少女は、下校中に、
裏世界の抗争を偶然、目撃してしまうー。
極道組織の会長は、少女の目の前で命を落とした。
その夜ー
少女の身に異変が起きるー。
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「由里奈(ゆりな)、来週の休みだけどさ」
高校生の川崎 吾郎(かわさき ごろう)が言う。
「--え?あ、うん、大丈夫だよ!」
一緒に下校していた女子、坂田 由里奈(さかた ゆりな)が
笑いながら返事をする。
二人は、最近付き合い始めたカップルだ。
吾郎は、ごく普通のスポーツ好き男子。
イケメンと言えばイケメンかもしれないけれども、
そうでないと言えばそうでないかもしれない。
なんとなく微妙な顔立ちだった。
けれど、優しくてまっすぐな吾郎を、由里奈は好きになった。
一方の、由里奈は、優しい雰囲気の少女で、
セミロングの黒髪が良く似合う少女だった。
誰にでも優しいので、クラスでも慕われている。
「--じゃ、今日はここで」
「うんー」
二人は、いつものように別れたー。
「---」
由里奈は、いつも通り自宅を目指して歩いていた。
部活で遅くなったら、既に時間は18時。
周囲は暗くなっていた。
その時だった。
「--くそっ!暗黒組の差し金か!」
恰幅の良い男が、苦しみながら、声を荒げているのが目に入った。
「--なんだろう…?」
由里奈は、不思議そうにそちらを見る。
道のはずれの林の方に、逃げ込んでいく恰幅の良い男。
その男を追うようにして、
銃のようなものを持ったマスク姿の男が
林に飛び込んでいく。
「えっ…」
由里奈は驚いて、表情をこわばらせる。
今の男ー
銃を持っていなかっただろうか。
パン! パン! パン!
林の中から銃声のような音が響いた。
「う…嘘だよね…?」
由里奈は恐る恐る、林の中へと足を踏み入れていく。
関わらないべきだったかもしれないー。
しかし…
由里奈は、人がけがをしているなら、助けないといけない、と
考えてしまうような優しさを持っていた。
林の中に立ち入ると、
男が倒れていた。
最初に林の中に入って行った、恰幅のよい男だ。
「---あ、、あの…大丈夫・・・ですか?」
由里奈は怯えた様子で声をかけた。
身体がガクガクと震えている。
男が何故倒れているのか。
高校生の由里奈には、嫌でも分かってしまったー。
そう、男は撃たれたのだ。
「---……くはっ…」
男は顔をあげた。
目が合った由里奈は、思わず「ひっ…!」と声を出してしまった。
「--な、、何だよ…
死ぬ直前に、お嬢ちゃんが見えるなんてな…」
倒れている男は、もう助からない。
由里奈にも、それはすぐに分かった。
「……はっ…幻覚か?俺も、落ちたな…」
自虐的に笑う男。
倒れている男は、由里奈を幻覚だと
思っているようだ。
「---くそっ…俺は、まだしねねぇってのに…」
男が悔しそうにつぶやき始めた。
「爆竜会の会長の俺が…!
こんなところで…こんなところで!!」
男が冷静さを失い、由里奈にしがみついた。
「ひっ…!」
恐怖に震えている由里奈は、
あまりの恐怖に、悲鳴すら出すことができなかった。
「---!」
爆竜会会長を名乗る男が、由里奈の目を睨むようにして
見つめた。
そしてー
「死にたく…ねぇ」
そう言うと、爆竜会会長は、そのまま動かなくなった。
「ひっ…!きゃあああああ!」
由里奈は悲鳴をあげて林から抜け出し、
救急車を呼ぶことも忘れ、そのまま家へと駆けこんだ。
自分の部屋へと駆け込み、由里奈ははぁ…はぁ…と
荒い息で身体を震わした。
人が、撃たれて死ぬのを見たー。
しかも、その撃たれた人間は、おそらく堅気じゃないー。
由里奈は、恐怖に震えて、
そのまま布団にもぐりこんだ。
「---」
震えが止まらない。
そしてーー
”おれは、しにたくない”
声が脳の中に響いてきた。
幻聴?
それほどまでに、自分は恐怖していたのだろうか。
由里奈は、制服から着替えるのも忘れて、
そのまま恐怖に身を震わした。
”おれは、まだしねない”
”しねない”
”死ねない”
声がだんだんとはっきり聞こえてくる。
「--や…やめて…!」
由里奈は耳を塞いでその場に蹲った。
何故、あの男の声が、聞こえてくるのだろう。
「--やめて…やめて!」
”-まだ、死ねない!”
”死ねない”
次の瞬間、由里奈の身体がビクンと震えた。
「かっ…あぁ…!」
由里奈が激しく痙攣して苦しそうに
ベットから転がり落ちる。
「あ・・・あぁ…あっ…
入って…こないで…!」
由里奈は苦痛に表情をゆがめた。
”何か”が自分に入ってくるようなー
そんな感覚がする。
これは、いったい何なのか。
何が、起きようとしているのかー。
「--かっ…!」
由里奈は白目を剥いて、口から唾液を垂らしながら
その場で痙攣を続けた。
数分ほど経っただろうか。
やがて、由里奈の痙攣は収まり、
由里奈はゆっくりと立ち上がった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
爆竜会本部ー。
会長である茂久 勝義(しげひさ かつよし)が
射殺体で見つかったことで、構成員たちは
怒りを爆発させていた。
「--ふざけやがって!暗黒組のやつら!」
「頭!今すぐ報復しやしょう!」
若い者たちが、今にも暴走しそうな雰囲気。
「まぁ、待て」
金髪の男、若頭の森屋 亮介(もりや りょうすけ)が
構成員たちをなだめる。
茂久会長が不在となってしまった今、
この森屋が、爆竜会を仕切る立場となっていた。
「---あん?」
構成員の一人が声をあげた。
森屋が何事かと、入口の方を見る。
するとそこにはー
セミロングの黒髪の可愛らしい女子高生が立っていた。
「---何だ小娘!
ここはお嬢ちゃんのような子が来るところじゃ…!」
若い者が荒々しく言うのを、
若頭の森屋は止めた。
「---何か、用かな?」
森屋が言うと、
その少女ー由里奈は言った。
「--俺だ」
可愛らしい容姿からは想像もできない
第1声に、周囲は戸惑う。
「俺?新手のおれおれ詐欺か?」
若い衆が茶化す。
「ーー俺…とは?」
若頭の森屋が訪ねると、由里奈は言った。
「--会長の茂久…と言ったら?」
由里奈が鋭い目付きで、森屋を睨んだ。
「ーーー!!」
この目ー
森屋は、何かをその少女から感じ取った。
「ーーテメェ!会長を侮辱しているのか?」
若い衆の一人が由里奈に襲い掛かる。
しかしー
由里奈は、一瞬でその若い衆の腕をねじり上げた。
「いてててててててっ!」
男が悲鳴を上げる。
「ーー理由は分からねぇ!
でもな、俺は死んだあと、このお嬢ちゃんに
憑依しちまったんだ」
腕をねじり上げながら、由里奈が
迫力のある声で言う。
セミロングの髪を振り乱しながら
周囲を未t目る。
周囲の構成員たちは戸惑っている。
「---」
由里奈が男の腕を離すと、
男は苦しそうにその場に蹲った。
そしてー
由里奈は、若頭の森屋の方に近づいていく。
「-----」
森屋と由里奈が互いに互いを睨みつける。
「ーーーー」
そしてーー
森屋は、その場で、膝に手を乗せ、
由里奈に礼をした。
「会長…お帰りなさいませ」
森屋の言葉に、由里奈は
イヤらしい笑みを浮かべた。
「--あぁ、ご苦労だったな、森屋」
そしてーーー
突然、由里奈は、制服を脱ぎ捨てた。
「ーーうほっ!」
下っ端構成員たちが、突然服を脱いだ
女子高生を前に、変な声をあげる。
森屋が顔を上げて、不思議そうに、
由里奈の方を見た。
「--覚悟を見せつけなきゃ、
若い奴等は納得しねぇだろ」
由里奈は荒々しい口調で言うと、
背中を向けて言った。
「俺の”覚悟”を見せてやる」
由里奈ーーー、茂久の意を察した
森屋は、すぐに準備に取り掛かった。
・・・・・・・・・・・・・・・
「--んんんっ…うあああああああっあっ!」
可愛らしい声で悲鳴をあげる由里奈。
由里奈の背中に、模様が刻まれていくー。
会長である茂久は、
由里奈の身体になってしまった自分が、茂久であることを
周囲に知らしめるためにー
その、覚悟を知らしめるためにー
背中に、蛇の模様を彫らせていたー。
「---それにしても会長、
その身体、あなたのものじゃないでしょう?
そんなことしちゃって、よろしいので?」
森屋が訪ねると、
はぁ…はぁ…と言いながら由里奈が笑う。
「--今は俺の身体だ…
背中に何を掘ろうと…勝手だろ?」
由里奈が言う。
森屋は笑ってそれに答えた。
「んんんんっ♡ ああああああああっ!」
可愛らしい女子高生が、
苦痛と共に、背中に蛇の文様を、刻ませている。
森屋は、横目で見ながら興奮を
隠せなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間後ー
由里奈が、制服姿で戻ってきた。
「--ご苦労様です」
森屋が言うと、
由里奈は「あぁ」と答えた。
そして、近くにあったワインを手にすると、
それをそのまま飲み干した。
「--その身体は未成年…」
森屋が言いかけると、
由里奈は微笑んだ。
「わたしの身体を、わたしがどうしようと勝手でしょ?」
と、女の子口調で。
「---」
森屋は欲求を抑えきれなくなって由里奈に突然
抱き着いた。
由里奈は、そんな森屋の手をねじりあげると言った。
「--おい森屋。気持ちは分かる。
でもな、今はその時じゃない」
由里奈が森屋を諭すように言う。
「まずは、暗黒会への報復だ」
由里奈の気迫迫る表情に、
森屋は理性を取り戻し、
「失礼いたしました」と頭を下げた。
スマホが鳴る―。
由里奈は面倒くさそうな表情で、
スマホを手にした。
彼氏の吾郎からだったー。
「あれ?由里奈、今日、学校来てないみたいだし、
家にも居ないみたいだけど、今、どこに居るんだ?」
吾郎が言う。
由里奈は笑みを浮かべると、
スマホを背後に投げつけて、
そのまま踏みつぶした。
「---この身体は、わたしのもの…」
そう言って微笑むと、
由里奈は言った。
「そうだ、、森屋。」
由里奈は、胸を触りながら笑う。
「”この身体”を使えば、
暗黒組なんて、簡単に消せるわー」
女言葉で由里奈は邪悪に微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜。
暗黒組の組長、渡海 新次郎(とかい しんじろう)は、
数名の護衛と共に、夜の街を歩いていた。
「---ん?」
目の前に、大胆に生足を露出させた
ホットパンツ姿の可愛らしい少女が
挑発的な視線を向けて立っていた。
「--ねぇ、私と、遊びませんか?」
由里奈は不適にほほ笑んだ。
「ーー何だお前は?」
渡海組長の護衛が、声をあげる。
「---親と喧嘩して、
今、わたし、どうにでもなっちゃいたい気分なの。
ねぇ、わたしと、遊ばない?」
由里奈が、渡海組長に近づいて言う。
「----いくつだ?」
渡海組長が短く言うと、
「高校2年ーうふふ♡」
と、由里奈は答えた。
暗黒組は、数々の法律を犯している危険な団体。
今更、高校2年などと言われても、何も感じなかった。
欲しいものは手に入れる。
要らないものは切り捨てる。
「ーーお前!失礼だぞ!」
側近が声をあげた。
しかしー
「--いいだろう」
渡海組長は言った。
由里奈は不敵にほほ笑むと、
近くにあるホテルを指さして、
渡海組長の腕に抱き着きながら、
嬉しそうにその中へと向かっていくのだった…
②へ続く
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コメント
ハードな憑依小説(?)です!
好き勝手使われる由里奈の運命はどうなるのでしょうか。
ちなみに、作中に登場する
団体名は、あえてフィクションっぽくしました!
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