<憑依>偽りの楽園③~崩壊~(完)

人工知能”アダム”を破壊したー。

ウイルスは、アダムの深層部にまで流れ込み、
人々は、機械の支配から解放された。

かのように、見えたー。

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「--もう俺たちに、機械の支配なんて要らない!」
祐菜は叫んだ。

祐菜と一緒にここまでやってきた女子大生・蓮歌も、
その様子を見守っている。

「”&’”#(#”)”=”)”()9==!!!」
アダムの意思に憑依されていた愛希は発狂している。

白目を剥き、謎の液体を口から垂らしながら、
もがき苦しんでいる。

アダム本体に、祐菜の作り出したウイルスが
浸透した証ー。

ガガガガガガガガガガーー

アダムが異常な音を発し始めた。

「--何だ?」
蓮歌が言う。

「わからない」
祐菜は答えた。

ウイルスが浸透して、アダムが制御不能に
なったのだろうか。

このまま、世界各地に散らばる28のアダムは、
全て機能を停止するはず。

しかしー。

突然、アダムから激しい光が放たれたー

その光は、轟音と共に、
祐菜と、蓮歌を包み込んだ。

気づけばー。
とある幼稚園に、祐菜は居た。

いやーー

「え…っ?」
幼稚園女児になってしまった、
祐菜の中に憑依していた拓哉は驚く。

他の園児たちも混乱してキョロキョロしている。

「--え?」
「うそっ!あたしが幼稚園児に?」
「おおおお?こ、これは、うほほほほほほほっ~」

色々な声が室内に響き渡っている
いったい、何が起きたのだろう。

「かれん」
そう書かれている名札を確認した拓哉は、
他の幼稚園生に話しかけた。

「---え?、あ、あたし?
 あたし、今まで女子大生やってたんだけど、
 さっき急に光に包まれてさ~
 気づいたら何故か幼稚園児。
 超ウけるんだけど! あはは!」

拓哉は思う。
やはりー
アダムが放った光が、何らかの影響を及ぼしたのだろう。

とりあえず、状況を確認しなければならない。
しかし、周囲の子に聞いても、
誰もこの幼稚園のことを知らない。

何故なら、ここに居る全員、
たった今、幼稚園児たちに憑依した人間だからだー。

「うほぉぉぉぉぉ!俺が幼稚園児だぜ~~~♡」
「彼氏とデートしていたのに、どうして!」
「---むふっ♡」

周囲の幼稚園児たちが、おかしな行動をとっている。

とは言え、この世界において、
見た目と中身が一致しないのは当然のことだ。

「--ここがどこなのか、調べないとな」
”かれん”になった拓哉は立ち上がる。

なんだか、体が弱弱しい。
幼稚園児とは、こんなものだっただろうか。

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ!

ーー!?

不気味な光が周囲を包み込んだ。

そしてーーー

「----!?」
変な感触がする。

やけにドキドキしている。

「--…えっ」
気づけば、自分は裸の女になっていて、
汚らしいおっさんに抱き着いていた。

「うわああああああ!」
思わず、拓哉は裸の女の身体で叫んだ。

「--ええええええええっ!」
男も叫んでいる。

「--な、なんだこれは・・・?」
モデル並みの肉体。
男と抱き合っていたようだが、何だ、この状態は?

拓哉は慌てて立ち上がり、
鏡を見た。

そこには、綺麗な女性が映っていた。
女子大生ぐらいだろうか。

「な…なんだぁこれ・・・」

こんなに短時間の間に、憑依する体を
入れ替えられたのは、初めてだ。

いや、そもそもアダムは、
流れ込んだウイルスによって壊滅したはず。

「--お、おい!」
背後から男の声がした。

「お、おれ、今、この体に憑依したんだけどよ…
 どういう状況なんだ?」

人工知能のアダムによる、肉体の異動。
異動させられた直後は、状況が分からず、困惑する
人間も多い。

場合によってはパニックを起こすものも居る。

”異動錯乱症”と名付けられて、一時問題になったものの、
アダムによる、平和の実現を目指すため、
すぐにこの名は忘れられた。

「--わ、分からない、俺も今、この体に」
可愛らしい声が口から出る。

拓哉は思う。
前に憑依していたキャバクラ嬢もこんな感じだったか…

ブォォォォォォォ!

窓の外から、激しい光が差し込んできた。

「--な、何だこれは?」
男が叫ぶ。

そして、辺りは光に包まれた。

「ーーー!?」
気づけば、自分は、赤ん坊になっていた。

「-(くそっ!どうなってるんだ?)」
赤ん坊に憑依している拓哉は思う。

さっきから、体の異動が異常な回数行われている。
しかも、自分だけではない
幼稚園や、さっきのエッチ中だった男女の様子を見る限り、
”多数の人間が、憑依する体を強制的に異動させられている?”

そうこう考えているうちに、再び光に包まれた。

「あぁぁんっ♡」

いきなり、喘ぎ声で意識を取り戻した。

しかも、自分の喘ぎ声。

手には膨らみの感触がある。
ふと、鏡を見ると、女子高生だった。

「--!?なんだよ、エッチの最中だったのか?」
女子高生になった拓哉は、慌てて時計を見る。

「--また異動させられるとしたらーー」

人工知能アダムによる報復なのか。
人工知能アダムの判断で、人間は最適な体に
憑依させられる。
しかし、基本は多くて1年に1回ー。

なのに、この異様は早さは、なんだ?

そして、また世界が光り出した。

ーー3分。
3分ごとに、魂を抜かれ、別の身体に
憑依させられている。

「こ、これじゃ、カップラーメンじゃねぇか!」
可愛らしい姿のまま、彼はそう叫んだ。

「---!?」
目覚めると、機械のある設備の中だった。

「--こ、この身体は?」
拓哉は叫んだ。

自分はスーツ姿の女子大生―。
一緒にアダムを破壊した蓮歌の身体になっていた。

人工知能アダムがある場所ー。

「お、おい!アダム!
 これはどういうことだ!」
蓮歌の身体のまま、拓哉は叫んだ。

3分おきに体を異動させられたんじゃ、
何もできない。

いやー、
世界は滅ぶだろう。

3分ごとに全人類の中身が入れ替わっているのでは、
経済も、何もかも、機能しなくなるー。

「--がが、、、がが、、人類、、守る、、、
 異動、、、異動…!」

アダムは”壊れて”居た。
拓哉が流し込んだウイルスで…

「おい・・・」
蓮歌の姿のまま唖然とする拓哉。

ウイルスを流しこめば、アダムは停止すると思っていた。
しかしー、
アダムは停止しなかった。

それどころか、最悪の結果を招いている。

ウイルスにより、アダムは暴走し、
3分おきに、全人類の魂を抜き、
全人類を無差別に別の身体に憑依させている。

「--そ、そうだ!」
蓮歌は慌てた。

流し込んだウイルスが予測外の動作をした時に
そなえて、停止プログラムを用意していたことを思い出した。

それを、流しこめば・・・。

「--早くしないと」
蓮歌は腕時計を見た。

まだ2分ある。

近くのパソコンを操作して、慌てて
プログラム停止命令を流しこもうとした。

しかしーー

「あ~~~~!さっきから体異動ばっかで
 面倒くせぇ~~~!」

少女の声がした。

さっきまで拓哉の身体だった祐菜だ。
誰か別の人間が憑依しているのだろう。

「おっ!エッチな女はっけ~~ん!」
女子高生とは思えない発言をして、祐菜は
ニヤニヤしながら近寄ってきた。

「おい!邪魔すんな!」
蓮歌は叫んだ。

しかしー
祐菜の姿をした、何かは、蓮歌に襲い掛かって
蓮歌を押し倒した

「やめ…やめろ・・・やめてぇ!」
蓮歌は叫んだがー
もう、遅かった。

再び、アダムが光を放ち―、
また別の身体に異動したーーー

気づけば―――
心音のする場所に居た。

しかもーーー

「----はぐっ…!」

苦しい…!
拓哉はそう思った。

必死に、顔の向きを変えるーー

ここはーー
病院の手術室ーー?

医師たちが混乱している???

「また別の身体に…?」
「って、ここ病院じゃないか」

「--おいおい、手術なんてできないぞ!」

医師たちが叫んでいる。
彼らも今、この身体に異動してきたのだろう。

「--ちょ…ぐふっ!」
口から大量の血が出る。

今、拓哉が居るこの身体は、”手術中”だったのだろうかー。

”まずいー”

拓哉はそう思った。
3分すれば、おそらくまた別の身体に異動できる。

でも、3分以内にこの身体が死んでしまったら…

「----はぁ…はぁ…」
拓哉は苦しみながら思う。

いや、大丈夫だ。
今にも死にそうだが、まだ意識はある。

3分ぐらいなら…

「--オペしないわけにはいかねーだろ!」
医師の一人が叫んだ。

立ち上がって、震える目でメスを持っている。

”おい、やめろ”
拓哉はそう思った。

しかしー

医師の身体に憑依した”素人”によって、
拓哉が憑依している身体は切られたー

当然、失敗ーーー

拓哉の意識は急速に闇に飲まれてー
そして、消えたーー

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人工知能・アダムの暴走により、
人々は3分ごとに別の身体に異動させられるようになってしまった。

当然、3分では何もできない。

人々の機能は、全て停止し、
やがて、無法地帯となった。

文明は、簡単に崩壊した。

何かをしようとしても、3分すれば別の身体に異動してしまうー

そんな世界では、もう、何も、できないー。

今日も、この世界では
3分ごとに光に包まれているー。

偽りの楽園は崩壊したー。
これから先に待つのは、地獄ー。

おわり

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近未来モノ第2弾終了です!
今度は憑依薬が良い意味で存在する
近未来ものもいつか書いてみたいです!

ご覧下さりありがとうございました!

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憑依<偽りの楽園>

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