人気アイドルを独占したいー。
そんな欲にかられたアイドルオタクは、
握手会の際に、アイドルに憑依した。
そして、彼は”引退宣言”を行おうとするー
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人気アイドルの、寺内 梓沙(てらうち あずさ)は、
現役女子高生の年齢ながら、
とあるアイドルグループの一員としてデビューし、
大人気となった少女だった。
その可愛らしい容姿と、明るく、優しい振る舞い、
旺盛なサービス精神など、梓沙に夢中になるファンは
とても、多かった。
半年前、
梓紗が所属していたアイドルグループの3人が不祥事を起こし、
3人とも解雇、
もう一人のメンバーは芸能界を去り、
残ったのは梓沙一人となった。
しかしー
それでも梓沙は、アイドル活動を続けた。
そして、
今では、グループの一員であったことすら、ファンたちは
忘れてしまう程に、梓沙はソロアイドルとしての
地位を獲得していた。
「みんな~今日はここまで!」
アイドル衣装を身にまとった可愛らしい少女、梓沙が、
ミニライブを終えて、ファンたちに手を振った。
満面の笑みで、梓沙はこの日のミニライブを
終えると、そのまま、ステージを後にした。
「いやぁ~今日も良かったですねぇ」
小太りなメガネ男、ヨウスケが言う。
「--あぁぁ…今度の握手会も楽しみだな」
もう一人の髪の毛がボサボサな小柄な男、シンジが言った。
二人は、知り合いではない。
ネット上で知り合い、梓沙のファン同士、
意気投合した間柄。
そのため、本名も知らない。
ツイッター上ではヨウスケ、シンジとお互いが
名乗っていたため、今もその名前で呼んでいるし、
それ以外の名前で呼ぶつもりも無い。
「--あぁ…梓沙ちゃんになりたいなぁ」
シンジがそう呟くと、
ヨウスケは一瞬ためらうような表情を浮かべた後に、
ニヤリと笑って、シンジに対してこういった。
「--実は、ありますよ、
梓沙ちゃんになる方法」
ヨウスケの不気味な笑み。
シンジは「え?」と不思議そうに返事をした。
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二人は、近くのネットカフェに入った。
ヨウスケがスマホをいじくりながら、
シンジにその画面を見せる。
スマートフォンには、オークションの画面が表示されている。
「オークション…一体何を?」
シンジが訳も分からず、ヨウスケに尋ねると、
ヨウスケは笑った。
「ほら、これ見てくださいよ、これ」
ヨウスケが見せてきた画面を今一度見る。
すると、そこには
”憑依薬”
なるものが表示されていた。
人間に憑依して、体を乗っ取ることのできる薬ー。
現在の価格は3万円。
「嘘だろ~?騙される奴なんているのかよ」
シンジが言うと、
ヨウスケは出品者情報を表示させた。
出品者、愛染 亮(あいぜん りょう)は、
100件以上の取引があり、全てが高評価だった。
もちろん、自作自演や知人を使った可能性も
拭えない。
だがー、100件も自作自演できるものか?
「--僕はお金がないから断念しましたけど…
どうです?シンジさん。試してみるっていうのは…」
ヨウスケの言葉に、シンジは「考えておくよ…」とだけ
返事をした。
梓紗の可愛らしい容姿
ファンを魅了する踊りと歌。
バラエティ番組などでの初々しい姿。
「欲しい・・・」
夜、自宅でシンジは、
オークションの画面を開きながら呟く
愛染の出品者情報には、電話番号が記載されていた。
「ダメでもともとだ!」とシンジは、愛染に電話をかける。
すると、意外にもすぐ、電話はつながった。
大半の人間は「憑依薬」などを見かけても悪戯だと判断するし、
電話をかけるなんて、個人情報を抜き取られそうだと電話を
戸惑う。だからー、電話はすぐにつながった。
「--憑依薬について、お聞きしたいのですが」
シンジが言うと、愛染ー、若い男の声は丁寧に
挨拶をし、憑依薬について説明してくれた。
今回出品しているタイプは安価な代わりに、
憑依したい対象の身体に直接触れないと憑依できないタイプだと。
「---直接、触れる…」
シンジは考えた。
ちょうど今度、握手会がある。
「--それは、本物なのでしょうね?」
シンジが訪ねると、愛染は笑いながら答えた。
「もちろんですよ。
ただし、ノークレーム・ノーリターンでお願いしますね」
そう言うと、愛染は電話を切った。
買うべきかー
買わざるべきか―。
シンジは、しばらく考え込んだ後に、
憑依薬に入札したー。
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後日、シンジとヨウスケが
待ちに待った握手会の日がやってきた。
梓紗は今日も、にこにこしながら
ファンと握手を交わしている。
どんな人が相手でも、
彼女は笑みを崩すことなく、
楽しそうに握手をしている。
本心は分からないけれどー。
「---」
シンジはつばを飲み込んだ。
既に、憑依薬は服用してある。
出品者の愛染が同封してくれた説明書によれば、
服用後1時間を目安に、憑依したい相手と握手すれば、
憑依できるらしい。
唯一気になるのは、元に戻る方法が
あいまいなことだが、
それは恐らく大丈夫だろう。
「どうかしましたか?」
ヨウスケがニヤニヤしながら尋ねる。
「あ、いや…別に」
シンジが誤魔化しながら、
別の方向を向く。
列の前の方に、やってきた。
もうすぐ、梓沙と握手ができる。
いや、もうすぐ、梓沙そのものになれるー。
梓紗になって、
引退宣言をして、
梓紗を”私物”にするー。
シンジの念願がかなうときが近づいてきた。
「あ、いつもありがとうございます~」
梓紗が手を差し出してきた。
ゴクリ…
シンジは数秒の間に葛藤した。
良いのか?
本当に、この子の身体を奪うことなんかして、良いのか?
許されるのか??
差し出そうとした手をひっこめ、
梓紗が一瞬、不思議そうな顔をする。
その顔も、たまらなく魅力的だった。
いや…いいんだ。
この可愛い顔も、何もかも、
俺のものだ…。
シンジは、梓沙の手を握った。
冷たくて…すべすべな…
そう考えていると、
激しい衝撃が走った。
「ひうっ!?」
変な声が聞こえる。
「---」
な、何が起きた?
ふと、周囲を見渡すと、
目の前に”自分”が倒れていた。
「---えっ!?」
自分の口から可愛らしい声が出る。
「あ・・あれ…お…あれれ?」
自分の手を見る。
スベスベで綺麗な手ー。
そして、アイドル衣装に、
スースーする足元。
「-わっ!ま、まじで…!?」
変な声を思わず出してしまったが、
周囲は倒れた一人のファンを前に、
困惑しており、誰も気づかなかった。
シンジはー、
梓紗になったシンジは、すぐに行動した。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
梓紗のフリをして、ファンに駆け寄る。
すぐにスタッフが出てきて、倒れた自分の身体、
シンジを運び出した。
「---(やった!)」
梓紗は心の中でガッツポーズをした。
ついに、ついに自分が梓沙に…。
でも、と、
ファンの方を横目で見る。
今この場所で、好き勝手するのは気が引けた。
ひとまず、
握手会を継続して、そのままファンたちとの握手を続けることにした。
「--梓紗ちゃん、今日も可愛いね!」
シンジの友人、ヨウスケの順番が回ってきた。
「あ、はい、ありがとうございます!」
そう言って、握手を返す梓沙。
しかし、ヨウスケがその瞬間、表情を曇らせた。
「あの…どうかしましたか?」
梓紗に憑依したシンジは一瞬ヒヤリとする。
しかしー
「あ、いえ…」
ヨウスケはそれだけ言うと、梓沙の顔を凝視しながら
立ち去って行った。
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楽屋に戻った梓沙は、
一人、笑みを浮かべていた。
少し待機時間がある。
「--ふふふ…」
梓紗は鏡の方を見つめて、
いつも梓沙がやっている挨拶をやってみる。
「みんな~梓沙だよ~♡」
なんだか、とっても恥ずかしい動作。
それを、自分がやっている。
顔を真っ赤にした梓沙が鏡に映っている。
「ふふ…可愛いよ…梓沙ちゃん」
イヤらしい笑みを浮かべて笑う梓沙。
「ねぇ梓沙ちゃん」
自分で自分の名前を呼び、ニヤニヤしている梓沙。
「はい…!どうしましたか?」
梓紗の優しい表情を演じて、一人二役を楽しんでいる。
「梓沙ちゃんの身体…見てみたいなぁ~ふふふ」
梓紗がイヤらしい顔で言う。
そして、梓沙がほほ笑みながら
「--え~どうしよっかな~
でもシンジさんのお願いなら…わたし、脱いじゃう♡」
一人二役をしながら、
梓紗は、嬉しそうに服を脱ぎ始めた。
「~~~あぁぁ♡ さいこう…♡」
梓紗はその場で膝をついて
自分を抱きしめた。
「梓沙ちゃん…梓沙ちゃんっ!梓沙ちゃんっっ♡」
欲情しきった表情で、自分の名前を呼びながら
自分を抱きしめている梓沙。
「あぁ…シンジさん♡ シンジさん♡ 大好き!!!!」
自分で自分の名前を呼ばせるシンジ。
アイドルが、自分の事を好きなんて言ってくれるはずがない。
しかし、今、シンジは、梓沙に憑依して
梓紗にとんでもないことをさせて、言わせている。
「あぁああああ♡ 幸せ♡ 幸せぇ♡」
ガチャ…
「------!!!」
梓紗はびくっとした。
マネージャーが楽屋に入ってきた。
スーツ姿の20代後半か30代前半ぐらいの
きりっとした女性だ。
「ーーーあ、…あ、、、あの、、これは」
梓紗は、服を脱いで自分を抱きしめていたことを
どう弁明しようか、困り果てた。
しかしーー
「--梓紗ちゃん、今日もお疲れ様」
マネージャーは、何も言わずに淡々と話を進めた。
梓紗は気まずいまま服を着る。
そしてー
マネージャーに告げた。
「あの…わたし、ファンの皆さんに報告したいことが
あるんですけど…」
梓紗に”引退宣言”をさせるー
そして、シンジが梓沙を手に入れる。
なんとか、ファンへの重大発表会の開催の許可を貰った梓沙は、
ニヤリとほほ笑んだ。
マネージャーが、梓沙が一人エッチをしそうな状態でも無反応だったことや、
突然「ファンに対しての発表をしたい」と告げても、あっさりOKをしてくれたのが
気になるものの、梓紗は、これからのことを考えて、一人言葉を口にする。
「--わたし、アイドルやめて、シンジさんの所有物になるの…♡」
ーと。
シンジは、梓沙の身体にそう言わせて、満足そうに微笑んだ。
②へ続く
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コメント
今日からはまた新しい小説です!
毎回、色々な結末が浮かぶのですが
どの結末を選ぶか悩むのも、楽しみの一つです!
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