<憑依>人質になった妹②~兄妹~

憑依された妹との共同生活が始まる。

兄に尽くす妹。
普段の反抗的な態度とは違う妹を前に、
兄の心は揺らいでいく・・・。

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「おはよーお兄ちゃん♡」

朝。
帆花が笑顔で部屋の中に入ってきた。

「あ、お、おはよう」
ベットの上で寝ぼけたままの統也を、
帆花は優しく起こす。

「ほら、起きて起きて!
 朝だよ!お兄ちゃん♡」

甘えてくる帆花。

そんな帆花を撫でながら統也は思う。

昔はよく、こうやって甘えて来たな・・・と。

「---ってやめろよ!」
統也は我に返って、帆花を引きはがす。

今の帆花は帆花じゃない。
昨日、帆花は何者かに憑依された。

「--いいか?お前に選択権はない。
 この女は人質だ。
 俺が憑依してるってことは、どういうことだか分かるか?
 俺が服を脱ぎ捨てて、そのまま外に走って行くこともできる。
 このからだで夜の街を歩いて、男と寝ることもできる。
 …そうそう、高いところから飛び降りることも…。」

そう言っていた。

帆花は、おそらく男に憑依されている。

いくら甘えられても、
今の帆花は、帆花じゃない。

「----」
しゅんとして頬を膨らませている帆花。

そのすねる様な様子に思わず「ごめん・・・」と
呟いてしまう。

「--いいのいいの
 ごめんね、お兄ちゃん!」

そう言うと、帆花は学校に行く準備を始める。

「え、おい・・・!
 学校行って平気なのか?」
統也は尋ねる。

変なことをするんじゃないか?と心配になる。

「--だいじょうぶ!
 変なことはしないから、ネ。」

帆花が首を横に傾けて微笑む。

「--いや、でも、絶対ばれるだろ?」
統也が言うと、帆花は自信ありげに微笑んだ。

「--だいじょうぶ!私に任せて!」

そう言うと、帆花は微笑みながら
1階へと降りて行った。

「---帆花」

預金は8万円・・・。
バイトの給料が4~5万だろうから、
あと十日待ってもらえるなら、10万は払うことができる。

だが・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どうした?元気ないな?」
友人の厚盛が声をかけてきた。

「---いや、別に」
統也は妹のことで頭がいっぱいだった。

どうすれば助けることができる?
どうすれば・・・?

10万払ったら解放してもらえるのか?
それとも・・・

「---妹さんのことか?」
厚盛が尋ねる。

「------!!」

統也はふと思う。
”何でコイツが知っている?”とー。

「テメェ!」
統也は突然、厚盛の胸倉をつかんだ。

厚盛は驚いた様子で言う。

「お、、おい・・・ど、どうしたんだよ」

厚盛の表情を見て、統也は我に返り、
手を離した。

「わりぃ・・・」
統也は再び座席に座ると、頭を抱えた。

「---・・・・・」
厚盛はそんな統也の様子を無言で見つめていた・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おはよ~!」
一方、妹の帆花は中学校に登校した。

座る際にスカートをちゃんと整えて、
綺麗に座る。

ーー帆花は友人の乃枝の机を見つめる。
乃枝は、体調不良で休みなのだろうか。
登校していないようだ。

「------ザンネン」
帆花はそう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--お兄ちゃんお兄ちゃん!」

夜。

帆花が兄・統也の部屋に入ってくる。

いつもよりも少し派手なミニスカート姿だ。

帆花はこのスカートを買った後に
「男子の視線がうざいから」と言って
しまいこんでいたはずだ。

思えば、帆花も中学2年になって、
だいぶ女らしくなってきた。

「---」
統也はうっかり帆花の足に視線をやってしまう。

「--お兄ちゃん?
 私に見とれてるの?」

意地悪っぽく言う帆花。

「バ・・・バカ!違うよ」
統也が言うと、
帆花が近付いてきて、からだを密着させて、
顔を近づけた体勢をとり、
数学の教科書を見せてきた。

「これ・・・わからないの・・・
 教えて♡」

明らかに誘惑しているあざとい雰囲気の帆花。

「---お、教えてって・・・
 アンタ、いくつだよ?」
統也が聞くと、
帆花は、無言で統也にキスをした。

「むぐっ・・・ちょ・・・」

帆花の唇はやわらかかった。
その感触が、統也を興奮させてしまう。

「ん・・・」
帆花が甘い声を出しながら唇を離す。

そして、統也の下半身を見て笑う。

「うふふ・・・♡
 おにいっちゃんったら!」

赤くなって、可愛らしく言う帆花。

そんな、恥じらいを見せる様な雰囲気に
統也はまたドキッとしてしまう。

「--わたしのお兄ちゃんになって・・・?
 ね・・・?」

帆花の言葉に、統也はしぶしぶしたがい、
数学を教え始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の夜も、
帆花が統也の部屋にやってきた。

少しはだけさせたパジャマ姿が可愛い。

思わず、女らしさが出てきた胸元に
目が行ってしまう。

「--そ、、そんなに見ないで、お兄ちゃん」
帆花が顔を真っ赤にする。

「・・・・・・・・・・」

統也は思う。
憑依している男は一体何者だ? と。

最初は大人だと思っていたが、
案外、自分と近い年齢のような気もしてきた。

「ねぇ…お兄ちゃん・・・」
帆花が突然、統也の肩を揉み始めた。

「気持ちいい?」

その優しい言葉に統也は少しだけ笑みをこぼして
「あぁ・・・」と優しく答えた。

背後でマッサージをしている帆花の
表情に、笑みが浮かんだ。

「--こういうこと、してもらえないの?」

統也は、帆花の手の感触を気持ち良いと思いながら答える。

「---そうだな・・・最近は、仲悪かったからさ」

「---・・・・・・わたしと、本当の帆花、どっちが好き?」

ーーーー!?

突然の質問に統也は戸惑う。

不思議とこの数日で、”今の帆花”に少し愛着が
湧き始めている。

中身の男が何者かは知らない。
けれど、外見は帆花だー。

しかも、兄の統也にとっては”理想の妹”

「---俺が、大事にしてるのは帆花だけだ」

ーー少し、嘘をついた。

揺らぎ始めていた。

「---そう・・・」
背後の帆花がとても悲しそうな顔をしたのが鏡に映った。

「帆花・・・」
統也は思わず振り向いてしまった。

そしてー。
帆花の目に浮かんでいる涙を見て、統也は心を打たれたーー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二日後。

統也は風邪をひいて寝込んでいた。

「--はい、お兄ちゃん♡ ヨーグルトだよ!」
帆花が休みの日なのに、わざわざヨーグルトをかってきてくれた。

ヨーグルトを開けて、
スプーンを手に取る帆花。

「はい、お兄ちゃん!あ~~~ん!」
スプーンを近づけてくる帆花。

「ちょ、、ちょちょちょ・・・」
統也は”それはちょっと”と言おうとした
高校生が女子中学生の妹に「あ~ん」なんて
おかしいだろう、と。

「---いいじゃない!ホラ、恥ずかしがらないで!
 うふふ・・・♡」

帆花に言われるがままに、
ヨーグルトを食べる統也。

そしてー、

帆花は統也の額に手を触れる。

統也はドキドキしっぱなしだった。
妹はーー可愛い。
今の妹は、とくに・・・

最近かかわりがあまりなかったからか、
気にしたことがなかったが、
妹は女として魅力的になりつつあった。

「--すごい熱・・・だいじょうぶ?お兄ちゃん?」
心底心配そうに尋ねる帆花。

これも、演技なのだろうか。

けれどーー
帆花は夜中までずっと看病してくれた。
水を取り替えたり、
お茶を持ってきてくれたり、
薬を持ってきてくれたリ。

本当に一生懸命だった。

日曜日の明け方。
統也が目を覚ますと、
統也のベットの横で座ったまま、
帆花は可愛らしい寝息を立てていた。

「・・・・帆花・・・」
統也は帆花を見つめる。

そして、ほほ笑んだ。

「--そんなになるまで看病してくれて
 ありがとうな」

そう呟くと、統也は再び目をつぶる。

帆花は、どんなときでも帆花だ。
いやーーー、
今の帆花の方が、本当の帆花のような気すらする。

統也の考えは、次第に本当の帆花よりも、
今の帆花に傾き始めていた。

やがて帆花が目を覚ます。

「あ、ごめん お兄ちゃん・・・わたし、寝ちゃってた」
そう言うと、部屋の外に向かおうとする。

「ーー帆花!」
統也が帆花を呼び止める。

「--看病、ありがとな・・・」
そう言うと、帆花がとても嬉しそうに顔を赤らめた
「うん・・・!」

統也はその嬉しそうな顔に
心を射抜かれた気分だった。

「---わたしのこと、好き?」
帆花が尋ねる。

「---あぁ・・・なんか、
 本当の妹みたいだ・・・。

 と、いうか、変なこと言うけど、
 最近、帆花 俺に冷たかったからさ・・・
 なんだか、元の帆花に戻ったみたいだよ。

 --なんか、、嬉しいな、俺」

統也は笑った。

「---えへへ♡」
帆花は嬉しそうに笑うと、そのままご機嫌そうに廊下に出て行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

暗闇ーーー

周囲には何もない。

「見た?」
声が響き渡る。

ここは、帆花の精神世界。

憑依されて乗っ取られた帆花の心が封印されている場所。

「---わ、わたしのからだを返して!
 アイツをこれ以上、弄ばないで!」

帆花が叫ぶ。

「でも、帆花ちゃん、お兄ちゃんのこと、嫌いなんでしょ?」
女の声が響き渡る。

「--ち、違うの!!
 なんだか、素直になれなくて・・・!!
 でも、、わたしは・・・!」

本当の帆花が必死に声をあげる。

「でもーーー」
帆花ではない女が声を出す。

そして、暗闇に先ほどの会話が映し出された。

「---あぁ・・・なんか、
 本当の妹みたいだ・・・。
 と、いうか、変なこと言うけど、
 最近、帆花 俺に冷たかったからさ・・・
 なんだか、元の帆花に戻ったみたいだよ。
 --なんか、、嬉しいな、俺」

「あんたより、わたしの方が、いいって・・・クスクス・・・」

女が笑う。

「---う、、、嘘・・・ 嘘よ・・・!」
帆花が叫ぶ。

帆花は兄のことが嫌いではなかった。
けれど、素直になれなかった。

年頃のせいだろうか。
反抗してしまった。

「--あなたは誰なの!?」
帆花が暗闇に向かって叫ぶ。

「言ったでしょ・・・
 ”あんまり喧嘩してると嫌われちゃうよ”って」

ーーーーー!?

帆花は暗闇からの女の言葉に聞き覚えがあった。

中学の親友、乃枝がよく言っていたセリフー。

「の・・・乃枝ちゃんなの!?」
帆花が言うと、
女は笑った。

「--わたしはお兄ちゃんが大好きだった。
 でもね、お兄ちゃんはわたしが小学校5年のころに
 交通事故で死んだ・・・

 大好きなお兄ちゃんが死んだ・・・

 お兄ちゃんが居るのに大事にしないアンタが
 憎くて憎くてたまらなかった。

 だからーーー
 わたしがあんたの代わりに”可愛い妹”になって、
 お兄ちゃんをもう一度手に入れるー」

女ーー、
帆花に憑依している同級生、乃枝はそう言った。

「--いや!返して!!!」
帆花が叫ぶ。

「いやよ、このからだはもう、わたしのものー。
 アンタのお兄ちゃんもわたしのものー」

最初に、統也に対して男言葉で話したのは
”憑依しているのが男”という恐怖心を植え付け、
とりあえず従わせるため。

そのあと、優しく接していけば統也を落とせる自信があった。
そして、今、そうなりつつある。

10万円を要求したのもただの口実。
本当は、金なんて要らない。

欲しいのはーー”お兄ちゃん”なのだから。

「--じゃ、お兄ちゃんが待ってるから・・・」
乃枝の声が遠のいていく。

「待って!からだを返してー!」
精神世界の奥底に追いやられている帆花が叫ぶ。

けれどー
乃枝は笑った。

「---おやすみなさい」

と。

③へ続く。

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コメント

今日はランチタイムに書いちゃいました!
お楽しみいただければ嬉しいです^^

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