束縛の苦しさを千奈津に憑依して、
法二に刻み付けた尚登。
法二も、尚登が束縛されていることをからかっていた件を
反省し、二人は和解した。
けれど、想定外の出来事が起きる・・・。
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「それで、千奈津の身体は返してくれるんだよな?」
法二の言葉に、千奈津はうなずく。
「もちろんだよ・・・
千奈津ちゃんにも、悪いことをしらからな・・・。
でも、それだけお前の態度に腹が立ってたんだ」
男言葉を話す千奈津を見て、
法二はなんだか笑ってしまった。
「中身が違うだけで、本当に別人見たく見えるよ」
千奈津の束縛が、千奈津本人の意思じゃないと知り、
法二は安心していた。
一瞬、千奈津がどうしてしまったのかと、
本気で困惑したからだ。
「--自宅に憑依薬の本体が置いてあるから、
一旦帰って、千奈津ちゃんから出るわ」
千奈津が言う。
千奈津に憑依した後、憑依薬の本体は、
千奈津の自宅の方に移しておいた。
あとは、家に戻り、千奈津の部屋で、
千奈津を解放するだけだ。
「--わかった」
法二が頷く。
「じゃ」
と言って、出て行こうとする千奈津を法二は呼び止める。
「そういや…千奈津の身体で変なことしてないよな?」
法二が言うと、
千奈津は顔を赤らめて「し、、してねぇよ!」と叫んだ。
法二は、千奈津のホットパンツ姿を見て、苦笑いする。
「そんな、派手な格好させておいて?」
「--ち、ちがっ!動きやすかったんだよ!」
そう言うと、千奈津は顔を真っ赤にしたまま
立ち去って行った。
「--ふぅ」
一人になった法二はため息をついた。
「とりあえず、良かった・・・」
また、明日からは千奈津といつもの日常を
送ることになる。
本当に、良かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千奈津の自宅に戻った千奈津は、
憑依薬の説明書を開いた。
憑依薬の効力を消すための方法は、
出品者にお問い合わせください、と書かれている。
「--なんだよ、面倒くさいな」
千奈津はそう呟きながら、
テレビをつける。
何気なくニュースを見つめながら、
オークションで憑依薬を出品していた出品者・愛染に
連絡を入れた。
「--あの、先日、憑依薬を落札したものなのですが、 そろそろ元の身体に
戻りたいのですけど」
千奈津の声で、出品者の愛染に言う。
しかしーー
「元の身体に戻る?
そうやって?人の身体を弄んで、
ごみのように捨てる?
良くないですよ、そういうの」
電話相手の青年はそう言った。
「--ち、違いますよ!
俺はただ、友達をちょっと懲らしめようと・・・!」
千奈津の中にいる尚登は慌てて叫んだ。
「と、とにかく、元に戻る方法を教えてください!
この子の身体を返さなきゃいけないんです!」
可愛らしい声で叫ぶー
だが、電話相手の愛染は無情だった。
「--女の子の身体を道具のように使って
友達を懲らしめた・・・
そういうことですね。
どいつもこいつも、お前みたいなやつばかりだ!
元に戻る方法?
そんなものはありませんよ。
君は、一生、その女の子から抜け出せないー。
奪ったことを後悔し、一生を生きるんだ!」
出品者の愛染が、脅す様な声で言った。
「-ふ、ふざけるな!俺は・・・!」
千奈津が叫ぶと、
愛染は言った。
「ノークレーム、ノーリターンでお願いしますよ。
それと・・・これ以上余計な事をするなら、
僕の持つ憑依薬で、君の人生や、君の周りの人生が
とんでもないことになるので、お忘れなく」
それだけ言うと、愛染は電話を切った。
「--う・・・嘘だ・・・
嘘だ・・・元の身体に、、戻れないなんて」
唖然として千奈津はその場に膝をついた。
そしてー
ニュースで衝撃の映像が流れていたー
市内の男子高校生、自宅で変死ーと。
死亡したのは、古井 尚登(ふるい なおと)ーー
「---えっ・・・」
千奈津は唖然とした。
古井 尚登---
つまり、自分だ。
「うそ・・・」
自分の身体は死んでしまった。
もう、戻るべき身体がない。
人の身体を奪って、
法二に仕返しをしようなどと考えた
自分がバカだったのか。
尚登は酷く後悔した。
「--こうなったら」
千奈津は呟く。
「千奈津ちゃん!聞いてくれ!
今から君に身体を返す!」
心に向かって叫んだ。
何度か、千奈津の声が聞こえていた。
だからー
なんとか、千奈津に肉体の主導権を
返すことができるかもしれない。
自分は消えてもいい。
けれどー
千奈津をこのままにしておくことは、ゼッタイに出来ない。
これは、千奈津の身体なのだからー。
だが、返事がない。
「おい!千奈津ちゃん!」
何度も、何度も、叫んだ。
それでも、千奈津の意識からの返事はない。
尚登はハッとする。
「---うるせぇよ!お前の身体は今、
俺のものなんだ!
引っ込んでやがれ!」
まさかー
千奈津の意識を、俺が消してしまった・・・。
「---うっ…うわあああああ!」
千奈津はその場でパニックを起こした。
自分の身体の死ー。
そして、千奈津の意識の消滅。
「ど、、どうすれば・・・どうすればいいんだ・・・!」
千奈津はその場で涙を流した。
千奈津を消してしまったー。
自分の身体が死んでしまったー。
まさか、”軽い気持ちで購入した憑依薬”が
こんな結果を招くなんて・・・
尚登は、そのまま放心状態になってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「おはよう…法二」
千奈津が、法二のところにやってきた。
「あ、おはよう…」
法二は思う。
法二も、千奈津も暗い顔をしていた。
何故ならー、
昨日まで千奈津に憑依していた尚登が、
自宅で変死しているニュースを知ったからだ。
「尚登…」
法二は思う。
きっと、尚登は、千奈津から抜け出して、
身体に戻るときに何か失敗して死んでしまったのだ、と。
「--僕のせいなのか…」
法二は呟く。
尚登が束縛されていることを、からかったりさえしなければ
尚登は、千奈津に憑依して、束縛の恐怖を味あわせてやろうだ
なんて思わなかったはずだ。
だからー
尚登が死んでしまったのは…。
「--法二…」
千奈津が悲しそうにつぶやく。
その表情は、いつもの千奈津だ。
尚登は約束通り、千奈津から抜け出したのだろう。
だが、千奈津はどこまで知っている?
自分が憑依されていたことを知っているのか?
「--お前が居なきゃ、わかんないじゃないか…」
法二は呟いた。
千奈津が法二の手を握って言う。
「--ぜんぶ、古井くんが教えてくれた…
わたしが憑依されてたことも…
法二に酷いことしたことも…
迷惑かけてごめんね」
千奈津が悲しそうに言う。
法二は「ううん、僕のせいで、巻き込んで、ごめん」
法二がお詫びの言葉を口にすると、
千奈津は一言付け加えた。
「去り際に、古井くんが、言ってた…」
千奈津は、尚登からの伝言を法二に告げた。
「”俺の自業自得だ、俺のことは気にすんな”って…」
千奈津の言葉を聞いて、
法二は、悲しそうにうなずいた。
「--尚登…」
尚登とは、昔からの親友だった。
悪友のような間柄だったが、大切な友達だった。
その、尚登が、居なくなってしまった。
「ーーごめん。僕が、束縛をからかったせいで…」
法二は、悲しそうに涙を流し続けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼休み
千奈津は、ふと、廊下の隅っこで泣いている
女子生徒を見つけた。
死んだ尚登の彼女だった
束縛女子・湯浅 薺(ゆあさ なずな)ー。
彼女が、人気のない場所で、一人、泣いていた。
「---尚登・・・縛り付けてばっかで
ごめんね・・・」
薺は大粒の涙をこぼしている。
「--帰ってきてよ・・・
帰ってきたらわたし・・・ちゃんとするから・・・
もう、束縛したり、しないから・・・」
千奈津は、廊下の隅で背を向けて泣きじゃくる
薺に声をかけようとした。
しかしーー。
声をかけることはできなかった。
自分はーーー
”自分はもう、千奈津なのだからー”
昨夜、
憑依薬の出品者・愛染に告げられた事実を知り、
尚登は、千奈津の身体から抜け出せないことを知った。
そして、千奈津の意識は、無理やり支配したせいで、
消えてしまっていたこともー。
千奈津の記憶が全部、流れ込んできたのがその証拠だろう。
自分の身体は死んだー。
もう、元には戻れない。
千奈津も消えてしまった。
どうするー?
尚登は、決意した。
死んだのは、オレ(尚登)だと。
奪ってしまった千奈津の人生。
償おうとしても、償いきれない。
なら、せめてー
千奈津の周囲の人間を悲しませることがあってはならないー
自分自身が千奈津として、
生きるー。
永遠に、千奈津としてー。
それが、罰なのかもしれない。と。
尚登は、尚登であることを捨てて、
千奈津として生きることを決意した。
「-俺は・・・もう、尚登じゃない」
鏡の前で呟く千奈津。
「---わたしは・・・わたしは・・・千奈津・・・」
悲しそうに、千奈津はそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後。
千奈津は、一人、下校しながら涙をこぼしていた。
身体を奪った罪悪感。
尚登として生きていくことがもうできない悲しみ。
自分の両親や友達は悲しんでいるのだろうかという後悔。
「---千奈津?」
背後から、声がした。
「----法二」
振り向くと、尚登にとって親友のーー
いや、”今”は彼氏の、法二が居た。
「----法二・・・わたし・・・」
色々な思いが込み上げてきて
千奈津は法二に抱き着いた。
法二は少しだけ悲しそうな顔をすると、
千奈津を優しく抱きしめた。
何か、とても複雑そうな表情を浮かべながらー。
おわり
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コメント
今日はいつもより少し遅い時間の投稿になりました!
束縛彼女は今日で完結です!
お読み下さりありがとうございました!!

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