彼女に憑依して好き勝手していた彼氏。
しかし、彼女の体からはじき出されてしまう。
このままでは別れを告げられるかもしれない。
ーと、彼氏は焦る。
だが、事態はそんなに甘いものでは無かった。
その恐るべき真実とは…?
------------------------------—-
失われていく空の色ー
日が、暮れていく…。
「--出て行って!早く!早く!出て行ってよ!」
雪乃が叫ぶ。
「--お、おい、、悪かった!悪かったから!」
吉輝は憑依したことをひたすら詫びる。
「---ー」
雪乃がその様子を見ながら、悲しそうな表情を浮かべる。
その表情は”何かを言いたそうな表情”にも見えた。
「--……どうして…」
吉輝が口を開く。
「どうして、俺、雪乃に憑依なんかしたか…自分でも分からない…
どうして…」
吉輝は、憑依薬の副作用で、前後の記憶があいまいだった。
何故、雪乃に憑依しようとなんて思ってしまったのだろうか。
どうしてー?
確かにそういうジャンルの話は好きだった。
だが、雪乃に憑依しようなどと、一度も思ったことはない。
「------」
雪乃が部屋の扉の方を見る。
「--そこに、扉があるでしょ?」
雪乃が指をさす。
吉輝が振り返り、扉を見る。
「---ここから出てけってのか…?
…嫌だ!俺は…お前と離れたくない!」
そう言うと、
雪乃が少しだけ”安心したような笑み”を浮かべた。
「---お願い。出て行って」
真剣な表情だった。
「---雪乃」
吉輝は思う。
”どうして、俺をこんなにも追い出そうとするのか” と。
「---頼む雪乃!悪かった!本当に…!
でも信じてくれ、俺!雪乃に憑依する気なんてなかった!
気づいたら雪乃に憑依してたんだ!
本当だ!許してくれ!許してくれ!」
涙を流しながら吉輝は謝る。
こんなに可愛くて―
そして、何よりも優しい彼女―
ずっと一緒に居たいと願った彼女と別れたくない。
その一心で…。
部屋の隅でハムスターが音を立てて、
カゴの中で走っている。
雪乃は、ハムスターのそばによると
”懐かしそうな”表情でハムスターを撫でた。
外はさらに暗くなるー。
「--わたしね…。
別に憑依のことは怒ってないの」
雪乃が穏やかな表情で振り返る。
そして”扉”の方を見る。
「--------」
雪乃がとても悲しそうな表情を浮かべると、
口を開いた。
「--でもね…
アンタとのデートは”最悪”だった。
ほんっとうに最悪」
雪乃が嫌悪感を露わにして言う。
心優しい雪乃に、そんなことを言われるとは
思わなかった。
「---雪乃…」
吉輝は記憶を探る。
合流して、映画を観て、二人で楽しく食事して、
そして夕方…。
あのあと、何で、憑依薬を飲んで、憑依しようなんて
思ってしまったのか。
副作用で思い出せない。
「---もうあんたと一緒に居たくない!
お願いだからこっちに来ないで!
早く出て行って!」
雪乃が扉の方を指さす。
「・・・・・雪乃」
どうして…
もう、終わりなのだろうか。
あんなに楽しそうにデートしていたのに。
「---お願い。ここから出て行って…」
雪乃が目から涙を流したー。
「------」
吉輝が部屋から出て行こうとしたその時だったーーー。
突然、吉輝の中に「欲望」が満ち溢れた。
さっきの女の快感や下心が滝のようにあふれ出す。
吉輝が手を止める。
そしてーー
「---くふふ…ゆ、雪乃…!
やっぱりお前の体が欲しい!」
狂ったように笑みを浮かべて雪乃の体に
突進する吉輝。
吉輝の体が雪乃の中に吸い込まれる
「いやっ…だ、、、だめぇ…!」
意識が混濁していく
「吉輝!!やめて…やめて!!!
わたしから…出て行って……
吸い寄せられないで・・・・!!」
雪乃がそう叫ぶのも、無意味に、
そのままその場に蹲る。
「くふふふ…♡
あはははは♡
あはっ♡ あははははははははぁ~♡」
再び吉輝が雪乃の体を乗っ取った。
さっきまでとは違い、
さらに狂った様子で両胸を力強く揉み始めた。
「うふっ♡あはっ♡
たまんない♡たまんねぇ♡ あはは♡」
大股を開きながら、胸を揉みまくって
体を震わせながら喘ぎまくる雪乃。
「あぁん♡ あっ♡ もういい♡
このまま♡ このまま一つになりたい♡
あははっ、、、なっちゃえ♡」
理性を失い、
快感と欲望に身をゆだね、
雪乃の声で喘ぐ。
体から愛液を垂れ流しにしながら
快感に身を震わせる。
吉輝の理性が全てはじけ飛びそうになったーーー。
だがーーーー
「15:35」
時計が目に入った。
「-------------!?」
欲望に支配されかけた吉輝を
瞬時に現実に引き戻した。
「---15時35分!?」
外を見る。
外は既に夜。
日が沈んで……
「-----!?」
日は、沈んでいない・・・
”色”が抜け落ちてきているーーー?
「出てってぇ!!!!!!!」
雪乃の叫び声が聞こえたーー。
そして、今一度吉輝は雪乃の体からはじき出された。
「はぁっ…はぁっ…」
雪乃が荒い息で吉輝の方を見る。
「いいから、早く出てって!」
雪乃が叫ぶ。
吉輝は慌てて釈明する。
「ご、ごめん…」
吉輝は思う。
何で急に憑依したくなったのか… と。
「---」
そしてーー
思い出した。
最初に憑依した瞬間も
「15:35」では無かったかー? と。
「出てって!変態野郎!」
雪乃が激しい声で罵る。
「あんたの顔なんて見たくもない!
デートも最低!
あんたと付き合うぐらいなら、一生彼氏なしの方がマシよ!」
次々と罵倒する雪乃。
「--なんだとこの!」
ついに吉輝も頭に来た。
「---あっ、、」
雪乃がチラっと別の方向を見て、一瞬焦りの表情を
浮かべた。
「--出て行きなさい!この屑男!」
雪乃がそう叫んで、机の上のペンを投げてきた
「--わ、分かったよ!お前のことなんて
もう知らない!」
吉輝は決意した。
もう別れてやるーと。
どうしてここまで罵倒されるのか。
憑依は確かにしたけれどー。
こちらの言い分を少しぐらいー
吉輝は扉を開いた。
そしてーー力強く扉を閉めようとしたー。
その時だった。
「----大好き…」
雪乃の声が背後から聞こえた。
「---!?」
吉輝が振り返る。
しかし、扉はもう閉まっていた。
「---な、、何だって?
雪乃!開けてくれ!もう一度話をしたい!」
吉輝が叫ぶ。
「いいから早く出て行きなさい!」
部屋の中から雪乃が叫ぶ。
「---!?」
色が…???
家の中の色が失われていく…??
「何なんだこれは…!」
吉輝が慌てて玄関に向かう。
そしてーーー
吉輝は玄関から飛び出したーーーー
玄関の音を聞き、
雪乃は一人、微笑んだ。
「---ごめんね…酷いこと言って」
雪乃が目から涙を流す。
雪乃が”扉”の方を見るー
そこにはーーー
吉輝には見えていたはずの”扉”が無かった。
「わたしはーーー
もう”戻れない”ってことだよねー」
色の失われていく部屋の中でほほ笑む雪乃。
「なら、せめて、吉輝くんだけでもーーー」
ハムスターの方を見つめると、
雪乃は微笑んだ。
「---小学生のとき以来だね…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピッ…
吉輝が目を開くー。
体が痛い…。
「ここは…」
吉輝がつぶやくと、
白衣を来た男性と、
大学の友人の姿があったー。
「----分かりますか?望月さん。
病院です!」
白衣の男性が叫ぶ。
「---病院!」
その瞬間、吉輝の記憶がよみがえったーーー
15:32---
「今日は楽しかったね~」
雪乃がほほ笑む。
「あぁ、俺も!
でも、ごめんな。初デートだからちょっと
勝手が分からなくて!」
吉輝が照れながら言うと、
雪乃は微笑んだ。
「だいじょうぶ!吉輝くんなりに必死にわたしを
楽しませようとしてくれたんだもん!
嬉しいよ!」
雪乃が優しく微笑んだ。
「---これからも、、よろしくね!吉輝くん」
雪乃が微笑むながら手を差し出した。
「---あぁ、俺こそ!」
二人の愛はーーー
永遠に続くはずだったーーーー。
「-------!!!」
雪乃が目を見開く。
吉輝がそれに気づき、背後を振り向こうとする。
ーーー暴走したトラックがーーー
車道からはみ出して二人のいる歩道の方にーーー
「-----駄目!!!」
雪乃が叫んだーーー
そして吉輝をかばうようにしてーーーー
二人はーーー
そのままトラックに・・・
突然の惨事に、カップルになったばかりの二人の
幸せは奪われた―。
トラックの時計はーーー
15:35を示していたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---ゆ、、雪乃!」
さっきのことを思い出す吉輝。
「---ゆ、雪乃は!?雪乃は!?」
自分の怪我には目もくれず、叫ぶ吉輝。
そしてーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
色が落ちていく部屋。
そこに雪乃は一人、残っていた。
「吉輝くん…
ごめんね…
あなたを追い出すためには……
ああするしかなかったの…」
吉輝は
”あの世”に吸い寄せられるかのように、
雪乃に憑依したい、という欲望を植え付けられていた。
憑依は、あの世からの呼び声―。
雪乃に憑依したまま、吉輝はそのまま、
あの世に旅立つところだった。
それに気づいた雪乃はーー。
吉輝を必死に追い出した。
自分が憑依されている間のことも、雪乃には見えていた。
そのとき、確かに吉輝は”扉”の方をしっかり見ていた。
だから、雪乃は思ったー
”吉輝くんには、まだ出口があるー” と。
きっと、自分が吉輝をかばったから、
吉輝のほうが、ひかれた時のダメージが少なかったのだろう。 と…。
雪乃の目には扉が見えないー。
つまり、自分はもう”戻れない”ということ。
事故に遭って、雪乃はこの部屋で吉輝より
先に目を覚ました。
そしてーーー
ハムスターを見て、雪乃は”これは臨死”だと悟ったーー。
何故ならそのハムスターは
小学生の時に死んだ…
「ーーー本当は楽しかった…」
雪乃がつぶやく。
「楽しかったんだよ…吉輝くん…」
雪乃は涙を流してその場に蹲る。
「でもーーー
あなたはもう、、わたしと一緒に居ちゃ、ダメなの…」
雪乃がー
吉輝に本当のことを告げなかったのはーーー
”そうしたら、吉輝も一緒に来る”と
言いだすからー。
彼は、そういう性格だからー。
次第に、”全てが薄れていく”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雪乃の病院にかけこんだ吉輝。
バイタルが低下している。
「----雪乃!
どうして!!どうしてこんな!」
雪乃の体はーー
ボロボロだったーーー。
「--どうして…どうして言ってくれなかったんだよ…」
吉輝が涙を流す。
さっきの部屋でのことを思い出してーー。
「一緒に…出れば良かったじゃんか…」
吉輝が雪乃のボロボロになった手を握る。
「---よし…てる…」
雪乃が目を開いた。
うつろな目で…。
「--いるの…吉輝くん…
どこ…??
こわいよ…わたし…こわい…!」
雪乃がパニックを起こす。
「---ゆ、雪乃!」
吉輝は必死に雪乃の手を握った。
「俺はここにいるよ雪乃。
大丈夫だから。
本当に、大丈夫だから」
雪乃がうめき声をあげて体をビクンビクンさせている。
「---雪乃!ごめんな!
気づいてあげられなくて…
本当に、、ごめんな…・…」
吉輝がさらに力強く雪乃の手を握る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”部屋”に雪乃は居た。
「------怖い…怖いよ…」
”消えていく部屋”
自分も消えるのだろうか…
「---やっぱり…怖いよ…
吉輝くん…」
目に涙を浮かべて雪乃は最愛の彼氏の名前を口にした。
その時だったーーーー
「---俺はここにいるよ雪乃。
大丈夫だから。
本当に、大丈夫だから」
幻ーーーー?
雪乃は、そう思いながら吉輝の方を見た。
「---雪乃!ごめんな!
気づいてあげられなくて…
本当に、、ごめんな…・…」
幻なんかじゃない、これはーーー
「----ー本当に、ありがとう」
消えゆく、直前、雪乃は
穏やかな笑みを浮かべて、そう呟いたーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---本当に、ありがとう」
心停止ーーー
その直前に雪乃は穏やかな表情でそう呟いた。
「----ありがとうは…
こっちの言葉だよーーー」
吉輝はそう呟いた。
”憑依したい”と言う欲望は、あの世からの手招きだった。
雪乃は、そこから、自分を救ってくれたーーー
「ーーーー雪乃…俺も、、、大好きだ…」
吉輝は心停止した雪乃の手を握りながら、
そう優しくつぶやいた。
シンリ (逆)
・・・・臨死
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
臨死体験のお話でした。
憑依をねじ込むのは大変でしたが、
こういうお話もたまには…!ということで書いてみました。
お読み下さりありがとうございました!
コメント
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なるほど(タイトル)
てっきり真理とかの意味かと思ってましたわ
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> なるほど(タイトル)
> てっきり真理とかの意味かと思ってましたわ
ちょうど臨死を逆さ読みしてみたら、
真理になったので、引っ掛けの意味でもそのタイトルにしました(笑)