<憑依>偽りの楽園①~近未来~

2XXX年ー

その世界は、
機械によって支配されていた。

コンピューターが一人ひとりに最適な体を
判断して、憑依させるー。

全てが管理された、その世界で、女の身体に憑依させられた
一人の男が、疑問を抱くのだった。

-------------------------------

2XXX年ー

世界では、人間の魂を抜きだし、
他人に憑依させる技術が当たり前のように
普及していたー。

2078年、日本の研究者が生み出した技術。
それが「ポゼッション・コントロール」。

それ以降、憑依技術は世界に広まり、
人類は、肉体と言う牢獄から解き放たれた。

女性になりたい男性を、女性に憑依させたり、
まだ生きたいと願う、余命あとわずかの人間を、
自殺志願者に憑依させたり、
犯罪者を、ロボットに憑依させて強制労働させたりー。

人類は、ポゼッション・コントロールの技術により、
また一歩進化を遂げたのだった。

それから、長い年月が流れたー。

人類は、さらに進化を続けて、
”管理”を機械にゆだねた。

”アダム”と名付けられた機械は、
人間の管理を行い、最適な肉体を個人ごとに計算、
その最適な肉体に人間を憑依させることで
”理想の世界”を実現していた。

争いも、いさかいもない。
男に生まれたかった人間は、憑依により男となり、
女性に生まれたかった人間は、憑依により女性となる。

自ら命を絶ちたい人間の身体は、
まだ生きたいと願う余命わずかな人間のために使われ、

犯罪を犯せば、”アダム”によって強制的に
ロボットに憑依させられ、強制労働を一生させられることになる。

超機能CPUである人工知能・「アダム」により、
人類は”楽園”に辿り着いたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一人の女子高生が、下校しながら、
街の中央にある、巨大な施設を見つめていた。

彼女の名は、藤川 祐菜(ふじかわ ゆうな)。
高校2年生ー。

しかし、その中身は、祐菜ではない。
身体は藤川 祐菜。
けれども、中には久川 拓哉(ひさかわ たくや)という
男が憑依している。

この世界において、
”身体”と”中身”が一致することはほとんど、ない。

もちろん、生まれた時は自分の身体だが、
1年ごとに行われる”アダムの調整”により、
人々は魂を引き抜かれて、最適な体に憑依させられるのだ。

拓哉は8歳の時に、魂を抜かれて、
それから5年間は、おじいさんとして過ごした。
何故、自分がおじいさんに憑依させられたのかは分からない。

その後、男子中学生の身体に移され、
その体で8年を過ごした。
高校時代に出会った愛希(あき)という子に恋をして、
結婚しようとしていた矢先、
その体は別の人間に憑依され、追い出された拓哉は
別の身体に移された。

その後2年間はキャバクラで働く女性として生き、
去年からは、女子高生の祐菜として生きている。

毎年の4月1日―。
アダムによって、身体を異動する人間が決定され、
その人たちは、魂を引き抜かれる。
そして、アダムが、最適だと判断した体に、魂は
移し替えられるのだ。

ー超性能CPUであるアダムは、今やこの世界の神とも
言える存在。
高度な人工知能が搭載され、人間の管理を担っている。

アダムが判断すれば”特例異動”と呼ばれる処置が
取られることもある。
4月1日以外の日でも、アダム次第で、人は魂を抜かれ、
身体を異動させられるのだ。

「--大丈夫?祐菜?」
背後から、祐菜のクラスメイトで、親友の満知子(まちこ)が
話しかけてきた。

「え?あ、うん。大丈夫」

満知子は、数少ない”ピュア”の一人。

この世界では、生まれてから一度も体を異動させられていない
人間を”ピュア”と呼ぶ。
満知子は、体も、心も満知子本人。
つまりは、誰の魂にも憑依されていない人間だ。

「ーーどうして・・・
 どうしてこの世界って、機械に支配されているのかな・・・」
祐菜は呟く。

あの日ー。

彼女であった愛希にプロポーズをした。

「うれしいー」
愛希は、そう言った。

しかし、婚約指輪をはめようとしたその瞬間、
人工知能であるアダムが起動し、
拓哉の魂は、別の身体に移されてしまったのだった。

今、愛希はどうしているのだろう-。

女子高生の祐菜として生きる拓哉は、
婚約者の愛希を、今でも探し続けていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ある日のこと・・・。

祐菜は、人工知能”アダム”が存在する
街の中心部に向かっていた。

アダムは、世界28か所に分散して
設置されている。
28か所に設置されたアダムは、
それぞれ瞬時にデータのやり取りをしており、
そして、人間たちを管理している。

そのうち一つが、祐菜の住む町にあるのだ。

「---・・・」
祐菜は自分の胸を見つめる。

初めて、女性に憑依させられたとき、
祐菜の中に居る拓哉はとても興奮した。

毎日のように、エッチをして
喘ぎまくったし、キャバクラ嬢だったこともあって、
欲望にまみれた日々を送った。

けれどー
拓哉は、人工知能であるアダムに管理された今の世界に
疑問を感じている。

歴史好きの拓哉は、かつての世界を知っている。

人間が、自分の身体を大切に、生きていた時代をー。

今は違う。
全て”アダム”の思惑通り。

寿命でさえもアダムが決める。

キャバクラ嬢時代、同僚のキャバ嬢が、
車に跳ねられたことがあった。

彼女は、そのまま死んだ。

だがー
死ぬ直前、彼女はこう言った。

「え・・・この身体・・・!?
 え・・・どうして・・・死にたくない!!」

と。

拓哉は気づいた。
”アダム”が、車に轢かれた彼女の魂を
異動させ、別の誰かを、死の間際の身体に
移したのだと。

そう、
アダムはこの世から消したい人間を、
死の間際の人間に憑依させて”殺す”

この世界は狂っている。
”アダム”に全て支配されている。

「--人生は、わたしたち人間が決める」
祐菜はそう呟くと、アダムの設置されている
施設にさらに近づいた。

なんとか、アダムを破壊する方法はないのか。
祐菜の中に居る拓哉は、ここ数年、そのことばかりを
調べていた。

そしてー
答えに辿り着いた。

アダムに、祐菜が作り出した特殊なウイルスを
流しこめば・・・

”アダムを消せる”

人類は、人工知能の支配からー
無差別憑依からー解放される。

自分の身体を取り戻し、
自分が自分として生きていく。

そんな、当たり前の世界を、
人類は取り戻すことが、できるー。

ロボットたちが、施設の周囲を警備している。
見つかれば”問答無用で射殺”される。

「----」
祐菜は、定期的にここを訪れて、
少しずつ、施設の構造とロボットたちの
警備パターンを記録していた。

いつの日か、人工知能アダムの中枢に潜り込み、
祐菜が作ったウイルスをアダムに流し込むために。
28か所に設置されているアダムは連動している。
ウイルスを流し込むば、おそらく28か所のアダムは
全て壊滅するだろう。

「---!?」
トラックが向上に運ばれてきた。

可愛らしい女子高生7人ほどが荷台で
うつろな目で立っている。

アダムの仕業だ。
アダムは人工知能でありながら、人間らしい一面も
持っており、好みの女性を見つけると、
魂を抜いて、人形にしてしまい、そして、みずからの傍に
連れてきてしまう。

彼女たちは、アダムの前で、これから、女として
遊ばれつくし、そして・・・

「----」
入れ替わりでもう一台トラックが出てきた。

ボロボロになった女性の身体が5体ほど
横たわっている。

「--またか」
祐菜は呟いた。

あれは、人工知能アダムに遊ばれつくした体だ。
これから焼却場に運ばれて破棄される。

”人工知能アダムによる、最適な体への憑依。”

人類は、それで偽りの平和を手にした。
しかし、実態は違う。

アダムにより、人間は支配されてしまったのだ。

今や、アダムが生死を決める。
生き方さえも。
祐菜に憑依させられている拓哉だって、
今この瞬間に、死ぬ直前の老人の身体に異動
させられて、そのまま死ぬかもしれないのだ。

「今日は、このぐらいにしておこう」
祐菜はそう呟くと、
夜道に一人で歩くには無警戒な
ホットパンツ姿で家へと向かった。

この世で、暴漢は存在しない。
アダムに管理されているからだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

昼休みにクラスメイトの満知子が話しかけてきた。

今日も眼鏡がよく似合っている。

「---どうしたの?満知子?」
祐菜が問いかけると、
満知子は振り返った。

その目は、うつろだ。

「---!?」
祐菜が満知子の異変に気付くと同時に
満知子は祐菜の首を絞めた。

「これ以上、余計な詮索をするな。
 これは警告だ」

満知子がうつろな目のまま
機械的にそう発言した。

「--お、、お前は・・・誰だ?」
祐菜は苦しみながら、普段の女子高生としてではなく、
拓哉としてそう問いかけた。

「---私は神・・・
 お前ら人間を管理する偉大な存在・アダム・・・」
満知子が感情のない声で言う。

「アダ・・・ム?」
人工知能アダムは、すべての人間にいつでも”アクセス”して
憑依できる力を持っている。

「---いいか。これ以上詮索すれば、お前の命は無いぞ」

そう言うと、
満知子はぼーっとした様子で立ち尽くした。

「--ま、満知子?」
祐菜は、満知子の名を呼んだ。

しかし・・・

「この女ー気に入った。
 私のものにしよう」

満知子はうつろな目で呟くと、
そのまま操り人形のように、歩いて行ってしまった。

「---満知子!」
祐菜は叫んだが、既に満知子の意識は完全に奪われていた。

これから満知子は、肉体が朽ち果てるまで、
アダムの身辺で弄ばれるのだろう。

アダムはロボットではない。
ただの、巨大なコンピューターだ。

だが、まるで人間かのように、女を弄ぶ。

「---くそっ!」
満知子は、その日を最後に”記録から消された”

アダムが、住民票登録すらも抹消してしまったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--こんな世界、ゼッタイに狂っている」
祐菜は呟いた。

コンピューターウイルスを送り込み、
アダムを破壊するー。

偽りの楽園を壊さなくてはならない。

祐菜の中に憑依させられている拓哉は、
改めて、そう決意するのだった。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

異様な近未来世界。
これを書いている私が異様なのかもしれませんネ(笑)

憑依<偽りの楽園>
憑依空間NEO

コメント

タイトルとURLをコピーしました