突然の事故。
彼女は、すべてを奪われた。
明るい未来も、何もかも。
そんな彼女が、
自分が消え去る前に、最後に選んだ道はー。
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「--1年間、お父さんの仕事の都合で海外に
行かなきゃ行けなくなっちゃった」
高校2年の春ー。
高校生の西野 雅幸(にしの まさゆき)は
彼女の村本 愛美(むらもと まなみ)から、
そう告げられた。
父親の都合で、1年間、海外に行くと。
「来年、必ず戻ってくるから…
待っててね…」
愛美はそう言った。
「---うん」
雅幸は悲しそうに、そう返事をした。
小学生時代からの付き合いで、
高校1年の時からは彼氏と彼女の関係になった2人。
2人は、とても仲良しで、まさに、理想のカップルだった。
1年間ー
離れ離れにはなってしまうけれどー。
それでも、2人の未来は希望に満ち溢れているはずだった。
しかし…
海外についたその日ーーー。
ざわめく通行人たち。
愛美の耳に、英語が聞こえてくる。
”救急車”のような声が聞こえているー。
「---そ…そんな・・・」
愛美は、地面の感触を全身で味わいながら、
声を出した。
かすれて、音にならない声が出たー。
彼女はーー
海外に到着した初日ー、
暴走していた車に撥ね飛ばされた。
「---どうして・・・」
目から涙がこぼれる。
けれども、自分のことは、自分がよく分かる。
もう、助からない。
「雅幸・・・」
大事な人の名前を、呼んだー。
来年、必ず帰るって約束したのにー、
ーー雅幸には、わたしが居ないと、ダメなのにー。
雅幸は、小さい頃から、臆病な性格で、
愛美にとっては、弟のような存在でもあった。
「---そう・・・そうよ…わたしは…死ねない」
愛美は手を前に出す。
「-----」
でも・・・もう、力が入らなかった。
「--雅幸・・・ごめん・・・ごめんね・・・」
彼女はもう動けなかった。
その場で、雅幸の名を呼ぶ・・・
「---ごめ・・・ん」
彼女は、最後のその瞬間まで、
彼氏の雅幸のことを、想っていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--元気ないねー」
クラスメイトの一人、赤石 奈々枝(あかいし ななえ)が
雅幸に声をかけた。
「-ーーえ、そ、そうかなぁ」
雅幸がそう返事をする。
「--やっぱ、愛美が居ないと寂しいよね?」
奈々枝が言うと、
雅幸は寂しそうに頷いた。
「--ま、ほら、1年の間は、
わたしのことを愛美だと思ってくれてもいいよ?」
奈々枝はー、
雅幸、愛美と同じ小学校出身で、
3人は小さい頃からの知り合いだった。
「--えぇ?愛美と赤石さんじゃ全然違うよ!」
雅幸が笑いながらそう言うと、
奈々枝は少し寂しそうに
「ふふ、冗談冗談」
と言いながら立ち去っていった。
雅幸は知らなかったー。
このとき既に、愛美は、もうこの世に居ないことをー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー。
「--はぁ」
奈々枝が自分の部屋でため息をついていた。
小学生時代の遠足の写真を見つめる。
そこには、奈々枝と雅幸がふざけあっている様子が
写っている。
その近くで、愛美が微笑みながらその様子を見つめている
様子も写っていた。
「--いつの間にか、愛美に取られちゃったな」
奈々枝も、雅幸のことが好きだった。
けれどー、
奈々枝は、愛美とは違い”友達感覚”が強すぎた。
今更、恋愛感情なんて打ち明けられない・・・と
迷っているうちに、先を越されてしまった。
「---ま、でも・・・
2人が幸せなら、それでいっか」
ーー”奈々枝ちゃん”
背後から、声が聞こえた。
奈々枝が驚いて振り返ると、
そこにはー愛美の姿があった。
「--は・・・っ??えっ・・・え?」
奈々枝が居るはずのない愛美の登場に驚く。
よく見ると、
その姿は少しー透明がかっていた。
「--ま、愛美・・・?何でここに?」
奈々枝が驚いて言うと、
愛美が悲しそうに微笑んだ。
「--わたし・・・もう帰れない」
愛美の言葉に奈々枝が不思議そうに返事をする。
「帰れないって・・・どういうこと?」
奈々枝の言葉に、愛美は目から涙をこぼした。
「--わたし・・・死んじゃった・・・」
奈々枝は驚いて目を見開く。
「-----」
うつむいて沈黙する愛美。
「--・・・・・・・・・」
奈々枝も、どう言葉を返して良いか分からず、黙り込んでしまう。
愛美は口を開いた。
「・・・・・・あ、ごめんね 驚かせて」
愛美の言葉に奈々枝は首を振った。
「え、い、いや、そんなことより…
愛美はこれから、どうなるの?」
奈々枝は焦る。
自分は夢でも見ているのではないかと。
たぶん、夢に違いない。
そうとさえ思った。
でも、仮に-
目の前に居る愛美が、本物だったとしたらー。
奈々枝は愛美の性格を良く知っている。
何でもできるような雰囲気で、
立派な振る舞いを崩さないけれど、
本当は、さびしがり屋でー、
何かあっても自分一人で抱え込んでしまう性格でー、
とても不器用な子だと。
「ーーーー雅幸のことは、どうするの?」
奈々枝が訪ねる。
雅幸が、愛美の死を知ったらー
酷く落ち込む。
いやーーー泣き出してしまうかもしれない。
「---雅幸…」
愛美が悲しそうにつぶやく。
「ーーーと、いうか、何で私のところに来たの?
雅幸にこそ、会いに行ってあげるべきなんじゃないの?」
奈々枝が訪ねると、愛美は首を振った。
「---それは…」
愛美がつぶやくようにして言う。
「--わたし、もう消えちゃうの・・・。
だんだん、自分が薄れていくのがわかる・・・。」
愛美は最初、雅幸に会いにいこうとしたー。
けれどー、
自分が薄れていくのに気づいた愛美は、
雅幸の家まで辿り着く前に消えてしまうのではないかと
不安になり、距離の近かった奈々枝の家を訪れた。
愛美の言葉に奈々枝はため息をついた。
「-ふぅん・・・」
奈々枝はそう言いながらも、目の前に居る愛美が
本物なのかどうか
これは現実なのかどうか、判断しかねていた。
「--わたし…消えたくない…
雅幸に、もう一度会いたい…」
愛美が涙をこぼし始めた。
「---…ならさ」
奈々枝が口を開いた。
「--愛美、今、幽霊の状態ってことだよね?」
奈々枝が愛美の方を見る。
「ーーーう、、うん、たぶん・・・」
正直、愛美自身にも分からない。
死んだ経験なんて、今までないのだからー。
「---・・・」
奈々枝が考え込む。
その時だった。
「--あ・・・わたし・・・」
元々、薄い蜃気楼のような感じだった愛美の姿が、
歪んでいく。
「ま、愛美?」
奈々枝が驚いて愛美の方に近づく。
「--わ、、私・・・消えちゃう・・・」
愛美は自分で感じていた。
”成仏”する瞬間がやってきたのだと。
「ーー奈々枝、雅幸に伝えて!
”今まで楽しかった ありがとう”って!」
その言葉を聞き、
その真剣な表情を見て、奈々枝はようやく
目の前に居る愛美が本当に幽霊であることを悟った。
夢にしては、鮮明すぎるー。
そしてー、目の前に居る愛美は、
奈々枝の知る愛美そのものー。
「ーー愛美!あんた、幽霊なら、
わたしに憑りつくこと、できるんじゃない?」
奈々枝が咄嗟に叫んだ。
「--え?」
愛美が消えていく体から、弱弱しい声を出した。
「--いいから早く!
もう一度、雅幸に会いたいんでしょ!」
奈々枝が叫んだ。
「え、、、で、、でも・・・」
愛美が戸惑う。
「いいから!私の身体を貸してあげるー!
早く!」
愛美は今にも消えそうだった。
奈々枝の言葉に、愛美は、頷いて・・・
消えゆく体を奈々枝に重ねた。
「あっ…!」
奈々枝の身体がビクンと跳ね上がり、
そのまましばらく硬直した。
「あ・・・」
奈々枝は呆然とした表情で、鏡を見つめた。
「--な、、奈々枝に・・・なってる」
奈々枝に愛美の霊が憑依したー。
(・・・なんか変な気分・・・)
奈々枝の声が頭の中からした。
「--な。奈々枝・・・大丈夫?」
奈々枝に憑依した愛美が言うと、
奈々枝の声が返事をした。
(だいじょうぶ・・・私の意識、吹っ飛ぶぐらいの
覚悟はしたけれど、
なんか、大丈夫みたい。
・・・にしても、体が勝手に動くって気持ち悪いね・・・)
奈々枝の声に、愛美は「ごめんね・・・」と返事をする。
(ううん、いいよ。
わたしの身体貸してあげるから・・・
雅幸に会ってあげて)
奈々枝はそう言った。
「うん・・・」
そう返事をすると、
奈々枝は、
(あ、頭から声がしてると、鬱陶しいよね。
わたしはしばらく黙ってるからー)
奈々枝はそう呟いて、
黙り込んだ。
これからどうすれば良いのか。
勢いで、愛美を憑依させてしまったけれどー。
このあと、どうすれば良いのか?
”1週間で出て言ってね”とでも、言えば良いのか。
でも、それはー
”死んでね”と言うのと同じようなこと。
ーーそれは、言えない。
そしてーー
「ーーーー!!」
奈々枝は、自分の体に憑依した愛美の
考えていることが分かってしまった。
同じ体に居るのだからー。
愛美は、消えることの恐怖から、
恐ろしいことを考え始めていた。
”このまま、奈々枝の身体を乗っ取ればー、
雅幸と一緒に居られるー” と。
(・・・・・・愛美・・・)
奈々枝は、心の中で、少しだけ恐怖を感じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--わたしより・・・綺麗な体つきしてるなぁ・・・」
奈々枝になった愛美はそう呟く。
奈々枝に憑依したことで、
奈々枝の記憶や思考が少し、流れ込んできた。
そしてー
愛美は知った。
”奈々枝も雅幸のことが好きだった”
ということを。
自分が消えれば―
奈々枝と雅幸がカップルになるかもしれない、ということを。
「---渡さない・・・」
奈々枝になった愛美は呟く。
「---絶対に、、渡さないーー」
そう呟いて奈々枝は、奈々枝の机の上にある、
小学生時代の写真を見つめたー。
②へ続く
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最近、仕事の都合で執筆時間が午前中になる日も増えました^^
毎日更新は維持できるので、安心してくださいネ!
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