<憑依>憑依薬を売る男・愛染亮

オークションで憑依薬を売る男が居た。
男の名は、愛染 亮。

彼は何故、憑依薬を売るのか。
彼が、憑依薬を売りさばいた先に、描く理想とは…?

※リクエスト作品です
 「夕暮れ時の涙」や「アイドル、やめちゃいます」「タイツ狂い」などに登場した
 オークションで憑依薬を売る男・愛染のお話です。

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「言ったはずですよ。
 ノークレーム・ノーリターンでお願いしますと。」

若く、整った顔立ちの青年、
愛染 亮(あいぜん りょう)は、
電話をしながらそう言った。

失笑するかのような表情。

電話相手は女子高生。
女子高生に似合わぬ、乱暴な口調で愛染を攻め立てる。

だが、愛染は驚かない。

この電話相手の女子高生の中身が、
40代男性であることを知っているからだ。

3日前に、憑依薬を落札した男ー。
そいつが女子高生に憑依したのだろう。

だが、愛染が売る憑依薬は
”一方通行”
一度、憑依したら抜け出すことはできないー。

「ーー僕はね、あなたみたいな
 女性を道具としてしか見ないような人間が、
 死ぬほど嫌いなんですよ」

愛染は嫌悪を丸出しにしてそう言った。

彼は、憎んで居るー。
女性を道具のように扱う男をー。

オークションで憑依薬を売る目的の一つは”復讐”。
女性を道具のように扱うものたちから
金を巻き上げることー。
そして、憑依した女性の人生を奪った罪悪感で
一生苦しませることー。

時には、喜ぶやつもいるが、
それは愛染にとってはもう、救いようのない”論外”な存在だ。

「-評価、お願いしますよ。
 もしも、評価されなかった場合は、
 分かりますね?

 僕は憑依薬を持っている。
 あなたのすべてを滅茶苦茶にすることも、可能だ」

愛染はそういうと、電話を切って、
ため息をついた。

愛染は机の上に飾られている
2枚の写真を見つめた。

1枚目の写真には、
小さい男の子と、母親と思われる女性が写っている。

そして、2枚目の写真には
仲の良さそうな高校生カップルの写真。

「母さん・・・」
愛染は写真を見て、呟いた。

愛染亮は母子家庭で育った。
母親も、愛染に精一杯愛情を注ぎ、
愛染も、子供ながら、母親のために良い子で生きよう、
とそう考えていた。

けれどー
7歳のときに、家に突然入ってきた暴漢に襲われて
母は、亮の目の前で命を奪われた。

母はそのとき、29歳だった。
亮の目の前で無理矢理、喘がされて、
みっともない姿を晒させられたまま、殺された。

男はそのときに言った。
「女は、男を楽しませるために居るー」

と。

その後、愛染は親戚にたらいまわしにされながらも、
母が安心するような人間になろう、と
一生懸命に頑張った。

でも、高校2年のとき、
愛染を歪めさせる決定的な事件が起きた。

「---莉奈(りな)…」
愛染は、もう1枚の写真を見つめながら呟く。

ポニーテールの可愛らしい女子高生・・・。
それが、莉奈。
そして、莉奈の横に居るのは、
高校時代の愛染 亮。

2人は、とても仲良しのカップルだった。

しかしー
今、莉奈はもう、この世に居ない。

「---ねぇ…愛染君、わたしね…
 身体、乗っ取られちゃった!あはは!!」

デートの途中、
彼女は、突然豹変した。

そのときが、8回目のデートだった。

最初は、莉奈が、ドッキリでも仕掛けているのかと、
そう、思った。

けれど、違った。

莉奈は、愛染の目の前で、何者かに
憑依された。

「なぁ、脱げよ!わたしとエッチしたいだろ?くくく…」
莉奈は、愛染にイヤらしい目つきで迫った。

「な…何を言ってるんだよ莉奈・・・!
 冗談はやめてくれよ!」

愛染は、悲痛な声で、そう言った。
しかし、莉奈の肉体と精神は、完全に乗っ取られていた。

愛染の目の前で、服を引きちぎるようにして
脱ぎ捨てて、胸を出しながら笑った。

「人前で、わたしが、こんなことする?」
莉奈の冷たい目つきを前に、
愛染は凍りついた。

「---ふ、、ふざけるな!莉奈を返せ!」
愛染は叫ぶ。

だが、莉奈は取り合わなかった。

「--くくく、この女が可愛いから悪いんだよ!
 可愛いから俺のような男に乗っ取られるんだよ!
 なぁ…?彼氏さんよぉ?
 エッチしようぜ、ここで! あぁ…感じてきた!」

莉奈が、今まで見たこともないような、嬉しそうな表情を浮かべて笑う。

「ねぇ、わたしと、しよっ?」
微笑む莉奈。その目つきは、明らかに愛染を誘っている。

「---ふ、ふざけるな!
 莉奈は、道具なんかじゃない!
 人間なんだぞ!

 そうやって好き勝手に・・・!」
愛染が怒りを込めて言うと、
莉奈はイライラした様子で頭をかきむしりながら言った。

「女は、男を楽しませるために居るんだよー」

その言葉を聞いて、愛染の中で怒りが爆発した。

7歳のときー、
母の命を奪った暴漢の男もそう言っていた。

「貴様ぁ!莉奈から出て行け!」
愛染が怒りを爆発させると、
莉奈は失笑した。

「-あ~あ、つまんねぇヤツ!
 なら出てってやるよ!」

そういうと、莉奈は突然背後の交差点に
向かって走り出した!

「あはは!あんたのせいで、わたし、自殺しちゃうの!
 あははははははっ!!」

大笑いしながら莉奈は赤信号の交差点に
向かって走っていきー
愛染の目の前で、大型トラックにはねられた。

「-----!!」

ブチン・・・

愛染の中で、何かが壊れた。

笑みを浮かべながら、血まみれになって
莉奈は死んでいたー。

「---莉奈…」
愛染は拳を握り締めた。

「---憑依…薬」
愛染は憎しみに支配された目で空を見つめる。

「--ぶっつぶしてやる…
 全部、奪ってやる・・・
 何も、かも・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

愛染は、2枚の写真から目を背けると、
窓から外を見たー。

そこには、愛染が運営している孤児院の子供たちが
楽しそうに遊んでいた。

「ねぇねぇ、遊ぼうよ!」
子供たちが、愛染の部屋に入ってくる。

「はは…わかったわかった」
愛染は”優しい笑み”を浮かべると、
子供たちのほうに向かって歩き出した。

この子供たちはーー
愛染が、憑依薬を売ったことによって
家族が崩壊し、孤児となってしまった子供たちだ。

愛染が売る憑依薬を使って、
母親に憑依する連中が居るー。
そして、母親になって、夫の命を奪ったり、
家庭を崩壊させるヤツが居る。

もちろん、愛染に原因の一旦はある。
だが、それでも、愛染は”3つの目的”のために、
憑依薬を売らなければならない。

たとえ、どのような犠牲を払おうとも。

子供たちを集めて、孤児院を無償でやっているのはーー
”せめてもの罪滅ぼし”なのかもしれないー。

「---ん?」
愛染はふと気付いた。

子供の人数が一人足りないことに。

「--蘭子ちゃんは?」
愛染が、近くに居た子供に尋ねると、
”さっきお姉ちゃんが連れて行ったよ”と
答えた。

「--お姉ちゃん?」

愛染が不思議そうに問いかけると、
別の子が「そのお姉ちゃんがこの紙を愛染さんに渡してって」と
言いながら、紙を差し出してきた。

紙を開くと、そこにはーー

”子供は預かった。
 詐欺出品者のお前を俺は許さない。
 指定した場所に一人で来い”と
書かれていた。

「----」
愛染は紙を丸めて拳を握り締めた。

オークションで憑依薬を買った
40代男性の仕業だろう。

大抵の客は、
電話で脅せばそれ以降は何もしてこない。

愛染には”切り札”もある。

だがー、
時々、こういうやからが現れる。

「--大丈夫?」
子供たちが心配そうに尋ねる。

「あぁ、心配ないよ。
 ちょっと僕は出かけてくるから、
 いい子にしてるんだぞ」

愛染は子供の頭を優しくなでると、
他の職員に子供たちのことを任せて、
指定された場所へと向かうのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女子高生が、廃工場の柱に、
まだ5歳ぐらいの少女、蘭子を縛り付けて
ビンタしていた。

「--くくく…
 小さな子に暴力を振るう私…
 なんか興奮するわっ!」

パチン!と工場内に音が響き渡る。

彼女は、近所の高校に通っていた
女子高生・桑野 亜津菜(くわの あつな)。

愛染から憑依薬を買った男に、
身体を乗っ取られてしまった。

しかし、男は、亜津菜の体を遊びつくしたら
抜け出すつもりだった。
おもちゃのように、亜津菜の身体を弄び、
そして、自分の身体に戻るー。

けれど、愛染の憑依薬は一方通行だった。

そのことに逆上した彼は、
愛染を呼び出したのだ。

「---言ったはずですよ」
背後から、愛染の声がした。

「ノークレーム、ノーリターンでお願いします、とね」

愛染の方を振り向き、亜津菜は唾を吐き捨てた。

「はっ!ふざけんじゃねぇよ!
 こんな小娘の身体にいつまでも居られるかってんだ!

 こいつはおもちゃだ!
 おもちゃで遊んだ後は、捨てるものだろぉ?」

亜津菜が汚らしく笑いながら言う。

「捨てる…」
愛染の目つきが憎しみのこもったものに変わる。

「---僕はね…
 お前みたいな女性を道具にしか見てないようなやつが
 虫唾が走るほど嫌いなんだ。
 そして、憑依薬も、ね」

愛染が低い声で言うと、亜津菜は笑う。

「--ふへへっ!馬鹿言ってるんじゃねぇ!
 お前が憑依薬を売ったんだろ!
 だからこの可愛い子が、こんな目にあってんだろ!

 ほら!胸なんかもんじゃってさぁ!
 あっ…ああっ…あぁん・・・!
 こ、こんな声出さされちゃってさぁ…ひひひ!」

愛染は”クズめ”と小さな声で呟いた。

「--おい!愛染とかいったな!
 今すぐ元に戻さないとお前の…」

そこまで言いかけて、
亜津菜は言葉を止めた。

愛染から尋常じゃない殺気が流れ出ていたからだ。

「--おもちゃのように、その子を遊んで、
 用が済んだら、自分は無傷で元の身体に戻る?
 そんなことできると思うんじゃねぇぞ」

愛染は丁寧な物腰を殴り捨て、本性を現した。

「--警察上層部と政府関係者に僕の
 協力者が居る。
 その気になればお前なんて、絶望のどん底に
 突き落としてやれる」

愛染の切り札ー、
それは、憑依薬を売り始めのころに、
憑依薬を購入した警察上層部の男と政府関係者の男。

愛染は、憑依薬の購入をネタに、2人を脅し、
二人を協力者に仕立て上げた。
今では、愛染が2人のどちらかに声をかければ、
どうとでもできるのだ。

それが、愛染が、憑依薬をオークションで売り続けられる理由。
そして、報復をされずに済んでいる理由ー。

「……くっ…」
亜津菜は震えながら悪態をついた。

愛染の目は本気だ。
愛染に逆らえば、自分は人として
生きることができないレベルに、追い込まれてしまうかもしれない。

「----お、お前だって、お前だって!
 人の人生を壊しているじゃないか!
 この女だって、お前が憑依薬を売らなければ…!」

亜津菜が叫ぶと、愛染は言った。

「分かってるー。
 僕のしていることも、酷いことだ。
 許されることではない。
 罪のない女性が僕の売った憑依薬のせいで、
 被害に遭っているー。

 でもなー
 僕はそれでもやらなければならない。

 憑依薬という悪魔をこの世から消し去るには、
 僕が悪魔になるしかないんだよ…!」

愛染は言った。

「--僕はーー
 ”3つの目的”を果たしたら、
 自ら命を絶つつもりだ」

愛染は言う。

一つ目の目的はー
”憑依薬”をこの世から消し去ること。
愛染は、オークションで憑依薬を売り、
それで得た莫大な資金で、全世界の憑依薬を買い漁り、
さらには工場を買収し、
時には金の力で憑依薬に関係するものたちをつぶす。
そのためには、まだまだ金が必要だ。

二つ目の目的はー、
“女性を道具としてしか見ない男性たち”への復讐。
自分の母や、恋人を奪ったようなやつらへの復讐ー。
憑依薬を売り、抜け出せないと知ったときの絶望をー
そういうヤツらに味あわせる。

そして、最後の目的はー
大切な彼女、莉奈に憑依して、莉奈を奪った男を
見つけ出して、地獄を味合わせることー。
憑依薬を売っていれば、いつの日かー

「憑依薬という悪魔を消すためには、
 悪魔に魂を売らないといけない。
 僕は目的を果たすためなら、悪魔にだってなる…」

愛染の狂気にそまった目を見て、
亜津菜は恐怖に身を震わせた。

「--テ・・・テメェ、狂ってやがる・・・」
亜津菜が吐き出すようにして言うと、
愛染は亜津菜を見つめた。

「選べよ。
 ”その女の子として生きるか”
 それとも…」

愛染の言葉に、亜津菜は太ももに
巻きつけていたナイフを取り出した。

「ぶっ殺してやる!」
亜津菜が叫んで襲い掛かった。

「--残念だね」
愛染は冷たい声で言った。

「僕の憑依薬には”時限装置”が含まれている。
 僕が外部からコントロールすることも、
 できるんだよ」
愛染がそう言うと、亜津菜は身動きが取れなくなった。

「--死ね」
愛染が冷たい声で言うと、
亜津菜は自らの首筋にナイフを向けた。

「--ま、待て!この女の子も、殺す気か!」
亜津菜が言うと、愛染は悲しそうな表情で言った。

「--僕はもう、地獄に落ちる覚悟はできている」

「うぎゃあああああああ!」
亜津菜は、自らの首を切り、
憑依している男共々、絶命した。

「---」
愛染は悲しそうに、亜津菜のなきがらを見つめた。

「--僕は悪人だ。
 でも…誰かがやらなければ憑依薬の根絶はできない」

愛染は、そう呟くと、意識を失っていた蘭子を抱きかかえて
そのまま孤児院へと戻った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

愛染亮は、再びオークション落札者からの電話を前にしていた。

「--僕のやり方は間違っているかもしれない。
 けれど、僕にはこの道しか思い浮かばなかった」

愛染は、
母と、彼女の莉奈の写真を見つめて悲しそうに呟く。

「--憑依薬をこの世から消し去ったら、
 僕も、そっちに行くよ・・・」

愛染は、自虐的に微笑んで、
オークション落札者からの電話を手に撮り、
呟いた。

「ノークレーム、ノーリターンでお願いします」

と。

おわり

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コメント

いくつかの作品に登場した
憑依薬をオークションで売っている男・愛染のお話を書いて見ました!

彼は物語の都合上、憑依薬を入手するルートとして、
また登場するかもしれません!

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小説
憑依空間NEO

コメント

  1. より:

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    語彙力無いんで色々言い方おかしいかもだけど
    大変失礼しました。なるほど愛染はそういう人間でしたか。
    自分はハムラビ戦法と呼んでるがまさに、目には目を憑依には憑依って感じだな
    あの強大な力を持ってた名倉でさえ、当事者を見つけるのはかなり苦労したから、愛染はそれ以上にかなり道のりは険しそう。
    一部ジョーみたいに憑依薬に関係無く、独自に能力持ってる人もいますしねえ
    憑依欲満載の俺が言うのもなんだが完遂を祈ってます。

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