<入れ替わり>ストーカー女の狂気②~略奪~

愛莉になった梨子は、
クラスの人気者である自分の立場を利用して、梨子になった愛莉を
追い詰めていく。

愛しの男子を手に入れ、美貌も人望も手に入れた
愛莉は、徹底的に梨子を追い詰めていく…。

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愛莉は、自分の部屋でほほ笑んでいた。

家族のことは何とか誤魔化せた。
しかも、愛莉の家族は優しい。
梨子の父は、酒乱の暴力男で、
母親は浮気ばかりのどうしようもない女だ。

自分の家とは大違いだった。

「---本当に可愛い…」
鏡を見ながら微笑む愛莉。

もう、醜い自分の姿を見なくてもいい。
愛莉になった梨子は、自分の醜い姿を思い出す。

「ーーぷっ…あんな身体、もう必要ないわ」
愛莉はそう言うと、鏡に向かって挑発的なポーズをして言った。

「---わたしは愛莉。
 あの女を地獄に落としてやる…!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、梨子になってしまった愛莉は、
自分の部屋で一人、泣きじゃくっていた。

梨子の母と父が、口論を続けている。
梨子は殴られ、恐怖のあまり泣きじゃくって、
部屋に閉じこもった。

「--ったくよぉ、お前がそんなだから
 あんな豚が生まれるんだよ!」

父親が実の娘に言う言葉とは思えない様な言葉を
吐き捨てる。

「---何よ!あの豚にはあんたの血も
 流れてるのよ!」

母親が叫ぶ

「どうして…」
梨子は、部屋で布団に包まりながら震えていた。

「どうして…どうして、わたしがこんな目に…」
その目からは、涙が零れ落ちていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

梨子が登校すると、
愛莉が、女子生徒二人を引き連れて、
梨子の方にやってきた。

愛莉と仲の良い女子二人だ。

「--あら、おはよう。豚さん」
愛莉が意地悪そうな笑みを浮かべている。

「--ーー」
梨子は悔しそうな目で愛莉を見つめる。

「--何その顔…
 妄想女が、そんな目でわたしを見ないでくれる?」

愛莉が攻撃的な口調で言うと、
他の二人の生徒も
「そうだよ!愛莉ちゃんが可愛そうでしょ!?」
「ーー二階堂さん、頭おかしいんじゃない?」と
言葉をつづけた。

愛莉にとって、この二人も仲の良い友人同士。
いつもは優しいのだが、
昨日の”わたしが愛莉”発言で、
梨子は、すっかりクラスメイトたちから白い目で
みられるようになってしまっていた。

「---…あんたさぁ、学校やめれば?」
愛莉が嫌味っぽく言葉を口にする

「みんなアンタのこと迷惑だと思ってるし、
 誰にも必要とされてないんだから!

 ね、そう思わない?」

愛莉が周囲の二人に言う。

周囲の二人は、いつも優しい愛莉がこんなこと言うなんて、と
少し戸惑いながらも「そうだよ!」と愛莉に同調した。

「--出てけ!出てけ!出てけ!」
愛莉が手を叩きながら嬉しそうにコールしている。

その時ー

彼氏の道治が教室に入ってきた。

「--ん?おはよう、愛莉」
道治を見て、愛莉は、すぐにコールをやめて、
「あ、おはよう、道治♪」と嬉しそうにほほ笑んだ。

わざと梨子に見えるように、
道治とベタベタして嬉しそうにしている愛梨。

「--ーー」
梨子は、座席に戻りながら、
道治に本当のこと教えなきゃ、と方法をあれこれ思案し始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1、2時間目の授業は、理科の実験だった。

「--全然協調性なくて、本当に困るよね~」
愛莉が、同じグループの梨子をわざと
のけ者にして、嬉しそうに微笑んでいる。

「……わたしは…!」
梨子は反論しようとしたが、愛莉に睨まれて
黙り込んでしまう。

「--ねぇ、いつものようにやろうよ」
愛莉の友人の一人が言った。

愛莉はいつも、梨子に対しても優しく接し、
一緒に授業を進めていた。

違和感を感じた周囲が愛莉をたしなめた。

「--はぁ?マジで?あんな豚と一緒に実験?
 ありえないんだけど!」

愛莉の言葉に、周囲は一瞬沈黙した。

けれどー、
クラスの中心的存在でもある愛莉に
嫌われることを恐れた何人かが、愛莉に同調した。

「---そうだよ!あんな奴、ほっとこ!」
愛莉の友人が言う。

愛莉は勝ち誇った表情で、
梨子に近づくと、
誰にも見えないように梨子の髪を引っ張りながら耳打ちした。

「--どう?わたしになった気分は?
 惨めでしょ?悔しいでしょ?」

梨子は「二階堂さんの好きにはさせないから…!」
と小さな声で、けれども強い意思でそう言い放った。

昼休みー。

道治は、机の中に入っていた紙を見つける。
”話がしたいの”と。

字は、愛莉のものだった。

手紙には”誰にも言わず、わたしにも言わず、
とにかく裏庭に来て”と書かれていた。

「--…」
道治は、愛莉の方を見る。

クラスのイジメグループの女子と楽しそうに喋っている。
梨子いじめの中心であるお嬢様女子と、愛莉は
距離をとっていたはず。
それなのにー。

それに、さっきの理科の授業で…

道治は自分の中の疑問を払しょくするためにも、
何も考えずに指定された裏庭に向かうことにした。

「どこ行くの?」
愛莉が道治に気付き、問い詰める様な様子で
近づいてきた。

「どこって…自動販売機に飲み物を買いにいこうと思って」
道治が言うと、愛莉は笑みを浮かべて
「ふぅん…じゃ、わたしの分も買ってきて」
と、道治に行った。

「あぁ、分かったよ」
道治はそう言うと、足早に教室から出て行った。

道治の出て行った報告を見つめながら
愛莉は何度も何度も小さく舌打ちをしていた。

愛莉の身体を奪った梨子は、陰険な性格の持ち主で、
性格も最低レベルだった。
クラスで孤立したのは、それが原因だろう。

裏庭についた道治は、
周囲を見渡す。
そこには、梨子が居た。

太った体に、陰険そうな顔つき。
お世辞にも可愛いとは言えない。

「なんで二階堂さんがここに…」
道治は戸惑う。

”裏庭に来て”と呼んだのは愛莉のはずだ。
あの筆跡は、確実に愛莉。

なのに、何故?
教室に居た愛莉は、自分で道治を呼んだはずなのに
「どこに行くの?」なんて聞いてきたし、
今、ここにいるのは・・・

「----お願い…わたしの話を聞いて」
梨子は切羽詰まった様子で、道治にそう切り出した。

愛莉と梨子は、梨子の陰謀により、
身体を入れ替えられてしまったー。

今、梨子の中に居るのは愛莉であり、
愛莉の中に居るのが梨子だと。

その話を聞き終えた道治はうなずいた。

「-------そっか」
道治の言葉に、梨子は言う。

「ーーーーお願い…信じて…
 わたし、、どうすることもできなくて…」

道治は、梨子の方を見る。

道治は正直なところ、
梨子が泣いているのを見て、
”生理的に受け付けなかった”

中身は、愛莉なのかもしれない。
けどー。

「---わかった。でも…」
道治は言った。

「ーーもう少し、見極めてもいいかな」
道治が言うと、
梨子は悲しそうな表情で道治を見た。

「--ほら、だって、きみが嘘をついてる可能性だってあるだろ?
 愛莉が本当に愛莉じゃないのか。
 君が本当に愛莉なのか。しっかり見極めたいんだ。

 愛莉のことが大切だからこそ間違った判断をしたくない。
 わかってくれ」

道治は言った。
確かに、今目の前に居る梨子の虚言かもしれない。
だからこそ、慎重な判断をしたい。

ーーーと、いうのは”表向きの理由”

道治は気づいてしまった。

愛莉は、愛莉じゃない。
おそらく、入れ替わりというのは本当だ。

けれどー
”見た目が梨子”なら、中身が愛莉だとしても、
それを愛莉として愛していけるのか?

道治は、困惑していた。

「うん、わかった」
梨子は悲しそうにつぶやいた。

その様子を、愛莉が、校舎の影から見つめていた。

無言で、その場を去ると
近くにあぅた花壇の前で足を止めた。

そしてーー

そこを歩いていた蟻達を次々と踏みつぶし始めた。

「--くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!」
愛莉が怒りを蟻にぶちまけた。

「--わたしが愛莉!わたしが愛莉なのに…!
 くそっ!ふざけんな…!ふざけんな!!」

怒り狂った愛莉は、その場で
怒りが収まるまで、蟻を潰し続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

放課後。

道治は、スマホで梨子とやり取りをする
約束をして、情報交換をしていた。

梨子から送られてくるメッセージは
”愛莉しか知らないであろうこと”もたくさん含まれていた。

「--やっぱり、梨子が…」

「お待たせ!」
背後から、待ち合わせしていた愛梨がやってきた。

「ふふ、一緒に帰ろ♡」
愛莉が嬉しそうに道治の腕に抱き着いた。

「---」
道治は少しドキッとしてしまった。

愛莉はこんなことしない。
恐らくはー。

けれど、体は大好きな愛莉ー。
もちろん、愛莉のことは中身が好きで、一緒になった。

ーーーそう、思っていた。

けれど、実際に中身が入れ替わってみると、
”この愛莉でも”良いかもしれないー
そんな風に思い始めてしまっていた。

「--ところで、昼休み、誰と会ってたの?」
愛莉が訪ねる。

「え?いや…」
道治が目を逸らすと

「スマホ、見せて」
と、愛莉が道治を睨みつけるようにして、手を差し出した。

「い、いや、何だよ急に!
 愛莉、いつもスマホなんて」

道治が言いかけると、愛莉は怒りを込めて言った。

「見せなさい!あなたはわたしのもの!
 わたしに隠し事なんて許さない」

愛莉が怒っている。
やっぱりこれは、愛莉じゃないー。

「--断る!プライバシーってもんがあるだろ!」
道治が言うと、愛莉が怒鳴り声を出した。

「いいから見せるんだよ!」
愛莉が無理やりスマホに手を伸ばす。

「おい!やめろよ!」
道治が、抵抗していると、愛莉が道治の
顔にビンタをした。

「いってぇな!何するんだよ!」
道治が言うと、愛莉が「ご、ごめん…」とトーンダウンする。

「--ごめん。俺、今日一人で帰るわ。
 ちょっと、今後の付き合いのことも考えさせてくれよ」

そう言って道治は足早に立ち去ってしまう。

「---どうして…」
愛莉は一人、呟いた。

「--どうして、、どうしてわたしの方を
 見てくれないの…!!」
愛莉はその場でイライラを爆発させて
髪の毛を狂ったように掻き毟り始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

朝早く登校した愛莉は、
梨子の机にカッターで傷をつけていた。

”死ね”
”消えろ”
”うざい”

呪いの言葉を次々と刻んでいく。

愛莉の表情は、優しい愛莉とは思えないほどに
歪んでいた。

ロッカーを思いっきり
殴りつけて、ロッカーを壊す。
何度も何度も殴ったために、愛莉の手は
痣だらけになってしまった。

「はぁ…はぁ」
愛莉は、梨子のロッカーの中身を投げ飛ばしたり、
ゴミ箱に投げたりして、滅茶苦茶にした。

「--許さない!ブスのくせに!ブスのくせに!!」
愛莉は憎しみを込めて叫んだ。

「--な、何やってるの…?愛梨?」
背後から声がした。

愛莉が驚いて振り向くと、
クラスメイトの一人がいた。

まだ、みんな登校する時間じゃないはず。

「---な、なんで…」
愛莉が言うと、その子は
「部活の朝練があったから」とつぶやいた。

「----二階堂さんの机とロッカー…
 そんなにして…」
その子は、愛莉の友人の一人。

しかし、友人だからこそ、愛莉の異変を感じていた。

「---ねぇ!愛莉ちゃん、これじゃ
 いじめっ子だよ!なんでそんな酷いことするの?」
その子の問いかけに、愛莉は、言った。

「うっさいわね!わたしの勝手でしょ?」
愛莉は開き直った態度で、自分の机に座ると
悪態をつきながらスマホをいじりはじめた。

登校時間が過ぎ、
クラスメイトたちが登校してきた。

「--あら?あんたの机…
 机までブスになっちゃったわね」
愛莉が梨子に対して嫌味を言う。

「---…こんなことして」
梨子が反論しようとすると、愛莉は言った。

「--ねぇ、あんた、死ねば?
 あんたなんて誰からも必要とされてないの!
 わかる?わかるでしょ?

 ねぇ、みんなもそう思うよね?」

愛莉がクラスメイトたちの方を見て言う。
しかしー、誰も返事をしない。

愛莉の人望をー
梨子はたった数日で失ってしまった。

担任の先生がやってくると、
一人の女子生徒が担任に耳打ちをした。

「----長谷川、こっちに来い」
担任が言った。

「----」
愛莉は無言で立ち上がると、
先生のところに向かう。

「--二階堂の机とロッカー、
 滅茶苦茶にしたのは、長谷川、お前か?」
担任の言葉に、愛莉はため息をつく。

「--先生は、わたしを疑うんですか?」
不貞腐れた態度で言う愛莉。

道治も、その様子を見守っている。

「--やったのかどうか、聞いているんだ」
先生が言うと、愛莉は静かに答えた。

「やったわよ…あんなクズ…」
愛莉の言葉に、先生は「お前!」と怒声を出した。

そしてーー
「二階堂に謝れ」
先生が言うと、
愛莉は「何でわたしが・・・!」と反論する。

しかしーー
先生にも、クラスメイトにも、道治にも、梨子にも
愛莉は睨まれていた。

「ーーーーな、何よ何よ!
 どいつもこいつもわたしを馬鹿にして!!!
 馬鹿にして!!」

愛莉はヒステリックな喚き声をあげると、
そのまま教室から走り去ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

その夜ー。
愛莉は自宅で暴れていた。
自分の部屋のものを手当たり次第に、破壊している。

「あ、愛莉?何やってるの?」
母親が愛莉の部屋にやってくる。

「うるさい!黙ってろ!」
愛莉は母親に教科書を投げつける。

「はぁ…はぁ…」

今や、愛莉の部屋は、道治の写真だらけになっていた。

「あぁ…道治…
 わたし、ゼッタイにあの女からあなたを取り戻すから…」

さらなる妄想と憎しみに支配された愛莉の中に潜む梨子は、
暴走を始めようとしていた。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

次回が最終回ですよ~
お楽しみに!

コメント

  1. デクストラ より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    はじめまして!
    いつも楽しく読ませていただいてます。
    ダーク物は好きなのですがバッドエンドは苦手な自分なので最後はハッピーとは行かないまでも救いはあって欲しいなぁ・・・と思っています。
    ただバッドエンドはバッドエンドで嫌いではないのでどちらにしても楽しみに待ってます!

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > はじめまして!
    > いつも楽しく読ませていただいてます。
    > ダーク物は好きなのですがバッドエンドは苦手な自分なので最後はハッピーとは行かないまでも救いはあって欲しいなぁ・・・と思っています。
    > ただバッドエンドはバッドエンドで嫌いではないのでどちらにしても楽しみに待ってます!

    ありがとうございます!
    私も個人的に救いがあった方が書いていてすっきりします!

    結末は…楽しみにしていてください!