祖父は言った。
「絶対にかぶってはいけない」 と。
息を引き取る最後の直前に、
一人息子に対してそう告げた祖父。
息子はその言葉を守っていた。
だがー、大学生になり、彼女を家に呼んだその日、
悲劇は起きた…。
-------------------------------
大学生の丹本 芳明(にもと よしあき)は、
自宅に彼女の直美を招待していた、。
趣味はバイクいじり。
祖父から受け継いだ家には広めの庭と駐車場スペースがある。
そこに、立派なバイクが止まっていた。
「---ふふん…」
今日もバイクを眺めてドヤ顔をする芳明。
彼は心底バイクが好きだった。
”バイクは彼女”
そう豪語していた彼にも、彼女が出来た。
月野 直美(つきの なおみ)
子供っぽさが残る可愛らしい容姿の彼女。
けれど、性格は対照的に落ち着いており、
大人の女性、という感じの女性だ。
その直美が、今日、家に遊びに来ることになっていた。
実家暮らしだが、ちょうど、母親と父親は、
親戚の家に行っていて、今日は帰らないそうだ。
「---ふぅ。浮気してごめんな」
バイクを撫でながら一人、呟く芳明。
「--でもさ、俺、一番はお前だから。
な、だから…」
バイクが一番。
一人で笑みを浮かべてそう言う、芳明。
その時だった。
「--私が2番なのね?ふふっ」
背後から、彼女の直美の声がした。
「ゲーッ!」
芳明は振り返って、真っ青な表情で
直美に手を振った。
「---いや、そのこれは…
ホラ、俺、バイクが…」
芳明が冷や汗をかく。
これが修羅場か。
芳明はそう思った。
なんで、バイクと彼女の間で修羅場になっているのか。
そもそもこのバイクはメスなのか?
いや、そんな概念は…
「ーーー」
頬を膨らませてすねた表情を見せる直美。
「あ~~~ごめんごめん!
嘘だよ!直美が一番だよ!」
芳明が慌てて言うと、
「ふふっ、冗談よ!
バイクを見つめる芳明くんの顔、好きだから、
今のままでいいよ!」
と微笑んで言った。
「おじゃましま~す」
直美が、誰も居ない家の中に入っていく。
「--彼女なんて連れて来たの初めてだよ」
芳明が言うと、
「あら?そうなの?嬉しい!」
と、直美が喜ぶ。
とりあえず和室に案内する。
古い家だから、和室も備えられている。
ここは元々、亡き祖父が使っていた部屋だ。
部屋の隅には、黄色いヘルメットが置かれている。
「---」
芳明はそれを見つめる。
あのヘルメットは…。
芳明は祖父が死んだ時のことを思い出す。
”芳明…
あのヘルメットは絶対にかぶるな…
そして、、、ゼッタイに…捨てようともするな……
あれは……わしが、犯してしまった罪から
生まれた悪魔のヘルメットだ…”
祖父は、最後の瞬間にそう呟いた。
最初、迷信だよ!と笑いながら、
母の妹が、そのヘルメットを捨てようとした。
だがーーー
妹は突然、心筋梗塞を起こして死んでしまったのだ。
それ以降、一族はみな、恐怖を抱いて
そのヘルメットをそのまま放置している。
「-----」
芳明は、ふとそんな昔話を思い出して、
苦笑いした。
「あ、何か飲むか?」
芳明が言うと、
「ーーう~ん、じゃあ、芳明くんチョイスでお願い!」
と直美が笑った。
「俺、チョイス?よ~し!凄い飲み物持ってきてやるぞ~!」
芳明はそう言いながら台所に向かう。
この日のために、エナジードリンクをブレンドした
特製のスペシャルドリンクを作っておいたのだ。
「----う~ん、和って感じ!」
直美が一人、和室で呟く。
「あら?こんなところにヘルメット…
ずいぶんホコリ被ってるのね…」
黄色いヘルメットを見つけて、直美がそれを手にする。
「---芳明くんのヘルメットかな?
…そうだ!掃除しておいてあげよっと!」
直美が微笑みながら、ヘルメットの掃除をする。
そして、一通り掃除を終えると、
直美がほほ笑んだ。
「---ちゃんと見えるようになったかな~」
そう呟きながら、
ヘルメットを自分の頭にかぶせるーーー
「------!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くくく…完成だぜ!
芳明スペシャルドリンク!」
芳明は一口それを飲んでみる。
「ぐっは!クソまず!」
芳明は、悪戯好きで、よく彼女の直美に
悪戯をしていた。
大人な直美は、そんな芳明の一面も好きだった。
”芳明くんチョイス”とは
そういう悪戯を期待しての言葉だった。
芳明が和室に戻ると、
直美の姿が消えていた。
「直美ーーー?」
芳明がふと、部屋の隅に目をやる。
”あのヘルメット”がないーーー!
「--ーまさか!」
芳明が慌てて外に出ると、
芳明のバイクにまたがる直美の姿があった。
「---直美!」
芳明が叫ぶと、
直美はヘルメットをかぶったまま芳明の方を見た。
「---直美!!!
お前・・・い、今すぐそのヘルメットをとれ!
そのヘルメットは…!」
芳明は自分の愚かさを呪った。
”言うべきだった” と。
まさか、直美がヘルメットに興味を示すとは思わなかった。
「---この体は貰った」
直美がそう言った。
ヘルメットの下からはっきりした声で。
「---な、なんだって!?」
芳明が叫ぶ。
直美は意にも介さず、
バイクのエンジンを吹かせ、
そのまま急発進してしまった。
「な、、、直美!くそっ!」
芳明は、もう1台止めてあった、サブのバイク…
大学の先輩がいらないと言っていたから安く買取したバイクに
またがり、直美のあとを追う。
「くそっ…あのヘルメットはやばいんだ!直美!」
彼女の身を案じながら、後を追う。
前を走る直美が
蛇行運転をしながら、
スピードをどんどんあげていく。
今にも転倒しそうなほどにバイクを傾けて、
気分よく走っている。
「---くそっ!直美!それと…俺のバイク!」
直美のこともー、
バイクのことも心配だった。
赤信号。
直美のバイクが止まる。
芳明は「よし、追いつく!ヘルメットを引きはがしてやる!」と
笑みを浮かべる。
しかし…
直美がこちらを向いた。
そして、指を一本立てて、挑発すると、
そのまま、赤信号を無視して爆走し始めた。
「おい!!まじかよ!」
赤信号無視に毒づきながらも、
後を追う芳明・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---くくくっ この風だ!
気持ちいい!!!最高だ!」
直美がいつもの穏やかな雰囲気ではなく、
興奮を隠せない、という様子でヘルメット越しに言う。
「--っかし、女の体とはな…
髪の感覚とか、足の感じとか、
面倒くせぇ…
っ~か寒みぃ!」
スカート姿だった直美は
そのままバイクに乗り込んでいた。
タイツは穿いているが、
どうしてもバイクを運転するには適していない。
「くっそ…
不便な体だぜ!」
そう言いながら、タイツの方を見つめる。
「--」
バックミラーで彼氏の芳明を確認する直美。
直美の意識は、今やヘルメットの中に宿っていた
怨霊に完全に乗っ取られていた。
そう、憑依されていたー。
このヘルメットは…
芳明の祖父が若いころ、地元のワルとつるんでいたころの
悪友のものだ。
だがーー
祖父と悪友は喧嘩になり、
バイクで走りながら言いあいになった。
併走する二人。
そしてーーその最中に喧嘩に気をとられていた悪友は
車にはねられて・・・死亡した・・・。
祖父は自責の念からそのヘルメットを拾い、
家に持ち帰った…
そう、
ヘルメットには祖父の悪友の怨霊が潜んでいた。
「---ひゅう!」
バイクで走りながら嬉しそうな声をあげる直美。
彼女の意識は心の奥底に幽閉されている。
「---くそっ!」
芳明は懸命にバイクで追跡する。
赤信号ー。
直美はそれを無視する。
「---っぶねぇな!ババア!」
横断歩道を渡っていた高齢者を罵りながら
爆走する直美。
「---…何なんだよあのヘルメット・・・
直美はどうしちゃったんだよ!」
芳明はさらに直美を追跡する
直美はヘルメットの下で、
この上ない、笑みを浮かべていた。
「くはははははははっ!
これ、これだよ!!!
このスピード感!
あぁ…たまらない…」
直美が、色っぽい声を出す。
別に、憑依している怨霊は色っぽい声を
出しているつもりはない。
だがー、悦びの感情を爆発させると、
どうしても声が色っぽくなってしまう。
「あぁ…♡
もっと、もっと走りたい!」
直美が、突然交差点でUターンをする。
転倒するかしないかギリギリのテクニックを
見せる直美。
直美は免許を持っていない。
だが、怨霊につき動かされて、
その体は、快楽に満ちていた。
「んはっ…」
女の体で爆走している…
そう思った怨霊は興奮してしまう。
直美の体も怨霊の意思に従い、
興奮状態になっていた。
下着が少しずつ濡れ始める。
「----いくぜ!」
直美が可愛らしい声で言うと、
さらにアクセスを踏み、スピードを上げる。
そして、再び別の交差点で、Uターンをする。
他の車がクラクションを鳴らす。
「---くくくっ!ヒャッハー―!!!!」
大声で叫びながら直美はさらに爆走した。
「---くそっ!」
芳明もUターンしようとした…
その時だった。
タイヤが…滑った…
芳明は目を見開いた。
「------!!!」
自分が、どのような状況に陥ったか
理解するのに時間がかかった。
そしてーー
理解したときにはーーー
交差点の中心部で、芳明は
大事故を起こして・・・
他の車に跳ね飛ばされ、そのまま死亡した。
即死だった。
「----くくっ!ばーか!」
直美がバックミラーでその惨状を見て、笑う。
「このスピード感!たまんねぇぜ!
ふふふふふふふふっ!
あはははははははははは~~~~♡」
直美の高らかな笑い声が響き渡った…。
ヘルメットに支配された彼女…
死のヘルメットが、
仲良し大学生カップルの未来を
奪ってしまった…
もう、戻れない。
二人の時間は、
もう、戻らない。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ヘルメットをとると、体から抜けてしまうようですが、
どうやって食事を摂るんでしょうね(笑)
このあとの内容も決まってますが、
それはまた機会があれば…!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
このヘルメットを被って例の車に乗ったらどうなるんでしょうか…笑
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> このヘルメットを被って例の車に乗ったらどうなるんでしょうか…笑
確かにそうですね(笑)
今度、〇〇万アクセス記念に書いてみます!