山根兄弟のタクシーに乗った妻が、
まるで赤ん坊のようになってしまった。
正二と妻の摩子、二人の共通の友人でもある
伶香は、自らが山根兄弟のタクシーに乗って、
調べる役を買って出る…。
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「なんだって?」
正二は、パスタを食べるために持っていたフォークの手を
止めて、目の前にいる伶香を見た。
伶香は、同い年の23歳の女性で、
心優しく、穏やかな性格の持ち主だ。
正二とも、妻の摩子とも仲が良く、
女としてではなく、友達として、ずっと
仲良くしてきた、かけがえのない存在だ。
「--わたしが、その山根兄弟のタクシーっていうのに
乗ってみようか?」
伶香が言う。
この数か月間の調査で、
山根兄弟のタクシーに乗った”女性客の一部”が
明らかに乗る前と降りた後で別人になってしまったかのような
ケースが何回かあった。
正二は、疑問に思い、山根兄弟のタクシーを自ら
利用してみたが、何も起こらなかった。
そして、尾行を続けるうちに、
”容姿の良い女性だけ”が、山根タクシーに乗ると
豹変してしまうことを突き止めた。
「---…」
正二は黙り込む。
伶香は、とても可愛らしい容姿だ。
もしも、山根タクシーが女性たちに何かをしているなら、
伶香が乗れば、当然、餌食になる。
「--危険だ。ダメだ」
正二が言う。
すると、伶香が首を振った。
3人は幼馴染。
正二・摩子・伶香の3人でよく遊んだ。
伶香も、実は正二に好意があった。
しかし、あるとき、摩子から、正二に対する
恋愛感情の相談を受けて、
伶香は、思いを告げることなく、自らの恋を
終わらせたのだった。
「--わたしだって、摩子ちゃんが心配なの!」
伶香が言うと、
正二はため息をついた。
「--大丈夫。ボイスレコーダーと、小型のカメラを
持って行くから。
山根とかいう人が何かしてきたら、
スマホですぐに助けも求めるから!」
伶香が言った。
正二は、伶香の決意は固いことを悟り、
頷いた。
「わかったー。
でも、無理をするな。
何かあったらタクシーのドアをこじあけてでも脱出しろ。
それとー、
小型の盗聴器…これ持って、タクシーに乗ってくれるか?
俺も、車内での会話を聞きたいし、
伶香に何か危険なことがあったら、すぐに助けれるように…」
正二が言うと、伶香は
「分かった」と言ってほほ笑んだ。
盗聴器と無線機の機能を持つ、小型の端末を渡し、
正二は不安そうな表情を浮かべた。
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翌日。
伶香がおしゃれなミニスカート姿で、
山根タクシーを手配した。
「---」
正二は何かあったときの為に、
山根タクシーを尾行する。
「--……」
”何事も起きないでくれ”と願いながらも、
”妻がああなった真実を知りたい”と
正二は考えながら、
走り出した山根タクシーの尾行を始めた。
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「どちらまで?」
山根兄弟の兄・山根道義が
笑顔で尋ねる。
「--西地区のデパートまでお願いします」
伶香はそう言って、タクシーに目的地を告げた。
伶香はタクシーを見回す。
特に怪しいところは無い。
一見するとごく普通のタクシーだ。
このまま、何も起きなければ、
摩子の赤ん坊化は、このタクシーとは
何も関係が無いのかもしれない。
伶香はキョロキョロするのをやめて、
スマホで、背後から尾行している
正二に連絡をとった。
”タクシーに無事乗れたよ!
特に異常はないみたい”
と。
「---…」
運転をしている道義が不気味に微笑む。
タクシーの中を徘徊していた弟・正和の霊体が、
伶香がLINEでどんなやりとりをしていたか
見ていたのだ。
そして、一時的に道義に憑依した。
”兄貴、尾行されてるみたいだぜ。
この女は、俺たちのこと、探ろうとしてるようだな”
正和の霊体からその言葉を聞いた
道義は微笑んだ。
”そうか…
なら、アレで行こう”
道義が、頭の中の正和に語りかけると、
正和は”ラジャ”とだけ答えた。
「---御嬢さん、綺麗ですねぇ」
道義が微笑みながら言った。
「え?あ、はい、ありがとうございます」
普通の社交辞令だろうか。
伶香は、そう思いながら返事をした。
「--今、LINEをやられているみたいですね」
道義が言う。
「え?あ、あぁ、はい」
伶香は戸惑いながらもそう答えた。
覗かれた?
いや、そんなはずはない。
じゃあ、なんでこの運転手は、今、LINEをやっていたと
分かるのか。
そんな疑問が頭をよぎる。
「---私たちのこと、探っているのかな?」
道義が、穏やかな口調を捨てて言った。
「---えっ!?」
伶香が、青ざめた顔色で返事をした。
「--勘はするどいねぇ!
でもさ、そういうの、
飛んで火に入る夏のなんとか!って言うんだよねぇ!」
道義が叫ぶ。
伶香はタクシーから飛び出そうとした。
しかし…
「か…身体が…うごか…!」
伶香が恐怖に表情をゆがめる。
「---兄貴ィ、この女、
この前、赤ん坊にしてやった女の友達
みたいだぜ」
伶香がニヤリと笑いながら言った。
「え…え・・・ど、どうして、口が勝手に!」
「--そうかそうか」
運転している道義が言った。
「--あの女の友達と…
夫か!」
道義が、伶香から盗聴器を取り上げると、
盗聴器に向かって叫んだ。
背後から尾行していた正二は、
盗聴器から聞こえてくる音で、
異変を感じ取った。
「---くそっ!伶香!」
”おい、あんた!
余計なマネはするなよ!
これから、山根兄弟のスペシャルラジオドラマを
聞かせてやるよ!”
盗聴器越しに、山根道義の声が聞こえてくる。
「--何をするつもりだ!やめろ!」
正二が叫んだ。
”何をするつもりだ!やめろ!”
声が聞こえてくるー。
正二が仕掛けた無線機と盗聴器の機能を持った機器を
持ちながら道義は笑う。
「私たちはねぇ、人の人格を
作り変えることができるんだよ」
道義が言う。
”なんだと?”
唖然とした声の正二。
「--今から実演してあげよう。
君の大切な友人でな」
そう言うと、道義は盗聴器を置いて、
伶香の方を見た。
「--君はエッチなことは好きかい?」
道義が、伶香に尋ねる。
「な…私は…!」
伶香が顔を赤らめて反論しようとする。
しかし、口が勝手に動いた。
「はい…大好きです」
と。
それと同時に、憑依している正和が、
伶香の脳に
指令を送り込む。
”わたしはえっちな女”
”わたしはえっちな女”
何度も、繰り返し、伶香の脳に
刻み付けるように、念じて、
伶香の脳を書き換えていく。
「---あ・・・あ・・・」
伶香が色々なものが
交じり合った表情で、瞳を震わせている。
「もう一度聞くよ。
君はエッチなことは好きかい?」
道義が聞く。
今度は、正和ではなく、伶香自身が
自分の口を使って答えた。
「はい…大好きです」
伶香は満面の笑みで答える。
何の疑いもなく、
始めから、自分はそうであったと信じて。
”おい!おい!!!”
正二の声が無線越しに響き渡る。
後ろを尾行していた正二の車が
加速した。
タクシーを止める気だ。
「お~っと、変なマネはやめておきな。
この女も、赤ん坊みたいにしてやるぞ」
道義は言った。
”やっぱり、お前たちが、摩子に
何かしたのか!”
正二が叫ぶ。
「あぁ、あの子ね。
頭良さそうな理知的な雰囲気だったから、
赤ん坊に退行させてやったんだよ」
道義が笑う。
「理知的な大人の女性が、
赤ん坊のように無邪気にだぁ、だぁと言っている。
どうだい?興奮するじゃないか」
”貴様ぁ”
そこまで会話すると、
道義はタクシーを走らせながら続けた。
「君は、わたしたちのおもちゃだ。
そうだね?」
道義が言う。
”えっちな女”になってしまった伶香。
しかしながら、まだその部分を書き換えられただけだ。
「--ち、違うわ!私はあなたたちの
おもちゃなんかじゃない!」
伶香は自分の胸を触りながらそう答えた。
「---私は…」
伶香が、驚きの表情を浮かべる。
また、口が勝手に動いた。
「--私はあなたたちのおもちゃです。
あなたたちのために生きて、
あなたたちのためなら、何でもします」
伶香はそう言いながら、
脳にそう、言い聞かせて、
自分は山根兄弟のしもべであると
刻んでいく。
「---……」
伶香はうつろな目になって人形のように
後部座席に座っている。
「--君のこれまでの人生、
聞かせてくれるかい?」
道義が言うと、
伶香は自分の意思で、
自分の人生を語り始めた。
身長、体重、
スリーサイズ、
初めてのエッチ、
そして、正二のことが本当は好きだったこと
自分の恥ずかしい過去
自分の黒歴史
何もかもを、語っていく。
正二は、それを無線機越しに聞かされながら
絶望的な表情を浮かべる。
「そうかそうか。
君は後ろをついてきている男が好きなのか」
道義は笑った。
伶香は正二のことが好きだった。
けれど、友人である摩子の思いを知り、
自分は身を引いた。
「--くくく、これは楽しめそうだ」
道義はそう言うと、
伶香に憑依している正和に目で合図をした。
伶香はニヤッと笑う。
”わたしは本能のまま生きる”
”自分の欲望を抑えきれない”
”遠慮なんてしない”
伶香にそう刻み付けた。
伶香の身体がピクピクと震える。
そしてー
「--正和、もう抜けていいぞ」
そう言うと、伶香の身体がビクンと震えて、
正和はそのまま伶香から抜け出した
タクシーが近くの砂利道に入っていき、
停車した。
人気のない場所だ。
「---」
後からタクシーを追跡していた正二も
そこに入っていき、車を止める。
前のタクシーから人が出てきた。
伶香だ。
伶香は、欲情しきった表情をしている。
「--正二…」
伶香が虚ろな目で寄ってくる。
「伶香?大丈夫か?」
正二は不安そうに言う。
今までのタクシー内の会話を聞いていた。
だいじょうぶなわけがない。
でも、「大丈夫」という返事を聞きたかった。
しかし、伶香はいきなり抱き着いてきた。
「ねぇ、わたしを抱いて!
正二!ねぇ、わたしと一緒になって!」
飢えた女の表情で伶香が言う。
「おい、よせ!やめろ」
正二が伶香を振り払おうとする。
しかし伶香は叫んだ
「ねぇ!わたし、あなたのことが大好きなの!
正二を愛してる!
ずっとずっとずっと愛してた!
摩子になんかあなたを渡さない!
あなたはわたしのもの!」
伶香はそう言うと、正二に無理やりキスをした。
正二は慌ててそれを振り払う。
「伶香!しっりしてくれ!」
泣きそうな表情で正二は言う。
しかし、伶香はその場で服を脱ごうとし始めた。
エッチなことで頭がいっぱいになっている
伶香は、もう外でも中でも、自分がどこにいようと
関係なかった。
「わたしを滅茶苦茶にして!」
はぁ、はぁと言いながら伶香が言う。
ミニスカートが濡れだしている。
伶香の身体は、快感に溺れて、
身体から液体を垂れ流し始めていた。
「--くそっ!おい!!」
正二はタクシーの方に向かって叫んだ。
すると、中から
山根兄弟の兄・山根道義が笑いながら出てきた。
「---ほら、
ガールフレンドを抱いてあげなさい」
笑う道義。
「貴様ぁ!」
正二が叫ぶ。
そうこうしている間に伶香は服を脱ぎ捨てようとしている。
「やめろ!やめてくれ!なぁ!伶香!」
必死にその手を抑えて、
服を脱ぐのをやめさせようとする。
そんな様子を見て、道義は笑った。
「ーーわたしのおもちゃよ。
その男は、お前の愛を受け止めようとしない。
だったら、殺して、一つになりなさい」
道義がそう言うと、
伶香の目付きが変わり、
突然、正二の首をしめて、その場に押し倒した。
「や…やめ…」
正二が驚いて声を振り絞る。
「あぁ…正二…殺したいほどに、愛してる!」
伶香の目は正気を失っている。
「--くふふふふふふ」
正二の意識が遠のいていく。
そんな様子を、
タクシーに寄りかかりながら
一服している山根道義が、
嬉しそうに見つめていた。
そして、
道義は、自分のタクシーに立てかけてある一枚の
写真を見つめた。
自分と、弟の正和、そして女性が一人、写っている。
「--正和」
道義はそう呟くと、視線を、
正二と伶香に戻して、少し寂しそうに微笑んだ。
③へ続く
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タクシーの中でいたぶられるように
改変されていく女性たち!
次回が最終回です!
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