2070年ー。
憑依が当たり前の世界では、
「憑依し終えたからだ」の売買が行われていた。
憑依された彼女が、そこの店員として働いていることをしった
彼氏の正春。
彼は、彼女の彩紗を助け出そうとするも…
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「ーー5万円ならある!」
正春がカウンターに5万円を叩きつけた。
「---ふふっ…
馬鹿ね…」
彩紗がバカにしたようにして笑う。
彩紗のゴスロリファッション姿なんて
見たくない。
早く、一刻も早く解放してあげたい。
「---何がバカなんだ!」
正春が叫ぶと、
彩紗は笑う。
「--”買取”が5万円のからだよ?
わたしは…。
だから、わたしを買いたいなら9万8000円。
どうする?
あなたにそんなお金 出せるの?」
彩紗が、喧嘩腰な口調で言う。
正春は拳を握りしめた。
今月の生活費が10万。
ーーだから…
ほぼ全財産を使えば、彩紗を助けることができる。
けれどー。
「----決まってる!」
正春はそう叫ぶとカウンターにさらに5万叩きつけた。
「--へ~~~
そうまでしてわたしを助けたいんだ!
すっごいね!」
彩紗がカウンターから出てきて、
正春の方に近寄ってくる。
「---ありがとう!うれしい♡」
そう言うと、彩紗が正春に抱き着いてキスをした。
咄嗟に、正春はそれを振り払った。
「--やめろ!俺が好きなのは
外見と中身が揃った彩紗だ!
お前じゃないー!」
正春の言葉に彩紗は舌打ちをする。
「チッ・・・せっかくご褒美あげようと思ったのに」
イライラした様子で髪をかきむしると、
10万円を乱暴に受取、奥に居た別のスタッフに手渡した。
「--ま、いいわ!
お買い上げありがとうございます!うふふっ♡」
そう言い終えると、彩紗は突然、白目を剥いて
その場に倒れた。
「--彩紗!」
正春が駆け寄り、彩紗を抱きかかえる。
彩紗の目から涙がこぼれている。
彩紗本人のものだろうか。
「…貴様ら…!
ヒトの体を弄んで楽しいのか!
あぁ?」
正春が彩紗の涙を見て、怒りに震え、
残る店員たちに叫んだ。
女子中学生らしき姿の店員ー
メイド服の女性店員
さわやかそうな姿のスポーツマン男子。
こいつらも、全員憑依されているのだろうか。
「---ぷっ…」
「うふふ・・・♡」
女子中学生店員とメイド服店員
顔を見合わせてバカにしたように笑う。
「---時代遅れもいい加減にしたら?」
背後から声がした。
アイドル衣装を見にまとった美少女が立っていた。
「----」
正春は思う。
入口付近に”注目の入荷”と書かれていたからだだ。
さっきまで彩紗に憑依していた”ヤツ”が、
憑依したのだろうか。
「---時代遅れだと?」
正春が睨み返すと、
アイドル少女は笑う。
「そうよ。
今やこの世界は欲望に満ちているの。
ほら、見なさい。
わたしのこの綺麗な足。
綺麗な髪の毛。
愛嬌のある顔。
これらが一度に自分のものになるのよ。
他人の全てを奪って自分がその子になりきる。
どう、ゾクゾクしない!
興奮して、わたし、おかしくなっちゃいそう!」
狂気の笑みを浮かべるアイドル少女。
「----ふふふふ!」
店内のメイド店員や女子中学生店員、スポーツマン店員が
拍手をする。
「--クズどもが!
人の尊厳を何だと思っている!!!」
叫ぶ正春。
「--あらあら…
あんた、数十年前で言う、
”スマホを毛嫌いするじいさん ばあさんみたいなこと言うのね”
新しいモノを受け入れられないって、
罪よね…。」
冷たい目で正春を見つめるアイドル少女。
「--うふっ♡ こんな風に♡
可愛い子の、、、胸を揉み放題なのに…♡
あぁ♡ あぁあっ♡ あんっ♡」
アイドル少女が喘ぎ始める。
「---やめろ!その子のからだは
お前みたいなやつに使われるためにあるんじゃない!」
このアイドルの格好をした美少女が誰かは知らない。
けれど、彼女も被害者だ。
憑依反対派の正春には許せなかった。
「----あ・・・」
背後で声がした。
意識を失っていた彩紗が目を覚ましたのだ。
「---彩紗!」
正春が近寄ると、
彩紗は怯えきった表情で、正春を振り払った。
「い・・・いや・・・こ、、、来ないで!
こわい…こわい!!!!こわい!!!!!」
彩紗がボロボロ涙を流し始める。
「--あ、彩紗!どうしたんだよ!俺だよ!」
正春が叫ぶも、彩紗は泣き叫びだして、
体をブルブル震わせている。
「--…ザンネンね。
その子、”憑依失調症”になっちゃったみたい」
笑うアイドル少女。
「--憑依失調症…だと?」
「そう。憑依されていたことによる後遺症ね。
精神崩壊したり、廃人になったり、寝たきりになったり。
憑依されている期間が長ければ長いほど
失調症になる確率は上がっていくの」
その言葉に、正春が振り返り、
彩紗を抱きしめた。
「大丈夫だから、彩紗…。
もう、大丈夫だから…」
正春は彩紗がパニックを起こしているだけだと
信じたかった。
彩紗は強い子だー。
簡単に精神崩壊するはずなど…
「きゃあああああああああああああ!」
彩紗が泣き叫んで正春を突き飛ばした。
「あああ・・・あああああああっ!
いやああああああああ!」
頭を抱えて、狂ったように泣き叫ぶ彩紗。
どう見ても普通じゃない。
「--ふふっ、憑依失調症の典型的な
症状ね。もう、彼女はもとには戻らない」
アイドル少女が言う。
「---くそっ!貴様…!!!」
正春がアイドル少女を睨みつけると、
少女は笑った。
「けど…一つだけ方法があるわ。
憑依失調症を直す薬があるの…!」
錠剤を取り出して笑うアイドル少女。
「--くそっ…ならそれをよこせ!」
正春が手を伸ばすと、アイドル少女は手を引っ込めた。
「--この薬…
ポゼトキシンは1錠1万円するの…。
あんたにお金、あるの?」
バカにしたようにして笑うアイドル少女。
「くっ・・・」
お金は、もう無い。
「---」
アイドル少女が、少しの間、正春を見つめるとため息をついた。
「ま、いいわ。特別にあなたを1万円で買い取ってあげる。
あなたのからだを…。」
アイドル少女の提案に正春が「なんだと!」と声をあげる。
「--あなたの体を、お店に売るなら、
この薬を彩紗ちゃんに飲ませてあげる。
そしたら、彩紗ちゃんは助かる」
アイドル少女の言葉に
正春は考える。
つまり…俺自身が売り物に…
誰かに憑依される、ということか…。
けれど…。
それでもーー
彩紗はーー
彩紗が助かるなら…
「わかった」
正春が言うと、
アイドル少女は空いているショーケース風のカゴに入るように
促してきた。
「--あなたは今日から売り物。
ま、男子大学生なら需要はあるから、
2万円ぐらいでの販売かしら ふふ」
「--待て」
正春がショーケースに入る直前に足を止めて言う。
「---嘘はついていないよな?
彩紗を助けてくれるって、約束するよな?」
正春が睨むようにして言うと、
アイドル少女はうなずいた。
「わたしだって、元々男だからー
”男”に二言はないわ」
その言葉に正春は「約束だぞ」と
言ってショーケースに入った。
ショーケースが自動でしまり、
体が拘束される。
「はぁ…ごめんな彩紗…
おれ、、、誰かに買われて憑依されちまう…」
正春はショーケースの中で呟く。
ショーケース内部はあらゆる装置がついており、
外部から勝手に憑依されないようにするための
ロック装置や、
からだのトイレ関係も自動で処理するようになっている。
「-----彩紗…お前が助かればおれは…
--------!!」
正春はショーケースの外に立つアイドル少女に憑依した
店員の表情を見て凍りついた。
ーー邪悪な笑みを、浮かべていた。
「あははははははははは!!!!
あはははははははははは~~~
ばーーーーーーーか!!!!」
アイドル少女が大声で叫んだ。
スカートをバタバタと手で振りながら
大笑いしている。
「--ポゼトキシン???
んな薬あるわけねーだろ!!!
ぷっ…うふふふっふ、ははははははははは♡」
アイドル少女は錠剤を飲み込んで笑う。
「これはただのビタミン剤よ」
「---貴様!」
ショーケースの扉を思い切りたたこうとするも
からだが動かない。
「ああああああああああ!!!
ううううっ…あああああああああああああ!!!!」
廃人同然の彩紗の発狂している声が聞こえる。
正春は思う
何とかここから出て、助けないと…!!!
と…。
「--ね、今の時代は、”憑依”が常識なの。
世の中ってものは変わっていくものでしょ?
いつの時代もそう。
時代について来れない人は負け組。
わたしのように時代についていく人間は勝ち組。
あなたは、負け犬よ。
憑依が”常識”になった世界で憑依もせずに
くだらない正義を振りかざすー。
あんた、自分が、正義だと思ってるでしょ?
憑依する人間が悪だと思ってるでしょ?
違う。
今や憑依しない人間の方が少数派。
ヒトはみんな、欲望に負けてー
辛いことから逃げようとしてー
そしてビジネスの為に憑依するー。
ーー多数派は正義となり、常識となり、
あんたのような少数派は悪となり、”変人”になる。
わかる?」
ショーケースを挑発的な表情で見つめる
アイドル少女。
「さ、彩紗ちゃんの体はあっちのショーケースに
ぶち込みなさい!」
アイドル少女が、メイド服の店員に指示をすると、
発狂している彩紗のからだがショーケースに入れられた。
すぐ”隣”のショーケースに。
「---うふふ・・・
わたしからのご褒美よ。」
そう言うと、アイドル少女は、
彩紗の入っているショーケースと
正春の入っているショーケースを
向い合せて、すぐ傍に設置した。
「くそっ!!!くそ!!!
俺を出せ!!!男に二言はないんだろ!!!!
ふざけるな!出せ!」
正春が叫ぶと、アイドル少女は微笑む。
「だって、今、わたし、女の子だもん!うふっ♡」
あざといポーズを決めるアイドル少女。
「くそっ!!!!」
目の前で彩紗が発狂している。
すぐ傍にいるのにー
ショーケースの2枚のガラスがーーー
二人の再会を拒むー
こんなに近くにいるのに、
その手は二度と、届かない。
「くそがあああああああああああああ!」
正春は大声で叫んだ。
「ーーー」
アイドル少女は蔑んだ視線を送って、
その場を後にした。
カウンターに戻ったアイドル少女に、
女子中学生店員が声をかける
「流石は社長、お見事でした♡」
媚を売るような声を出す女子中学生店員。
もちろん、彼女も憑依されている。
「----ふふ、ありがと」
アイドル少女ー。
彩紗に憑依していた”人間”は
BODY OFFの社長である丸神 隆一郎だった。
「-----最高の世の中になったわね…ふふ・・・♡
ありがとう、御室博士!」
アイドル少女は、憑依薬開発者の名前を呟き、
満面の笑みでほほ笑んだ。
ーー憑依はこの後も世界に拡大ーーー
人は、あるべき姿を見失ってしまうことになる・・・。
そして、開発者の御室博士の本当の目的は…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---あや・・・さ」
1週間が経過した。
疲れ果てた正春は、うつろな目で、
反対側のショーケースで茫然と口を開いたままの
彩紗を見つめる。
そして…
「うふふ・・・このイケメンさんにするわ」
品の無さそうなおばさんが、
正春の体を見て、”購入を決断した”
「------ごめんなーーー」
正春は、彼女の彩紗を救い出せなかったことを
心から詫びた。
そしてーー
ショーケースが開き、彼の意識は”途切れた”
次に目を覚ますとき、
彼は、彼で居られるのだろうか。
それは、その時になってみないとわからないー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
この世界は…色々な意味でアウトですね…
ちなみに前に書いた
「あるかも知れない未来」と同じ世界観を
使いました^^
ちょうどよかったので(笑)
コメント
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あまりネガティブなコメントをする気はないのですが、人体取引の金額が格安すぎてどうしても違和感を覚えてしまいます。
一万ごときで自分の体を質に出す展開は正直無理矢理すぎるかなと、批判するわけではないのですが、これから先似たような展開で作品を作るのであれば値段はもっと高めに設定したほうが自然に思えます。
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> あまりネガティブなコメントをする気はないのですが、人体取引の金額が格安すぎてどうしても違和感を覚えてしまいます。
> 一万ごときで自分の体を質に出す展開は正直無理矢理すぎるかなと、批判するわけではないのですが、これから先似たような展開で作品を作るのであれば値段はもっと高めに設定したほうが自然に思えます。
ご意見ありがとうございます!
世界設定上、憑依が当たり前になっていて
人体の価値が大幅に落ちている、ということを考えた上での
値段設定で、安めになっていました^^
今後の参考にさせていただきます!