仲良しだった高校生カップル。
だがー、
彼氏が彼女に憑依したことで全てが変わってしまった。
好き勝手する彼氏。
怒る彼女。
そして、その先には…。
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久雄と深優は、
喧嘩の経験もほとんどないカップルだった。
喧嘩したのは”あの時”だけー。
「---子供ってうざいよな」
休日に二人で遊園地に出かけた時のこと。
久雄がそう口走った。
ドリンクを飲みながら深優が言う。
「子供、可愛いじゃない」
深優が言うと、久雄は首を振る。
「いや~、俺は嫌だね!
餓鬼のくせして、生意気だし、うるさいしさぁ!」
久雄の言葉に深優が反論する
「--あんただって餓鬼じゃない!」
深優の言葉に、久雄がムキになる。
「--餓鬼?あいつらと一緒にしないで欲しいね!
とにかく俺は子供が嫌いなんだよ!
目の前に居るだけで突き飛ばしてやりたいぐらいだね!」
いつもは、
あまり感情的にはならない久雄がムキになって言う。
「---ちょっと!それは酷過ぎるんじゃない!?」
深優が久雄の方をむいて声を荒げる。
「酷くねーよ!ガキは餓鬼だろうが!」
「何よそれ!最低!」
結局、深優が呆れ果てて、一人、
アトラクションの方に向かって歩き出し、
ふたりの唯一の”言い合い”はそれで終わったー。
「---なぁ、深優…
…っと、、、、余計なことは言わなくていいか」
久雄は首を振って、
怒った深優の後ろについていった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1回ぐらいいいって…ふざけないでよ!)
深優の声が脳裏に響く。
深優は怒っている。
そして、悲しんでいる。
憑依している久雄にも、それが伝わった。
「怒ってるのも、可愛いなぁ」
深優がつぶやく。
からだは、久雄に憑依されている。
(……もう、、、最低!)
深優が涙声で言う。
「--はは、怒るなって!
いつも深優さ、クールでツンデレだから
怒った声もいいなって」
深優が、一人で部屋でぶつぶつ言い続けている。
深優の体に憑依した久雄が
深優の口でしゃべっているからだ。
(誰がツンデレよ…ばかっ!)
深優の言葉を聞いて、
久雄は笑みを浮かべる。
まるで、何かに喜んでいるように。
「…にしても、これが女子高生の制服かぁ…。
足がスースーして気持ち悪くない?」
深優の意識に語りかける。
(…わかんないわよ…
私は小さいころからスカート穿いてるし、
特に違和感なんて感じたことないけど)
深優が、丁寧に受け答えをする。
「--ははっ、そっか…
いやぁ…足が出てるって…なんか
落ち着かないな~」
深優が笑みを浮かべながら自分のスカートから
はみ出している生足を触っている。
(こら…いい加減にしなさいよ?」
深優が言うと、
久雄が「わ~ってる、もうちょっとだけだよ!」と言う。
「--胸って…な~んか重くて邪魔だよなぁ…」
そう言いながら深優は自分の胸を触り出す。
「うふふふふふっ♡ 感触、、感触は気持ちいい!」
深優が胸を触りながら喜びの声をあげる。
「---こんなもんがついてるなんて
最高すぎるだろぉ!!うふふ・・・」
(…最低)
深優は心底呆れた様子で呟いた。
「手も綺麗だな~」
深優は自分の手を嬉しそうにペロペロと
舐めはじめた。
(ちょ…やめてよ!お母さんとか部屋に入ってきたら
どうするのよ!)
深優の心の叫びを無視して、綺麗な手を舐めまわす。
そしてニオイをくんくんと嗅いで、
「んは~~~♡」と恍惚の表情を浮かべた。
(……酷い…最低!!!
あんたなんて嫌いよ!もうお別れ!!!!)
深優が脳裏で叫ぶと、
深優に憑依している久雄は少しだけ自虐的な笑みを浮かべた。
「---そっか…。
なら、新しい彼氏でも探せよ」
冷たく言い放つ深優のからだー。
(え…)
すんなり別れを受け入れられたことで、
深優は唖然とする。
「さって…もう俺は出てくぜ!
体は返してやるよ」
深優のからだがそう言う。
まだ、からだの自由は効かない。
意識はあるのに、からだは動かない。
”最悪”と表現するべきだろうか。
とにかく、気持ち悪い。
「ーーーあ、最後にひとつ!
深優のからだでどうしてもやってみたかったんだ!」
そう言うと、鏡の前に立ち、
お願いするポーズをして、
甘い声で囁いた。
「ねぇ…久雄…
わたし、、久雄のことだいすき!!
わたしと、、結婚して♡」
目を潤ませて、可愛らしくそう言い放った深優。
(最低最低最低!!!!!
なに勝手に人の体でプロポーズしてんのよ!!!
最低!!!!!)
心の中の深優の意識が叫んだ。
「----それだけ、深優のことが好きなんだよ」
切なそうに、深優の体で呟く久雄。
(…バ、、、バカ!
そんなこと言われたって、
嬉しく何て…)
心の中の声だから、深優本人の表情は分からない。
でも、久雄には深優が顔を赤らめて目を逸らしている
光景が浮かんだ。
「---出た、いつものツンデレ!」
深優のからだが嬉しそうに言う。
(だからツンデレじゃないってば!)
「・・・じゃあな。深優」
深優のからだに憑依している久雄が言った。
深優は、、涙を流していたー。
(---!?)
何で泣いてるの?
深優がそう思っていると、
さらに、深優のからだから言葉が発された。
「-----ありがとな…」
と。
そしてーー
その瞬間、体の自由が戻った。
「---な、、、何なの…」
自分の体を取り戻した深優が、
涙を拭く。
勝手に人の体で泣いてー。
「---もう別れる!アイツ最低!」
そう言いながらスマホを手にする深優。
ふと、ニュースサイトの見出し記事が目に入る。
”男子校高校生、交差点ではねられ重傷”
「---ふーん…」
深優は何気なく画面をスクロールさせた…。
そして、ふと思った。
交差点は深優たちが通う高校からそれほど
遠くない交差点だ。
「---」
「---そっか…。
なら、新しい彼氏でも探せよ」
久雄の言葉を思い出す。
「----!!!!」
深優は、ふと”最悪の事態”を思い浮かべた。
まさか、、あいつ!?
深優は部屋から飛び出し、
事故現場へと向かうーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間前…。
「---」
スマホの画面を見つめ、深優からのLINEメッセージを
見つめる久雄。
「--ーー深優はほんとにいいやつだよな…」
こんな単純な自分をーー
ちょっと餓鬼っぽくてバカな自分にーーー
深優はいつも文句を言いながらも付き合ってくれる。
「---俺も、深優を大事にしなきゃな」
久雄がスマホをしまい、交差点の横断歩道に目をやる
「ーーー!!」
幼稚園ぐらいの子供が、横断歩道の真ん中で
自転車ごと転倒したのか、倒れた自転車のそばで
泣いている。
「---おい、大丈夫か?」
久雄が叫んだその時だった。
ーー大型のトラックが左折して、
子供に気付かず、そのまま交差点に差し掛かってきた。
「----くそっ!だから餓鬼は嫌いなんだ!」
ーーー久雄はーー、
本当は別の高校に行きたかったー。
けれど、高校の受験当日、
たまたま転んでけがをしている子供を見かけてしまった。
もちろん、そのまま無視しても良かった。
けれどー久雄にそれはできなかった。
久雄は子供を親のところまで送り届けてー、
高校受験を犠牲にした…。
結局、第2志望の高校に合格。
そのおかげで深優と出会うこともできた。
後悔はしていない。
「----そんなところで泣いてるんじゃねぇ!」
久雄は子供を思い切り、突き飛ばし…
そのままーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事故現場で引かれた男子生徒が
搬送された病院へと辿り着いた。
そこにはーーー
久雄の姿があった。
どう見ても、もう助からない。
親と思われる人物に、例をして、
その場にかけこむ深優。
「---バカ!何で黙ってたの!?」
深優が泣きながら久雄の体に語りかける。
さっきまで憑依していたのは久雄のーー、
死にゆく久雄の、霊ーーー。
周囲が制止するのを振り切って深優が
叫ぶ。
「---ねぇ!起きてよ!
今度はちゃんとわたしがあんたにプロポーズでも
何でもしてあげるから! ねぇ!」
久雄の体を揺さぶって
ボタボタ涙をこぼす深優ー。
「------み・・・ ゆ」
久雄が目をうっすらと開いた。
周囲の家族らしき人物や医師が驚いた様子で
その様子を見る。
「-----ねぇ、、、ほら、、
今年のクリスマス楽しみなんでしょ!?」
深優が言うと、
久雄が少しだけ口元をゆるませた。
「---子供嫌いって言ったのに、
何で命かけて助けてんのよ!!
ツンデレはあんたじゃない!ねぇ!」
深優の言葉に、
久雄が笑みを浮かべたー。
ボロボロの体で…。
そしてつぶやいた。
「---助けたんじゃねぇよ…」
と。
「え?」
深優が注意深く、言葉を聞く。
「俺はただ、餓鬼がうざくて・・・
突き飛ばした・・・だけだよ・・・」
久雄が誇らしげに笑う。
「-----バカ!」
深優はそのままその場に泣き崩れてしまう。
久雄が、子供を助けたということは分かっている。
そして、久雄も照れ屋なのはわかっている。
「ーーーーだいすよだよ・・・みゆ・・・」
そう言うと、久雄は目から涙をこぼして、
周囲の機器が「心肺停止」を知らせる音を鳴らし始めた。
「----久雄…」
深優はその場に蹲り呟いた…
「わたしも……だいすき・・・・・・」
深優は、その場で、枯れるまで、涙を流し続けた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数週間後ーー。
「---お兄ちゃん、ありがとうございました」
墓参りに来た深優は、
先客がいるのを目にした。
親子連れー。
たぶん、あの子が、久雄が突き飛ばして
トラックから守った子供なんだろう。
「---こんにちは」
すれ違いざまに深優がほほ笑んで挨拶をすると、
子供が言った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんの友達?」
無邪気な可愛い子ー。
「---うん、そうだよ」
深優が子供に話す姿勢で微笑みかけると、その子は言った。
「--ねぇ、お兄ちゃん 今どこに居るの?
あのときのお礼言いたい!」
子供が言う。
母親が子供に何かを言い聞かせようとしている。
「---そうね……お兄ちゃんは今、遠いところにいるの…。」
深優が悲しそうな表情で言う。
「--じゃあ会えないの?」
子供の言葉に深優はうなずいて続けた。
「--うん…
だから、いつか会える日まで、お兄ちゃんの分まで、
一生懸命、生きていってね」
深優は子供の頭を撫でて、
「---久雄も、きっと喜ぶから…」 とつぶやいた。
母親と子供が会釈して、
立ち去って行く。
深優は墓の前で手を合わせた。
「---久雄…」
深優は、久雄の墓を見つめて、優しく微笑んだ。
この数週間、深優は泣いてばかりだった。
けれど、もう決めた。
いつまでも泣いていたら、
きっと久雄はまた、バカにしたように笑い出すからー。
「---わたし、もう泣かない…」
深優がそう呟いて、墓に花を添える。
そして、手を合わせて、深優は立ち上がった。
小包を取り出し、
墓の前にそれを供えて、深優は微笑む。
「クリスマス、楽しみにしてたよね?
はい、プレゼント」
深優は悲しそうに微笑んで、小さくつぶやいた。
「メリークリスマス」
とーーー。
プレゼントを置くと、
木々が風に優しく揺られたー。
「---久雄」
深優はそう呟いてほほ笑むと、
「また来るね」とほほ笑んで、その場を後にしたーーー
「------」
そこに、久雄の霊体が居た。
もう、憑依もできないー。
久雄は深優の肩に手を伸ばそうとした。
けれど、もう触れることもできなかった。
もう、この手は二度と届かないー。
「----」
悲しそうに久雄は微笑むと、
深優の後姿に向かって呟いた。
「がんばれよー」
と。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
これはホワイトなのでしょうか?
それともダークなのでしょうか?
どっちだかよく分からなくなりました^^
コメント
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良いTSです 涙
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> 良いTSです 涙
ありがとうございます!
綺麗な(?)展開も良いモノですよね!