<憑依>もう、二度と届かない②~理由~(完)

仲良しだった高校生カップル。

だがー、
彼氏が彼女に憑依したことで全てが変わってしまった。

好き勝手する彼氏。
怒る彼女。

そして、その先には…。

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久雄と深優は、
喧嘩の経験もほとんどないカップルだった。

喧嘩したのは”あの時”だけー。

「---子供ってうざいよな」

休日に二人で遊園地に出かけた時のこと。

久雄がそう口走った。

ドリンクを飲みながら深優が言う。

「子供、可愛いじゃない」
深優が言うと、久雄は首を振る。

「いや~、俺は嫌だね!
 餓鬼のくせして、生意気だし、うるさいしさぁ!」

久雄の言葉に深優が反論する

「--あんただって餓鬼じゃない!」
深優の言葉に、久雄がムキになる。

「--餓鬼?あいつらと一緒にしないで欲しいね!
 とにかく俺は子供が嫌いなんだよ!
 目の前に居るだけで突き飛ばしてやりたいぐらいだね!」

いつもは、
あまり感情的にはならない久雄がムキになって言う。

「---ちょっと!それは酷過ぎるんじゃない!?」
深優が久雄の方をむいて声を荒げる。

「酷くねーよ!ガキは餓鬼だろうが!」

「何よそれ!最低!」

結局、深優が呆れ果てて、一人、
アトラクションの方に向かって歩き出し、
ふたりの唯一の”言い合い”はそれで終わったー。

「---なぁ、深優…

 …っと、、、、余計なことは言わなくていいか」

久雄は首を振って、
怒った深優の後ろについていった…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(1回ぐらいいいって…ふざけないでよ!)
深優の声が脳裏に響く。

深優は怒っている。
そして、悲しんでいる。

憑依している久雄にも、それが伝わった。

「怒ってるのも、可愛いなぁ」
深優がつぶやく。

からだは、久雄に憑依されている。

(……もう、、、最低!)
深優が涙声で言う。

「--はは、怒るなって!
 いつも深優さ、クールでツンデレだから
 怒った声もいいなって」

深優が、一人で部屋でぶつぶつ言い続けている。

深優の体に憑依した久雄が
深優の口でしゃべっているからだ。

(誰がツンデレよ…ばかっ!)
深優の言葉を聞いて、
久雄は笑みを浮かべる。

まるで、何かに喜んでいるように。

「…にしても、これが女子高生の制服かぁ…。
 足がスースーして気持ち悪くない?」

深優の意識に語りかける。

(…わかんないわよ…
 私は小さいころからスカート穿いてるし、
 特に違和感なんて感じたことないけど)

深優が、丁寧に受け答えをする。

「--ははっ、そっか…
 いやぁ…足が出てるって…なんか
 落ち着かないな~」

深優が笑みを浮かべながら自分のスカートから
はみ出している生足を触っている。

(こら…いい加減にしなさいよ?」
深優が言うと、
久雄が「わ~ってる、もうちょっとだけだよ!」と言う。

「--胸って…な~んか重くて邪魔だよなぁ…」

そう言いながら深優は自分の胸を触り出す。

「うふふふふふっ♡ 感触、、感触は気持ちいい!」
深優が胸を触りながら喜びの声をあげる。

「---こんなもんがついてるなんて
 最高すぎるだろぉ!!うふふ・・・」

(…最低)
深優は心底呆れた様子で呟いた。

「手も綺麗だな~」
深優は自分の手を嬉しそうにペロペロと
舐めはじめた。

(ちょ…やめてよ!お母さんとか部屋に入ってきたら
 どうするのよ!)

深優の心の叫びを無視して、綺麗な手を舐めまわす。

そしてニオイをくんくんと嗅いで、
「んは~~~♡」と恍惚の表情を浮かべた。

(……酷い…最低!!!
 あんたなんて嫌いよ!もうお別れ!!!!)

深優が脳裏で叫ぶと、
深優に憑依している久雄は少しだけ自虐的な笑みを浮かべた。

「---そっか…。
 なら、新しい彼氏でも探せよ」

冷たく言い放つ深優のからだー。

(え…)
すんなり別れを受け入れられたことで、
深優は唖然とする。

「さって…もう俺は出てくぜ!
 体は返してやるよ」

深優のからだがそう言う。

まだ、からだの自由は効かない。
意識はあるのに、からだは動かない。

”最悪”と表現するべきだろうか。

とにかく、気持ち悪い。

「ーーーあ、最後にひとつ!
 深優のからだでどうしてもやってみたかったんだ!」

そう言うと、鏡の前に立ち、
お願いするポーズをして、
甘い声で囁いた。

「ねぇ…久雄…
 わたし、、久雄のことだいすき!!
 わたしと、、結婚して♡」

目を潤ませて、可愛らしくそう言い放った深優。

(最低最低最低!!!!!
 なに勝手に人の体でプロポーズしてんのよ!!!

 最低!!!!!)

心の中の深優の意識が叫んだ。

「----それだけ、深優のことが好きなんだよ」

切なそうに、深優の体で呟く久雄。

(…バ、、、バカ!
 そんなこと言われたって、
 嬉しく何て…)

心の中の声だから、深優本人の表情は分からない。

でも、久雄には深優が顔を赤らめて目を逸らしている
光景が浮かんだ。

「---出た、いつものツンデレ!」
深優のからだが嬉しそうに言う。

(だからツンデレじゃないってば!)

「・・・じゃあな。深優」
深優のからだに憑依している久雄が言った。

深優は、、涙を流していたー。

(---!?)
何で泣いてるの?

深優がそう思っていると、
さらに、深優のからだから言葉が発された。

「-----ありがとな…」

と。

そしてーー

その瞬間、体の自由が戻った。

「---な、、、何なの…」
自分の体を取り戻した深優が、
涙を拭く。

勝手に人の体で泣いてー。

「---もう別れる!アイツ最低!」

そう言いながらスマホを手にする深優。

ふと、ニュースサイトの見出し記事が目に入る。

”男子校高校生、交差点ではねられ重傷”

「---ふーん…」
深優は何気なく画面をスクロールさせた…。

そして、ふと思った。

交差点は深優たちが通う高校からそれほど
遠くない交差点だ。

「---」

「---そっか…。
 なら、新しい彼氏でも探せよ」

久雄の言葉を思い出す。

「----!!!!」

深優は、ふと”最悪の事態”を思い浮かべた。

まさか、、あいつ!?

深優は部屋から飛び出し、
事故現場へと向かうーー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数時間前…。

「---」
スマホの画面を見つめ、深優からのLINEメッセージを
見つめる久雄。

「--ーー深優はほんとにいいやつだよな…」

こんな単純な自分をーー
ちょっと餓鬼っぽくてバカな自分にーーー

深優はいつも文句を言いながらも付き合ってくれる。

「---俺も、深優を大事にしなきゃな」

久雄がスマホをしまい、交差点の横断歩道に目をやる

「ーーー!!」

幼稚園ぐらいの子供が、横断歩道の真ん中で
自転車ごと転倒したのか、倒れた自転車のそばで
泣いている。

「---おい、大丈夫か?」
久雄が叫んだその時だった。

ーー大型のトラックが左折して、
子供に気付かず、そのまま交差点に差し掛かってきた。

「----くそっ!だから餓鬼は嫌いなんだ!」

ーーー久雄はーー、
本当は別の高校に行きたかったー。

けれど、高校の受験当日、
たまたま転んでけがをしている子供を見かけてしまった。

もちろん、そのまま無視しても良かった。

けれどー久雄にそれはできなかった。
久雄は子供を親のところまで送り届けてー、
高校受験を犠牲にした…。

結局、第2志望の高校に合格。
そのおかげで深優と出会うこともできた。

後悔はしていない。

「----そんなところで泣いてるんじゃねぇ!」

久雄は子供を思い切り、突き飛ばし…

そのままーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

事故現場で引かれた男子生徒が
搬送された病院へと辿り着いた。

そこにはーーー
久雄の姿があった。

どう見ても、もう助からない。

親と思われる人物に、例をして、
その場にかけこむ深優。

「---バカ!何で黙ってたの!?」
深優が泣きながら久雄の体に語りかける。

さっきまで憑依していたのは久雄のーー、
死にゆく久雄の、霊ーーー。

周囲が制止するのを振り切って深優が
叫ぶ。

「---ねぇ!起きてよ!
 今度はちゃんとわたしがあんたにプロポーズでも
 何でもしてあげるから! ねぇ!」

久雄の体を揺さぶって
ボタボタ涙をこぼす深優ー。

「------み・・・ ゆ」
久雄が目をうっすらと開いた。

周囲の家族らしき人物や医師が驚いた様子で
その様子を見る。

「-----ねぇ、、、ほら、、
 今年のクリスマス楽しみなんでしょ!?」

深優が言うと、
久雄が少しだけ口元をゆるませた。

「---子供嫌いって言ったのに、
 何で命かけて助けてんのよ!!

 ツンデレはあんたじゃない!ねぇ!」

深優の言葉に、
久雄が笑みを浮かべたー。

ボロボロの体で…。

そしてつぶやいた。

「---助けたんじゃねぇよ…」

と。

「え?」
深優が注意深く、言葉を聞く。

「俺はただ、餓鬼がうざくて・・・
 突き飛ばした・・・だけだよ・・・」

久雄が誇らしげに笑う。

「-----バカ!」
深優はそのままその場に泣き崩れてしまう。

久雄が、子供を助けたということは分かっている。

そして、久雄も照れ屋なのはわかっている。

「ーーーーだいすよだよ・・・みゆ・・・」

そう言うと、久雄は目から涙をこぼして、
周囲の機器が「心肺停止」を知らせる音を鳴らし始めた。

「----久雄…」
深優はその場に蹲り呟いた…

「わたしも……だいすき・・・・・・」

深優は、その場で、枯れるまで、涙を流し続けた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数週間後ーー。

「---お兄ちゃん、ありがとうございました」

墓参りに来た深優は、
先客がいるのを目にした。

親子連れー。

たぶん、あの子が、久雄が突き飛ばして
トラックから守った子供なんだろう。

「---こんにちは」
すれ違いざまに深優がほほ笑んで挨拶をすると、
子供が言った。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんの友達?」

無邪気な可愛い子ー。

「---うん、そうだよ」
深優が子供に話す姿勢で微笑みかけると、その子は言った。

「--ねぇ、お兄ちゃん 今どこに居るの?
 あのときのお礼言いたい!」

子供が言う。
母親が子供に何かを言い聞かせようとしている。

「---そうね……お兄ちゃんは今、遠いところにいるの…。」
深優が悲しそうな表情で言う。

「--じゃあ会えないの?」
子供の言葉に深優はうなずいて続けた。

「--うん…
 だから、いつか会える日まで、お兄ちゃんの分まで、
 一生懸命、生きていってね」

深優は子供の頭を撫でて、
「---久雄も、きっと喜ぶから…」 とつぶやいた。

母親と子供が会釈して、
立ち去って行く。

深優は墓の前で手を合わせた。

「---久雄…」

深優は、久雄の墓を見つめて、優しく微笑んだ。

この数週間、深優は泣いてばかりだった。
けれど、もう決めた。

いつまでも泣いていたら、
きっと久雄はまた、バカにしたように笑い出すからー。

「---わたし、もう泣かない…」

深優がそう呟いて、墓に花を添える。
そして、手を合わせて、深優は立ち上がった。

小包を取り出し、
墓の前にそれを供えて、深優は微笑む。

「クリスマス、楽しみにしてたよね?
 はい、プレゼント」

深優は悲しそうに微笑んで、小さくつぶやいた。
「メリークリスマス」

とーーー。

プレゼントを置くと、
木々が風に優しく揺られたー。

「---久雄」

深優はそう呟いてほほ笑むと、
「また来るね」とほほ笑んで、その場を後にしたーーー

「------」

そこに、久雄の霊体が居た。
もう、憑依もできないー。

久雄は深優の肩に手を伸ばそうとした。

けれど、もう触れることもできなかった。

もう、この手は二度と届かないー。

「----」
悲しそうに久雄は微笑むと、
深優の後姿に向かって呟いた。

「がんばれよー」

と。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

これはホワイトなのでしょうか?
それともダークなのでしょうか?

どっちだかよく分からなくなりました^^

コメント

  1. ねぎすた より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    良いTSです 涙

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 良いTSです 涙

    ありがとうございます!
    綺麗な(?)展開も良いモノですよね!