<憑依>明日、また会えるよね?③~奇跡~(完)

何度戻っても、何度戻っても、
彼女は死んでしまうー。

決定された「運命」を覆すことはできるのか。

彼女のため、何度も何度も時間を逆行し、
彼女に憑依し続けるー。

—————————–

何故だ?

何故?

久美に憑依して、生きる道を探す正輝は疑問に思う。

大通りの反対側からやってくる例の通り魔。
”レインコートの男”が不自然なのだ。

なぜ、いつも久美を一直線に殺しに来る?

そもそも、最初、久美が轢かれたとき、
あんな男はいなかったはずだ。

何故ならー、
一番最初、久美が轢かれた時間軸では、
通り魔事件など起きていない。

やつが本当に通り魔なら、
他の人が犠牲になっていてもおかしくない。

それにー。
いつも自分の体を公園に寝かせたまま久美に憑依しているのに
あの通り魔の男は、正輝には目もくれない。

もちろん、自分のからだを物陰に隠しているから、
というのもあるとは思うけれど…。

「----」
そう思った久美(正輝)は、自分のからだを隠している場所に
一緒に隠れた。

いつも自分のからだは無事だ。

ならば、レインコート男はここに気付かないはずー。

ガサッ

久美が驚いて振り返ると、
そこにはレインコート男が居た。

そしてーー

「ひっ…!」
久美が悲鳴を上げると同時に、刃物が久美に突き刺さった。

「----!!!!」
自分のからだで目覚める正輝。

正輝のすぐ横で、久美が血まみれになって倒れている。

「--久美だけを刺した?
何故だ?」

公園の出口にレインコート男が居た。

「おいーーーー!」
正輝は叫んだ。

レインコート男が足を止める。

「どうして!!どうして久美だけを殺すんだ!!!」
正輝が叫ぶ。

けれど、レインコート男はそのまま立ち去ってしまった。

「---まさ…き…」
虫の息の久美が言う。

「--明日、また…」

もう何度目だ??
そろそろ50回を超える…。

正輝は苛立っていた。

「---会えるよ!!!」
正輝が怒鳴るようにして叫ぶと、
久美は驚いた表情のまま息絶えてしまった。

「--久美…ごめん…」
正輝は久美のからだを抱きかかえた。

けれどーー
その正輝の手は痙攣を起こして激しく震えていた。

「ゴホッ…ゴホッ…」

咳き込んで、吐血する正輝。

「---俺…もう、だめかもしれない」

時間逆行薬
憑依薬ー

繰り返し繰り返し使っている正輝のからだには
尋常じゃない負担がかかっていた。

回数を重ねるごとにー。

自分が弱っていくー。

それが、よく分かった。

でも、正輝は止まらなかった。
彼女を救うためー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーもう、知らない!」

また戻った。
いつものスタート地点に。

正輝が最初に時間逆行薬を使ったタイミングが
基準となっていて、ここまでしか逆行できないようだ。

久美が不貞腐れた様子で、
正輝に背を向ける。

元はと言えば、
ちょっとした意地悪で、久美の誕生日を
忘れたふりをしたのが原因だ。

「---久美!嘘だよ!覚えてる!
久美の誕生日だろ!?
ちゃんと覚えてる!」

正輝は叫んだ。

そうだーー
誕生日、覚えてるよー。

ずっと、忘れたことなんてない。

「----……」
久美が拗ねた様子で足を止めて振り返る。

けれどー
やはり久美は「どうしてそういう意地悪するの?もういいよ!」と
言って走り去ってしまう。

事故の起きた、大通りにー。

だからーー
また憑依した。

「---うっ…!」
走っていた久美のからだが唐突に動きを止める。

「---久美」
自分の名前を呟くと、久美は意を決して公園の方に戻る。

公園に入ると、
間もなくして裏路地からやってくる
レインコート男がやってきた。

「--なぁ、、あんた、分ってるんだろ」
正輝は久美のからだでそう呟いた。

「----」
レインコートの男は答えない。

「--ーあんた…何で久美を殺すんだ?
俺、知ってる。
”最初は”あんた、居なかったはずだ。
どうして?
久美を殺すんだ?」

正輝は言うー。

こいつは”普通”じゃない。

最初、久美が轢かれたときはいなかったはずだ。

それにー、
何故か久美だけを殺そうとする。

どんな手段を使ってでもー。

「---教えてくれよ。
俺は、どうしても久美を助けたい。

だからこうして久美のからだに憑依して、
何度も何度も時間逆行して、ここまでやってきた。

でもどうしてだよ?
何で邪魔をするんだよ」

久美が涙をこぼす。
憑依している正輝の意思か、
それともー。

「・・・・・・・・・」
レインコート男が久美を見つめる。

顔まで隠すタイプのレインコートで、顔は見えない。

そしてーー
男は何も答えず、久美を突き刺した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正輝は、再び自宅へと戻った。

もう、からだはボロボロだ。
恐らく、次か、その次が限界ーー。

心臓が異常な鼓動になっている。

「---久美…
俺は、、自分のことなんかより…
お前の事を…」

苦しみながら憑依薬を手にするー。

ふと、正輝は思う。

そういえば、公園近くの民家ー。
あそこに逃げたときはレインコート男は近くにいるはずなのに
やってこなかった。

何故だ?

そう思い、
正輝は時計を見る。

”最初”に時間逆行薬を使った時間まではまだ余裕がある。

最初に使った時間以降に時が進んでしまうと、
久美が生きてる頃に戻れなくなる可能性がある。

だから、いつもそれまでには時間逆行薬を使うようにしている。

正輝は、公園にやってきていた。
古い民家を見つめる。

表札は無いー。

「--あ、あの…」
近所のおばあさんらしき人に正輝は声をかけた。

「--この民家、どなたが住んでるんですか?」
正輝が尋ねると、
おばあさんが答えた。

「この家はねぇ…もう、3年前から空き家だよ…
たまに管理人さんが掃除してるけど」

おばあさんは答えた。

ーーーー!?

正輝は思う。

では、久美をかくまったあのおじいさんは誰だ!? と。

ガスの使用を間違えたりー
久美を突然襲ったりして久美の命を奪う
あのじいさんは一体…?

正輝は頭の中でひとつの仮説を組み立てながら、
憑依薬と時間逆行薬を使った。

これが最後のチャンスかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---うっ…!」
久美に憑依した。

正輝の中で、謎に対する答えはもう出ていた。

あとは、待つだけだ。

「---久美」

久美の胸や足を見つめる。

「---今度こそ、、助けてあげられるかもしれない」
久美が悲しそうにつぶやく。

久美の持っていた手鏡を取り出して
自分の顔を見る。

「--可愛いよ…久美…」
久美はそう言うと、自分の頬を撫でた。

「---あぁ…久美と、、
ちゃんとした形で、、1回ぐらいヤッてみたかったなぁ…」

久美は目から涙をこぼした。

スカートを触ったり、
太ももを触ったり、
唇を触ったりしてみる。

でも、正輝は満足できなかった。

久美が奥手だったからー
ずっと何もしてこなかった。

それだけ、久美のことが大切だった。

奥手だけど、自分にだけは心を開いてくれた久美。
ちょっと子供っぽいところもあるけど優しい久美。
ずっと、守って行こうと思ってた。

それなのにーー。

「ごめんな…久美」

鏡を見つめると、
涙に顔を濡らした久美が写るー。

「---愛してる」

自分で呟いた久美は手鏡を近づけてキスをした。

そして、
手鏡を背後に放り投げた。

「---じゃあな」

男がやってきたー。

レインコート男…
ではなかった。

「--あんたは…」
久美が言うと、
民家のおじいさんがベンチに腰かけた。

「--君はなぜ…そこまでする?」
おじいさんが言う。

「--俺は……
俺は…ただ、久美を助けたい…
それ以外には何も…」
久美が言うと、
おじいさんは、男言葉を話す久美を気にも留めずに
呟いた。

「---君は、もう死ぬぞ。
薬の使い過ぎで…。

自分が死んでまで、その子を守りたいのか?」

おじいさんが言う。

久美は「決まってるだろ」と答える。

おじいさんの方を見て、ハッキリとした口調で言う。

「---久美が助かるならーー俺はそれで構わない」 と。

「---ずっと、きみを見ていた」
おじいさんは言う。

「--でも君は、1回以外、一度もその子のからだを悪用
しようとはしなかった。
何故だ?女の体で楽しもうとは思わなかったのか?」

おじいさんが言うと、
久美はハッキリと答えた。

「--愛してるから…
久美のからだを遊ぶことなんて、俺にはできない」

1回だけー
自暴自棄になったとき、1回だけ弄んでしまったけれど。

「---後悔はしてないか?」
おじいさんの言葉に久美はうなずいた。

「--なら…行きなさい」
おじいさんが裏路地の方向を指さした。

いつも、レインコート男が来ていた方向だ。

「---きみみたいな彼氏を持って、
その子は幸せだな」

おじいさんは微笑んだ。

「----」
久美は振り返って言う。

「---あんたがあのレインコートの男なんだろ?」
久美が言うと、
おじいさんは優しく微笑んだー。

おじいさんは古民家の住民じゃないー。

古い民家には裏口があるー。
恐らく、おじいさんはレインコートを着て、そこから出てきて
久美を襲っている。

民家にすぐかけこんだとき、レインコート男が居なかったのは
このおじいさんがレインコート男自身だから。

そして、このおじいさんはーーーー。

「---生きてる間に、
”神様”に会えるとは思わなかった」

久美はそう言うと、頭を下げてそのまま
路地の方に向かった。

最初のトラックと、暴走二人乗りバイク以外はーー
全て、このレインコート男…おじいさんが仕組んだものだった。

”天”は一度起きたことの修正を許さない。
最初に時間が巻き戻ったとき、
異変を察知した”天”は、使徒をこの世界に送り込んだ。

”一度起きた歴史”をずらさないためにー。
巻き戻った時間で久美が助かってしまわないように。

”おじいさんの姿をした天からの使徒”は
何度も何度も久美が死ぬように差し向けた。

けれどーー

「……あそこまで一生懸命やられちゃ……
仕方ないな…」

おじいさんは呟いた。

”天”の意思に刃向った。
自分はまもなく”禁忌を破ったもの”として消されるだろう。

けれど、
あの若者が、命を懸けて守ろうとした、
あの女だけはーー。

光が降り注いで、
天からやってきたおじいさんの姿をした使徒は、
そのまま消滅したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--…久美…」

久美は呟いた。
心不全も起きない。

ーーもう、大丈夫だ。

「---ごめんな…」
そう呟くと、正輝は久美から抜け出して、
久美はその場に倒れた。

公園ーーー

正輝は自分のからだで目を覚ます。

けれどーー
もう、力が入らない。

血が口からあふれ出す。

「---久美……
しっかり、、、俺の分まで生きてくれよ」

正輝はそう呟いて、目をつぶった…。

「----正輝!!!」

ーー久美の声が聞こえた。

「正輝!!!正輝!!!」

正輝が目を開けると、そこには久美が居た。

「---く…み?」

なんで公園に戻ってきたのだろう。

「---ねぇ!!全部聞いた!!!
どうして???どうしてわたしのためなんかに!」

久美が泣き叫びながら言う。

”ぜんぶ聞いた?”

ーーあのおじいさんが、最後の瞬間に、
久美に今までのことを告げたのかもしれない。

「---はは、、、決まってるじゃん…」
正輝は苦しみながら呟いた。

「---好きだから…」
それだけ言うと、正輝はまた目をつぶってしまう。

「--ねぇ、、、やだ!!ごめん…ごめん!!
わたしのせいで!!

ねぇ!!正輝!!死なないで!!!」

正輝は、涙を流したー。
久美の気持ちにこたえてあげたい。

けれど、
もう、無理だー。

「---…おやすみ…俺、、、ちょっとだけ寝るよ」
正輝は虫の息でそう呟いた。

「---ーーうっ…うっ…」
泣きじゃくる久美。

「--ねぇ…正輝… 明日、、また会えるよね?」
久美が泣きながら訪ねた。

立場逆転だなーー
と、正輝は心の中で笑う。

「----あぁ、、、会えるさーーー」

正輝はそう呟いて、
笑みを浮かべたーーー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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複雑なお話に…?
最後の続きは想像の中でお楽しみくださいネ!

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