妻に続き、幼馴染までが
タクシードライバー・山根の手により
変えられてしまった。
果たして、変えられてしまった伶香を
救うことはできるのか…。
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「かっ…や、、、やめ…」
正二は苦しそうにもがいている。
伶香はクスクスと笑いながら
さらに首を絞める手に力を入れた。
「--わたし…正二と溶け合いたい!
正二と一つになりたい…
うふふふふ、えへへへへへっ♡」
正二のことを本気で殺そうとしている。
伶香は、思考を書き換えられて、
今、自分の意思で”愛する正二を殺そうとしている”
「--くくく」
少し離れた場所のタクシーに寄りかかりながら、
タクシードライバーの道義は、
その様子を見ていた。
「ーー私は許さんぞ…」
道義は、運転席に飾られた写真を見つめた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5年前ー
当時、35歳だった道義には、
10歳ほど年の離れた弟がいた。
弟の正和。
年が離れていたせいもあり、道義は
正和のことをとても大事にしていた。
そんな正和が、ある日、
嬉しそうに道義の家を訪れた。
「--兄さん。俺、結婚することにしたよ」
正和が笑う。
隣には、正和の婚約者である女性―、
有菜(ありな)の姿があった。
二人は、仕事関係で出会い、
恋におち、婚約したというのだ。
「おぉ、おぉ、良かったな正和!」
道義は嬉しそうに、弟の正和の手を握った。
婚約者の有菜は、優しそうで、
かなりの美人だった。
二人は無事に結婚し、幸せな日々を送ったー
かのように思えた。
しかしー
結婚してから半年ぐらいが経過した頃、
事件は起きた。
有菜が豹変したのだ。
日々、正和に暴力を振るったり、
暴言を吐くようになった。
正和は、それでも耐えた。
愛している有菜のためなら、と。
しかしー
次第に正和は弱って行った。
「--兄さん、俺、もう、だめかもしれない」
ある日、電話で正和は兄の道義にそう告げた。
それを聞いた道義は、有菜と話をすることにした。
有菜は、自分の行動の非を詫び、
ストレスと寂しさによるものだと、泣きながら謝った。
そして、それ以降、
正和も元気になり、
全ては元通りになったーー
ーーーと、思っていた。
違ったー。
ある日ー、
正和は自ら命を絶った。
兄の道義は何も知らなかった。
道義が有菜に注意して以降、
有菜はさらに陰険な暴力行為を
振るうようになった。
正和は、相談することもできず、
もはや、外に助けを求めることもできないぐらいに追い詰められて
そして、命を絶ったのだ。
「---正和」
道義は、自分の愚かさを呪った。
弟の苦しみに、気付いてやれなかった。
一人、弟の写真を見ながら、ただ、ひたすらに涙を流した。
その時だったー。
”兄さんー”
正和の声が聞こえた。
ふと振り向くと、そこには霊体となった正和の姿があった。
「お前・・・正和か?」
道義が尋ねると、正和はうなずいた。
成仏できずに、現世をさまよう魂となった正和ーー
”兄さん、俺は憎いよ…
女が!美人が!見た目なんか何の当てにもならない!
あいつらの化けの皮をはいでやりたい!”
正和は言った。
有菜に受けた心の傷が、闇に染まり、
女性全体を憎む怨霊として正和は蘇えった。
「---正和」
その日から、
道義のタクシーでは”異変”が起きた。
美人に分類されるであろう女性が、
タクシーに乗ると豹変するようになったのだ。
正和の妻だった有菜もー
その餌食となった。
道義に呼び出された有菜は
タクシーに乗せられた…。
そして…
「--弟を殺したのはお前だ…!
万死に値する!」
道義が叫んだ。
「なによ!あいつは自殺したんでしょ!」
有菜が叫ぶ。
しかしー
次の瞬間、口が勝手に動いた
「はい…わたしがあの人を死に至らしめました」
有菜は自分の口が勝手に動いたことに驚く。
そしてー
「--わたしは、、罪を償うために
自分を殺します。
無残な方法で」
有菜が笑いながら言う。
「ちょ…ちょっと!」
有菜本来の意識が叫ぶ。
しかしー
”わたしは、無残な方法で自分を殺す”
”わたしは、無残な方法でじぶんをころす”
有菜の脳裏に、正和が、
記憶を刻んでいく。
「--ふざけないで!」
有菜は、そう言ってタクシーから飛び降りた。
がーー
その日の夕方、
人ごみの中で、有菜は突然、文具店で買った
ナイフを自分に突き刺した。
笑いながら…。
「--あははははっ!わたし、悪い子だから!
罪を償うの…あはははははあ♡」
何の疑いもなく、
それが、当たり前のことだと信じてー。
自分の服を引き裂きながら、
服だけではなく、皮膚も引き裂いて、
大声で笑った。
そして、最後には自ら購入した
ガソリンを頭からかぶって、
自分が吸ったこともないタバコを吸いながら
大笑いして、最後には自らに火をつけて、
有菜は焼死した・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--これは、復讐だ」
道義は笑う。
「私と、正和で世の中の美人への
復讐をするのだよ
弟を道具のように扱った…
だから、今度はお前たちを道具のように
扱うんだ!」
道義が叫んだ。
「ふ…ふざけ…るな!」
伶香に首を絞められながら、
正二は叫んだ。
そして、正二は伶香の顔を見る。
伶香は、正二の首を絞めているこの瞬間を、
本当に心から楽しんでいる。
「--ごめん、伶香」
正二はそう言うと、伶香を蹴り飛ばした。
このままじゃ、自分が死んでしまう。
そうするしか、なかった。
「-・・・あぁ…あっ」
伶香が痛みで蹲っている。
つい、手を差し伸べそうになったが、
今の伶香は伶香じゃない。
「--貴様ー!」
正二は伶香が苦しんでいる間に、
余裕の表情でこちらを見ていた
タクシードライバー・道義に向かって突進した。
「---!!」
まさかこちらに向かってくるとは思っていなかったのか、
道義は驚きの表情を浮かべたまま、
無抵抗で、殴り飛ばされた。
「ぐふっ!」
道義が、タクシーに叩きつけられて、
苦しそうな声をあげる。
「--テメェ!俺の妻と、
俺の大切な幼馴染を、元に戻しやがれ!」
正二は怒りの形相で道義を見つめる。
しかし、道義は口から血を流しながらも微笑んだ。
「--今の彼女たちの運命は、私の手の中にあると
いうことを忘れるな」
道義は、正二を脅迫した。
今や、伶香も、摩子も、道義の思うがままなのだ。
背後では、伶香がよろよろと起き上がっている。
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。
「---うるせぇ!」
正二は叫んだ。
そして道義を1発、2発、3発と殴りつける。
「ぐふっ!?
わ、、、私を殺せば…あの二人は二度ともとには…!」
道義が焦った表情で叫ぶ。
しかし、正二は道義のみぞおちを思いっきり殴りつけた。
「ぐっほぉっ!」
道義はその場に胃液のようなものを吐き出して
蹲った。
「お前こそいいのか?
二人をもとに戻さなければ、俺はお前をここで殺す」
正二の目は、怒り狂っている目だった。
「-ーー二人はもとに戻らなくても、テメェは死ぬんだ!」
正二が怒鳴りつけた。
「ひっ…ひぃっ…!」
道義は、初めて目の前にいる男に恐怖を感じた。
「--ま、まさ…!」
弟の正和を呼ぼうとした。
しかし、正二は、道義を思い切り蹴り飛ばした。
「ぐっふっ…!」
ボロボロになった道義は泣き声のような声をあげた。
「--おい!二人を戻せ!」
倒れた道義の胸倉をつかむ。
「--は、、、はひっ…」
道義はそれだけ言うと、
「正和…!二人をもとに戻せ!」
と叫んだ。
死にたくない。
死にたくない。
道義はその想いでいっぱいだった。
相手が悪かった。
こんなに執念深く自分たちのことを調べて、
こんなにまで怒り狂うやつだとは思わなかった。
「あ…あれ…」
背後にいた伶香が、声をあげる。
「--わ、、わたし…」
戸惑う伶香。
正二は「伶香!大丈夫か!」と叫びながら
伶香に駆け寄った。
「--ご、、、ごめん…わたし…」
伶香は、今まで自分が何をしていたのか
おぼろげながら認識して、自分の行動を詫びた。
「いいんだ…俺こそ、巻き込んでごめん」
正二は、後悔した。
やはり、伶香をこのことに巻き込むんじゃなかった、と。
「--さて」
正二が振り向くと、
道義は既にタクシーに乗り込んでいて、
急発進して、走り去っていった。
「ーーくそっ!」
正二はそう叫んだ。
けれどー。
もう、これ以上、やつらに関わる必要はない。
伶香がもとに戻ったのだからー
そしてーー。
正二は家へと駆け込んだ。
そこにはー
「---正二…」
最愛の妻、摩子の姿があった。
赤ん坊になった摩子ではなくー
いつもの、大人の女性の摩子の姿が。
「----おかえりなさい」
摩子は、優しく微笑んだ。
「--ただいま」
正二は、嬉しそうに微笑んだ。
正二と摩子は、久しぶりに夫婦の会話を楽しんだ。
自分が赤ん坊のようにされていたことを
摩子は悔しそうに話した。
山根のタクシーに乗った時に、
されたことも、全部、正二に話した。
「---そっか…」
正二が言うと、摩子は笑う。
「でも、正二が助けてくれたんだよね。
ありがとう!」
摩子は嬉しそうに、笑みを浮かべた。
「---あぁ、助けあうのが夫婦だろ!
戻ってきてくれて、良かった…!」
正二がそう言うと、
二人は嬉しそうに、キスをするのだった。
摩子は、正気に戻っていたー。
兄・道義の指示を受けた正和が、
摩子に再度憑依して、摩子をもとに戻したのだ。
しかしー
正和は、摩子の身体から抜け出す直前に、
刻んだー。
”自分はもう十分幸せだった。
今日を”最後の日”にするー
最後の日を楽しんだら、
わたしと正二は、一緒に天国に行くの”
とー。
摩子の脳には、そう刻み付けられていた。
摩子は、嬉しそうに、正二との”最後の1日”を
過ごすのだった。
そしてー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ただいま~!なんて…」
幼馴染の伶香もまた、正気を取り戻していた。
正二への想いは、あるけれど、
摩子がもとに戻って良かった。
正二と摩子の無事を、何より心から祝いたい。
伶香は、
リビングのソファーに座ると、ほほ笑んだ。
”友達として正二と摩子をお祝いするためには、
二人と同じ場所に逝かなくちゃ”
伶香の脳には、そう刻み付けられていた。
伶香は台所に歩いていくと、
包丁を手に、ほほ笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三日後ー
道義は、タクシーを走らせていた。
そこに、酔っ払いの男が乗り込んでくる。
40代ぐらいだろうか。
道義は、目的地を訪ねて、普通にタクシーを
走らせる。
男が乗ってきた場合、山根兄弟のタクシーは
別に何もしない。
あくまでも、美人女性に対する復讐なのだ。
「--なぁ、運転手さん」
男が口を開いた。
「あんた、洗脳って信じるか?」
男の言葉に、道義は
”ずいぶん酔ってるな”と苦笑しながらも
適当に返事をする。
「俺さぁ4年ちょっと前にさ、
仕事場の部下の女、洗脳してみたんだよね」
男は笑いながら言う。
「新人の女性社員でさ、可愛かったから
ネットで買った洗脳薬で、その女を
ためしに洗脳してみたんだよ」
その言葉を聞いて、
道義が、顔をしかめる。
4年ちょっと前―。
弟の正和の妻だった、有菜が豹変したころだー。
「--嘘だと思うだろ?
でもよ、これが本当だったんだよ!
その女、その日から俺が念じたとおりに豹変してさ、
夫に対してDVまがいのことを始めたんだよ!
くくく…
あんなに優しい女が豹変したんだよ!
すげぇだろ?」
酔っ払いの男は笑う。
「---それは凄いですね。
で、その女性の名前はどんな名前だったんですか?」
道義は尋ねた。
酔っ払いの男は笑いながら言った。
「たしかー、有菜ちゃんとか言ってたかな?
会社も素行不良で首になったから、
今、どうしてるのかしらねーけど」
酔っ払いは愉快そうにつぶやいた。
弟の婚約者、有菜はー
悪女だと思っていた。
しかしー、本当は・・・
道義は自虐的にほほ笑むと、
後ろを振り返った。
「お客さん…今からあなたには私のしもべに
なってもらいます」
そう言うと、
道義は、不気味にほほ笑んだ。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
タクシードライバーのお話しでした!
解放されたかに見えた彼女たちが
どのような運命を辿ったのかは、ご想像にお任せします!
コメント
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僕は洗脳系好きなので、洗脳薬に反応しちゃいました(笑)ただ洗脳薬をネタにした小説読んでみたいです。2日連続になっちゃいますが…。
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> 僕は洗脳系好きなので、洗脳薬に反応しちゃいました(笑)ただ洗脳薬をネタにした小説読んでみたいです。2日連続になっちゃいますが…。
洗脳モノ!
いつになるかは分かりませんが、覚えておきます☆