<憑依>タクシードライバー・山根②~改変~

山根兄弟のタクシーに乗った妻が、
まるで赤ん坊のようになってしまった。

正二と妻の摩子、二人の共通の友人でもある
伶香は、自らが山根兄弟のタクシーに乗って、
調べる役を買って出る…。

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「なんだって?」
正二は、パスタを食べるために持っていたフォークの手を
止めて、目の前にいる伶香を見た。

伶香は、同い年の23歳の女性で、
心優しく、穏やかな性格の持ち主だ。

正二とも、妻の摩子とも仲が良く、
女としてではなく、友達として、ずっと
仲良くしてきた、かけがえのない存在だ。

「--わたしが、その山根兄弟のタクシーっていうのに
 乗ってみようか?」

伶香が言う。

この数か月間の調査で、
山根兄弟のタクシーに乗った”女性客の一部”が
明らかに乗る前と降りた後で別人になってしまったかのような
ケースが何回かあった。

正二は、疑問に思い、山根兄弟のタクシーを自ら
利用してみたが、何も起こらなかった。

そして、尾行を続けるうちに、
”容姿の良い女性だけ”が、山根タクシーに乗ると
豹変してしまうことを突き止めた。

「---…」
正二は黙り込む。

伶香は、とても可愛らしい容姿だ。
もしも、山根タクシーが女性たちに何かをしているなら、
伶香が乗れば、当然、餌食になる。

「--危険だ。ダメだ」
正二が言う。

すると、伶香が首を振った。

3人は幼馴染。
正二・摩子・伶香の3人でよく遊んだ。

伶香も、実は正二に好意があった。
しかし、あるとき、摩子から、正二に対する
恋愛感情の相談を受けて、
伶香は、思いを告げることなく、自らの恋を
終わらせたのだった。

「--わたしだって、摩子ちゃんが心配なの!」
伶香が言うと、
正二はため息をついた。

「--大丈夫。ボイスレコーダーと、小型のカメラを
 持って行くから。
 山根とかいう人が何かしてきたら、
 スマホですぐに助けも求めるから!」

伶香が言った。

正二は、伶香の決意は固いことを悟り、
頷いた。

「わかったー。
 でも、無理をするな。
 何かあったらタクシーのドアをこじあけてでも脱出しろ。
 
 それとー、
 小型の盗聴器…これ持って、タクシーに乗ってくれるか?
 俺も、車内での会話を聞きたいし、
 伶香に何か危険なことがあったら、すぐに助けれるように…」

正二が言うと、伶香は
「分かった」と言ってほほ笑んだ。

盗聴器と無線機の機能を持つ、小型の端末を渡し、
正二は不安そうな表情を浮かべた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

伶香がおしゃれなミニスカート姿で、
山根タクシーを手配した。

「---」
正二は何かあったときの為に、
山根タクシーを尾行する。

「--……」
”何事も起きないでくれ”と願いながらも、
”妻がああなった真実を知りたい”と
正二は考えながら、
走り出した山根タクシーの尾行を始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どちらまで?」
山根兄弟の兄・山根道義が
笑顔で尋ねる。

「--西地区のデパートまでお願いします」
伶香はそう言って、タクシーに目的地を告げた。

伶香はタクシーを見回す。
特に怪しいところは無い。
一見するとごく普通のタクシーだ。

このまま、何も起きなければ、
摩子の赤ん坊化は、このタクシーとは
何も関係が無いのかもしれない。

伶香はキョロキョロするのをやめて、
スマホで、背後から尾行している
正二に連絡をとった。

”タクシーに無事乗れたよ!
 特に異常はないみたい”

と。

「---…」
運転をしている道義が不気味に微笑む。

タクシーの中を徘徊していた弟・正和の霊体が、
伶香がLINEでどんなやりとりをしていたか
見ていたのだ。

そして、一時的に道義に憑依した。

”兄貴、尾行されてるみたいだぜ。
 この女は、俺たちのこと、探ろうとしてるようだな”

正和の霊体からその言葉を聞いた
道義は微笑んだ。

”そうか…
 なら、アレで行こう”

道義が、頭の中の正和に語りかけると、
正和は”ラジャ”とだけ答えた。

「---御嬢さん、綺麗ですねぇ」
道義が微笑みながら言った。

「え?あ、はい、ありがとうございます」
普通の社交辞令だろうか。
伶香は、そう思いながら返事をした。

「--今、LINEをやられているみたいですね」
道義が言う。

「え?あ、あぁ、はい」
伶香は戸惑いながらもそう答えた。

覗かれた?
いや、そんなはずはない。
じゃあ、なんでこの運転手は、今、LINEをやっていたと
分かるのか。

そんな疑問が頭をよぎる。

「---私たちのこと、探っているのかな?」
道義が、穏やかな口調を捨てて言った。

「---えっ!?」
伶香が、青ざめた顔色で返事をした。

「--勘はするどいねぇ!
 でもさ、そういうの、
 飛んで火に入る夏のなんとか!って言うんだよねぇ!」

道義が叫ぶ。

伶香はタクシーから飛び出そうとした。
しかし…

「か…身体が…うごか…!」
伶香が恐怖に表情をゆがめる。

「---兄貴ィ、この女、
 この前、赤ん坊にしてやった女の友達
 みたいだぜ」

伶香がニヤリと笑いながら言った。

「え…え・・・ど、どうして、口が勝手に!」

「--そうかそうか」
運転している道義が言った。

「--あの女の友達と…
 夫か!」

道義が、伶香から盗聴器を取り上げると、
盗聴器に向かって叫んだ。

背後から尾行していた正二は、
盗聴器から聞こえてくる音で、
異変を感じ取った。

「---くそっ!伶香!」

”おい、あんた!
 余計なマネはするなよ!
 これから、山根兄弟のスペシャルラジオドラマを
 聞かせてやるよ!”

盗聴器越しに、山根道義の声が聞こえてくる。

「--何をするつもりだ!やめろ!」
正二が叫んだ。

”何をするつもりだ!やめろ!”

声が聞こえてくるー。
正二が仕掛けた無線機と盗聴器の機能を持った機器を
持ちながら道義は笑う。

「私たちはねぇ、人の人格を
 作り変えることができるんだよ」
道義が言う。

”なんだと?”
唖然とした声の正二。

「--今から実演してあげよう。
 君の大切な友人でな」

そう言うと、道義は盗聴器を置いて、
伶香の方を見た。

「--君はエッチなことは好きかい?」
道義が、伶香に尋ねる。

「な…私は…!」
伶香が顔を赤らめて反論しようとする。

しかし、口が勝手に動いた。

「はい…大好きです」

と。

それと同時に、憑依している正和が、
伶香の脳に
指令を送り込む。

”わたしはえっちな女”
”わたしはえっちな女”

何度も、繰り返し、伶香の脳に
刻み付けるように、念じて、
伶香の脳を書き換えていく。

「---あ・・・あ・・・」
伶香が色々なものが
交じり合った表情で、瞳を震わせている。

「もう一度聞くよ。
 君はエッチなことは好きかい?」
道義が聞く。

今度は、正和ではなく、伶香自身が
自分の口を使って答えた。

「はい…大好きです」
伶香は満面の笑みで答える。

何の疑いもなく、
始めから、自分はそうであったと信じて。

”おい!おい!!!”

正二の声が無線越しに響き渡る。

後ろを尾行していた正二の車が
加速した。
タクシーを止める気だ。

「お~っと、変なマネはやめておきな。
 この女も、赤ん坊みたいにしてやるぞ」

道義は言った。

”やっぱり、お前たちが、摩子に
 何かしたのか!”

正二が叫ぶ。

「あぁ、あの子ね。
 頭良さそうな理知的な雰囲気だったから、
 赤ん坊に退行させてやったんだよ」

道義が笑う。

「理知的な大人の女性が、
 赤ん坊のように無邪気にだぁ、だぁと言っている。
 どうだい?興奮するじゃないか」

”貴様ぁ”

そこまで会話すると、
道義はタクシーを走らせながら続けた。

「君は、わたしたちのおもちゃだ。
 そうだね?」

道義が言う。

”えっちな女”になってしまった伶香。
しかしながら、まだその部分を書き換えられただけだ。

「--ち、違うわ!私はあなたたちの
 おもちゃなんかじゃない!」

伶香は自分の胸を触りながらそう答えた。

「---私は…」
伶香が、驚きの表情を浮かべる。
また、口が勝手に動いた。

「--私はあなたたちのおもちゃです。
 あなたたちのために生きて、
 あなたたちのためなら、何でもします」

伶香はそう言いながら、
脳にそう、言い聞かせて、
自分は山根兄弟のしもべであると
刻んでいく。

「---……」
伶香はうつろな目になって人形のように
後部座席に座っている。

「--君のこれまでの人生、 
 聞かせてくれるかい?」
道義が言うと、
伶香は自分の意思で、
自分の人生を語り始めた。

身長、体重、
スリーサイズ、
初めてのエッチ、
そして、正二のことが本当は好きだったこと

自分の恥ずかしい過去
自分の黒歴史

何もかもを、語っていく。

正二は、それを無線機越しに聞かされながら
絶望的な表情を浮かべる。

「そうかそうか。
 君は後ろをついてきている男が好きなのか」

道義は笑った。

伶香は正二のことが好きだった。
けれど、友人である摩子の思いを知り、
自分は身を引いた。

「--くくく、これは楽しめそうだ」
道義はそう言うと、
伶香に憑依している正和に目で合図をした。

伶香はニヤッと笑う。

”わたしは本能のまま生きる”
”自分の欲望を抑えきれない”
”遠慮なんてしない”

伶香にそう刻み付けた。

伶香の身体がピクピクと震える。

そしてー

「--正和、もう抜けていいぞ」
そう言うと、伶香の身体がビクンと震えて、
正和はそのまま伶香から抜け出した

タクシーが近くの砂利道に入っていき、
停車した。

人気のない場所だ。

「---」
後からタクシーを追跡していた正二も
そこに入っていき、車を止める。

前のタクシーから人が出てきた。
伶香だ。

伶香は、欲情しきった表情をしている。

「--正二…」
伶香が虚ろな目で寄ってくる。

「伶香?大丈夫か?」
正二は不安そうに言う。

今までのタクシー内の会話を聞いていた。
だいじょうぶなわけがない。

でも、「大丈夫」という返事を聞きたかった。

しかし、伶香はいきなり抱き着いてきた。

「ねぇ、わたしを抱いて!
 正二!ねぇ、わたしと一緒になって!」

飢えた女の表情で伶香が言う。

「おい、よせ!やめろ」
正二が伶香を振り払おうとする。

しかし伶香は叫んだ

「ねぇ!わたし、あなたのことが大好きなの!
 正二を愛してる!
 ずっとずっとずっと愛してた!

 摩子になんかあなたを渡さない!
 あなたはわたしのもの!」

伶香はそう言うと、正二に無理やりキスをした。

正二は慌ててそれを振り払う。

「伶香!しっりしてくれ!」
泣きそうな表情で正二は言う。

しかし、伶香はその場で服を脱ごうとし始めた。
エッチなことで頭がいっぱいになっている
伶香は、もう外でも中でも、自分がどこにいようと
関係なかった。

「わたしを滅茶苦茶にして!」
はぁ、はぁと言いながら伶香が言う。

ミニスカートが濡れだしている。
伶香の身体は、快感に溺れて、
身体から液体を垂れ流し始めていた。

「--くそっ!おい!!」
正二はタクシーの方に向かって叫んだ。

すると、中から
山根兄弟の兄・山根道義が笑いながら出てきた。

「---ほら、
 ガールフレンドを抱いてあげなさい」

笑う道義。

「貴様ぁ!」
正二が叫ぶ。

そうこうしている間に伶香は服を脱ぎ捨てようとしている。

「やめろ!やめてくれ!なぁ!伶香!」
必死にその手を抑えて、
服を脱ぐのをやめさせようとする。

そんな様子を見て、道義は笑った。

「ーーわたしのおもちゃよ。
 その男は、お前の愛を受け止めようとしない。
 だったら、殺して、一つになりなさい」

道義がそう言うと、
伶香の目付きが変わり、
突然、正二の首をしめて、その場に押し倒した。

「や…やめ…」
正二が驚いて声を振り絞る。

「あぁ…正二…殺したいほどに、愛してる!」
伶香の目は正気を失っている。

「--くふふふふふふ」
正二の意識が遠のいていく。

そんな様子を、
タクシーに寄りかかりながら
一服している山根道義が、
嬉しそうに見つめていた。

そして、
道義は、自分のタクシーに立てかけてある一枚の
写真を見つめた。

自分と、弟の正和、そして女性が一人、写っている。

「--正和」
道義はそう呟くと、視線を、
正二と伶香に戻して、少し寂しそうに微笑んだ。

③へ続く

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タクシーの中でいたぶられるように
改変されていく女性たち!
次回が最終回です!

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