何度戻っても、何度戻っても、
彼女は死んでしまうー。
決定された「運命」を覆すことはできるのか。
彼女のため、何度も何度も時間を逆行し、
彼女に憑依し続けるー。
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何故だ?
何故?
久美に憑依して、生きる道を探す正輝は疑問に思う。
大通りの反対側からやってくる例の通り魔。
”レインコートの男”が不自然なのだ。
なぜ、いつも久美を一直線に殺しに来る?
そもそも、最初、久美が轢かれたとき、
あんな男はいなかったはずだ。
何故ならー、
一番最初、久美が轢かれた時間軸では、
通り魔事件など起きていない。
やつが本当に通り魔なら、
他の人が犠牲になっていてもおかしくない。
それにー。
いつも自分の体を公園に寝かせたまま久美に憑依しているのに
あの通り魔の男は、正輝には目もくれない。
もちろん、自分のからだを物陰に隠しているから、
というのもあるとは思うけれど…。
「----」
そう思った久美(正輝)は、自分のからだを隠している場所に
一緒に隠れた。
いつも自分のからだは無事だ。
ならば、レインコート男はここに気付かないはずー。
ガサッ
久美が驚いて振り返ると、
そこにはレインコート男が居た。
そしてーー
「ひっ…!」
久美が悲鳴を上げると同時に、刃物が久美に突き刺さった。
「----!!!!」
自分のからだで目覚める正輝。
正輝のすぐ横で、久美が血まみれになって倒れている。
「--久美だけを刺した?
何故だ?」
公園の出口にレインコート男が居た。
「おいーーーー!」
正輝は叫んだ。
レインコート男が足を止める。
「どうして!!どうして久美だけを殺すんだ!!!」
正輝が叫ぶ。
けれど、レインコート男はそのまま立ち去ってしまった。
「---まさ…き…」
虫の息の久美が言う。
「--明日、また…」
もう何度目だ??
そろそろ50回を超える…。
正輝は苛立っていた。
「---会えるよ!!!」
正輝が怒鳴るようにして叫ぶと、
久美は驚いた表情のまま息絶えてしまった。
「--久美…ごめん…」
正輝は久美のからだを抱きかかえた。
けれどーー
その正輝の手は痙攣を起こして激しく震えていた。
「ゴホッ…ゴホッ…」
咳き込んで、吐血する正輝。
「---俺…もう、だめかもしれない」
時間逆行薬
憑依薬ー
繰り返し繰り返し使っている正輝のからだには
尋常じゃない負担がかかっていた。
回数を重ねるごとにー。
自分が弱っていくー。
それが、よく分かった。
でも、正輝は止まらなかった。
彼女を救うためー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーもう、知らない!」
また戻った。
いつものスタート地点に。
正輝が最初に時間逆行薬を使ったタイミングが
基準となっていて、ここまでしか逆行できないようだ。
久美が不貞腐れた様子で、
正輝に背を向ける。
元はと言えば、
ちょっとした意地悪で、久美の誕生日を
忘れたふりをしたのが原因だ。
「---久美!嘘だよ!覚えてる!
久美の誕生日だろ!?
ちゃんと覚えてる!」
正輝は叫んだ。
そうだーー
誕生日、覚えてるよー。
ずっと、忘れたことなんてない。
「----……」
久美が拗ねた様子で足を止めて振り返る。
けれどー
やはり久美は「どうしてそういう意地悪するの?もういいよ!」と
言って走り去ってしまう。
事故の起きた、大通りにー。
だからーー
また憑依した。
「---うっ…!」
走っていた久美のからだが唐突に動きを止める。
「---久美」
自分の名前を呟くと、久美は意を決して公園の方に戻る。
公園に入ると、
間もなくして裏路地からやってくる
レインコート男がやってきた。
「--なぁ、、あんた、分ってるんだろ」
正輝は久美のからだでそう呟いた。
「----」
レインコートの男は答えない。
「--ーあんた…何で久美を殺すんだ?
俺、知ってる。
”最初は”あんた、居なかったはずだ。
どうして?
久美を殺すんだ?」
正輝は言うー。
こいつは”普通”じゃない。
最初、久美が轢かれたときはいなかったはずだ。
それにー、
何故か久美だけを殺そうとする。
どんな手段を使ってでもー。
「---教えてくれよ。
俺は、どうしても久美を助けたい。
だからこうして久美のからだに憑依して、
何度も何度も時間逆行して、ここまでやってきた。
でもどうしてだよ?
何で邪魔をするんだよ」
久美が涙をこぼす。
憑依している正輝の意思か、
それともー。
「・・・・・・・・・」
レインコート男が久美を見つめる。
顔まで隠すタイプのレインコートで、顔は見えない。
そしてーー
男は何も答えず、久美を突き刺した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
正輝は、再び自宅へと戻った。
もう、からだはボロボロだ。
恐らく、次か、その次が限界ーー。
心臓が異常な鼓動になっている。
「---久美…
俺は、、自分のことなんかより…
お前の事を…」
苦しみながら憑依薬を手にするー。
ふと、正輝は思う。
そういえば、公園近くの民家ー。
あそこに逃げたときはレインコート男は近くにいるはずなのに
やってこなかった。
何故だ?
そう思い、
正輝は時計を見る。
”最初”に時間逆行薬を使った時間まではまだ余裕がある。
最初に使った時間以降に時が進んでしまうと、
久美が生きてる頃に戻れなくなる可能性がある。
だから、いつもそれまでには時間逆行薬を使うようにしている。
正輝は、公園にやってきていた。
古い民家を見つめる。
表札は無いー。
「--あ、あの…」
近所のおばあさんらしき人に正輝は声をかけた。
「--この民家、どなたが住んでるんですか?」
正輝が尋ねると、
おばあさんが答えた。
「この家はねぇ…もう、3年前から空き家だよ…
たまに管理人さんが掃除してるけど」
おばあさんは答えた。
ーーーー!?
正輝は思う。
では、久美をかくまったあのおじいさんは誰だ!? と。
ガスの使用を間違えたりー
久美を突然襲ったりして久美の命を奪う
あのじいさんは一体…?
正輝は頭の中でひとつの仮説を組み立てながら、
憑依薬と時間逆行薬を使った。
これが最後のチャンスかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---うっ…!」
久美に憑依した。
正輝の中で、謎に対する答えはもう出ていた。
あとは、待つだけだ。
「---久美」
久美の胸や足を見つめる。
「---今度こそ、、助けてあげられるかもしれない」
久美が悲しそうにつぶやく。
久美の持っていた手鏡を取り出して
自分の顔を見る。
「--可愛いよ…久美…」
久美はそう言うと、自分の頬を撫でた。
「---あぁ…久美と、、
ちゃんとした形で、、1回ぐらいヤッてみたかったなぁ…」
久美は目から涙をこぼした。
スカートを触ったり、
太ももを触ったり、
唇を触ったりしてみる。
でも、正輝は満足できなかった。
久美が奥手だったからー
ずっと何もしてこなかった。
それだけ、久美のことが大切だった。
奥手だけど、自分にだけは心を開いてくれた久美。
ちょっと子供っぽいところもあるけど優しい久美。
ずっと、守って行こうと思ってた。
それなのにーー。
「ごめんな…久美」
鏡を見つめると、
涙に顔を濡らした久美が写るー。
「---愛してる」
自分で呟いた久美は手鏡を近づけてキスをした。
そして、
手鏡を背後に放り投げた。
「---じゃあな」
男がやってきたー。
レインコート男…
ではなかった。
「--あんたは…」
久美が言うと、
民家のおじいさんがベンチに腰かけた。
「--君はなぜ…そこまでする?」
おじいさんが言う。
「--俺は……
俺は…ただ、久美を助けたい…
それ以外には何も…」
久美が言うと、
おじいさんは、男言葉を話す久美を気にも留めずに
呟いた。
「---君は、もう死ぬぞ。
薬の使い過ぎで…。
自分が死んでまで、その子を守りたいのか?」
おじいさんが言う。
久美は「決まってるだろ」と答える。
おじいさんの方を見て、ハッキリとした口調で言う。
「---久美が助かるならーー俺はそれで構わない」 と。
「---ずっと、きみを見ていた」
おじいさんは言う。
「--でも君は、1回以外、一度もその子のからだを悪用
しようとはしなかった。
何故だ?女の体で楽しもうとは思わなかったのか?」
おじいさんが言うと、
久美はハッキリと答えた。
「--愛してるから…
久美のからだを遊ぶことなんて、俺にはできない」
1回だけー
自暴自棄になったとき、1回だけ弄んでしまったけれど。
「---後悔はしてないか?」
おじいさんの言葉に久美はうなずいた。
「--なら…行きなさい」
おじいさんが裏路地の方向を指さした。
いつも、レインコート男が来ていた方向だ。
「---きみみたいな彼氏を持って、
その子は幸せだな」
おじいさんは微笑んだ。
「----」
久美は振り返って言う。
「---あんたがあのレインコートの男なんだろ?」
久美が言うと、
おじいさんは優しく微笑んだー。
おじいさんは古民家の住民じゃないー。
古い民家には裏口があるー。
恐らく、おじいさんはレインコートを着て、そこから出てきて
久美を襲っている。
民家にすぐかけこんだとき、レインコート男が居なかったのは
このおじいさんがレインコート男自身だから。
そして、このおじいさんはーーーー。
「---生きてる間に、
”神様”に会えるとは思わなかった」
久美はそう言うと、頭を下げてそのまま
路地の方に向かった。
最初のトラックと、暴走二人乗りバイク以外はーー
全て、このレインコート男…おじいさんが仕組んだものだった。
”天”は一度起きたことの修正を許さない。
最初に時間が巻き戻ったとき、
異変を察知した”天”は、使徒をこの世界に送り込んだ。
”一度起きた歴史”をずらさないためにー。
巻き戻った時間で久美が助かってしまわないように。
”おじいさんの姿をした天からの使徒”は
何度も何度も久美が死ぬように差し向けた。
けれどーー
「……あそこまで一生懸命やられちゃ……
仕方ないな…」
おじいさんは呟いた。
”天”の意思に刃向った。
自分はまもなく”禁忌を破ったもの”として消されるだろう。
けれど、
あの若者が、命を懸けて守ろうとした、
あの女だけはーー。
光が降り注いで、
天からやってきたおじいさんの姿をした使徒は、
そのまま消滅したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--…久美…」
久美は呟いた。
心不全も起きない。
ーーもう、大丈夫だ。
「---ごめんな…」
そう呟くと、正輝は久美から抜け出して、
久美はその場に倒れた。
公園ーーー
正輝は自分のからだで目を覚ます。
けれどーー
もう、力が入らない。
血が口からあふれ出す。
「---久美……
しっかり、、、俺の分まで生きてくれよ」
正輝はそう呟いて、目をつぶった…。
「----正輝!!!」
ーー久美の声が聞こえた。
「正輝!!!正輝!!!」
正輝が目を開けると、そこには久美が居た。
「---く…み?」
なんで公園に戻ってきたのだろう。
「---ねぇ!!全部聞いた!!!
どうして???どうしてわたしのためなんかに!」
久美が泣き叫びながら言う。
”ぜんぶ聞いた?”
ーーあのおじいさんが、最後の瞬間に、
久美に今までのことを告げたのかもしれない。
「---はは、、、決まってるじゃん…」
正輝は苦しみながら呟いた。
「---好きだから…」
それだけ言うと、正輝はまた目をつぶってしまう。
「--ねぇ、、、やだ!!ごめん…ごめん!!
わたしのせいで!!
ねぇ!!正輝!!死なないで!!!」
正輝は、涙を流したー。
久美の気持ちにこたえてあげたい。
けれど、
もう、無理だー。
「---…おやすみ…俺、、、ちょっとだけ寝るよ」
正輝は虫の息でそう呟いた。
「---ーーうっ…うっ…」
泣きじゃくる久美。
「--ねぇ…正輝… 明日、、また会えるよね?」
久美が泣きながら訪ねた。
立場逆転だなーー
と、正輝は心の中で笑う。
「----あぁ、、、会えるさーーー」
正輝はそう呟いて、
笑みを浮かべたーーー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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複雑なお話に…?
最後の続きは想像の中でお楽しみくださいネ!
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