心優しい彼女ー。
いつも、楽しい日々を過ごしていた。
けれどー
ある日を境に、彼女は変わった。
彼氏を、異常なまでに、束縛するようになったのだ…
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高校に通うごく普通の高校生、
原本 法二(はらもと ほうじ)は、
今日も、彼女の平川 千奈津(ひらかわ ちなつ)と
談笑していた。
千奈津は、ポニーテールがよく似合う、
可愛らしい感じの女子生徒だ。
「--へ~そうなんだ」
千奈津が、法二の何気ない話を聞いて、
相槌を打つ。
「それでさ、僕は遠慮することになっちゃってさ」
法二が、苦笑いしながら言う。
家での出来事ー。
妹の我儘に振り回されてしまった話を
笑いながら、彼女の千奈津に話していた。
「でも羨ましいな」
千奈津が言う。
「わたし、兄弟とか居ないから、
そういうお兄ちゃんと妹のやりとりみたいなの、
ちょっとうらやましい!」
千奈津の言葉に、法二は首を振りながら笑う。
「ぜ~んぜん、羨ましく何てないよ!
3日で鬱陶しくなるって!」
法二が言うと、千奈津は微笑んだ。
千奈津は妹の、陽伊奈(ひいな)と違って、
とても心優しい子だ。
陽伊奈とは正反対だからこそ、
惹かれたのかもしれない。
「あ、ごめん、わたし、先生に実行委員会の
ことで相談しにいかなくちゃいけないんだった!」
千奈津が笑いながら席から立ち上がる。
「あ~大変だね。文化祭実行委員会も」
法二が言うと、「ま、楽しいからいいんだけどネ!」と
千奈津は笑いながら立ち去って行った。
「--よぅ」
背後から声がして、振り向くと、
そこにはクラスメイトの古井 尚登(ふるい なおと)が居た。
「---あ、尚登じゃん。何か用?」
法二は、尚登と小学生時代からの付き合いだった。
「いいよな、お前の彼女は」
尚登が、教室から出て行った千奈津の方を見ながら言う。
「--はは、でも、尚登にも彼女、居るんじゃんか」
法二が言うと、
尚登は舌打ちした。
「あいつ、束縛が激しいんだよ。
他の女子と喋っただけで、殴られたこともあるんだぜ」
尚登の言葉に、法二は苦笑いする。
尚登の彼女、
隣のクラスの女子生徒・湯浅 薺(ゆあさ なずな)は
可愛いのだが、嫉妬深く、非常に陰険な性格の持ち主だ。
「尚人がもっとしっかりすればいいんだよ」
法二が何気なく言う。
「--しっかりって、お前ナァ、俺だって十分に…」
尚登が言うと、法二は続けた。
「彼女にはもっと優しくしなきゃ!
そうすれば、きっと、湯浅さんも分ってくれるはずだよ!」
法二に悪気はないー
けれど、尚登は束縛の苦労を知らない法二に
腹が立った。
「--お前は知らねぇんだよ。束縛の怖さを」
尚登が言うと、法二は笑いながら言った。
「僕は尚人とは違うからね!
束縛なんて怖くないし、ぜ~んぜん大丈夫だよ!」
軽い気持ちで言う法二。
尚登はイライラしながら言った。
「じゃあなんだよ、千奈津ちゃんに束縛されても
お前は平気だってのかよ」
尚登の言葉に法二は頷いた。
「束縛に悩むなんて、女の子じゃないんだし、
尚登ももっと頑張りなって!」
法二が無邪気に笑いながら言った。
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その放課後、
薺にスマホチェックをされながら、
尚登は思う。
「--俺が何も努力していないみたいに言いやがって」
「え?」
薺が不思議そうに聞き返すと
尚登は「なんでもねぇよ!」とつぶやいた。
帰宅した尚登は、
引出からとあるモノを取り出した。
”憑依薬”
”束縛なんて、怖くない”
法二の言葉を思い出す。
「--なら、味あわせてやるよ。
お前に、束縛の怖さをー」
尚登は、バイトで貯めたお金で購入した憑依薬を
手にすると、それを握りしめた。
「--千奈津ちゃん、ごめんな。
あいつが生意気だから、ちょっと脅かしてやるだけだから」
憑依薬で、千奈津の身体を乗っ取り、
法二を束縛してやる。
束縛に、あいつは本当に耐えられるのか、
見極めてやる。
尚登が、憑依薬を飲みほし、
その場で気を失った。
部屋には
”憑依薬のオークションでのご購入、ありがとうございます”
と書かれた紙が転がっていた…。
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「---明日は何だったかな?」
自宅で千奈津が、翌日の授業道具を
鞄の中に詰めていた。
「--ふぅ…これでおしまい!」
机の前で、満足そうに微笑んだその時、
ふと横の鏡を見つめると、
自分の背後に”モヤ”のようなものが見えた。
「---!!」
千奈津がびっくりして振り向くも、
そこには、何も居なかった。
「---な、何?今の?」
再び鏡を見ようとしたその時、
突然、体に激しい悪寒が走った。
「---!?さ…さむい…!」
今まで経験したことも無いような
寒さに突然襲われた千奈津は半分
パニックになりながらも、
スマホに手を伸ばそうとした。
何かの病気か。
直感的にそう思った。
やっとの思いでスマホに手を伸ばした
千奈津はーーー
笑っていた。
「---ふふふ♡
ごめんね、千奈津ちゃん」
自分の名前を笑いながら言うと、
スマホのLINEの画面を開いた。
そこにはーー
彼氏である法二からのメッセージが表示されている。
”尚登さ、彼女に束縛されてるんだって。
あいつ、まだまだだなぁw”
などと書かれていた。
「--くっそ…バカにしやがって…!」
その尚登に憑依されてしまった
千奈津は怒りの形相でスマホを握りしめた。
「---はっ…」
ふと、鏡を見ると、
そこには、怒りに満ちた表情の千奈津が写っていた。
「ーーあ、こ、こんな顔もできるんだ…
な、なんかすげぇ」
千奈津は自分の顔をベタベタ触りながら言う。
「と、というか、やっぱ可愛いな、
女の声って…」
ドキドキしながら自分の声を味わう千奈津。
だが、尚登は鬼ではない。
千奈津に罪はない。
あくまでも”彼女に束縛される苦しみ”を
法二に教えてあげたいだけだ。
だから、千奈津の身体で人生を壊す様なマネをしたり、
千奈津の身体でエッチなことをしたりするつもりは、
全くない。
それでも、心臓がドキドキバクバクする。
自分が女の子を支配している、という感覚だけで、
とても、ドキドキする。
「--ご、、ごめん」
謝った後に、どうしてもエッチなことを口にさせたくなった
尚登は、千奈津の身体でエッチな言葉を呟いた。
絶対に本人が言わない様な卑猥なセリフを
言わせてみるー。
千奈津は、顔を真っ赤にしながら、
満足そうに微笑んだ。
恥ずかしがっているのは、
千奈津の身体か、それとも、尚登の意識かー。
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翌日。
制服に着替えながら千奈津は苦戦していた
「あ~スカート面倒くさい!」
女子高生の朝は面倒臭い、そう思った。
「--な、な~んかちょっといつもと違うような」
千奈津は呟く。
何らかのメイクをしていたのだろうか。
なんだか、いつもとイメージが少し違う気がする。
「も、もういいや、適当適当!」
適当にメイクを済ませると、
今度は髪型の問題に直面した。
「いつもポニーテールだったよな…
か、髪ってどうやって…」
千奈津は少し考えた後に、頷いた。
「うん。ストレートでいいや、面倒くさっ!」
そう言うと、鞄を持って、学校へと向かうのだった。
スカートの中に入り込んでくる空気感が
斬新-、そんな風に思いながらー
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「おはよっ!」
背後から法二に声をかけた。
二人は、いつも登校中にとある場所で
合流していることを、尚登は知っていた。
「--あ、おはよう!」
法二が嬉しそうに振り向く。
「---!」
そして、法二が顔を赤らめた。
「--うん?どうしたの?」
いつもの千奈津を演じながら微笑むと、
法二は言った
「あ、いや、ポニーテールじゃない千奈津も
可愛いな…って」
法二が言う。
「--ふふ、ありがと」
千奈津のフリをしながら、
憑依している尚登は「ふざけやがって」と怒りをさらに
貯めこんでいた。
「--ねぇ、法二」
いよいよ、本題だ。
ここから、束縛の恐怖を味あわせてやる。
「--ん?なに?」
法二が笑いながら言う。
「--法二のスマホ、チェックしてもいい?」
わざと、低い声で言った。
彼女の千奈津から、いきなりこんなことを言われたら、
法二のやつ、驚くだろうな。
そんな風に、思いながら。
「---え…?」
法二の顔から、笑顔が消える。
「---ん?あ、うん、いいよ!」
しかし、予想に反して、法二はすぐに笑顔になった。
「---あ?いいの?へ~うん。ありがと」
戸惑いながらも千奈津はスマホをチェックする。
他の女とのやりとりは無い。
「くそっ!」
小声で千奈津は呟いた。
束縛しようにも、法二は堅物で、
他の女とやり取りするわけがないのだ。
「-----」
しかし、千奈津は不気味な笑みを浮かべた。
”追跡アプリ”と呼ばれるアプリを
密かに法二のスマホにダウンロードした。
「--束縛の怖さ、味あわせてやるよ」
小声でそう呟くと、
千奈津は、いつもの笑顔を浮かべて、法二に
スマホを返した
「ど、どうしたんだよ、いきなりチェックなんて」
スマホを受け取った法二は、少し戸惑っている
様子だった。
「-ーふふ、法二、
これから、わたし、法二のスマホ、毎日チェックすることにするね!」
無邪気に笑いながら言う千奈津。
「え?どうして?」
法二が驚く。
「--ダメなの?」
わざと、低い声で脅すようにして言った。
「--い、いや、いいけど、うん。いいよ」
法二が明らかに戸惑っている。
「あ、、そ、そうだ、朝、先生に用事があるんだった!」
法二が戸惑い、言い訳をしながら走り去っていく。
そんな法二の姿を見て、
千奈津は微笑んだ。
「---束縛の怖さを、味あわせてやる」
可愛らしい顔に、悪魔のような笑みを浮かべて、
千奈津は微笑んだ。
(……!ちょ……あれ???ど、どういうこと!?)
頭の中に、声が響いた。
「---!?」
千奈津に憑依している尚登は驚く。
(・・・わ、わたしの身体が勝手に…?
え……な、何これ・・・??
今のは…??
何で私が、法二のスマホチェックなんか・・・??)
千奈津の意識か。
これは誤算だ、と尚登は思う。
いや、だがー。
”身体の主導権は自分にある”
そして、
俺が誰だか分からないはずだ。
尚登はそう思った。
「--黙ってろ」
強い口調で呟き、意識を封じ込めるように念じると
(いや…や、め、、て…!)という声を最後に
千奈津の声が聞こえなくなった。
「--ちゃんと身体は返すから…
でも、その前に、束縛の怖さを教えてやらなきゃな」
千奈津は、悪い表情をしながら、学校に向かって
歩き出したー。
②へ続く
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コメント
明日は”常軌を逸脱した束縛”が始まります!
恐ろしいですね!!
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