偽りの平和。
クラスメイトも家族もみんな、
あのホームレスたちに憑依されている。
そんなことは、分かっている。
けれどー。
どうすることもできないから…。
ホームレスの憎悪の続編です!
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「おはよう!」
麻江が学校に入ると、
親友の桃花がほほ笑んだ。
「お、おはよう・・・」
麻江は少し引いた笑顔を浮かべる。
最近、クラスの女子たちがみんな、
色っぽくなった。
クラスメイトたちはおしゃれブームだと
喜んでいるー。
けれど、
麻江には分かっている。
あの日ー、
河川敷に居たホームレスたちに憑依されたクラスメイトたちを前に、
麻江は心が折れたー。
そんな麻江に、ホームレスのリーダー格に憑依されている桃花が言った。
「”もとの生活”に戻りたい?」
ーと。
そして、麻江は、泣きながら嘆願した。
戻りたい、と。
気づいたときには、麻江は自宅に居た。
憑依されていたはずの姉と母は”いつも通り”
そして、桃花をはじめとするクラスメイトたちもー。
けれど…。
「--見てみて、またスカート短くしちゃった!うふふ♡」
クラスメイトで生徒会長の双海(ふたみ)が喜びながら
他のクラスメイトに自分のスカート丈の話をしている。
双海はそんな子じゃない。
「---どうしたの?怖い顔して?」
桃花がほほ笑む。
「--ねぇ。麻江もスカートもっと短くしたら?
私たち、せっかく女に生まれたんだから
もっとそれを武器にしなくちゃ」
桃花が言う。
ーー桃花は、こんな子じゃない。
麻江は拳を握りしめた。
でもーー
怖かった。
例えそれが”偽りの平和”でもー
再びみんなを失うのが怖かった。
「--も、桃花、そういうの嫌いだったじゃん…」
麻江が桃花を揺さぶるようにして言うと、
桃花は微笑んだ。
「--わたしも、気が変わったの!うふふ・・・♡」
いやらしい笑み…
明らかにこの子は桃花じゃない。
桃花の体と、記憶を乗っ取った
あのホームレス。
いや…
クラスの女子生徒”全員”が、あのホームレスたちに
憑依されている。
放課後。
「ね~ね~、今日、東地区の高校と、
カラオケ行くけど麻江も行く~?」
クラスメイトの芙由子が笑いながら言う。
最近は、化粧が濃くなり、
女らしさを前面に押し出している。
芙由子は大人しい子だったのに。
「--東地区の高校ってあの…?」
麻江が言うと、芙由子が笑った。
「ふふ、心配しなくていいよ!
不良多いけどさ、
その分、わたしたちを興奮させてくれるから…!
あぁ…今日も楽しみ♡」
芙由子が自分のからだを抱きしめながら笑う。
「---ふ、芙由子!あんな奴らとつるんじゃだめよ!」
麻江は叫んだ。
東地区の高校ー。
この辺でも”ワル学校”として有名なところだ。
「---何よ、文句あんの?」
強気になった芙由子が言う。
「--で、、でも…
わたしは…私は芙由子を心配して…!」
麻江が涙を浮かべながら言うと、芙由子は微笑んだ。
「--ふふ、心配してくれてありがと。
でも、大丈夫よ」
そう言うと、芙由子たちは笑いながら”カラオケ”へと
向かって行った。
夕暮れの廊下を一人さびしく歩く麻江。
みんなは、変わってしまったー。
わかっているー。
あのホームレスたちに憑依されたままなのは。
「元の生活に戻りたいー?」
あれは、ホームレスたちの悪意。
友達を救えずに、臆病にもおびえ続ける
麻江を、ホームレスたちは少女のからだで
あざ笑っている。
けれどー
麻江には何もできない。
「--みんな…ごめん…」
麻江が夕日差し込む廊下で、
一人涙ぐむ。
「---麻江ちゃん?」
ふと、声がした。
背後を振り向くと、
隣のクラスの、逢阪 鈴夏(おうさか りんか)の
姿があった。
鈴夏は同じ中学の出身。
ただし、それほど親しい間柄ではなかったため、
あまり高校に入ってからも接点はなかった。
「--お、逢阪さん…」
麻江が涙を拭きながら立ち上がる。
「どうしたの…?」
鈴夏が尋ねる。
麻江は鈴夏の目を見たー。
ちょっと大人しくて気弱でー
けれども無邪気なところもある鈴夏ー。
彼女は、彼女のままー。
そもそも、河川敷に居たホームレスが全員、
誰かに憑依しているにしても、人数に限界がある。
クラスメイトと、麻江の母と姉…
恐らくは隣のクラスにまでは及んでいない。
「---ごめん…」
麻江は安心感から、そのまま鈴夏に泣き付いてしまった。
「--ちょ、……えっ…?」
鈴夏は戸惑いながらも、
麻江を受け入れてくれたー。
校舎脇のベンチに座りながら麻江は鈴夏に
これまでのことを全て話した。
「…うそ…そんなこと…」
鈴夏が戸惑う。
当たり前だ。
クラスメイトがホームレスたちに憑依されているなんて。
「--わたし、どうしたらいいか、分からないの…」
麻江が涙を流しながら言う。
「--……わたし、信じる」
鈴夏は麻江の方を見た。
「--麻江ちゃん、昔から嘘なんてつかないもんね。
…麻江ちゃんが言うなら、本当なんだよね…」
そして、鈴夏は続けた。
「--わたしにできることは無いかもだけど…
わたしもできるだけのことはする」
鈴夏の言葉に、麻江はありがとう、とお礼の言葉を口にした。
「--あ、そうだ…そのホームレスたちのこと…
麻江ちゃんはどう思ってるの…?」
鈴夏が尋ねる。
「---絶対に許せない!
みんなをあんな目に遭わせて!
ホームレスのくせに、許せない…!」
麻江は憎しみと差別の言葉を口にした。
「---そうだよね。許せないよね…。」
鈴夏は悲しそうにつぶやいて、麻江を見た。
「--わたしも手伝う。
だから、一緒に頑張ろう?」
微笑む鈴夏。
麻江は握手を交わしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カラオケルーム。
女子生徒たちがスカートをめくったり、
胸を露出させたり、
不良男と抱き合いながら喘ぎ声をあげている。
「--あはははははっ!もうさいこうっ!」
桃花が自分の足を触りながら笑う。
「---いやぁ、女子高生っていいよねぇ!」
生徒会長の双海が下着姿で、笑いながらピザを食べている。
「--ふふふふふっ…たまんねぇよ!はぁ♡ はぁ…♡」
芙由子が男と抱き合いながら顔を真っ赤にしている。
「--ねぇ、どうするのよ?」
双海が、桃花に尋ねる。
「何を?」
桃花が不気味にほほ笑んだ。
「--麻江のことよ。
まだ”偽りの日常”過ごさせてあげるの?
そろそろぶっ壊してやらない?」
双海が言うと、桃花は首を振った。
「いいさ、今の状況は今の状況で地獄ー。
だんだんおかしく…」
その時、桃花のスマホの着信音が響いた。
「--なに?」
桃花が電話に出ると、
電話先の声が告げた。
”ホームレスのくせに絶対にゆるせない”
だってーーー
と。
「----」
桃花は電話を切ると、怒りに満ちた表情で、
スマホを握りしめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
「--ねぇ」
教室についた麻江に桃花が話しかけた。
「--あんた、”自分の立場”わかってる?
麻江?」
桃花が低い声で言う。
「え…?ど、どういうこと…?」
麻江が声を震わせながら言う。
「--わたしを怒らせたらどうなるか
わかってるよね?麻江ちゃん」
桃花がにっこりと微笑んだ。
「--そんなに”楽園”から追い出されたいの?」
桃花が顔を近づけて、麻江の頬を舌でなめた。
「---いいの?それで?」
桃花の声には、脅しの感情がこもっている。
「----な、、、なんのこと!?」
あくまで麻江はとぼけた。
「ふぅん…」
桃花が鋭い目付きで麻江を睨む。
「まっ・・・いっか、ごめんね!」
そう言うと桃花は微笑みながら立ち去って行った。
麻江の体はガクガクと震えていた。
そしてーー冷や汗が流れ出ていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後。
「--麻江。
桃花が呼んでる。
体育館に来いってさ」
生徒会の双海がそっけない様子で言う。
「え…?」
麻江は不安になりながら、双海に分かった、と告げる。
そしてー
麻江は体育館に向かった。
体育館に入るー。
すると、
体育倉庫から声がする
「あっ♡ んっ♡ やめっ♡ やめてぇぇ♡」
麻江は、慌てて倉庫にかけこむと、
そのこにはーー
乱れきった姿の、隣のクラスの女子生徒ー、
鈴夏の姿があった。
「逢阪さん…?」
麻江が言うと、
鈴夏は涙ぐんだ目で、麻江を見た。
「---ふふっ、麻江、だめじゃない」
脇から桃花が姿を現した。
そして、乱暴にイスに縛り付けられた鈴夏の
胸を触る
「あぁ、♡ やめ♡ やめて♡ いや♡ あぁああ♡」
鈴夏がポタポタと液体をこぼしながら
はぁ…♡ はぁ♡ と息を上げている。
「--鈴夏ちゃんは、関係ないんだけどね…。
あの時、ベンチで話しているアンタと鈴夏ちゃんの
こと、見張ってたのよ。」
麻江と鈴夏が離していた場面はー
麻江の別のクラスメイトに見張られていたー
だからーーー
麻江の悪口もホームレスたちに伝わっていた。
「お仕置きしなきゃね…!」
桃花が、鈴夏に大人のおもちゃを無理やり押し付ける。
「んあああああああああっ♡」
鈴夏が甘い声で絶叫をあげる。
「---麻江、あなたが余計なことするから、
この子は巻き込まれちゃった…」
そう言うと、桃花の背後から
汚らしい男が姿を現した。
「--ホームレス仲間の、リョウジさんだ」
桃花がそう言うと、
リョウジさんと呼ばれたホームレスは
ニヤリと笑って、憑依薬を飲み干した。
そしてーー
「あぁ、、わ、、わたしの中に…
何か… で、、出て行って…
い、、いやああああ」
鈴夏がもがき始めた。
そしてーー
「---うふふ♡わたし、
えっちな女の子になっちゃった♡」
鈴夏が不気味に笑う。
桃花は鈴夏を見つめると、拘束を解いて、
鈴夏を自由にした。
「---お、、逢阪さん・・・」
麻江は、自分が巻き込んだという罪悪感で
膝をついた。
「---ホームレスの仲間なんて、
何人でもいるわよ。
私たちを甘く見ないことね」
桃花が麻江の手を踏みつけながら言う。
「--最後のチャンスよ。
”どうする?”」
桃花は尋ねたー
麻江はーーーー
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3か月後ーー
麻江は、桃花たちと一緒に、
カラオケルームに来ていた。
乱れ狂う女子生徒たちー。
麻江は一歩引いた笑顔を浮かべながら
カラオケルームに居るー。
”もう、刃向えない”
”刃向えば被害者は増えるー”
麻江は、桃花たちの”友達”になる道を選んだ―。
「--ごめん、ちょっとトイレに」
麻江はそう言って、カラオケルームを出た。
桃花の喘ぎ声が廊下まで響くー。
「----ごめんなさい…」
麻江は涙を流しながら、トイレへと向かうのだった…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ホームレスの憎悪、の後日談を書いてみました!
もう、どうにもならないですねー、これは…。
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