優しかった彼女が、突然豹変した。
異常なまでの束縛。
彼氏である法二は、恐怖におびえる日々を送ることになる。
常軌を逸脱した束縛から抜け出すことはできるのか。
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昼休み。
「ねぇ、法二さ…」
千奈津が机に寄ってきた。
「--、、あ、千奈津。どうしたの?
今日も一緒に昼ごはん、買いに行く?」
法二と千奈津は、よく、昼休みに
購買部で売っているパンを買いに行っていた。
「---そんなことはどうでもいいの。
ねぇ、2時間目の理科の授業の時、
安久津さんと楽しそうに話をしていたよね?」
千奈津が言う。
理科の授業は班ごとに実験を行った。
別に、やましい気持ちから楽しそうに話をしていたわけではなく、
普通に話をしていただけだ。
「--楽しそうにって…
別に、ただ普通に実験していただけだよ」
法二が言うと、
千奈津が机を思いっきり叩いた。
「--浮気するつもりでしょ?」
千奈津の声に、周囲が少し驚いた様子で
千奈津の方を見る。
「う…浮気?じょ、冗談じゃないよ!
僕は千奈津一筋だってば!」
そう言うと、千奈津は疑いの目で法二を見た。
「--ふ~ん、じゃあ、他の女子とは
喋らないでよ。
でなきゃ、私、許さないから!」
睨む千奈津。
法二は戸惑う。
「ど、どうしたんだよ…千奈津…!」
千奈津は低い声で言った。
「私が嫌な気持ちになるの。
そういうことは絶対しないで」
押し切られるようなカタチで、
法二はしぶしぶうなずいた。
今日の千奈津はなんだか変だ。
生理か?それともただの不機嫌か?
これじゃあ、尚登に笑われてしまう。
悪友でもある尚登は、彼女に束縛されている。
昨日、その束縛のことで、尚登をからかったばかりだ。
幸い、今日は尚登は風邪をひいて、休んではいるけれど…。
「どうしたんだろう…」
法二は、そう呟かずには居られなかった。
放課後ー
千奈津と一緒に帰ってはいるものの、
いつものように明るい雰囲気ではない。
なんとなく、重ぐるしい雰囲気を感じる。
「さて…」
千奈津が言った。
トレードマークのポニーテール姿でもないせいだろうか。
なんだか、今日の千奈津には、とにかく違和感を感じてしまう。
「--見せて」
千奈津が手を出した。
「--え…?」
戸惑う法二。
「--スマホ。確認するから」
千奈津が愛想なく言う。
「--や、、やめてよ!朝みたばっかじゃんか!」
法二が反論した。
千奈津の中に居る尚登は思う。
”ほ~ら!やっぱり束縛にうんざりし始めた”と。
「ーー見せられないの?ふ~ん、
そうなんだ。 へぇ~」
上目遣いで法二を見ながら言う千奈津。
法二は「わ、、分かったよ!見せりゃいいんだろ!」
と不貞腐れたように言って、スマホを手渡した。
「---誰これ」
千奈津が鬼のような声で言う。
「え、誰って…?」
千奈津が指摘したのは、
中学時代の部活の後輩で、
今も時々連絡を取っている子だった。
別にやましいことは何もないし、
千奈津も連絡を取り合っていることを
しっているはずだった。
「---こ、これは千奈津だって
知ってるじゃないか!」
法二が言うと、千奈津は不愉快そうに
呟いた。
「--LINE、ブロックしておくね。
連絡先も消すから」
千奈津のあまりに強引な
態度に、法二は腹が立っていった。
「--なんだよ!なんなんだよ!
今日の千奈津、なんかおかしいよ!
何だよ!僕のこと、まるで束縛するかのような
ことばっかりして!」
法二が叫ぶ。
千奈津は微笑んだ。
「そうよ。わたし、法二のこと、
束縛することにしたの」
「---え?」
法二は、凍りつくような思いで
千奈津の顔を見た。
「--あなたは、わたしだけのもの・・・
他の女と話すなんて、許せない」
千奈津の表情が狂気に染まっている。
「--ち、千奈津・・・
ぼ、僕、何か悪いことした?」
法二が焦る。
千奈津の今日の態度はどう考えてもおかしい。
何かー、
何か、千奈津にとって、癪に障ることを
してしまったのだろうか。
「--したわよ」
千奈津は言うー
千奈津に対してでは、ない。
千奈津の中に憑依している尚登にとっては、
癪に障ったのだ。
束縛の辛さを知らず、
ネタにしてからかうような法二に。
「---ご、ごめん…あ、謝るから…」
法二が申し訳なさそうに言う。
心当たり何て、ないくせに。
「--許さない」
千奈津は、法二を睨みつけた。
「---これから、法二は、私だけのもの。
逃がさないし、他の女と関わったら、ゼッタイに許さない」
憑依している尚登もゾクゾクしてしまうほどに
怖い声が出た。
表情もきっと、恐ろしく冷たいものになっているだろう。
あの優しい千奈津にこんな声が出せるなんて…。
「----う、、、、うん…」
法二は委縮したのか、黙りこんでしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
法二とは別れ、家に向かっている最中に
頭の中から再び声がした。
”ねぇ!!!やめてよ!
どうしてあんなことするの!?
ねぇ、わたしの身体を返して!”
意識を取り戻したのか。
頭の中で千奈津の意識の声がする。
「---あと少しで終わらせるから。
ちょっとの間、静かにしててくれよ」
そう言うと、千奈津が叫んだ
”ふざけないでよ!
法二が可哀想だよ!!
やめてよ!!”
千奈津が喚く。
「--うるせぇよ」
低い声で呟いた。
そして、頭の中で
”邪魔だ、失せろ”と強く念じた。
”や、、、な、何これ?やめて、助けて…!”
心の奥底に幽閉している千奈津に
何が起きているのかは知らないが、
少しの間、黙っていてもらう必要がある。
「---うるせぇよ!お前の身体は今、
俺のものなんだ!
引っ込んでやがれ!」
そう叫ぶと、
”いやぁああああ!”という悲鳴が聞こえて、
頭の中の千奈津の声は消えた。
「--ふふふ、静かになった」
そう言うと、千奈津は笑顔を浮かべながら
自宅へと戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー。
法二は、妹と雑談したあとに、部屋に戻った。
すると、千奈津からLINEが届いた。
”今の女、誰よ?”
「-----!?」
法二は恐怖におびえた。
どういうことだ?
妹と話をした直後に、このLINE。
千奈津が、どこかで見ているのか?
”え、、い、、妹だよ”
と慌ててLINEで連絡を返す。
すると
”許さないって言ったよね?
わたしのことだけを見て。
あなたの女はわたしだけ”
と、返事が返ってきた。
「---な、何なんだよ…」
法二は怯えきった様子で、
周囲を見回した。
”あなたのこと、ずっと見てるから…
あなたが好き…大好き…!
好き!好き!好き!好き!”
千奈津はどうしてしまったのか。
法二はLINEを見ながら怯えきった様子で
震えた。
着信が入る。
千奈津の名前が表示される。
思わず、法二は千奈津からの着信を無視した。
「--な、何なんだよ…なんなんだよ!!」
蹲って怯える法二。
しつこい着信。
それらを、全て無視する法二。
ふと、自分の鞄に何かがついているのを見つける。
”盗聴器”
「--な、なんだこれ・・・
ち、千奈津がつけたのか…」
”あ~あ、ばれちゃった♡”
ちょうど、千奈津からLINEが届いた。
「ふ…ふざけんな!」
法二が盗聴器をムキになって
叩き壊す。
ピンポーン
自宅のインターホンが鳴った。
法二の母がそれに応じる。
「あ、お母さん、法二くんいらっしゃますか?」
千奈津の声ー。
夜の19時だと言うのに、
母は、千奈津を家にあげた。
法二にとって初めての彼女である
千奈津は、母とも仲が良かった。
部屋の扉が開く。
「おじゃましまぁ~す」
歪んだ笑みを浮かべた千奈津が入ってきた。
ホットパンツ姿で、脚を大胆に魅せつけているー。
いつもとは、違う雰囲気。
それに、トレードマークのポニーテールでもないから、
さらに違和感を感じる。
「---ふ、、、ふざけるなよ!!
千奈津!僕だって怒るときは怒るよ!」
法二が叫ぶ。
しかし、千奈津はそのまま法二に近寄ってきて、
法二の胸倉をつかんだ。
「束縛されるの、怖い?」
微笑みながら聞く千奈津。
「--な、、なんなんだよ…
今日の千奈津…変だよ…
なんなんだよ」
法二は怯えるあまり、目に涙が浮かんでいる。
「--私、法二のこと大好きなの…
だ・か・ら、
私が法二の全てを管理するの」
千奈津の歪んだ笑みを見名ながら、
法二は怯えることしかできなかった。
「これから毎日、2回のスマホチェック。
夜寝る前には、電話でお話し。
あと、心配だから、盗聴もさせてもらうね?
それに、スマホの位置情報チェック」
淡々と言う千奈津。
どう考えてもおかしい。
「---狂ってるよ!!」
法二が泣き叫ぶようにして言う。
「もういいよ!お別れだ!!
千奈津と一緒になんかなれない!」
法二が叫んだ。
すると、千奈津は舌打ちをして、
突然服をはだけさせた。
「--な、何をするんだよ!」
千奈津は下着を曝け出して笑う。
そして、千奈津はわざと髪の毛を
掻き毟るようにしてボサボサにした。
「--ねぇ、法二?
いま、わたしがこの姿で、
泣きながら部屋の外に
出ていったらどうなるかな?
法二くんのお母さんに
”助けてください”って言ったら
どうなるかな?」
千奈津が意地悪そうに笑う。
「---や…やめろよ…!」
法二が涙をこぼしながら言う。
「ふふふ…♡ 試してみよっか?」
千奈津が部屋の外の方を見る。
「---や、やめて、、やめてよ!やめて!」
法二はたまらず土下座した。
すると、千奈津は法二の手を踏みつけた。
「--ごめんなさいは?」
千奈津が言う。
「--な、、何に対して怒ってるのか…
わかんないよ…」
法二が言う。
千奈津はため息をついた。
憑依している尚登は思う。
”もう、そろそろいいか”と。
「----束縛されている尚登くんに
ごめんなさいは?」
千奈津がそう言うと、
法二は顔をあげた。
「えっ…?」
不思議そうに言う法二に、千奈津は言う。
「---束縛されている尚登くんのこと、
よくからかってたよね?
これで、束縛される辛さ、わかったでしょ?
ほら、尚登くんに、ごめんなさいは?」
千奈津が言うと、
法二は訳も分からず
「ご、、ごめんなさい」と謝罪した。
すると、千奈津は突然安心したように笑って言った。
「--はは、もういいよ。終わりだ。
法二、実は俺、尚登なんだよ」
突然男言葉で話し出す千奈津。
「え…?」
驚く法二に、千奈津は憑依薬と、
千奈津に憑依した理由を話した。
法二は怒るかと思っていたが、
自分も悪いと思ったのか、
怒らなかった。
「--ごめん…
でも、もういいだろ…?
そろそろ千奈津を返してくれよ」
法二が言うと、
千奈津に憑依している尚登はうなずいた。
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その頃ー
尚登の家で横たわっている
尚登の身体は、
憑依薬に隠された成分で、急速に
細胞を破壊されーーー
間もなく息絶えようとしていたーー。
③へ続く
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コメント
束縛の恐怖を教えるために憑依した尚登くん。
もう、法二のことを許したみたいですが、
彼の身体は大変なことに・・・?
続きは明日です!
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