<憑依>歪女③~しあわせ~(完)

幸せだった日常生活が、
引っ越してきた女性・暗菜によって壊されていく。

一人暮らしの女子大生が、
幸せだった4人家族が壊された。

そして、残るは…。

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「やめて!又彦!やめて!」
押し倒された智恵は必死に叫んだ。

夫の又彦の目は正気を失っている。

飢えた、獣の目だ。

又彦は優しく、どちらかというと、奥手で
こんなことをする男ではない。

「---くへへっ!
 そそるぜ…!おら!服を脱げよ!」

又彦が智恵の上着を脱がせにかかる。

「--目を覚まして!ねぇ!又彦!」
智恵の叫びも、又彦には届かない。

「---おらぁ!股をひらけぇ!
 俺に股をひらいてみせろぉ!」

スカートに手をかける又彦。

たまらず、智恵は又彦を押し飛ばした。

「がぁっ!」
又彦がタンスに頭をぶつけてその場に倒れる。

「--テメェ・・・」
又彦が、苦しそうに智恵を睨む。

一体、みんな、どうしてしまったのか。
一体、何が起きているのか。

智恵には、もう訳がわからなかった。

上から不気味な笑みを浮かべて、
恵菜が父親と殺し合うのを見ていた、
暗菜。

そう、暗菜がここに引っ越してきてから異変が起きた。

原因は彼女にある。

そう思った智恵は家から飛び出した。

「---おい!待てコラァ!」
又彦が背後で叫んだがそれを無視した。

暗菜の家の玄関は開いていた。

「---出てきなさいよ!」
智恵が涙ぐんだ目で叫ぶ。

暗菜が何かしたんだー。
そうに違いないー。

きっと、暗菜がーーー。

「---」
電気がついている部屋が一つだけあった。

そこに、暗菜が居る。

「ーーー三戸さん!みんなに何をしたの!」
部屋をノックして、智恵が叫ぶ。

だが、部屋の中から返事はない。

「---」
智恵は、少しためらってから、その扉を
開いた。

「--あら こんにちは」
暗菜が優しく微笑んだ。

女子大生、という割には、
幼すぎる風貌。
最初は高校生、いや、中学生ぐらいに思っていた。

その、不釣り合いさが、不気味さを引き立てている。

「---みんなに、何をしたの!」
智恵が叫ぶ。

「---ふふっ…何をしたと思う?」
暗菜が笑う。

ーーこの態度は”自分がやった”と認めているようなものだ。

「---ふざけないで!又彦を元に戻して!
 あなたが操っているんでしょ?みんなを!」

智恵が、涙を流しながら暗菜に詰め寄る。

「---洗脳?催眠術?何をしたかしらないけど、
 早く又彦を、みんなを元に戻してよ!」

智恵は叫びながら思うー。

もう、”手遅れ”な人もいる。

鷲野家の父親、武一郎は死んだ。
長女の恵菜は殺人を犯してしまった。

もう、あの二人はーー。

けれど…。

「---ーーーずるい」
暗菜がつぶやいた。

「え?」
智恵がその言葉に首をかしげる。

「ずるい!ずるいずるいずるいずるい!
 みんなばっかり幸せで!!!

 どいつもこいつも、わたしを蔑みやがって!」

暗菜が保証を現して叫んだ。

「---み、、、三戸さん」
智恵が恐怖の感情まじりの声を出す。

「わたしね…
 親から虐待されてたの。
 親は”男の子”が欲しかったんだって。」

暗菜が言う。

そして、そのまま暗菜は余裕そうな表情で
智恵を見つめて続けた。

「学校ではいじめられたわ。
 わたしについたあだ名、知ってる?

 …ふふ、歪女。
 
 わたし、不細工で怪物みたいなカオしてたから、
 いじめられた。みんなから。
 先生も助けてくれなかった。

 親も、親戚も!誰も助けてくれなかった!」

暗菜が感情を露わにして叫んだ。

「---でもねぇ…中学生のとき、
 ”男の人”が、憑依薬って薬をくれたの…

 ふふふふ、わたしはその時、決めたの…!
 幸せそうなやつらの人生をゆがめてやるって!」

暗菜が、憑依薬を手にとり、智恵に見せた。

「憑依・・・薬・・・?」
智恵が唖然とした表情で、それを見つめる。

「そう。この薬でね…
 憑依して、憑依した体の思考をわたしが塗り替えてたの。

 詩織里とかいう女子大生には
 ”わたしは宝石 みんなに体を見せなきゃ”と刷り込んだ。
 
 鷲野家の人達も、そうやって、脳の思考を塗りつぶしたの。

 憑依している間はね、その人の脳を使うの。
 だから、脳の考えを変えてしまうこともできるってわけ」

暗菜の説明に、智恵は声を荒げた。

「ふざけないで!!!
 又彦を元に戻して!」

智恵が叫ぶと、暗菜は首を振った。

「無理よ。
 一度”変わった”考えはもう戻らない。

 あなたの夫は、今は”メスに飢える獣”よー
 くふふふっ♡」

暗菜がバカにしたような目で智恵を見た。

「----っらぁ!追いついたぜ!
 おら!メスは雌らしく、俺に体をささげろや!」

又彦が乱れたスーツ姿で智恵を押し倒す。

「やめて!お願い!目を覚まして!」
恐怖とくやしさ、悲しさで、目から涙があふれ出てくる智恵。

「--うらぁ!胸を見せろ!
 股をひらいて、俺に突っ込ませろぉ!」

又彦がケラケラ笑いながら
智恵の服を破いていく。

「---又彦ーーーー」
泣きながら、智恵は抵抗する気力を失っていく。
大好きな又彦がこんなーーー。

バキッ…

にぶい音がした。

又彦の動きが止まる。

「----!?」
智恵が目を開くと、そこには
鷲野家の次女、早紀の姿があった。

「……だ、、、大丈夫ですか…」
その目は涙でぬれている。

智恵に手を差し伸べて、智恵を助け出す早紀。

母は、家出させられ、父は娘たちに暴力をふるい、
姉は父を殺してしまった。

けれどー次女の早紀は、まだ無事だった。

智恵を暗菜の部屋から引っ張り出して、
部屋の前の廊下に出ると、
早紀は暗菜の方を見た。

「----い、、今の聞いたから!!!
 警察に言ってやる!」

早紀がその場でスマホを出して叫んだ。

女子中学生である早紀にとっては
あまりにも残酷な真実。

「---警察に言って、どうするの?」
暗菜が笑う。

「----え…」
早紀の手が止まる。

「--みんな、自分の意思でやってることよ。
 憑依薬のことなんか、警察が信じると思う?」
暗菜の言葉に、早紀が唖然とした表情で暗菜を見つめる。

「----で、、、でも、、
 警察は助けてくれる!」

早紀はそう言うと、110と入力して
警察に電話をかけた。

その様子を智恵は見守る。

「---もしもし、、、あ、、、あの!」
早紀がそこまで言った直後、早紀の体が
一瞬痙攣した。

「---!?」
智恵が部屋の奥を見ると、
暗菜が倒れていた。

「---まさか!」
智恵が早紀の方を見ると、
早紀は表情をゆがめていた。

「---ふふっ…あ、何でもないですぅ~~~~!
 悪戯電話ですぅ~~~~~!」

バカにしたような声を出して
警察への電話を切ると、早紀は
スマホを床にたたきつけて壊した。

「ふふっ…
 わたしは、、、
 いらない子…

 わたしはいらない子…

 この世に必要ない子…」

早紀が笑いながら呟いている。
早紀の脳を暗菜が塗り替えている。

「やめなさい!!!」
智恵が叫ぶ。

けれどー
早紀は呟き続けた。

そしてーーー

バタッと早紀が倒れて暗菜が意識を取り戻す。

「---」
暗菜が笑いながら、包丁を机から出して床に放り投げた。

「---うっ…」
早紀が目を覚ます。

「--だ、、大丈夫・・・?」
智恵が心配そうに、早紀を呼びかける。

だがーー
早紀は目を覚ますと、怯えた表情で言った。

「あぁ…何で、何でわたし、生きてるんだろう…
 ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、生きてちゃいけないのに…
 ごめんなさい…」

早紀が憔悴した様子で包丁を拾う。

「待って!やめて!早紀ちゃん!」
智恵が叫ぶ。

けれどー
早紀は「ごめんなさい…」と謝り続けて、
そのまま包丁を自分に突き刺した…。

力無く倒れる早紀。

「---今度は、、あんたの番よ」
唖然とする智恵に対して、暗菜がそう言うと、
暗菜は倒れた。

そしてーー

「いやっ…やm・・・」

そこで、、、
智恵の意識は途切れた…。

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「うっ…」
智恵は目を覚ました。

いつもの通りの家。

でも、夫の又彦は居ない。

ううん、もうそんなことはどうでもいい。

智恵は、自分の持っている服の中で
一番色っぽい服を身に着けた。

そしてー。
智恵は外に出かける。

色っぽく腰を振りながら、歩き・・・
通行人の男子高校生に突然キスをした。

驚く男子高校生。

「んもぅ…♡ おとこの体…
 わたし…飢えちゃった…♡

 もう、おとこの体のことしか考えられない♡
 お願い♡
 わたしを…楽しませて…!」

”男に対する欲情”を
刻みつけられた智恵は、
もう男のことしか考えられなくなっていた。

道路の真ん中で高校生を押し倒し、
智恵はそのまま喘ぎ始めたーーー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---ぜんぶ、、こわしてやった…
 ずるい、、、ずるい、、、」
暗菜が、自分の部屋で一人笑う。

「---またお引越ししよっと
 みんなの幸せ…もっと、もっと、歪ませてやる」

暗菜は不気味にそう呟くと、
1週間後、また別の地域へと引っ越ししていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

暗菜が居た家の前に、
スーツ姿の男が立っている。

「---また”歪めたのか”
 素晴らしい効き目だ」

彼はーー
”憑依薬”の研究をしている男だ。

だが、まだ実用段階には至らなかった。
憑依薬には重要な副作用がある。

長年使い続けることによって、
体に異変を起こすというデータがあるのだ。

だから、彼は、数年前、
女子中学生に、憑依薬を手渡した。

確か”暗菜”とかいう名前だ。

彼女をモルモットに、憑依薬の人体実験結果が欲しかった。
憑依薬を使っている人間への影響、
憑依された人間への影響、
長期使い続けることによる副作用。

いろいろ、試したかった。

暗菜はーーーー
”優しく、明るい、クラスの人気者だった。

家族に愛される、優しい子だった。

”美少女”と呼ぶにふさわしい子だった。

けれどーー
”憑依薬”を使わせるために、
男は暗菜に憑依薬を渡した日の夜、
暗菜に自ら憑依した。

そしてー
暗菜の思考を塗り替えた。

「自分は虐待されている」
「自分はいじめられっ子」
「まわりはみんな自分を見下している」
「まわりばっかりずるい」
「幸せは全部憑依薬を使って歪めてやる」

とーー。

男に思考を塗り替えられた暗菜は、
豹変した。

それ以降、孤立して、
憑依薬を乱用しては、
周囲の幸せをぶち壊す少女になってしまった。

「---副作用は…
 成長の停止か…」

男は呟いた。
暗菜の体は中学時代から全く成長していない。

あれは、憑依薬の副作用だろう。

「----これからも頑張ってくれよ、
 歪女・・・」

男はそう呟くと、
憑依薬のさらなるデータ収集のために、
自ら、思考を塗り替えて作り出した怪物・暗菜の観察を再開した・・・。

おわり

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コメント

自分で書いておいてなんですが、
又彦、どこに行っちゃったんでしょうね?笑

ご覧いただきありがとうございました。

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憑依<歪女>

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