彼女にプレゼントしたアクセサリー。
その中には”古の悪党”の魂が封印されていた。
そうとも知らずに、彼女はそのアクセサリーを身に付けてしまう。
その日から、悪夢は始まったー。
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「--おっ、面白いカタチのアクセサリーだな」
男子高校生の林田 幸人(はやしだ ゆきひと)は、
とある露店で販売されていたアクセサリーが
目に入った。
リングのようなカタチをしたアクセサリーだ。
「--おや?お目が高いネェ。
そのリングは、身につけたものに幸福を
もたらすリングなんだよ」
露店の店主である老婆が言う。
「--へぇ…おもしろいな」
リングを手に取り、見つめる幸人。
「あんた、彼女はいるのかい?」
老婆が尋ねる。
幸人は、老婆の問いかけに対して頷いた。
「そのリングはね、その昔、
とある女性が、好きな男性との恋愛成就を願って
身につけた、って言い伝えもあるんだよ」
老婆の言葉を聞き、
幸人は不思議とそのリングをますます気に入った。
まるで、引き寄せられるかのようにー。
「おばちゃん、これいくら?」
幸人が問いかけると、老婆は言った。
「あんたみたいな若い人に気に入られて、
そのリングも喜んでるさ。
特別だ。今日はそれを譲ってあげよう」
老婆の言葉に幸人は
「え?本当に?ありがとう」
と言って、そのネックレスを譲り受けたのだった。
それが、悪夢の始まりとも知らずに…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
彼女の滝口 静香(たきぐち しずか)と、
休日のお出かけを楽しんだ幸人は、
デートおわりに、昨日購入したリング状の
ネックレスを取り出した。
「何それ?」
静香が尋ねる。
「--静香にプレゼントしようと思って」
幸人が言うと、
静香がそのリングを見る。
金色に輝くそれは、不思議と人をひきつける
魅力があった。
「--わぁ~綺麗!
珍しいネックレスね!」
静香が嬉しそうに言う。
「あぁ、静香に似合うと思ってさ。
いつも、静香には楽しませてもらってばかりだし、
たまには何かプレゼントしようと思ってさ!」
幸人がリングを手渡すと、静香が
嬉しそうに受け取りながら微笑んだ。
「--ふふ、ありがと!」
静香の嬉しそうな笑みを見て、
幸人も幸せな気持ちでいっぱいになった。
静香とは、高校からの付き合いだが、
座席が隣になったことで意気投合して、
いつの間にか付き合うことになっていた。
喧嘩も無く、気を使いすぎることもなく、
理想の恋人関係といえるーー
だがー
それは、今日、この日までだった。
まさか、自分がプレゼントしたリングがー
二人の関係に、
いやーー
自身の周辺に、
悪夢のような日々をもたらすとは、思ってもみなかった。
・・・その日の夜・・・。
静香は自宅で彼氏の幸人から
貰ったリングを見つめていた。
「なんだか、個性的だなぁ…」
静香は一人、呟く。
幸人からこういうプレゼントは初めてだった。
クラスにも友達が多めの幸人。
けれど、幸人は男子と絡むことがメインで、
女子とはほとんど絡まない。
本人曰はく、「男子といるほうが楽しいから」
そのせいか、女子の扱いには慣れていない様子で、
かなり奥手な一面も持っているのだった。
「---ちょっと派手すぎる気がするけど…」
静香は苦笑いしながら微笑んだ。
「幸人がくれたものだし…」
鏡の前で、そのアクセサリーを手に、
静香は首から、それをかけてみたー。
「------やっぱり、ちょっと派手かなぁ」
金色に輝くそのリングー。
サイズも少し大きいし、
真面目なイメージを持たれている自分には
あまり似合わないー。
「幸人と会うときだけ、身に着けておく用に
しよっと!」
そう言って、そのリング状のネックレスを
外そうとしたそのときだった…。
”ククク…やっとだ。
数千年…この時を待った”
「----!?」
静香が、突然聞こえた声に驚き、振り返る。
しかしーー
そこには誰も居なかった。
”よぉ…
俺の新しい宿主様はお前か。
可愛いじゃねぇか”
「---え…だ、、誰なの?
宿主ってなに!?」
静香が混乱した様子で声をあげる。
しかし、部屋中を見渡しても、
窓の外にも、部屋の外の廊下にも、
誰も居ない。
”ここだよー”
謎の男の声がそう告げると同時に、
首からかけていたリングが
光輝いているのに気付いた。
「---ひっ…!?な、なにこれ・・・」
リングがーーー
自分の身体に吸い付くようにして、
静香の胸のあたりに突き刺さっていた。
「--ちょっ…」
リングの突起部分が刺さった部分から
血が少しずつ流れている。
「--いっ…いやっ…!」
静香はそのリング状のネックレスを外そうとする。
しかし、自分の身体に食い込んでいて、そのリングを
剥がすことができない。
”くくく…怖がるなよ。
お前の身体は俺が貰うぜ。”
「---あ、、あなた誰なの!?」
静香が目に涙を浮かべながら叫ぶ。
”俺か?俺は…
そうだな…数千年前に封印された
大悪党だぜ…ククク”
その声と同時に、リングが更なる光を発した。
「あああああああああああっ!」
静香がその光に包まれて悲鳴をあげたーー。
「---静香!?どうしたの?」
母親が娘の悲鳴を聞いて、部屋に入ってきた。
しかしーー
静香は、机の前に座り、
いつものように本を読んでいた。
「あれ?お母さん?どうしたの?」
静香が優しく微笑む。
「---え…どうしたって?今、悲鳴が…」
母親が困った様子で言うと、静香は答えた。
「---あ、ごめんごめん…
ゴキブリが出て、びっくりしちゃったの」
静香の言葉に母親がホッとした様子で言う。
「あ、そうなの。ならいいんだけど…」
そう言いながら「退治できたの?」と尋ねる母親。
静香は「うん。だいじょうぶだよ」と答える。
「そう。なら良かった」
母親が扉を閉じる。
扉が閉じられたのを見て、
静香は不気味に笑った。
「---ゴキブリはテメェらさ…」
静香とは思えない様な低い声で
吐き捨てるように言うと、
静香は読んでいた本をびりびりに破き捨てて
そのままゴミ箱に捨てたー。
正義が、悪を倒すー
そんな内容の小説を見て、静香は失笑した。
「くだらねぇ…」
そして、上着をはだけさせて、
自分の体に突き刺さったリングを見つめた。
「---くくくくく…
新しい身体、ゲットぉぉ!!!」
静香はそう言うと、
不気味に一人、笑い始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
昼休みに幸人は、静香と話をしていた。
ふと、静香の首まわりを見て、幸人は気づく。
「あれ?それ…」
静香は、服の下に、リング状のアクセサリーを身に着けていた。
「---うん。幸人からもらったネックレス、
気にいっちゃった!
だから、肌身離さず身に着けてるの!」
静香が嬉しそうに言う。
「へぇ…そんなに気に入ってくれたなら嬉しいよ」
幸人がそう言いながら微笑む。
「おーーい!幸人!」
他の男子から呼ばれて、幸人は「あ、ごめん、ちょっと行くわ」と
言って、静香のもとを離れた。
一人になった静香はその場で一人笑う。
「---お前のおかげで新しい身体が手に入ったぜ…
ふふふ…幸人くん、ありがとう♡」
静香はクスクスと笑うと、
気持ちよさそうに手を広げて
その場を後にした。
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夜。
母親が静香のネックレスに気付く。
「あれ?あんた、ネックレスしてるの?」
「うん。幸人くんに貰ったの」
嬉しそうに微笑む静香。
普段は、静香本来の意識が表に出ている。
ただしー、
リングを通じて静香に憑依した、古の大悪党によって、
静香は記憶を操作されている。
ネックレスのことを異常なまでに大切にしー、
決して離そうとしない。
「--どんなものなの?」
母親に尋ねられて、
静香は服の下に隠すように身に着けている
リング状のネックレスを外に出して、
それを母親に見せた。
金色に輝くー
少し不気味なデザインのネックレス。
「ふぅん…なんだか変なデザインね」
母親が笑う。
「--ちょっと!笑わないでよ!」
静香が言うと
母親はごめんごめん、と遠慮気味に呟いた。
「ーーーー」
静香は一瞬、ものすごく不機嫌な顔になり、
そのまま母親と口を聞かずに、
自分の部屋へと戻った。
「---くそっ!」
静香が部屋で壁を勢いよく蹴り飛ばす。
「--あのゴキブリが!
俺を馬鹿にしやがった!」
静香が怒りの形相で、
部屋中のものを荒している。
静香に憑依している古の大悪党にとって、
リングは自分そのもの。
それを侮辱されたということは、
自分が侮辱されたということでもある。
「---罰が必要だな」
静香はそう呟いて、壁を睨みつけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深夜。
「---ーーー!!」
突然、体に鋭い衝撃を感じて母親は
驚いて目を覚ました。
「---おはよう、お母さん」
静香が見下すように、母親を見ている。
「---え、静香?」
母親は、自分の身体が動かないことに気付く。
「---お母さん…」
静香が睨むようにして母親を見つめる。
「--テメェ、俺のことバカにしやがったよな!
ゴキブリの分際で調子に乗りやがって!」
静香が突然豹変し、母親は驚いて目を見開いた。
「な、何を言ってるの?静香…」
母親の問いかけに、静香は上着を引きちぎるようにして
脱ぎ、ネックレスを露わにさせた。
「--お前の娘の身体は俺の新しい宿主だ!」
リングが、静香の身体に突き刺さるようにして
食い込んでいる。
「----な、、、何言ってるの?」
母親は状況が理解できず、困惑するばかり。
「---ゴキブリには理解できないだろうな!
っひひひひひひひ!」
静香は笑いながら母親に手をかざしたー
すると、みるみるうちに、母親は、”人形”に
なってしまった。
「---くくく…お似合いの姿だぜ!」
人形になった母親を、ゴミ箱に放り投げる静香。
母親の寝室から出ると、廊下では父親が
尻餅をついていた。
「し…静香…!お前、今、何を…?」
父親を見て、静香は不気味にほほ笑んだ。
「---見ちゃったんだ。おとうさん」
微笑みながら、静香は父親にも手をかざしたー。
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翌日。
校則に人一倍厳しい社会科の先生が、
静香が首から身に着けているネックレスに気付いた。
「---お前、服の下にアクセサリーつけてるのか?」
先生が問いかけると、静香は何も答えずに微笑んだ。
「外しなさい」
先生が言う。
「-----お断りします」
静香は冷静に、けれども相手を威圧する口調で、そう答えた。
②へ続く
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遊戯王に登場した「千年リング」をモチーフにした
憑依小説です。
原作を知らなくても、だいじょうぶなハズ…です。(たぶん…)
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