奈瑠美(なるみ)」
処刑人は悲しそうにつぶやく。
5年まえー。
処刑人こと、
長谷堂 京也(はせどう きょうや)は
警察官として、働いていた。
彼は26歳。
真面目に働き、そしてコツコツと仲間や上司からの
信頼を得てきていた。
そんなある時、
京也は、ある薬物製造グループの事件を調査していた。
そのグループの工場に、先輩刑事と共に突入し、
工場に居た全員を逮捕・連行した。
大手柄だった。
しかしー
そのグループの残党が、秘密裏に開発していた
「憑依薬」を用いて報復に動き出した。
ある日ー。
京也が休日のひと時を家で過ごしていると、
スマホに連絡が入った。
”もしもしお兄ちゃん?”
妹の奈瑠美の声だった。
京也も、奈瑠美も既に親元を離れて別々の場所で暮らしている。
奈瑠美と連絡を取るのは久しぶりだった。
「どうした?奈瑠美?」
京也が尋ねると、 奈瑠美が言った。
”お兄ちゃん、今からわたし、大事件起こしちゃうね!”
奈瑠美の言っていることの、意味が分からない。
「何を言ってるんだ?奈瑠美?」
京也がそう不思議そうに言うと、
奈瑠美が突然叫んだ。
”お前のせいで、俺たちの工場は破壊された!
これは報復だ!”
ーーー!?
確かに電話相手は妹の奈瑠美だ。
声も、間違えなく奈瑠美自身。
だがー、
奈瑠美の口から放たれた言葉の
内容が、信じられなかった。
「--奈瑠美…?脅されているのか?」
まず、京也はそう思った。
犯罪グループの報復で、
警察官の家族が狙われるケースは、
確かにあることだ。
奈瑠美が、狙われてしまったのかもしれない。
だとすれば、奈瑠美のそばには、
奈瑠美を脅している人間がいるに違いない。
「--奈瑠美、そばに誰か居るのか?
俺が話す…。そいつに代わってくれ」
京也は、奈瑠美は誰かに脅されている…
そう、確信してそう言った。
しかしー
”お兄ちゃん、何か勘違いしてるんじゃない?
わたしは、脅されてなんかいないよ”
奈瑠美が冷たい口調で言った。
”わたしー憑依されてるの。
憑依されて、身体を自由に操られちゃってるの”
「---!?」
信じられない言葉。
憑依、だなんてそんなこと
あり得るはずがない。
憑依なんてこと、この世に存在するはずがないー
「-な、奈瑠美…そう言わされてるんだろ?
なぁ、今、俺が助けに行くから…!」
京也が言うと、
奈瑠美は、自分の現在地を告げた。
”--うふふ♡ お兄ちゃん!
楽しみにしてるよ!
わたしが作る地獄、見せてあげる…!”
そう言うと、電話が切れた。
京也は走ったー。
奈瑠美から伝えられた場所は、
ここから徒歩20分程度の商店街。
1分1秒でも早くー
奈瑠美の元へー。
京也は、バイクを走らせた。
そして-
辿り着いたその先では、
地獄が広がっていた。。
何人もの通行人が、
血を流して倒れている。
そして、その先にはー
包丁をペロリと舐めて微笑む、
妹・奈瑠美の姿があった。
「---えへっ♡ お兄ちゃん?
遅かったね…」
無邪気に笑う奈瑠美。
「--ど、、どういうことだ!」
京也は叫ぶ。
周囲に奈瑠美を脅しているような人間はいない。
まさか本当に、奈瑠美が自分の意思で…?
「--だから言ったでしょ?
わたしは、憑依されて好き勝手されてるの!
こんなこと、わたしがする??
しないよね?えへへへへへっ!」
奈瑠美はイヤらしい表情で、自分の胸を触りながら言う。
その表情はーー
奈瑠美のものとは思えなかった。
「---…く、、、くそっ…!
な、、、奈瑠美!目を覚ませ!」
パトカーの音が聞こえてくる。
少なくとも、数十人の被害者がいる。
最悪の事件だ。
「--はははははははっ!
お兄ちゃん~これは報復なんだよ!」
奈瑠美の叫ぶ声。
奈瑠美はその場で服を脱ぎ始めた。
商店街の真ん中で、
奈瑠美が人を傷つけ
さらには自分を傷つけようとしている。
「おい!やめろ!妹に手を出すな!」
京也は叫んだ。
「--報復するなら、俺に報復しろ!」
必死に、叫んだ。
けれどー。
そんなことを言っても
聞き入れるヤツではないことも
分かっていた。
服をはだけさせて、
イヤらしい顔で、
自分の身体に他人の血を
塗りつけながら微笑む奈瑠美。
やがて、警察が駆け付けた。
「あはははははははははっ!
間抜けども!
わたし、長谷堂 奈瑠美の大犯罪!
よ~く目に焼き付けろ!」
倒れている人々を指さしながら笑う。
「--わたしは歴史に残る大犯罪者!
ねっ!おにいちゃん♪」
そう言うと、奈瑠美は自ら首を切りつけて
笑いながらその場に倒れたー。
京也は”犯罪者の兄”として、
想像を絶する地獄を味わうことになった。
憑依薬による仕業だなんて
言っても、世間はそれを信じない。
「--神宮本部長!どうして!」
身内であるはずの警察は”憑依薬”の存在を隠ぺいした。
奈瑠美は、自分の意思で商店街での事件を引き起こした
大犯罪者として、汚名を被ったまま死んだ。
いや、殺されたー。
京也は、やがて、世論からの大バッシングを受けて、
警察を退職し、姿を消した。
そして、裏ルートで憑依薬を手に入れ、彼は
廃墟に身を潜め、
処刑人として活動を始めた。
憑依薬を使って、事件を起こし続ければ
いつか、警察は憑依薬を公表するしかなくなる。
金で依頼を受けているのは
自分の活動資金を稼ぐためー
そして、処刑人として活動しているのは、
妹・奈瑠美の汚名を晴らすため。
奈瑠美の汚名を晴らしたら、
自分は、罪を全て受け入れて、死を選ぶつもりだ。
今日も、処刑人は、処刑を決行する。
とある会社役員からの依頼で、
会社の不正を暴こうとしている20代女性社員を
処刑して欲しいとの依頼だった。
こんなやり方は正しいことなのか。
自分と同じように、憑依で家族を失う人間たちが
悲しむことは分かっている。
けれど、それでも、
警察、国が、憑依薬の存在を認めるまでー。
ザッ…
足音がした。
「---?」
処刑人が振り返ると、
そこには元同僚の刑事・月谷が居た。
「---長谷堂…」
月谷は先日もここにやってきている。
「--またですか」
処刑人はシルクハットで顔を隠しながら言う。
「何度言われても、私のなすべきことは変わらない。
警察が憑依薬を認めるまで…」
そこまで言うと、
月谷が自分に向けて、銃を構えていることに気付いた。
「---月谷さん?」
処刑人は目を見開く。
月谷という刑事は処刑人である京也の先輩刑事で
新人時代、指導してくれた恩師だ。その恩師が、自分に
銃を向けている。
月谷は、処刑人のやり方に反対しつつも、
京也の境遇には同情していた。
「--上からの指示だ。悪いが、死んでくれ」
月谷が血走った目で言う。
「--く、、くそっ…どうして…
どうしてそこまでして憑依薬を隠ぺいするんだ!」
京也は叫んだ。
分かっている。
憑依薬の存在が明るみに出れば、
世間は大混乱に陥る。
そんなことぐらい。
それでもー
パァン!
銃声が響いた。
シルクハットが吹き飛び、
胸を撃たれた京也はその場に倒れる。
パァン
パァン
パァン!
月谷が涙を流しながら、
京也にトドメの銃撃を加えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。
京也の妹、奈瑠美が憑依された事件の際に
事件の本部長を担当していた刑事・神宮が
処刑人=京也の死亡の報告を聞き、ほほ笑んだ。
「そうか…死んだか
憑依薬の存在が、明るみになることが
あってはならない」
報告した刑事が外に出ていくと、
神宮は不気味にほほ笑んだ。
「---明るみに出れば、憑依薬を
使いにくくなるからなー」
警察上層部の男・神宮は刑事でありながら
憑依薬を愛好していたー。
憑依薬の存在を隠ぺいしようとする
理由ー
それは、
世間を混乱させないためー
そして、自分が憑依薬で楽しむためー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
廃墟で変死体が見つかったという
ニュースが流れている。
そのニュースを真剣に見つめながら
女子高生がニヤリとほほ笑んだ。
「--ご飯出来たよ~」
母親の声が聞こえる。
「は~い!」
彼女は返事をして、テレビを消した。
「--死ねない…
警察に憑依薬の存在を認めさせるまでー」
処刑人は、死の間際、憑依の力を使って
別の身体を乗っ取った。
もう手段は択ばないー
警察に、憑依薬の存在を認めさせてやるー
妹・奈瑠美の汚名を晴らすためにー。
女子高生になった処刑人は、
そう決意して家族の待つ1階へと降りて行った…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
方向性がイマイチ定まらない感じではありましたが
せっかく浮かんだネタなので、書いてみました!
お読み頂きありがとうございました~!
コメント