<憑依>タクシードライバー・山根③~復讐~(完)

妻に続き、幼馴染までが
タクシードライバー・山根の手により
変えられてしまった。

果たして、変えられてしまった伶香を
救うことはできるのか…。

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「かっ…や、、、やめ…」
正二は苦しそうにもがいている。

伶香はクスクスと笑いながら
さらに首を絞める手に力を入れた。

「--わたし…正二と溶け合いたい!
 正二と一つになりたい…
 うふふふふ、えへへへへへっ♡」

正二のことを本気で殺そうとしている。
伶香は、思考を書き換えられて、
今、自分の意思で”愛する正二を殺そうとしている”

「--くくく」
少し離れた場所のタクシーに寄りかかりながら、
タクシードライバーの道義は、
その様子を見ていた。

「ーー私は許さんぞ…」

道義は、運転席に飾られた写真を見つめた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5年前ー

当時、35歳だった道義には、
10歳ほど年の離れた弟がいた。

弟の正和。

年が離れていたせいもあり、道義は
正和のことをとても大事にしていた。

そんな正和が、ある日、
嬉しそうに道義の家を訪れた。

「--兄さん。俺、結婚することにしたよ」
正和が笑う。

隣には、正和の婚約者である女性―、
有菜(ありな)の姿があった。

二人は、仕事関係で出会い、
恋におち、婚約したというのだ。

「おぉ、おぉ、良かったな正和!」
道義は嬉しそうに、弟の正和の手を握った。

婚約者の有菜は、優しそうで、
かなりの美人だった。

二人は無事に結婚し、幸せな日々を送ったー

かのように思えた。
しかしー
結婚してから半年ぐらいが経過した頃、
事件は起きた。

有菜が豹変したのだ。

日々、正和に暴力を振るったり、
暴言を吐くようになった。

正和は、それでも耐えた。
愛している有菜のためなら、と。

しかしー
次第に正和は弱って行った。

「--兄さん、俺、もう、だめかもしれない」
ある日、電話で正和は兄の道義にそう告げた。

それを聞いた道義は、有菜と話をすることにした。
有菜は、自分の行動の非を詫び、
ストレスと寂しさによるものだと、泣きながら謝った。

そして、それ以降、
正和も元気になり、
全ては元通りになったーー

ーーーと、思っていた。

違ったー。

ある日ー、
正和は自ら命を絶った。

兄の道義は何も知らなかった。

道義が有菜に注意して以降、
有菜はさらに陰険な暴力行為を
振るうようになった。
正和は、相談することもできず、
もはや、外に助けを求めることもできないぐらいに追い詰められて
そして、命を絶ったのだ。

「---正和」
道義は、自分の愚かさを呪った。
弟の苦しみに、気付いてやれなかった。

一人、弟の写真を見ながら、ただ、ひたすらに涙を流した。

その時だったー。

”兄さんー”
正和の声が聞こえた。

ふと振り向くと、そこには霊体となった正和の姿があった。

「お前・・・正和か?」
道義が尋ねると、正和はうなずいた。

成仏できずに、現世をさまよう魂となった正和ーー

”兄さん、俺は憎いよ…
 女が!美人が!見た目なんか何の当てにもならない!
 あいつらの化けの皮をはいでやりたい!”

正和は言った。
有菜に受けた心の傷が、闇に染まり、
女性全体を憎む怨霊として正和は蘇えった。

「---正和」

その日から、
道義のタクシーでは”異変”が起きた。
美人に分類されるであろう女性が、
タクシーに乗ると豹変するようになったのだ。

正和の妻だった有菜もー
その餌食となった。

道義に呼び出された有菜は
タクシーに乗せられた…。

そして…

「--弟を殺したのはお前だ…!
 万死に値する!」

道義が叫んだ。

「なによ!あいつは自殺したんでしょ!」
有菜が叫ぶ。

しかしー
次の瞬間、口が勝手に動いた

「はい…わたしがあの人を死に至らしめました」

有菜は自分の口が勝手に動いたことに驚く。

そしてー

「--わたしは、、罪を償うために
 自分を殺します。
 無残な方法で」

有菜が笑いながら言う。

「ちょ…ちょっと!」
有菜本来の意識が叫ぶ。

しかしー

”わたしは、無残な方法で自分を殺す”
”わたしは、無残な方法でじぶんをころす”

有菜の脳裏に、正和が、
記憶を刻んでいく。

「--ふざけないで!」
有菜は、そう言ってタクシーから飛び降りた。

がーー

その日の夕方、
人ごみの中で、有菜は突然、文具店で買った
ナイフを自分に突き刺した。
笑いながら…。

「--あははははっ!わたし、悪い子だから!
 罪を償うの…あはははははあ♡」

何の疑いもなく、
それが、当たり前のことだと信じてー。

自分の服を引き裂きながら、
服だけではなく、皮膚も引き裂いて、
大声で笑った。

そして、最後には自ら購入した
ガソリンを頭からかぶって、
自分が吸ったこともないタバコを吸いながら
大笑いして、最後には自らに火をつけて、
有菜は焼死した・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--これは、復讐だ」
道義は笑う。

「私と、正和で世の中の美人への
 復讐をするのだよ

 弟を道具のように扱った…
 だから、今度はお前たちを道具のように
 扱うんだ!」

道義が叫んだ。

「ふ…ふざけ…るな!」
伶香に首を絞められながら、
正二は叫んだ。

そして、正二は伶香の顔を見る。
伶香は、正二の首を絞めているこの瞬間を、
本当に心から楽しんでいる。

「--ごめん、伶香」
正二はそう言うと、伶香を蹴り飛ばした。

このままじゃ、自分が死んでしまう。
そうするしか、なかった。

「-・・・あぁ…あっ」
伶香が痛みで蹲っている。

つい、手を差し伸べそうになったが、
今の伶香は伶香じゃない。

「--貴様ー!」
正二は伶香が苦しんでいる間に、
余裕の表情でこちらを見ていた
タクシードライバー・道義に向かって突進した。

「---!!」

まさかこちらに向かってくるとは思っていなかったのか、
道義は驚きの表情を浮かべたまま、
無抵抗で、殴り飛ばされた。

「ぐふっ!」
道義が、タクシーに叩きつけられて、
苦しそうな声をあげる。

「--テメェ!俺の妻と、
 俺の大切な幼馴染を、元に戻しやがれ!」

正二は怒りの形相で道義を見つめる。
しかし、道義は口から血を流しながらも微笑んだ。

「--今の彼女たちの運命は、私の手の中にあると
 いうことを忘れるな」

道義は、正二を脅迫した。
今や、伶香も、摩子も、道義の思うがままなのだ。

背後では、伶香がよろよろと起き上がっている。
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。

「---うるせぇ!」
正二は叫んだ。
そして道義を1発、2発、3発と殴りつける。

「ぐふっ!?
 わ、、、私を殺せば…あの二人は二度ともとには…!」

道義が焦った表情で叫ぶ。

しかし、正二は道義のみぞおちを思いっきり殴りつけた。

「ぐっほぉっ!」
道義はその場に胃液のようなものを吐き出して
蹲った。

「お前こそいいのか?
 二人をもとに戻さなければ、俺はお前をここで殺す」

正二の目は、怒り狂っている目だった。

「-ーー二人はもとに戻らなくても、テメェは死ぬんだ!」
正二が怒鳴りつけた。

「ひっ…ひぃっ…!」
道義は、初めて目の前にいる男に恐怖を感じた。

「--ま、まさ…!」
弟の正和を呼ぼうとした。

しかし、正二は、道義を思い切り蹴り飛ばした。

「ぐっふっ…!」
ボロボロになった道義は泣き声のような声をあげた。

「--おい!二人を戻せ!」
倒れた道義の胸倉をつかむ。

「--は、、、はひっ…」
道義はそれだけ言うと、

「正和…!二人をもとに戻せ!」
と叫んだ。

死にたくない。
死にたくない。

道義はその想いでいっぱいだった。

相手が悪かった。
こんなに執念深く自分たちのことを調べて、
こんなにまで怒り狂うやつだとは思わなかった。

「あ…あれ…」

背後にいた伶香が、声をあげる。

「--わ、、わたし…」
戸惑う伶香。

正二は「伶香!大丈夫か!」と叫びながら
伶香に駆け寄った。

「--ご、、、ごめん…わたし…」
伶香は、今まで自分が何をしていたのか
おぼろげながら認識して、自分の行動を詫びた。

「いいんだ…俺こそ、巻き込んでごめん」
正二は、後悔した。
やはり、伶香をこのことに巻き込むんじゃなかった、と。

「--さて」
正二が振り向くと、
道義は既にタクシーに乗り込んでいて、
急発進して、走り去っていった。

「ーーくそっ!」
正二はそう叫んだ。

けれどー。
もう、これ以上、やつらに関わる必要はない。
伶香がもとに戻ったのだからー

そしてーー。

正二は家へと駆け込んだ。
そこにはー

「---正二…」
最愛の妻、摩子の姿があった。

赤ん坊になった摩子ではなくー
いつもの、大人の女性の摩子の姿が。

「----おかえりなさい」
摩子は、優しく微笑んだ。

「--ただいま」
正二は、嬉しそうに微笑んだ。

正二と摩子は、久しぶりに夫婦の会話を楽しんだ。
自分が赤ん坊のようにされていたことを
摩子は悔しそうに話した。

山根のタクシーに乗った時に、
されたことも、全部、正二に話した。

「---そっか…」
正二が言うと、摩子は笑う。

「でも、正二が助けてくれたんだよね。
 ありがとう!」

摩子は嬉しそうに、笑みを浮かべた。

「---あぁ、助けあうのが夫婦だろ!
 戻ってきてくれて、良かった…!」

正二がそう言うと、
二人は嬉しそうに、キスをするのだった。

摩子は、正気に戻っていたー。
兄・道義の指示を受けた正和が、
摩子に再度憑依して、摩子をもとに戻したのだ。

しかしー
正和は、摩子の身体から抜け出す直前に、
刻んだー。

”自分はもう十分幸せだった。
 今日を”最後の日”にするー
 最後の日を楽しんだら、
 わたしと正二は、一緒に天国に行くの”

とー。

摩子の脳には、そう刻み付けられていた。

摩子は、嬉しそうに、正二との”最後の1日”を
過ごすのだった。

そしてー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--ただいま~!なんて…」
幼馴染の伶香もまた、正気を取り戻していた。

正二への想いは、あるけれど、
摩子がもとに戻って良かった。

正二と摩子の無事を、何より心から祝いたい。

伶香は、
リビングのソファーに座ると、ほほ笑んだ。

”友達として正二と摩子をお祝いするためには、
 二人と同じ場所に逝かなくちゃ”

伶香の脳には、そう刻み付けられていた。

伶香は台所に歩いていくと、
包丁を手に、ほほ笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

三日後ー

道義は、タクシーを走らせていた。
そこに、酔っ払いの男が乗り込んでくる。

40代ぐらいだろうか。

道義は、目的地を訪ねて、普通にタクシーを
走らせる。

男が乗ってきた場合、山根兄弟のタクシーは
別に何もしない。

あくまでも、美人女性に対する復讐なのだ。

「--なぁ、運転手さん」
男が口を開いた。

「あんた、洗脳って信じるか?」

男の言葉に、道義は
”ずいぶん酔ってるな”と苦笑しながらも
適当に返事をする。

「俺さぁ4年ちょっと前にさ、
 仕事場の部下の女、洗脳してみたんだよね」

男は笑いながら言う。

「新人の女性社員でさ、可愛かったから
 ネットで買った洗脳薬で、その女を
 ためしに洗脳してみたんだよ」

その言葉を聞いて、
道義が、顔をしかめる。

4年ちょっと前―。

弟の正和の妻だった、有菜が豹変したころだー。

「--嘘だと思うだろ?
 でもよ、これが本当だったんだよ!
 その女、その日から俺が念じたとおりに豹変してさ、
 夫に対してDVまがいのことを始めたんだよ!
 くくく…
 あんなに優しい女が豹変したんだよ!
 すげぇだろ?」

酔っ払いの男は笑う。

「---それは凄いですね。
 で、その女性の名前はどんな名前だったんですか?」
道義は尋ねた。

酔っ払いの男は笑いながら言った。

「たしかー、有菜ちゃんとか言ってたかな?
 会社も素行不良で首になったから、
 今、どうしてるのかしらねーけど」

酔っ払いは愉快そうにつぶやいた。

弟の婚約者、有菜はー
悪女だと思っていた。

しかしー、本当は・・・

道義は自虐的にほほ笑むと、
後ろを振り返った。

「お客さん…今からあなたには私のしもべに
 なってもらいます」

そう言うと、
道義は、不気味にほほ笑んだ。

おわり

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コメント

タクシードライバーのお話しでした!
解放されたかに見えた彼女たちが
どのような運命を辿ったのかは、ご想像にお任せします!

コメント

  1. 48グループオタク より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    僕は洗脳系好きなので、洗脳薬に反応しちゃいました(笑)ただ洗脳薬をネタにした小説読んでみたいです。2日連続になっちゃいますが…。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 僕は洗脳系好きなので、洗脳薬に反応しちゃいました(笑)ただ洗脳薬をネタにした小説読んでみたいです。2日連続になっちゃいますが…。

    洗脳モノ!
    いつになるかは分かりませんが、覚えておきます☆