<憑依>闇に生きる少女①~抗争~

少女は、下校中に、
裏世界の抗争を偶然、目撃してしまうー。

極道組織の会長は、少女の目の前で命を落とした。

その夜ー
少女の身に異変が起きるー。

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「由里奈(ゆりな)、来週の休みだけどさ」
高校生の川崎 吾郎(かわさき ごろう)が言う。

「--え?あ、うん、大丈夫だよ!」
一緒に下校していた女子、坂田 由里奈(さかた ゆりな)が
笑いながら返事をする。

二人は、最近付き合い始めたカップルだ。

吾郎は、ごく普通のスポーツ好き男子。
イケメンと言えばイケメンかもしれないけれども、
そうでないと言えばそうでないかもしれない。

なんとなく微妙な顔立ちだった。

けれど、優しくてまっすぐな吾郎を、由里奈は好きになった。

一方の、由里奈は、優しい雰囲気の少女で、
セミロングの黒髪が良く似合う少女だった。
誰にでも優しいので、クラスでも慕われている。

「--じゃ、今日はここで」

「うんー」

二人は、いつものように別れたー。

「---」
由里奈は、いつも通り自宅を目指して歩いていた。

部活で遅くなったら、既に時間は18時。
周囲は暗くなっていた。

その時だった。

「--くそっ!暗黒組の差し金か!」
恰幅の良い男が、苦しみながら、声を荒げているのが目に入った。

「--なんだろう…?」
由里奈は、不思議そうにそちらを見る。
道のはずれの林の方に、逃げ込んでいく恰幅の良い男。

その男を追うようにして、
銃のようなものを持ったマスク姿の男が
林に飛び込んでいく。

「えっ…」
由里奈は驚いて、表情をこわばらせる。

今の男ー
銃を持っていなかっただろうか。

パン! パン! パン!

林の中から銃声のような音が響いた。

「う…嘘だよね…?」
由里奈は恐る恐る、林の中へと足を踏み入れていく。

関わらないべきだったかもしれないー。

しかし…
由里奈は、人がけがをしているなら、助けないといけない、と
考えてしまうような優しさを持っていた。

林の中に立ち入ると、
男が倒れていた。

最初に林の中に入って行った、恰幅のよい男だ。

「---あ、、あの…大丈夫・・・ですか?」
由里奈は怯えた様子で声をかけた。

身体がガクガクと震えている。

男が何故倒れているのか。
高校生の由里奈には、嫌でも分かってしまったー。

そう、男は撃たれたのだ。

「---……くはっ…」
男は顔をあげた。

目が合った由里奈は、思わず「ひっ…!」と声を出してしまった。

「--な、、何だよ…
 死ぬ直前に、お嬢ちゃんが見えるなんてな…」

倒れている男は、もう助からない。
由里奈にも、それはすぐに分かった。

「……はっ…幻覚か?俺も、落ちたな…」
自虐的に笑う男。

倒れている男は、由里奈を幻覚だと
思っているようだ。

「---くそっ…俺は、まだしねねぇってのに…」
男が悔しそうにつぶやき始めた。

「爆竜会の会長の俺が…!
 こんなところで…こんなところで!!」
男が冷静さを失い、由里奈にしがみついた。

「ひっ…!」
恐怖に震えている由里奈は、
あまりの恐怖に、悲鳴すら出すことができなかった。

「---!」
爆竜会会長を名乗る男が、由里奈の目を睨むようにして
見つめた。

そしてー
「死にたく…ねぇ」

そう言うと、爆竜会会長は、そのまま動かなくなった。

「ひっ…!きゃあああああ!」
由里奈は悲鳴をあげて林から抜け出し、
救急車を呼ぶことも忘れ、そのまま家へと駆けこんだ。

自分の部屋へと駆け込み、由里奈ははぁ…はぁ…と
荒い息で身体を震わした。

人が、撃たれて死ぬのを見たー。
しかも、その撃たれた人間は、おそらく堅気じゃないー。

由里奈は、恐怖に震えて、
そのまま布団にもぐりこんだ。

「---」
震えが止まらない。

そしてーー

”おれは、しにたくない”

声が脳の中に響いてきた。
幻聴?
それほどまでに、自分は恐怖していたのだろうか。

由里奈は、制服から着替えるのも忘れて、
そのまま恐怖に身を震わした。

”おれは、まだしねない”

”しねない”

”死ねない”

声がだんだんとはっきり聞こえてくる。

「--や…やめて…!」
由里奈は耳を塞いでその場に蹲った。

何故、あの男の声が、聞こえてくるのだろう。

「--やめて…やめて!」

”-まだ、死ねない!”

”死ねない”

次の瞬間、由里奈の身体がビクンと震えた。

「かっ…あぁ…!」
由里奈が激しく痙攣して苦しそうに
ベットから転がり落ちる。

「あ・・・あぁ…あっ…
 入って…こないで…!」
由里奈は苦痛に表情をゆがめた。
”何か”が自分に入ってくるようなー

そんな感覚がする。

これは、いったい何なのか。

何が、起きようとしているのかー。

「--かっ…!」
由里奈は白目を剥いて、口から唾液を垂らしながら
その場で痙攣を続けた。

数分ほど経っただろうか。

やがて、由里奈の痙攣は収まり、
由里奈はゆっくりと立ち上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

爆竜会本部ー。

会長である茂久 勝義(しげひさ かつよし)が
射殺体で見つかったことで、構成員たちは
怒りを爆発させていた。

「--ふざけやがって!暗黒組のやつら!」
「頭!今すぐ報復しやしょう!」

若い者たちが、今にも暴走しそうな雰囲気。

「まぁ、待て」
金髪の男、若頭の森屋 亮介(もりや りょうすけ)が
構成員たちをなだめる。

茂久会長が不在となってしまった今、
この森屋が、爆竜会を仕切る立場となっていた。

「---あん?」
構成員の一人が声をあげた。

森屋が何事かと、入口の方を見る。

するとそこにはー
セミロングの黒髪の可愛らしい女子高生が立っていた。

「---何だ小娘!
 ここはお嬢ちゃんのような子が来るところじゃ…!」

若い者が荒々しく言うのを、
若頭の森屋は止めた。

「---何か、用かな?」
森屋が言うと、
その少女ー由里奈は言った。

「--俺だ」

可愛らしい容姿からは想像もできない
第1声に、周囲は戸惑う。

「俺?新手のおれおれ詐欺か?」
若い衆が茶化す。

「ーー俺…とは?」
若頭の森屋が訪ねると、由里奈は言った。

「--会長の茂久…と言ったら?」
由里奈が鋭い目付きで、森屋を睨んだ。

「ーーー!!」
この目ー

森屋は、何かをその少女から感じ取った。

「ーーテメェ!会長を侮辱しているのか?」
若い衆の一人が由里奈に襲い掛かる。

しかしー
由里奈は、一瞬でその若い衆の腕をねじり上げた。

「いてててててててっ!」
男が悲鳴を上げる。

「ーー理由は分からねぇ!
 でもな、俺は死んだあと、このお嬢ちゃんに
 憑依しちまったんだ」

腕をねじり上げながら、由里奈が
迫力のある声で言う。

セミロングの髪を振り乱しながら
周囲を未t目る。

周囲の構成員たちは戸惑っている。

「---」
由里奈が男の腕を離すと、
男は苦しそうにその場に蹲った。

そしてー
由里奈は、若頭の森屋の方に近づいていく。

「-----」

森屋と由里奈が互いに互いを睨みつける。

「ーーーー」

そしてーー
森屋は、その場で、膝に手を乗せ、
由里奈に礼をした。

「会長…お帰りなさいませ」
森屋の言葉に、由里奈は
イヤらしい笑みを浮かべた。

「--あぁ、ご苦労だったな、森屋」

そしてーーー
突然、由里奈は、制服を脱ぎ捨てた。

「ーーうほっ!」
下っ端構成員たちが、突然服を脱いだ
女子高生を前に、変な声をあげる。

森屋が顔を上げて、不思議そうに、
由里奈の方を見た。

「--覚悟を見せつけなきゃ、
 若い奴等は納得しねぇだろ」

由里奈は荒々しい口調で言うと、
背中を向けて言った。

「俺の”覚悟”を見せてやる」

由里奈ーーー、茂久の意を察した
森屋は、すぐに準備に取り掛かった。

・・・・・・・・・・・・・・・

「--んんんっ…うあああああああっあっ!」
可愛らしい声で悲鳴をあげる由里奈。

由里奈の背中に、模様が刻まれていくー。

会長である茂久は、
由里奈の身体になってしまった自分が、茂久であることを
周囲に知らしめるためにー
その、覚悟を知らしめるためにー

背中に、蛇の模様を彫らせていたー。

「---それにしても会長、
 その身体、あなたのものじゃないでしょう?
 そんなことしちゃって、よろしいので?」

森屋が訪ねると、
はぁ…はぁ…と言いながら由里奈が笑う。

「--今は俺の身体だ…
 背中に何を掘ろうと…勝手だろ?」

由里奈が言う。

森屋は笑ってそれに答えた。

「んんんんっ♡ ああああああああっ!」

可愛らしい女子高生が、
苦痛と共に、背中に蛇の文様を、刻ませている。

森屋は、横目で見ながら興奮を
隠せなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数時間後ー
由里奈が、制服姿で戻ってきた。

「--ご苦労様です」
森屋が言うと、
由里奈は「あぁ」と答えた。

そして、近くにあったワインを手にすると、
それをそのまま飲み干した。

「--その身体は未成年…」

森屋が言いかけると、
由里奈は微笑んだ。

「わたしの身体を、わたしがどうしようと勝手でしょ?」

と、女の子口調で。

「---」
森屋は欲求を抑えきれなくなって由里奈に突然
抱き着いた。

由里奈は、そんな森屋の手をねじりあげると言った。

「--おい森屋。気持ちは分かる。
 でもな、今はその時じゃない」

由里奈が森屋を諭すように言う。

「まずは、暗黒会への報復だ」

由里奈の気迫迫る表情に、
森屋は理性を取り戻し、
「失礼いたしました」と頭を下げた。

スマホが鳴る―。

由里奈は面倒くさそうな表情で、
スマホを手にした。

彼氏の吾郎からだったー。

「あれ?由里奈、今日、学校来てないみたいだし、
 家にも居ないみたいだけど、今、どこに居るんだ?」

吾郎が言う。

由里奈は笑みを浮かべると、
スマホを背後に投げつけて、
そのまま踏みつぶした。

「---この身体は、わたしのもの…」

そう言って微笑むと、
由里奈は言った。

「そうだ、、森屋。」
由里奈は、胸を触りながら笑う。

「”この身体”を使えば、
 暗黒組なんて、簡単に消せるわー」

女言葉で由里奈は邪悪に微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜。

暗黒組の組長、渡海 新次郎(とかい しんじろう)は、
数名の護衛と共に、夜の街を歩いていた。

「---ん?」

目の前に、大胆に生足を露出させた
ホットパンツ姿の可愛らしい少女が
挑発的な視線を向けて立っていた。

「--ねぇ、私と、遊びませんか?」
由里奈は不適にほほ笑んだ。

「ーー何だお前は?」
渡海組長の護衛が、声をあげる。

「---親と喧嘩して、
 今、わたし、どうにでもなっちゃいたい気分なの。
 ねぇ、わたしと、遊ばない?」

由里奈が、渡海組長に近づいて言う。

「----いくつだ?」
渡海組長が短く言うと、

「高校2年ーうふふ♡」
と、由里奈は答えた。

暗黒組は、数々の法律を犯している危険な団体。
今更、高校2年などと言われても、何も感じなかった。

欲しいものは手に入れる。
要らないものは切り捨てる。

「ーーお前!失礼だぞ!」
側近が声をあげた。

しかしー

「--いいだろう」
渡海組長は言った。

由里奈は不敵にほほ笑むと、
近くにあるホテルを指さして、
渡海組長の腕に抱き着きながら、
嬉しそうにその中へと向かっていくのだった…

②へ続く

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コメント

ハードな憑依小説(?)です!
好き勝手使われる由里奈の運命はどうなるのでしょうか。

ちなみに、作中に登場する
団体名は、あえてフィクションっぽくしました!

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憑依<闇に生きる少女>

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