<憑依>獣化する彼女と彼氏の愛②~獣の怒り~(完)

獣の残留思念に憑依された
柚香は、身も、心も獣に変わっていく。

そんな中でも、彼氏の直樹は懸命に
柚香を支えようとしていた…。

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「ごめんね…」
柚香が、四つん這いで皿に入れられた生肉を
口で食べている。

毛が獣のように全身に生えてきている。
今でもワンピースやスカートを身に着けているが、
直樹には分かっていた。

もう、服を着ることに対しても、柚香は
違和感を覚えていることに・・・。

鋭い牙で肉を食べていく柚香。
その食べ方は、とても獰猛で、汚らしいー。

「---わたし……」
寂しそうな目で直樹を見つめる柚香。

柚香は一体どうしてしまったのか。

”獣の残留思念”に憑依されたー。
そんなこと、直樹や、柚香本人に分かるはずもなかった。

「--大丈夫。心配するな。
 どんなになっても、柚香は、柚香だ」

その言葉に、
柚香は少しだけ微笑んで、「ウゥゥ…」という獣のような声を
あげるのだった。

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「---あれ?最近、柚香ちゃん見かけないよね?」

大学で女友達の樹里(じゅり)が言う。

「--ん?あ、あぁ、ちょっとな」
歯切れ悪く返事をする直樹。

そんな直樹を見て、樹里は、
少しだけ意地悪な気持ちになった。

「---喧嘩でもした?」

樹里の言葉に、直樹が元気なく答える。

「そんなんじゃないよ…でもさ…」
直樹が悲しそうに言うと、樹里は微笑んだ。

「--ふぅん…いろいろあるんだね」
樹里は、そう言うと、心の中に
”黒い感情”が湧き出てくるのを感じた。

樹里はー、直樹に好意を抱いていた。
しかし、柚香に先を越されたため
身を引いていた。

「--気晴らしに、今度一緒に映画でも観に行かない?」

「--え?」
直樹が樹里の言葉に、一瞬戸惑う。

樹里は優しそうな笑みを浮かべている。

「--い、いや、ごめん…
 柚香を裏切ることはできないから」
直樹が樹里の申し出を断ると、樹里は
そっか、ザンネン とだけ呟いた。

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夜。

廊下に…
排泄物が落ちていた。

心もーー
次第に獣に近づいている柚香はー、
トイレに行くことも、忘れはじめていた。

「----」
大学で疲れていた直樹はため息をついた。

「きったないなぁ…」
呟きながら、処理をする直樹。

そして、柚香の方に向かうと、
柚香は言った。

「肉たべたい!」と。

当たり前のように、四足方向で肉を待つ柚香。
既に、服も身に着けず、
毛深くなった皮膚と、胸を露出させている。

「---」
直樹は不機嫌そうに肉を用意した。

そしてーー
柚香の胸を直樹は触った。

「---!!」
柚香は、その瞬間、人間らしい感情を取り戻した。

「やめて!!」
柚香が鋭くなったツメで直樹を振り払う。

「---いてっ!」
直樹が、切り傷を顔に作って、慌てて胸から手を離した。

「あ・・・ご、、ごめ…」
柚香が咄嗟に謝る。

しかしーー

「---ふ、、、ふざけやがって!
 俺がどれだけお前のことを思っていると思ってるんだ!」
直樹が怒りを込めて叫んだ。

柚香は驚いた表情を浮かべる。

「--毎日毎日毎日、俺に世話されるのが
 当たり前だと思いやがって!
 胸ぐらい触らせろってんだ!」

直樹は連日の疲れとストレスから
苛立ちが頂点に達していた。

柚香は悲しそうに雄叫びをあげた。

「--うるさい!黙れ黙れ!」
直樹は叫んだ。

そして、そのまま頭を抱え込んで、
黙り込んでしまった。

「--な・・・おき…ごめん…」
柚香も、そう言うと、部屋の隅っこで落ち込んでしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌週ー。
直樹は、女友達の樹里と、映画館に来ていた。

「良かったの?柚香ちゃんは?」
樹里が言うと、
直樹は言った。

「放っておけよ、”あんなやつ”」

あれから1週間。
直樹と柚香の溝は深まるばかりだった。

心では分かっていてもー。

愛情はある。
けれどー
もう限界だ。

直樹はそう思い始めていた。

「--ねぇ、今度、直樹の家に行ってもいいかな?」
小悪魔のような笑みを浮かべながら樹里は言った。

直樹は戸惑ったあとに、
「あ、、あぁ…」と答えた。

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三日後。

直樹は動物用のオリを自宅に用意した。

「--柚香。柚香の為に、これを買ってきたよ」
直樹が笑う。

柚香は目に涙を浮かべて首を振る。

「---柚香、急に暴れたりするからさ…
 俺も、柚香にとっても、この方が安全だよ」
直樹が優しく言う。
しかし、”目は笑っていない”

「--い、、、いやだ…
 わたしは…なおきと…!」
柚香が涙を流しながら言う。

「---いいから早く入って」
直樹がほほ笑む。

「--ーいやよ!なおき!
 わたしをみすてないで…!」
柚香が、叫ぶ。

「--うるせぇ!”獣のくせして”
 俺の言うことが聞けないのか!」

直樹は叫んだー。

「俺はお前を愛してる!
 だから保護してやるんだ!
 とっとと入りやがれ…!」

”けものー”

柚香は酷くショックを受けた。

「ウゥゥゥゥゥゥアアアアア!」
獣のような雄叫びをあげると、柚香は
そのままオリの中に入って行った。

「---ガアアアアアア!」
その日、柚香が人間の言葉を話すことは
もうなかったー。

それから数日ー。
柚香の”獣化”はあの日から急激に進んだ。

心の支えであった直樹から見捨てられたことで、
柚香はーー
生きる気力を失っていた。

「柚香…エサだよ」
直樹が微笑みながら肉をカゴに入れる。

直樹は、今も柚香を大切にしているー
けれどー
その愛情は
”異性として”ではなく
”ペットに対するそれ”に変わっていた。

「ガアアウウウ!」

もうーー
柚香が人間だったことも、
直樹以外には分からないだろう。

どうして、こうなってしまったのか。

柚香は、自分が人間だったことも、既に
忘れかけていた。

直樹も、もう、柚香を人間としては
扱っていなかった。

ピンポーン

インターホンが鳴った。

ちょうど、オリからエサを取り出そうとしていた直樹は
「ちょっと待っててな」と言って柚香を置いて、
玄関へと向かった。

「--直樹くん!来ちゃった♡」
女友達の樹里が、ショートパンツ姿で
大胆に生足を晒した格好で入ってくる。

胸元を強調した服を着ている樹里はー
今日、直樹を誘惑するつもりだった。

樹里は部屋を見渡す。

”柚香はいない”

読み通り。

直樹と柚香は喧嘩か何かしたー。
それで別居しているんだ…。
樹里はそう思った。

「ねぇ、直樹くん…」
樹里が直樹の方を見る。

直樹も、樹里の色っぽい姿にまんざらでもなさそうだ。

「--ん?」

「--わたしと、、キスしよ?」
樹里が甘い声で囁く。

「--え?…ま、、まぁいいけど…」
直樹は顔を赤らめて言う。

「ふふ・・・」
樹里は甘い息を吐きながら、
直樹の唇に、自分の唇を重ねた。

そしてー
チャンスとばかりに、そのまま自分の舌を
直樹の舌に絡めさせ、
身体を密着させた。

「んふふ・・・直樹くん… 
 わたし…ずっと、あなたのことが好きだったの…」
樹里が言う。

直樹が顔を赤らめながら樹里を見た。

「---ほ…本当に…?」
信じられないという表情の直樹。

「--本当よ…!
 ねぇ…直樹くん…わたしと…付き合って…
 柚香と喧嘩したんでしょ?
 あんな女なんか放っておいてさ…」
樹里が、イヤらしく太ももを近づけながら囁く。

「---」

背後では、”柚香だったもの”が、
二人を睨んでいる。

「----そうだな」
直樹は微笑んだ。

「---樹里…俺も、お前が好きだ」

二人は、再び熱いキスを始めた。

ぴちゃ…

「---?」
樹里が、違和感を覚えた。

ぽた…

ぽた…

液体が身体に当たる。

「---え?
 直樹くん…もしかしてもう…?」

樹里は、直樹が興奮のあまり
濁った液体をあそこから放ったのかと…
そう思った。

けど…

「----ひっ・・・」

樹里の脚がーーー
噛みちぎられて、
真っ赤な血が噴き出ていた。

「いやあああああああっ!」
樹里が泣き叫んで、その場に崩れ落ちる。

「---じゅ、樹里!?」
抱きしめあっていた直樹も異変に気付いた。

「グルルルルルルルル…」

柚香がーーー
開けっ放しになっていたオリから飛び出た柚香が、
樹里に襲い掛かっていた。

「--な、、何よコイツ!やめて…来ないで!!!」
片足だけになった樹里が泣き叫ぶ。

綺麗な足がーー
赤に染まっていく。

「ガアアアアアアウ!」
怒りを爆発させた獣は、
樹里に襲い掛かった。

何度も、何度も、樹里を
食いちぎっていくー。

そしてーー
樹里だった肉の塊は動かなくなった。

「---ひっ…」
直樹がその場に尻餅をついた。

”柚香”が近づいてくる。

「ーーーち、違うんだ柚香!
 お、、俺は…柚香のことを」

”これが本当の修羅場か”

直樹はそんな風に思った。

けれどー
こうも思った。

”柚香が俺を殺せるはずがない”

と。

柚香が口を開いた。

「---な…お…き…
 ゆるさない…!」

とーーー。

「や、、、やめてくれーーーー!!!」
直樹の悲鳴が響き渡った…

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翌日ーーー。
”獣に襲われてカップル死亡”の
ニュースが大々的に報じられた。

狼のような獣が、住宅に侵入し、
そこにいた男女をかみ殺したのだ。

被害者は、
向井田 直樹(むかいだ なおき)と、
野下 樹里(のした じゅり)-
2人の大学生―。

そして…
自宅にはオリのようなものがあり、
自宅の持ち主である向井田 直樹が
違法に猛獣を飼育していた可能性があるとしてー
捜査は続けられていたー。

その場にいた獣はーー
猟友会によって射殺されたー。

最後の瞬間
「な お き」とつぶやいた、と
猟友会の男は言っていたが、
そのことを信じるものは居なかったというー

おわり

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コメント

獣と化していく彼女。
もしも皆様が直樹君の立場だったら、
どうしますか・・・!

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