<憑依>歪女②~コワス~

幸せそうな人々が憎い。

彼女は、いつも、人の幸せを憎んでいた。
そんな、人々の幸せを憎む女が、憑依薬を手にしてしまったー。

「人の幸せを奪うか」「人の幸せを壊すか」

彼女が選んだ道は…。

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暗菜は、
憑依薬を手に入れた中学時代…

すぐに家族に憑依して、
両親の思考を塗り替えてやった。

今では、両親は暗菜のためだけにお金を稼いで、
暗菜に尽くしている。

「ーーーー」
カーテンを少しだけ開いて、外を見つめる。

突然、家の前で服を脱ぎ捨てて騒いでいた
一人暮らしのお嬢様女子大生、詩織里が警察に
連行されていく。

「---ふふふ、ばいば~い!」
暗菜は小声でそう呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「離して!けがわらしい!
 わたしの肌は宝石なのよ!
 離しなさいよ!」

詩織里が警察官に向かって叫んでいる。

「---ど、、、どうしちゃったの…」
智恵が不気味なものを見る目で、詩織里を見る。

おしゃれ好きで、少しお嬢様気取りなところは
あったけど良い子だった。

その詩織里が、急にどうして…?

「---わたしは宝石なの!!!
 離して!汚い!触るな!」

警察官にビンタを喰らわせてもがく詩織里。

彼女は昨夜、
暗菜に憑依され、
暗菜は1時間かけて、詩織里の体を使い、呟き続けた。

「わたしは宝石ーーー」

だと。

自分は誰よりも美して宝石のような存在。
そして、自分はけがわらしい他人に、その美しさを
見せてあげなくてはならない、と。

「---わたしに嫉妬してるのね!
 こんなに綺麗なわたしに!

 ホラ、離しなさいよ!
 なによ!離せよ!」

詩織里が罵倒する。
髪の毛は乱れきって、表情も、
歪みきっている。

結局、詩織里はそのまま連行されてしまった。

「---恵菜ちゃん…?」
智恵は、唖然としながらも、鷲野家の長女、
恵菜に声をかけた。

「--何があったの?」

母親の芽衣子が突然、家から出て行ってしまった。
後を追うようにして、出てきた恵菜が、そのまま玄関先で
泣きじゃくっている。

「-ーーお母さんが…もうこんな家には
 いられないって…」

普段、しっかりものの、メガネ女子の恵菜が、
取り乱しているのを見て、
智恵はただごとじゃないと思った。

だがーー、
詩織里に、芽衣子、
今まで穏やかだったこの住宅街に急にこんなことが
立て続けに起こるなんて…。

「---お姉ちゃん…」
家の中からショートヘアーの中学3年生で、
鷲野家の次女、早紀(さき)が出てきた。

心配そうに恵菜の方に寄り添う早紀。

父親の武一郎(たけいちろう)が唖然とした
表情で玄関先に立っていた。

「---ど、、どうなってるの」
智恵は近所で立て続けに、
しかも同時期に起きたトラブルを前に混乱していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。

夫の又彦と一緒に、
自分で作った手料理を楽しみながら
朝の事について話していた。

朝、又彦は既に出社していたから、
あの時は家にはいなかった。

「そっか…あの女子大生の子が…
 そんな子には見えなかったけど」

又彦がサラダを口にしながら言う。

智恵は、グラスに入ったお茶を飲みながら
険しい表情で続けた。

「---それに、鷲野さんのところの奥さんも
 出てっちゃって…」

智恵が言うと、
又彦は驚いて声をあげた。

「なんだって?あの奥さんが…。
 理想の家族って感じだったじゃないか」

「そうなんだけど…」

怯えるような表情で、玄関の方を見る智恵。

「---二人も同時に、
 豹変するなんて…おかしいよ」

智恵の言葉に
又彦は智恵を安心させようと立ち上がった。

「---大丈夫。偶然だよ。
 それにーー」

「それに?」

智恵が、又彦の方を見て聞き返すと、
又彦は優しく微笑んだ。

「何かあっても、俺が守ってやる」

その言葉に、智恵は安心したかのように
笑みを浮かべた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

鷲野家では、自室にいる父が、何かを
呟いていた。

「---妻が出て行ったのは、
 娘たちのせいだ」

「妻が出て行ったのは娘たちのせいだー」

「あんな子たち、産まれてこなければよかった」

「あいつらが憎い!」

「--憎い!」

鷲野家の父、武一郎が、暗菜に憑依されていた。
そしてーー
”脳の思考”をゆっくりと塗り替えていくーーー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

「おはようございます」

出勤するために智恵が外に出ると、
暗菜が居た。

どこか不思議な雰囲気の、幼く見える少女。

「---あ、おはようございます」
暗菜も、智恵に対して挨拶を返した。

「お仕事ですか?」
暗菜が訪ねて来た。

「うん。市役所の勤務なので…」
智恵がほほ笑む。

「へぇ~凄いですね!公務員ですか!
 将来安泰ですね!」

暗菜が満面の笑みで言う。

そして、二人は他愛のない話をして、
別れた。

出勤していく智恵の背中を見つめながら
暗菜は微笑んだ。

「将来安泰…
 いい御身分ね…
 
 コワシテヤル…」

暗菜がつぶやいた。

そしてーー

もの凄い音と共に、近くの住宅の2階の窓ガラスが割れた。

「---てめぇのせいで芽衣子が出ていっちまったじゃねぇか!
 あ?お前らなんか生まれてこなければよかったぜ!」

鷲野家の家だ。

鷲野家の父、武一郎が娘二人を罵倒している。

暗菜はそれを見上げながら笑った。

「---どう?幸せを壊された気分は?」 と…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やめて!おとうさん!やめて!」
恵菜が叫ぶ。

だが、父は聞く耳を持たない。

「---くそ餓鬼どもが!
 お前らなんか生まれてこなきゃよかったんだ!」

優しい父の豹変。

恵菜と早紀が、涙ぐんだ目で父を見ている。

「テメェらもう部屋から出て来るな!」
武一郎が叫ぶ。

怒りの形相で。

「---お、、お父さん、、やめてよ!」
妹の早紀が父の方に近づく。

だが、父は容赦なく早紀をグーで殴りつけた。

「---さ、、早紀…
 へ、、、部屋に行こう…」

姉の恵菜は、話が通じないと判断したこと、
そして身の危険を感じたことから、
とりあえず、部屋に行くことにした。

「出てきたら、ぶっ飛ばしてやるからな!」
武一郎が大声で叫んだ。

「お父さん…どうしちゃったんだろう…」
泣きじゃくる恵菜と早紀。

父はーー
リビングで酒をビンごと飲み干していた。

彼もまたー、
暗菜に思考をゆがめられてしまったのだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---ただいま」
智恵が帰宅すると、
先に夫の又彦が帰ってきていた。

「--あぁ、おかえり」
又彦は険しい表情だった。

「見たか?」
と又彦が言う。

「え?」
智恵が聞き返すと又彦は言った。

「--鷲野さん、暴れたらしいぞ」
又彦が帰ってきたとき、鷲野家の前の散乱しているガラスを
隣の家に越してきたばかりの暗菜が掃除していた。

何があったのかを尋ねると、
暗菜は事情を説明してくれた。

「そう…」
智恵が俯く。

「---やっぱ変だよ!
 みんな優しい人だったのに…」
智恵が言うと、
又彦も頷いた。

「……でも、、一体何が起こってるんだ?」

近所の住人の3人がおかしな行動をとった。
これは、どう考えてもおかしい。

又彦もそう思いはじめていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どうして私があんな目に遭わなきゃいけないの…?」

夜、鷲野家の長女、恵菜がつぶやいていた。

「お姉…ちゃん?」
同じ部屋にいる妹の早紀が不思議そうに恵菜を見る。

恵菜は、満面の笑みで不気味に呟いていた。

「わたしはーーもうあいつの娘じゃない」

「あんなクソ親父…壊してやる」

「壊してやる」「壊してやる」「壊してやる」

悪魔のように微笑みながら囁く恵菜。
暗菜に憑依されて、恵菜は、呪いの言葉をささやいていた。
自分の脳に、強く刻み付けるように。

「-----」
早紀は怖くなってそのまま寝たふりを続けた。

そして翌日。

智恵が、出勤するために、玄関から出ると、
そこには包丁を持った恵那とーー
怒鳴り声をあげる父親の武一郎の姿があった。

「テメェ…育ててやった恩を忘れたのか!」
武一郎が叫ぶ。

「はぁ?あんたなんか父親と思ったこと一度もないから!」
普段、おしとやかな恵菜が、乱暴な口調で言う。
その手には刃物。

「--お姉ちゃん!やめてよ!どうしちゃったの!」
早紀が家から飛び出してくる。

姉の手をつかむ早紀。
だが、早紀は「邪魔するな!どけ!」と叫んで早紀を
突き飛ばした。

「---早紀ちゃん!」
たまらず、智恵が突き飛ばされた早紀の方に駆け寄る。

「---なんだなんだ?」
家の中に居た智恵の夫、又彦が不思議そうに外を見ようとする。

そのときだったーー。

「うっーーーー」

体の自由が突然奪われて、又彦の意識は闇に消えた。

「・・・・・・俺は…女の体が欲しい…」
暗菜に憑依された又彦は、そう呟き始めた。
邪悪な笑みを浮かべながら…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---あんたなんか死んじゃえ!」
恵菜が刃物を持って父に襲い掛かる。

父の武一郎が、恵菜の頬にストレートを喰らわせる。

「ちょ…も、、もうやめてください!
 こんなことして何になるんですか!」

智恵がたまらず泣き叫ぶ。

何で、ご近所の家族がコロシアイをしているのか。

「---うっせぇ!よその女は黙ってろ!」
武一郎が言う。

「そうよ!おばさん!あんたは黙ってて!」
恵菜が乱暴な口調で言う。

二人は、取っ組み合いを始めた。

そして…
鈍いうめき声が聞こえた。

「---がっ…」
武一郎の腹部に刃物が刺さっている。

「うふふふふふ♡
 しあわせなんか、壊れちゃえ♡」

恵菜が、とても正気とは思えない表情で、
武一郎の方を見る。

手には血がついているのに、
動揺する様子すら見えない。

「きさま…」
武一郎がうめく。

だが、恵菜は刃物を抜くと、もう一度、武一郎に突き刺した。

「ぎゃああああああっ!」
悲鳴をあげる武一郎。

「あはははははははっ♡
 あはははははははははははっ♡」

そのまま何度も何度も、恵菜は父親に
刃物を突き立てた。

可愛らしいメガネが返り血で血まみれになっている。

恵菜の顔も。。

父は、動かなくなった。

そして、恵菜は満面の笑みで、
自分の手についた血を自らの顔にこすりつけた。

「うふふふふふふふふふっ♡」

笑い続ける恵菜。

女子高生の制服が血濡れている。

…すぐに警察官が騒ぎを聞きつけて駆け付け、
恵菜は笑ったまま連行されていった。

「----大丈夫・・・大丈夫だから」
智恵が泣きじゃくる鷲野家の次女、早紀を慰める。

「----!」
視線を感じて、背後の家の2階を見つめると、
引っ越してきたばかりの暗菜が笑いながらカーテンを
少しめくり、こちらを見ていた。

「---まさか!」
智恵が暗菜の表情を見て、異変を感じ取る。

暗菜もおかしくなったのか…?
一瞬そう思った。
けれども違う気がした。

「---」
暗菜の家の方に向かおうとする知恵。

しかしーー

ガシッ…
と腕をつかまれた。

夫のーー又彦に。

又彦はそのまま智恵にキスをすると、
自分たちの家に智恵を引きずり込んだ。

押し倒される智恵。

「ちょ、、、や、、やめて!又彦!」

だがーー

「くくくくく…ヤラせろよ、智恵。
 もう我慢できねぇ」

又彦はそう言うと、智恵の服を強引に脱がせ始めた。

「---壊れちゃえ…うふふふふふふふ」
暗菜は自宅の2階で、不気味にそう呟いた…

③へ続く

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コメント

”歪女”こと暗菜の思い通りになってしまうのでしょうか。
それとも…。

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