少女は、煉獄に堕とされたー。
42歳無職男の身体で過ごすことになってしまった上に、
周囲は誰も、愛梨を、愛梨だと思ってくれない。
無職男に奪われた身体ー。
彼は、愛梨として光の人生を歩もうとしている。
奪われた身体ー。
押し付けられた身体ー。
その、行く末は…?
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愛梨と祐樹はデートの日を迎えていた。
映画を見終えた愛梨は、
祐樹の腕に抱きついた。
「--ねぇ、祐樹…
このまま帰るなんて、わたし、寂しいよ…」
愛梨が言うと、
祐樹が「え…俺もだよ」と答えた。
愛梨は甘えた声を出して言うー。
「ねぇ…祐樹にならわたし…
何されてもいい気分…♡」
愛梨が誘惑するー。
祐樹は戸惑いながら言う。
「あ…愛梨…?」
年齢的にホテルは厳しい。
そう思った愛梨は呟いた。
「一緒にカラオケに行かない…?」
愛梨の提案に、祐樹は単純に
歌を歌うのだと思った。
しかしー。
「--わたしのことで、抱いて?」
愛梨の囁きに祐樹は混乱する。
「--で、、でも…」
祐樹は奥手な愛梨の積極さにたじろぎながらやっとの
思いで声を出した。
「--いいでしょ…?だめ…?」
上目遣いで見つめられた祐樹はもう我慢できなかった。
「--いこう…カラオケ」
「やったぁ!」
可愛らしく飛び跳ねながら、愛梨は、
祐樹に見えないように邪悪な笑みを浮かべた。
“2人で童貞卒業しよう… ふふっ…”と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の昼休み。
校舎裏から、喘ぐような声が聞こえて、
愛梨の友人、理紗は立ち止まった。
「ん…ふぅ…♡」
女の声。
明らかに何かに感じ入っている声だ。
「--」
昼休みに何してるのよ、と呆れながら理紗が
こっそりとそこには抱き合ってキスをする
愛梨と庄助の姿があった。
「えーー、あ、あい…」
声を出しかけて、理紗は口を閉じた。
そう言えば…
少し前に、汚らしい男が
”わたしが愛梨”だと叫んでいたのを思い出した。
「--んんっ…どう、庄助くん?
これがえっちよ…うふふ…♡」
「うあぁ…あぁあ…あぁああ」
庄助が奇妙な雄たけびを上げている。
女と縁の無かった庄助にとって、
可愛い愛梨に抱きつかれてキスをされているだけで
とても、刺激的だった。
「・・・・・」
愛梨の飢えたメスのような表情を見て、
理紗はそのまま立ち去った。
「--あ、友野くん」
廊下で祐樹の姿を見かけた理紗は声をかける。
「ん?あぁ…亀山さん」
理紗の名前を呼ぶ祐樹。
「そういえば、昨日のデート、どうだった?」
理紗がいつものように、好奇心から尋ねると、
祐樹は嬉しそうに言った。
「実はさ、カラオケルームで…」
小声になって、祐樹は言った。
”愛梨とヤッちゃったよ”と。
「--えぇっ?」
思わず声をあげる理紗。
祐樹が慌ててキョロキョロする。
「いやぁ…愛梨があんな積極的だとは思わなかったよ。
もう、ありゃあ、完全に慣れているよ。」
祐樹の言葉に理紗は言う。
「--…なんか、愛梨、変じゃない?」
理紗の言葉に祐樹は首を振った。
「女の子ってのは色々隠してるものだし、
俺には素を出してくれてるってことだと思うな。
正直、嬉しいよ」
祐樹の言葉に理紗は「そうかな…」と
いまいち釈然としない様子で答えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー。
放課後に、愛梨と下校していた理紗は
物陰からこちらを見ている太郎ー。
今の愛梨を支配している男の元々の身体が、
影からこちらを見ているのに気付いた。
「--あ、愛梨。今日は用事があるからここで」
理紗が言うと、愛梨が
「え?そう?わかった」と答えた。
このところ、愛梨の目線がイヤらしくなった気がする。
愛梨のスカート丈が短くなった気がする。
やっぱり、何かがおかしい。
理紗は、愛梨と別れると、
その男のところに向かった。
「---あの」
理紗が声をかけると、42歳無職男の太郎が
悲しそうな顔で理紗を見た。
「---愛梨…なの?」
理沙が恐る恐る尋ねると、
その男は、無言で頷いた。
「--ほ、本当に…
本当に、愛梨なの…?」
理紗の問いかけに、
太郎は、涙を流しながら頷くー。
「---信じてもらえないよね…
でも…」
太郎の表情を見て、理紗は、
この男こそが、愛梨であると確信した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
近くの見晴らしの良い丘に移動した2人。
夕日が2人を照らしている。
「---そう。」
太郎は、全てを話した。
あの日、自転車で走ってきたこの男と、愛梨がぶつかり、
何らかの原因で身体が入れ替わってしまったことー。
あの男は、それをイイことに好き勝手やろうとしていることー。
「---わたし、どうすればいいのかな…?」
太郎(愛梨)が涙を流す。
その風貌には、似合わない涙を。
「-----…・・・」
理紗は、その姿を横目で見つめた。
「---わたしは、信じる…」
理紗の言葉に、太郎はハッとした様子で理紗を見る。
理紗は笑っていた。
「わたしは信じるよ、愛梨。」
その言葉に、太郎は涙を流しながら答えた。
「ど…どうして…?
こんな身体になっちゃったのに…。
お父さんも、お母さんも、祐樹も、誰も信じてくれないのに」
泣きながら言う太郎に、
理紗は近づいていって、
太郎を抱きしめた。
「---わたしと、愛梨は、
小学生からの付き合いでしょ?
あんたが、愛梨だってことぐらいわかるんだから」
そう言って、理紗はさらに続けた。
「そうやって、わたしの前では弱虫なところもね?」
その言葉に、太郎は泣きながら笑った。
「--何よそれ…」と。
「--大丈夫。愛梨…。
わたしも力を貸すから。
身体を、取り戻そう。
ほら、愛梨がいないと、わたし、からかう相手が
一人減って、つまらないから」
理紗が微笑んだそのときだった。
「---理紗」
背後から女の声がした。
そこにはーー愛梨が立っていた。
「--何してるの?理紗」」
愛梨の表情には怒りがにじみ出ている。
「--あ、、愛梨…」
理紗が驚いて言う。
「---その不審者と、何してるの?
危ない人とは関わっちゃダメでしょ?」
愛梨が諭すように言う。
「---あ、、愛梨…
あんたは愛梨じゃない!
わたしには分かるの!」
理紗が叫ぶと、
愛梨は笑った。
「--ふぅん。そういうこと言うんだ」
心底失望したような声。
「--か、、身体を返してよ!」
太郎が叫ぶ。
「--あんたのこと、みんなに言うわ!
あんたの好きにはさせない!」
理紗が言うと、
愛梨は笑った。
「-----うっさいわね!
JKの人生を手に入れたんだから、
手放すわけないでしょ!」
本性を現した愛梨が、理紗に近づいて、
理紗を押したーー。
「えっ…?」
丘の急斜面の側に立っていた理紗は
そのまま勢い良く転落してしまう。
「---理紗!」
太郎が叫ぶ。
数メートル下まで転落した理紗から返事はない。
「---この状況…
誰が疑われるかな?」
愛梨は不気味に笑う。
「この世ってさぁ…
理不尽だよね。
俺のような人間はさぁ、
何もしてなくても疑われるんだ。
やってもいない、盗みを疑われて会社をクビになった。
女子に告白しただけで停学になった。
くくく…
ふざけてるよなぁ、お前ら!
俺みたいのを蔑んで、楽しんでやがる!」
愛梨が憎しみをこめた口調で言う。
「---今度はさ…
俺が味わった煉獄を…、
お前に味合わせてやるよ!」
愛梨はそう言うと、さらに叫んだ。
「煉獄に堕ちろ!ははははははは!」
愛梨は、
笑みを浮かべて笑いながら立ち去っていったーー。
「理紗!理紗!」
転落した理紗のほうに駆け寄る太郎。
しかしーー
理紗からは返事がなかった。
理紗は病院に運ばれた。
けれども、頭を強く打っており、
寝たきりの状態になってしまった。
しかもーー
愛梨の言ったとおり、
”不審な男がいた”として警察の捜査が
始まっていたー。
「---理紗」
太郎は、理紗の名前を呟いて決意する。
「わたしは信じるよ、愛梨。」
理紗の、笑顔を思い浮かべながら、
太郎は呟いた。
「わたしは負けないーーー」
意を決した太郎は、そのまま姿を消した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからーー
愛梨は、女子高生としての人生を楽しんだ。
彼氏の祐樹と毎日のようにヤリまくり、
庄助をからかい、
メイドカフェでバイトもした。
お金に困ったら男を誘惑してお金を稼いだ。
そしてーー
快楽に満ち溢れた高校生活は終わりー、
卒業を迎えた。
元の身体である太郎も、
姿を現さなくなったー。
愛梨は笑う。
「--ふふふ、最高っ」と。
最高の人生。
最高の美貌。
今までの煉獄のような人生から抜け出したー。
大学生になった愛梨は、親元から離れて
一人暮らしを始めた。
これでもう家族に気を使う必要もない。
毎日エッチなことし放題だし、
男を連れ込むことだってできる。
愛梨は毎日のように
喘ぎ狂う日々を送った。
お金はメイドカフェのアルバイトや、
おじさんと一夜を共にすることで稼いだー。
「人生イージーモードじゃん!」
大学生になった愛梨の口癖は、それだった。
けれどー
誤算は起きた。
人生はイージーモードなどではなかった。
大学3年のある日ー、
メイドカフェから突然、来月で契約を切ることを告げられた。
何故かと、愛梨は必死に食い下がった。
けれどー
店長は言った。
「JDより、JKの方がね~稼げるんだよ」
その言葉に、愛梨は愕然として
メイドカフェを去った。
そしてー
夜に愛梨と遊んでいたおじさんたちも音信不通になった。
理由はおそらくーーー。
「---くそっ!」
愛梨は家で一人、暴れていた。
「どいつもこいつも!!
こんなに可愛いわたしを捨てるなんて!
あり得ない!!!あり得ない!!!!!」
怒りで、髪の毛をボサボサにしながら
愛梨は部屋のものを壊していく。
「は~っ…は~っ…
まだ、わたしには祐樹が居る…!」
高校卒業後も、祐樹とは付き合いを続けていた。
しかしー、
メイドカフェやおじさんたちからの収入を失った愛梨は、
次第に祐樹に依存していき、
祐樹からお金をせびるようになった。
そして数か月が経ったころー。
「---愛梨、別れよう」
祐樹はデートのおわりに言った。
「え?」
唖然とした表情で聞き返す愛梨。
「---もう、限界だ。
愛梨…俺はもう、お前と一緒にいたくない」
降り出した雨の中、
突然告げられた別れー。
「--ど、どうして?
ね、、ねぇ、なら今夜、わたしの家に来て?
いくらでもわたしの身体、遊んでいいから…!」
愛梨がそう言うと、
祐樹は首を振った。
「--俺、そういうのが好きなんじゃない。
確かに…最初は楽しかった。
けど、俺、気づいたんだ。
高校で出会ったころの、愛梨のことが
好きだったって」
祐樹の言葉に愛梨は歯ぎしりをして叫ぶ。
「--今のわたしの方が魅力的じゃない!」
その言葉に、祐樹は反論した。
「今の愛梨は!ただの嫌らしい女だよ!
俺はもう、我慢ならないんだ」
祐樹はそう言うと、愛梨に背を向けた。
「だからさ、愛梨。
悪いけどここまでだ。
そんなに欲求不満ならー、
どこかのエロおやじとでも寝ろよ」
そう言うと、祐樹は、それ以降、愛梨に一切連絡を
してこなくなった。
さらに数か月ー。
愛梨は、学費が払えなくなり、大学を中退したー。
家賃も滞納し始めている。
親とも、高校卒業時に喧嘩して勘当されている。
「---どうすればいいの…
せっかく…天国のような人生を、手に入れたのに…」
愛梨は、雨の中、路地を歩きながら、傘も差さずに、
地面に手をついた。
「---大丈夫ですか?」
愛梨が顔を上げると、そこには眼鏡をかけた
インテリ男性が居たー。
40歳台ぐらいだろうか。
「---あ…はい」
愛梨が顔を上げると、
その男は一瞬、驚いた表情を浮かべた。
その男に言われて、近くの小屋に移動する。
雨音の響く中、雨を見つめながら男性は言う。
「---切羽詰まった様子だったけど、
どうしたんだい?」
男の言葉に、愛梨は男を疑うような目線で見た。
自分が怪しいものだと思われていることを悟った男は
名刺を出した。
”株式会社リーアイ・アプリ”
2年前に創業され、若者向けのアプリ開発で
一躍話題になっているベンチャー企業だ。
その社長らしい。
愛梨は警戒心を解いて、自分のこれまでのことを
語った。
もちろん、高校時代に入れ替わったという点は隠して。
語り終えると、男は頷いた。
「そっか…
どう?君さえ良ければ、私の会社で払いてみる気は?
君ぐらいの年齢の子は、若い子のニーズも
よく知ってるだろうし…」
その言葉に愛梨は男を見たー
”やっぱり、まだ自分には運があったー”と。
愛梨は嬉しそうに、男の申し出を受け入れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初出勤の日。
社長に案内されて、
社長室に入る。
「--ようこそ。リーアイ・アプリへ。
歓迎するよ」
社長が手を差し出した。
愛梨は微笑みながらその手をつかんだー
あの日ー、
無職で40を越えて、煉獄のような人生を送っていた自分が、
たまたま女子高生とぶつかって、入れ替わりという奇跡を体験した。
まさに、天国のような人生ー。
これから先もー
わたしの人生はバラ色ー。
愛梨は微笑んだ。
ふと、目をやると、社長の秘書が社長室に入ってきた。
「------!!」
その秘書の姿を見て、愛梨は目を見開いた。
「---あら、久しぶり」
高校時代の愛梨の友人、理紗ーー。
理紗はこん睡状態だったはずー。
入れ替わりに、気づきかけた理紗を、
愛梨が突き落として、
理紗はー…
「---2年前、わたし、目を覚ましたの。
奇跡的にね」
理紗が笑う。
愛梨がハッとして、社長の男を見るー。
「----ようこそ、”煉獄”へ」
社長は不気味にほほ笑んだ。
「-----!!!」
愛梨は気づいた。
この男はーーーー
”自分の身体”だーーー と。
スリムな体型になり、整った顔立ちの
素敵なおじさま風になっているがーー
確かに、自分の身体ーーー
”太郎”だーー。
「--お前まさか…あ、、愛梨!」
愛梨は叫んだーーー
あの日、入れ替わって、
みじめな42歳無職男として暮らすことになった愛梨…
太郎になった愛梨が目の前に居る。
ベンチャー企業の社長として…。
社長は憎しみを込めて語り出した。
あのあと、
この体で生きていくことを決めたー。
まずは、一生懸命ダイエットして、
理想の体型を作ったー。
それから企業の勉強をして、
現役女子高生”だった”知識を元に、
アプリ開発に着手してそれがヒットしたー。
会社を企業するための資金は太郎が集めていたマニア向けの
フィギュアやグッズを全て売却して確保したー。
目を醒ました理紗と合流して、
株式会社リーアイ・アプリを立ち上げた。
リーアイ・アプリとは、
元々の自分の名前”愛梨”をもじった名前。
自分が、愛梨であったことを忘れないようにー。
「--結局は中身」
社長…いや、元々の自分の身体、太郎は笑った。
名刺は偽名だったから気づかなかったー。
「--私の身体を奪ったあなたは、
結局、落ちぶれた。
そして、あなたの身体を押し付けられたわたしは、
こうして、成功しているー」
社長が笑う。
「----そ、、そんな…
誰も…誰も俺のこと、見向きもしなかったくせに!
どうしてだ!!」
愛梨は叫ぶ。
だが、元の自分の身体は言った。
「それはあんたが努力しなかったからでしょ!!
ウジウジウジウジして、何も変えようとしないから!!
ほら、見なさいよ!
こんなに痩せて、健康的になって、
今ではベンチャー企業の社長よ わたしは!!
あんたの身体だって努力すればこういうことができるの!
あんたは結局、わたしの身体になったって、
そうやってうじうじして、全部失敗して、
破滅しそうになってるじゃない!」
”元愛梨”である太郎の言葉に、
”元太郎”である愛梨は膝をついた。
「く…そっ」
愛梨は涙をこぼす。
こんなはずじゃなかったー
女として輝かしい人生を送るはずだった。
理紗と太郎はお互いを見て頷いた。
ハンサムになった太郎が、愛梨に近づき、
耳元でささやいた。
「--あなたには”特別な部署”で働いてもらう」
数年の間で、男の振る舞いを身に着けた
元愛梨の太郎が笑う。
愛梨は恐怖に手を震わせながら、社長を見た。
「---煉獄に堕ちるのはーーあんたよ」
社長の凍りつくような冷たい目線に、
愛梨は何も答えることができなかったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
結局、中身次第…
ということになりました(笑)
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