彼女は幸せだった。
優しい両親。
優しい姉に囲まれてー。
そう、幸せだった。
あの日まではー。
そして、これからもー。
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中学校の卒業式当日。
桜が満開の、道を歩いていた彼女は、
背後から男子生徒に呼び止められた。
名前とキモいをかけて、
「砂肝」と言うあだ名をつけられてしまっていた
男性生徒、
砂本 拓也(すなもと たくや)。
「ーーーあの」
彼は、とにかく優柔不断で、臆病で、引っ込み思案で、
独り言が多くて…
気持ち悪がられていた。
「--な、、なに?」
島崎 真由里(しまざき まゆり)は、
気味悪い、と思いながら返事をする。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
挙動不審に「ぼ」を連呼する砂肝君。
「---な、、、何なの…?」
真由里が、心底気味悪そうに言う。
「ぼ、ぼ、く、ぼく、、ぼくぼくぼく」
「---もう、いい加減にして!」
真由里はそう吐き捨てて桜の中、砂肝君に背を
向けてそのまま立ち去ってしまった。
一人残された砂本は、呟いた。
「ぼくと…つきあってください…
好きです…まゆりちゃん・・・」
と…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---はぁ、、はぁ…」
真由里がベットから起き上がる。
また、”あの夢”を見た。
中学卒業の時のあの夢。
クラスで”砂肝”というあだ名で
気持ち悪がられていた男、砂本 拓也に
声をかけられた時の夢だ。
彼は”ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ”と言っていた。
正直、気味が悪かった。
あれから2年ー。
真由里は高校2年生だ。
もう、砂肝君のことなど、遠い過去のこと。
けれども。
この夢を月に2、3回は見る。
何故だろう。
まるで今も、砂肝君に監視されているような
気持ちにすらなる。
何故なのだろう。
「---おはよ」
姉の知乃(ちの)が優しく声をかける。
高校3年生の姉、知乃は、
とても優しく、そしてとても、綺麗だー。
高校1年の後半ぐらいから、
大人になったのか、
とてもおしゃれをするようになって、
明るくなった。
姉としての自覚も出てきたのか、
とても真由里に優しくなった。
「---大丈夫?」
冷や汗をかいている真由里の方を見つめて
心配そうな表情をする知乃。
「--うん、大丈夫。また、あの夢を見たから…」
真由里がそう言いながら、カーテンの外を見つめる。
今日は土曜日。
「---中学の時の?」
知乃が言うと、真由里はうなずいた。
「---そう。でも、大丈夫、怖がらなくていいよ…
そんなやつが来たら、私が追い払ってあげるから!」
知乃がそう力強く言うと、
真由里は安心した様子でほほ笑んだ。
「--そうだ!今日、友達と映画観に行く約束してたんだった!」
真由里が言うと、知乃は「ふぅん、どんな映画?」と微笑む。
「---”ぺプテパパック”って映画だよ」
そう言うと、知乃が「あー、あれね」と言う。
真由里は出かける準備をしながら
知乃の方を見る。
スタイル抜群の美脚に、それを強調した
ショートパンツ姿。
程よい長さのストッキングをはいていて、
少しだけ見える太ももが、男ウケしそうだ。
「---どしたの?」
知乃がほほ笑む。
「ううん、お姉ちゃん、今日も綺麗だなって」
真由里が言うと、知乃は「ありがと」とほほ笑んだ。
「いってきますー!」
真由里はそう言い、玄関を飛び出した。
しかし…
「あ~~~~!」
駅の近くまで言って、真由里は叫んだ。
「--財布おいてきちゃった!てへっ」
一人で苦笑いしながら家の方へと引き返す真由里。
自宅に入ると、
母が台所で何かしていた。
昼食かなんかの準備だろう。
父は、休日出勤だ。
”1日は48時間”を掲げるブラック企業で勤務していて
なかなか帰ってこない。
「---財布~財布~」
真由里は部屋の扉を開けて、
「-----------!?」
目を疑った。
姉である知乃が、だらりと…
まるで”皮”かのように、垂れ下がっている。
そして、真っ二つに割れた”姉”の姿をしている皮の中に
男が立っていた。
しかもーー
その男は、中学時代の同級生、
砂本ーーー
そう、、砂肝と呼ばれていた彼だーーー
「ひっ!」
真由里は慌てて扉をしめた。
「い、、、今のは…?」
心拍数が異様に上がっている。
「な、、、何で、アイツが…
お、、お姉ちゃんの体が、、
まるで、、」
真由里は頭の中に、
爬虫類や昆虫が脱皮する姿を思い浮かべた。
まるで、姉の知乃が脱皮して、中から砂本が
出てきたような…。
「--」
震える手で真由里は扉に手をかける。
”きっと、見間違えだ”と自分に言い聞かせながら…。
真由里は、
砂肝君のことが、心底嫌いだった。
授業中も一人で「ケラケラ…」と笑うようなことがあり、
前の座席だった真由里は、いつも恐怖を感じていた。
「---この世界、ゴミだな」
そんな呟きまで聞こえてきた。
とにかく、怖かったー。
真由里の祖父の家は焼き鳥屋だった。
だから、真由里は焼き鳥が好きだった。
けれどーー
焼き鳥の砂肝に罪はないのだけど、、
真由里は砂肝君を思い出してしまい、
砂肝を食べることが出来なくなってしまっていた。
それほど、怖かったー。
ガチャ。。
部屋の扉を開けると、
知乃が振り返った。
「あら、どうしたの?」
いつも通りの優しい姉。
「---あ、お、、、お姉ちゃん…」
体を震わせながら財布を手にする真由里。
「---・・・・あのさ」
真由里が口を開く。
怯えたまま過ごすのは嫌だった。
”なに バカなこと言ってるのよ!”と
笑いながら否定して欲しかった。
「--今、お姉ちゃん”脱皮”してなかった?」
真由里が尋ねる。
知乃がほほ笑む。
ーーー知乃は何も答えない。
「---お姉ちゃんのこと、好き?」
知乃が訪ねて来た。
「---うん、、、大好きだよ…」
真由里が震えながら答える。
「--わたしも大好き」
知乃が甘い声で囁きながら、
真由里の頬に優しく触れた。
「--あなたのことが大好きーー。
ずっとずっと一緒に居たいー。
わたしの優しさで包み込んであげたいー
あなたはずっとずっと、わたしの妹ー」
微笑む知乃ー
だがーーー
「---お、、、お姉ちゃん!」
恐怖に震えて真由里は知乃を押し飛ばした。
「--あ!」
ちょうど、後ろにあった、フックに上手く引っかかって、
知乃の背中の”ファスナー”が降りてしまった…。
普段はカモフラージュしているファスナー。
慌てて戻したから、隠すのを忘れていた。
知乃の後頭部から背中が真っ二つに割れ、
だらりと知乃が下に垂れ下がる。
中から出てきたのはーーー
「きゃあああああああああああああああああ!!!!」
真由里が大声で悲鳴を上げた。
「---ひっどいなぁ…」
中に居た男、”砂肝”がつぶやいた。
「---わたしは、もう、知乃なのよ…
うふふふふ・・・」
男の声で、知乃の言葉を口にする”砂肝”
「--な、、なに…お、、、お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
笑みをうかべたまま、ペラペラになって、
垂れ下がっている姉の顔を見つめる。
「---お姉ちゃん!な、、何これ!?
ゆ、、夢…!?」
真由里が涙を流しながらパニックを起こす。
「--違うよ。夢じゃない」
”砂肝”が、チャックを引っ張り、
再び、知乃を”着た”
「---”2年間”ずっと一緒だったじゃない?
ねぇ、、、真由里♡」
知乃が言う。
「に…二年…」
真由里が恐怖に身を震わせながら
やっとの思いで言葉を口にする。
「---そう…2年。
ずっと一緒だったじゃない。
だから細かいことなんて、どうでもいいじゃない?」
知乃が近づいてくる。
微笑みながら。
「--お、、、お姉ちゃん…
ど、、、どういう…」
真由里が言うと、知乃は微笑んで語り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ずっと、ずっと、真由里…
あなたのことが好きだった。
だから、中学の卒業式の日、
あなたに告白しようとした。
でもーー
できなかった。
緊張して「ぼ」しか言えなかったー。
それでも、
諦められなかった。
春休みの間、毎日のようにあなたの家の前に
隠れて、あなたを見ていたーーー。
いつしかその願いはかなったー。
通りすがりの男が、わたしに”人を皮にして着る力”をくれたー。
そう…
わたしはあなたとずっと一緒に居たかったーー
だから…
あの日…
「---あ、、あのぉ…」
”砂肝”が、高校から帰宅してきた
姉の知乃に声をかける。
「---はい??どなたですか?」
大人しい様子の知乃が言う。
今の活発で明るく元気な知乃とは大違いだ。
おしゃれっ気もあまりない。
「----あ、背中にゴミがついてますよ?」
そう言うと、彼は知乃の後ろに回り込んだ。
「え?あ、、、はい、、どうも」
知乃がそう言った瞬間に、違和感に気付く。
体の全身に、力が入らない。
「えーーー、あ、、、あれ、、、、」
知乃は頭から背中まで、ぱっくりと穴をあけられたような
気持ち悪い感触を覚える。
振り向こうとする。
けれどーー
できなかった。
「わ、、、わた、、、わ、、、、わら・・・ひ・・・」
口からも力が抜けて、知乃は言葉を口にすることもできずーー
そのまま、彼に”着られてしまった”
知乃は、その時から”皮”になった。
知乃を着た”砂肝”は、
知乃の影響を少なからずうけて、
今ではすっかり精神的に”女”になってしまった。
性格も、何の作用か、異様に明るくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---う、、嘘!!嘘!!
お姉ちゃんを返して!」
真由里が叫ぶ。
確かにーーー
2年前ぐらいからだーー。
姉の知乃が、おしゃれになったり、
元気よくなったりーー、
自分に異常なまでに優しくなったのはーー
「こ…来ないで!」
真由里が泣き叫ぶ。
知乃は優しく微笑んでいる。
「どうして?
真由里、お姉ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
知乃が真由里の頬をなぞるようにして
触る。
「わたしはあなたを愛しているー」
「誰よりもー」
「何よりもー」
「わたしは、ずっとずっと、あなたのことを…
愛してる」
ねっとりとした声で言う知乃。
「---やめて!あんたなんてお姉ちゃんじゃない!
お姉ちゃんから出てけ!」
真由里が叫ぶ。
「------」
知乃が悲しそうな表情を浮かべる。
「---お前なんか!大っ嫌い!」
真由里が叫ぶー。
姉が、2年前から、あのキモいやつに
好き勝手されていたなんて…
「--どうして!!!わたしはこんなにあなたを愛してるのに!」
突然、知乃が狂気の叫び声をあげた。
「どうして!!!どうして!!!」
狂ったように真由里をビンタし始める知乃。
「--いや!!!やめて!痛いよ!!!お姉ちゃん!」
「---あなたはわたしのもの!!!
愛してる!愛してる!!!愛してるぅ!!!!!」
姉である知乃の愛情ー
”砂肝”の歪んだ愛情ー
2つが混ざり合い、”歪みきった愛情”が今の
知乃を支配していたー。
「やめてぇ!」
真由里が思いっきり姉の背中にあるチャックを引っ張った。
ぱさ・・・。
姉の体…
いや、、皮が
力無く床に落ちた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!ねぇ!!!
返事をしてよ!!!!」
脱皮で取り残された皮のようにーー
姉の体は、力を失っていた。
「----お姉ちゃん!!!!!」
泣き叫ぶ真由里。
「--うふふふふふ♡
きめた!!
わたしが、、あなたと一つになる!!!」
”砂肝”が女言葉で笑う。
「---え…」
真由里が気づいたときには遅かった。
からだから、力が抜けていく。
頭からーー
背中がーーー
”開かれていく”
「いやぁ…や、、、やめて…!!
き、、気持ち悪い…やめて…!」
この上なく
気持ち悪い感触ーーー
「うふふふふ、お姉ちゃんと、ひとつになろ!!!
ま~~ゆ~~り!」
容赦なく、真由里を着始めるーーー
「あ、、いやだ、、、いや・・・いやだ・・」
横たわる”姉の皮”を見ながら涙を流す
「いや・・・だ・・・い・・や・・・ら・・・」
ーーー真由里の意識は途切れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ごめ~ん、遅れちゃった!お待たせ!」
映画館の前に現れた真由里。
いつも控えめな服装の彼女が、
大胆に足を露出した、
挑戦的な服装で姿を現した。
「あれぇ~真由里?今日は可愛いじゃん!
彼氏でもできたの~?」
待ち合わせていた友達が尋ねる。
真由里は微笑んだ。
「うふふふ・・・♡
わたしね、やっと”本当のわたし”になれたのーーー
ふふふふふふ♡」
真由里の後頭部にはーー
ファスナーが輝いていた…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
皮モノをまた書いてほしい!というお声がありましたので
第2弾を書いてみました!
皮モノにはあまり慣れていないのですが、
楽しんでいただけたなら嬉しいです!
コメント
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姉はこの後どうなってしまったのか
元に戻ったけど逆に砂肝の影響を受けてて妹を性的な目でみるようにとかだったら色々妄想が捗りますねえ
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> 姉はこの後どうなってしまったのか
> 元に戻ったけど逆に砂肝の影響を受けてて妹を性的な目でみるようにとかだったら色々妄想が捗りますねえ
その展開も、美味しいですね~
姉は…実は…
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姉がどうなったか気になりますね!
2年も彼の意志で思考して彼にも影響を与えていたからきっと同じように彼からも影響を与えられてますよね!
妄想が捗る!
皮モノは大好物です!
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> 姉がどうなったか気になりますね!
> 2年も彼の意志で思考して彼にも影響を与えていたからきっと同じように彼からも影響を与えられてますよね!
> 妄想が捗る!
> 皮モノは大好物です!
ありがとうございます!
姉についてはあえて触れませんでした!
皮のネタもまだあるので、定期的に書こうと思います!
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最近、このブログを知りました。
皮モノ小説は特に好きなのでとても良かったです。
キャラクターが徐々に絶望感を味わう描写が非常に丁寧でした。
ぜひ今後も他の皮ネタを期待しております。
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> 最近、このブログを知りました。
> 皮モノ小説は特に好きなのでとても良かったです。
> キャラクターが徐々に絶望感を味わう描写が非常に丁寧でした。
> ぜひ今後も他の皮ネタを期待しております。
ありがとうございます!
今後も定期的に皮モノも書こうと思います!