憑依された妹との共同生活が始まる。
兄に尽くす妹。
普段の反抗的な態度とは違う妹を前に、
兄の心は揺らいでいく・・・。
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「おはよーお兄ちゃん♡」
朝。
帆花が笑顔で部屋の中に入ってきた。
「あ、お、おはよう」
ベットの上で寝ぼけたままの統也を、
帆花は優しく起こす。
「ほら、起きて起きて!
朝だよ!お兄ちゃん♡」
甘えてくる帆花。
そんな帆花を撫でながら統也は思う。
昔はよく、こうやって甘えて来たな・・・と。
「---ってやめろよ!」
統也は我に返って、帆花を引きはがす。
今の帆花は帆花じゃない。
昨日、帆花は何者かに憑依された。
「--いいか?お前に選択権はない。
この女は人質だ。
俺が憑依してるってことは、どういうことだか分かるか?
俺が服を脱ぎ捨てて、そのまま外に走って行くこともできる。
このからだで夜の街を歩いて、男と寝ることもできる。
…そうそう、高いところから飛び降りることも…。」
そう言っていた。
帆花は、おそらく男に憑依されている。
いくら甘えられても、
今の帆花は、帆花じゃない。
「----」
しゅんとして頬を膨らませている帆花。
そのすねる様な様子に思わず「ごめん・・・」と
呟いてしまう。
「--いいのいいの
ごめんね、お兄ちゃん!」
そう言うと、帆花は学校に行く準備を始める。
「え、おい・・・!
学校行って平気なのか?」
統也は尋ねる。
変なことをするんじゃないか?と心配になる。
「--だいじょうぶ!
変なことはしないから、ネ。」
帆花が首を横に傾けて微笑む。
「--いや、でも、絶対ばれるだろ?」
統也が言うと、帆花は自信ありげに微笑んだ。
「--だいじょうぶ!私に任せて!」
そう言うと、帆花は微笑みながら
1階へと降りて行った。
「---帆花」
預金は8万円・・・。
バイトの給料が4~5万だろうから、
あと十日待ってもらえるなら、10万は払うことができる。
だが・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうした?元気ないな?」
友人の厚盛が声をかけてきた。
「---いや、別に」
統也は妹のことで頭がいっぱいだった。
どうすれば助けることができる?
どうすれば・・・?
10万払ったら解放してもらえるのか?
それとも・・・
「---妹さんのことか?」
厚盛が尋ねる。
「------!!」
統也はふと思う。
”何でコイツが知っている?”とー。
「テメェ!」
統也は突然、厚盛の胸倉をつかんだ。
厚盛は驚いた様子で言う。
「お、、おい・・・ど、どうしたんだよ」
厚盛の表情を見て、統也は我に返り、
手を離した。
「わりぃ・・・」
統也は再び座席に座ると、頭を抱えた。
「---・・・・・」
厚盛はそんな統也の様子を無言で見つめていた・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おはよ~!」
一方、妹の帆花は中学校に登校した。
座る際にスカートをちゃんと整えて、
綺麗に座る。
ーー帆花は友人の乃枝の机を見つめる。
乃枝は、体調不良で休みなのだろうか。
登校していないようだ。
「------ザンネン」
帆花はそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--お兄ちゃんお兄ちゃん!」
夜。
帆花が兄・統也の部屋に入ってくる。
いつもよりも少し派手なミニスカート姿だ。
帆花はこのスカートを買った後に
「男子の視線がうざいから」と言って
しまいこんでいたはずだ。
思えば、帆花も中学2年になって、
だいぶ女らしくなってきた。
「---」
統也はうっかり帆花の足に視線をやってしまう。
「--お兄ちゃん?
私に見とれてるの?」
意地悪っぽく言う帆花。
「バ・・・バカ!違うよ」
統也が言うと、
帆花が近付いてきて、からだを密着させて、
顔を近づけた体勢をとり、
数学の教科書を見せてきた。
「これ・・・わからないの・・・
教えて♡」
明らかに誘惑しているあざとい雰囲気の帆花。
「---お、教えてって・・・
アンタ、いくつだよ?」
統也が聞くと、
帆花は、無言で統也にキスをした。
「むぐっ・・・ちょ・・・」
帆花の唇はやわらかかった。
その感触が、統也を興奮させてしまう。
「ん・・・」
帆花が甘い声を出しながら唇を離す。
そして、統也の下半身を見て笑う。
「うふふ・・・♡
おにいっちゃんったら!」
赤くなって、可愛らしく言う帆花。
そんな、恥じらいを見せる様な雰囲気に
統也はまたドキッとしてしまう。
「--わたしのお兄ちゃんになって・・・?
ね・・・?」
帆花の言葉に、統也はしぶしぶしたがい、
数学を教え始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日の夜も、
帆花が統也の部屋にやってきた。
少しはだけさせたパジャマ姿が可愛い。
思わず、女らしさが出てきた胸元に
目が行ってしまう。
「--そ、、そんなに見ないで、お兄ちゃん」
帆花が顔を真っ赤にする。
「・・・・・・・・・・」
統也は思う。
憑依している男は一体何者だ? と。
最初は大人だと思っていたが、
案外、自分と近い年齢のような気もしてきた。
「ねぇ…お兄ちゃん・・・」
帆花が突然、統也の肩を揉み始めた。
「気持ちいい?」
その優しい言葉に統也は少しだけ笑みをこぼして
「あぁ・・・」と優しく答えた。
背後でマッサージをしている帆花の
表情に、笑みが浮かんだ。
「--こういうこと、してもらえないの?」
統也は、帆花の手の感触を気持ち良いと思いながら答える。
「---そうだな・・・最近は、仲悪かったからさ」
「---・・・・・・わたしと、本当の帆花、どっちが好き?」
ーーーー!?
突然の質問に統也は戸惑う。
不思議とこの数日で、”今の帆花”に少し愛着が
湧き始めている。
中身の男が何者かは知らない。
けれど、外見は帆花だー。
しかも、兄の統也にとっては”理想の妹”
「---俺が、大事にしてるのは帆花だけだ」
ーー少し、嘘をついた。
揺らぎ始めていた。
「---そう・・・」
背後の帆花がとても悲しそうな顔をしたのが鏡に映った。
「帆花・・・」
統也は思わず振り向いてしまった。
そしてー。
帆花の目に浮かんでいる涙を見て、統也は心を打たれたーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日後。
統也は風邪をひいて寝込んでいた。
「--はい、お兄ちゃん♡ ヨーグルトだよ!」
帆花が休みの日なのに、わざわざヨーグルトをかってきてくれた。
ヨーグルトを開けて、
スプーンを手に取る帆花。
「はい、お兄ちゃん!あ~~~ん!」
スプーンを近づけてくる帆花。
「ちょ、、ちょちょちょ・・・」
統也は”それはちょっと”と言おうとした
高校生が女子中学生の妹に「あ~ん」なんて
おかしいだろう、と。
「---いいじゃない!ホラ、恥ずかしがらないで!
うふふ・・・♡」
帆花に言われるがままに、
ヨーグルトを食べる統也。
そしてー、
帆花は統也の額に手を触れる。
統也はドキドキしっぱなしだった。
妹はーー可愛い。
今の妹は、とくに・・・
最近かかわりがあまりなかったからか、
気にしたことがなかったが、
妹は女として魅力的になりつつあった。
「--すごい熱・・・だいじょうぶ?お兄ちゃん?」
心底心配そうに尋ねる帆花。
これも、演技なのだろうか。
けれどーー
帆花は夜中までずっと看病してくれた。
水を取り替えたり、
お茶を持ってきてくれたり、
薬を持ってきてくれたリ。
本当に一生懸命だった。
日曜日の明け方。
統也が目を覚ますと、
統也のベットの横で座ったまま、
帆花は可愛らしい寝息を立てていた。
「・・・・帆花・・・」
統也は帆花を見つめる。
そして、ほほ笑んだ。
「--そんなになるまで看病してくれて
ありがとうな」
そう呟くと、統也は再び目をつぶる。
帆花は、どんなときでも帆花だ。
いやーーー、
今の帆花の方が、本当の帆花のような気すらする。
統也の考えは、次第に本当の帆花よりも、
今の帆花に傾き始めていた。
やがて帆花が目を覚ます。
「あ、ごめん お兄ちゃん・・・わたし、寝ちゃってた」
そう言うと、部屋の外に向かおうとする。
「ーー帆花!」
統也が帆花を呼び止める。
「--看病、ありがとな・・・」
そう言うと、帆花がとても嬉しそうに顔を赤らめた
「うん・・・!」
統也はその嬉しそうな顔に
心を射抜かれた気分だった。
「---わたしのこと、好き?」
帆花が尋ねる。
「---あぁ・・・なんか、
本当の妹みたいだ・・・。
と、いうか、変なこと言うけど、
最近、帆花 俺に冷たかったからさ・・・
なんだか、元の帆花に戻ったみたいだよ。
--なんか、、嬉しいな、俺」
統也は笑った。
「---えへへ♡」
帆花は嬉しそうに笑うと、そのままご機嫌そうに廊下に出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
暗闇ーーー
周囲には何もない。
「見た?」
声が響き渡る。
ここは、帆花の精神世界。
憑依されて乗っ取られた帆花の心が封印されている場所。
「---わ、わたしのからだを返して!
アイツをこれ以上、弄ばないで!」
帆花が叫ぶ。
「でも、帆花ちゃん、お兄ちゃんのこと、嫌いなんでしょ?」
女の声が響き渡る。
「--ち、違うの!!
なんだか、素直になれなくて・・・!!
でも、、わたしは・・・!」
本当の帆花が必死に声をあげる。
「でもーーー」
帆花ではない女が声を出す。
そして、暗闇に先ほどの会話が映し出された。
「---あぁ・・・なんか、
本当の妹みたいだ・・・。
と、いうか、変なこと言うけど、
最近、帆花 俺に冷たかったからさ・・・
なんだか、元の帆花に戻ったみたいだよ。
--なんか、、嬉しいな、俺」
「あんたより、わたしの方が、いいって・・・クスクス・・・」
女が笑う。
「---う、、、嘘・・・ 嘘よ・・・!」
帆花が叫ぶ。
帆花は兄のことが嫌いではなかった。
けれど、素直になれなかった。
年頃のせいだろうか。
反抗してしまった。
「--あなたは誰なの!?」
帆花が暗闇に向かって叫ぶ。
「言ったでしょ・・・
”あんまり喧嘩してると嫌われちゃうよ”って」
ーーーーー!?
帆花は暗闇からの女の言葉に聞き覚えがあった。
中学の親友、乃枝がよく言っていたセリフー。
「の・・・乃枝ちゃんなの!?」
帆花が言うと、
女は笑った。
「--わたしはお兄ちゃんが大好きだった。
でもね、お兄ちゃんはわたしが小学校5年のころに
交通事故で死んだ・・・
大好きなお兄ちゃんが死んだ・・・
お兄ちゃんが居るのに大事にしないアンタが
憎くて憎くてたまらなかった。
だからーーー
わたしがあんたの代わりに”可愛い妹”になって、
お兄ちゃんをもう一度手に入れるー」
女ーー、
帆花に憑依している同級生、乃枝はそう言った。
「--いや!返して!!!」
帆花が叫ぶ。
「いやよ、このからだはもう、わたしのものー。
アンタのお兄ちゃんもわたしのものー」
最初に、統也に対して男言葉で話したのは
”憑依しているのが男”という恐怖心を植え付け、
とりあえず従わせるため。
そのあと、優しく接していけば統也を落とせる自信があった。
そして、今、そうなりつつある。
10万円を要求したのもただの口実。
本当は、金なんて要らない。
欲しいのはーー”お兄ちゃん”なのだから。
「--じゃ、お兄ちゃんが待ってるから・・・」
乃枝の声が遠のいていく。
「待って!からだを返してー!」
精神世界の奥底に追いやられている帆花が叫ぶ。
けれどー
乃枝は笑った。
「---おやすみなさい」
と。
③へ続く。
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今日はランチタイムに書いちゃいました!
お楽しみいただければ嬉しいです^^
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