「お前の体をよこせ」
もしもそう言われたら多くの人は
「嫌だ」
と答える。
しかし…それは、”地獄”を見たことのない人間の戯言ー。
地獄は、人を変えるー。
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女子高生の
木川田 樹里(きかわだ じゅり)はとある人物たちに
突然、拉致された。
しっかりものの樹里は、この非常事態でも
臆することなく拉致をした男の方を
睨むようにして見ていた。
明るく、世話焼きの樹里は高校でも、
クラスメイトから信頼される”優等生”だった。
自分の意思をしっかりと持ち、
不正や悪いことに対しては凛とした態度で臨む。
そんな子だった。
「---わたしを、どうするつもりなの?」
四角形の何もない部屋に連れてこられた樹里が言うと、
男は笑った。
「ククク…きみの体が欲しいんだ。
私にくれないか?」
男がニヤニヤしながら言った。
突然の言葉に樹里は
”この男は頭がおかしいんじゃないか?”と
頭の中で思う。
「---い…いやよ!
誰があなたなんかに!」
制服姿の樹里は、泣くこともなく、
毅然とした態度で男の言葉を拒否した。
「--そうか。
困ったな…」
男が考え込んだ表情で言う。
「--私はこう見えても紳士でね。
人からモノを無理やり奪うことはない。
それが人の体であってもね」
男が言うと、
樹里は叫んだ
「あなたと話すことなんか何もないわ!
早く私を解放して!」
睨むようにして男を見る樹里。
「くくく…
気の強い御嬢さんだ。
だが…」
男は紳士的な表情を歪めて笑った。
「それを屈服させるのがー
私にとって、何よりの快感」
男はそう言うと、樹里の方を見て笑う。
「きみは、必ず私に体を譲りたくなる。
泣き叫びながら
「体を差し上げます」と私に言うだろう」
男の言葉に樹里はムッとして叫ぶ。
「そんなわけないじゃないー!
ふざけないで!」
男は「今に分かる」とつぶやいて
部屋の出口に向かう。
そしてーー
「--どこに行くのよ!」
樹里が叫ぶと、
男は無言で扉を閉めて、
外からカギをかけた。
何もないー
四角形の部屋
「ちょっと!どういうつもり!?
警察に通報するわよ!」
樹里が叫ぶ。
スマホがポケットに入っている。
慌ててそれを取り出し、
警察への連絡を試みる樹里。
だがーー
”圏外”だった。
「無駄だよー」
男の声が部屋のスピーカーから響き渡る。
「そこは私が作り出した通称”無の部屋”
ご覧のとおり何もない部屋だ。
君にはそこにずっといてもらう。
私にからだを提供したくなるまでーーな?」
男の声に樹里が叫ぶ。
「--ふざけないで!
こんなことしてただで済むと思ってるの!?
お父さんやお母さん、警察の人が
きっと私を見つけてくれる!」
樹里が気丈にも叫ぶ。
ピピッ…
男は多数のモニターが並んだ部屋で樹里の様子を見ていた。
「フフフ…私は
”無許可の憑依”はしない。
必ずきみに言わせてみせるよ…
”体を差し上げます”となー」
男がスイッチを押すと、
部屋の照明が消えた。
何もない、真っ暗な世界。
「ひっーー?
な、、、何なの?」
樹里がおびえた声を出す。
何も見えないー
何も音もしないー
そこは、漆黒の空間…。
闇は人に恐怖心を与えるー。
樹里は次第に焦り始めていた。
「ちょっと!なんなの!
ねぇ、、、何よ!!電気ぐらいつけてよ!」
樹里の声に焦りが見え始めた。
「くくく…
暗闇は人を発狂させる…」
男はスピーカーのマイクをオフにした状態で呟いた。
「何分、持つかな?」
男が口元をゆがめた。
樹里が暗闇の中歩く。
壁に手をついて、扉を手探りで探す。
「--ど、、、どうして私がこんな目に!」
樹里は途方にくれて、その場に蹲る。
周囲を見渡すが、何も見えない。
上を見ても。
下を見ても。
左も、右も暗闇。
部屋の中の壁や天井、床は全て黒塗りだった。
だからこそ、余計に恐怖心が煽られる。
「ーーー」
樹里の”強い心”が次第に、恐怖で埋め尽くされていく。
「---だ、、出して!」
樹里が叫んだ。
「出して!ねぇ!出して!出して!出してよぉ!」
樹里の目に、涙がたまり始める。
その声の変化を、男は聞き逃さなかった。
「わずかな変化だがーー。
恐怖が声ににじみ出ている。
始まったな-」
男は笑う。
”樹里”が恐怖に支配され始めた。
「助けて!お願い!助けて!助けて!」
樹里が壁を叩く。
だが、男は答えない。
「助けて!助けて……
いやっ…わたし……助けて…お願い…」
樹里はその場で泣き出してしまった。
男は満足げにその様子を見つめる。
モニターには樹里の姿が映っている。
部屋は暗闇だが、
特殊な処理で、カメラには普通に樹里の姿が映し出されている。
「--うぅ…助けて…助けて…」
樹里が泣きじゃくっているのを確認して、
男はようやく声を出した。
「ならば、私にからだを譲るか?」
だがーー
樹里は泣くだけで、返事をしない。
「---強い子だな」
男は呟いた。
前にも3、4人、
この部屋で”実験”したことがあるが、
全員、この時点で”まさか本当には体を奪われないだろう”とでも思ったのか
「体を譲りますから!」と泣き叫んだ。
「----」
男はこの”無の部屋”の真の力を解き放つことにした。
この部屋はただの無の空間ではない。
心が折れない女性が現れたときのために
”拷問”するための仕掛けが施してある。
この部屋は
通称”ブラック・ボックス”とも呼ばれている。
男が笑みを浮かべながらスイッチを押した…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーな…なに…?」
樹里の鼻に”異臭”が漂ってきた。
とても臭いニオイ。
長年放置されたトイレのようなニオイだ。
「---んっ…いやっ!」
樹里は思わず鼻を塞ぐ。
しかも、ニオイはさらに臭くなっていく。
「--樹里ちゃん、だったかな?
キミは暗闇の恐怖に耐えた。
だが、私はどうしても君の体が欲しい。
だから、ここからは本気で行かせてもらうよ」
ニオイでそれどころではない樹里。
あまりの臭さに吐き気を催してきた。
「どうだ、そのニオイは?
いいニオイだろう?
私も嗅ぎたいぐらいだ!」
男が冷やかしの言葉を言い放つ。
「--うっ…ねぇ、、、どうして私がこんな目に
遭わなきゃいけないの!?」
樹里が泣き叫ぶ。
あまりの臭さにオエッとなってしまう。
「--決まっている」
男は言った。
「君が、可愛いのが悪い。」
「---悪魔!」
樹里は叫んだ。
男が、”気の強い子だ”と苦笑しながら、
さらにスイッチを押した。
天井が開き、
大量の”納豆”が、部屋中に落ちてくる。
「--ひっ!?」
樹里は納豆が嫌いだった。
男は、それをあらかじめ調べていた。
だからー
部屋に、膨大な量の納豆をばらまいたのだ。
「いやぁああああああああ!」
樹里が叫ぶ。
「--きみは納豆風呂に入ったことはあるかね?」
男が言う。
樹里は泣いている。
何も返事をしない。
「--私は無い。
いやぁ、君みたいな可愛い子が納豆のお風呂に入るなんて、、
きみも変態だな!?ははははははっ!」
男が笑う。
部屋中が納豆だらけ。
ボールプールかのように納豆のお風呂ができあがっている。
納豆まみれになった樹里は、
ただただ泣いている。
「ーーやめてよ…やめてよぉ…」
ねばねばした体を震わせながら言う。
「--私に体を譲ってくれる気になったか?」
男が言うー。
「----いやよ!」
樹里が叫んだ。
「----!?」
男は思う。
”なんてしぶとい子だ”と。
「---君のことを見縊っていたようだね。」
そう言うと、男はさらにスイッチを押した。
特殊な装置で、納豆が天井の吸引装置に吸い込まれて
消えていく。
「--はぁ…はぁ…」
樹里は一瞬解放してくれるのかと思った。
「---きみを解放してあげよう」
男は言った。
地獄の中に光が見えた。
「ほ、本当ですかー?」
樹里が嬉しそうな声をあげる。
「あぁ…」
男は思うー
”敬語”に変わったー。
と。
樹里が男に屈服し始めた証だー。
「ありがとうございます
ありがとうございます…」
樹里がうわごとのように呟いている。
「--」
男は別のスイッチを押した。
カサ カサ…
樹里の耳に変な音が聞こえてきた。
「---な…」
樹里の太ももに不気味な感触が伝わる。
「---な、、なに?」
樹里が手でそれを掴む…
それはーーー
暗闇の中でもわかってしまった…
樹里がつかんだのは
”ゴキブリ”だった。
「いっ・・・いやあああああああああああああ!」
虫嫌いの樹里が大きな悲鳴をあげた。
「---くくく、解放してやったぞ
”一人ぼっち”からな!
お友達のゴキちゃんだ!
どうだぁ~?
一緒に何して遊ぶ?」
男が樹里を煽る。
「いやぁああぁあぁああああ!」
樹里はパニックを起こして、ゴキブリを踏みつぶした。
ぐしょっ…
「あーあ」
男がつぶやく。
カサ カサ カサ カサ…
ゴキブリの音がする。
「ひとりじゃ辛いだろう?
今度は”事故”が起きないように
2匹、お友達を連れてきてあげたからね?」
男が笑う。
樹里がゴキブリを殺すたびに、男は
倍の数のゴキブリを部屋の中に入れる準備をしていた。
「いやあああああああああああああああああっ!
もういや!!!もうやめて!やめて!
出して!出して!だしてぇえええええええええええ」
樹里が発狂したーーーー
「あぁああいああああああぁあああああああ!!
ううううううっ!!!
いやぁああああああああああああああああああ!」
発狂した樹里はその場で狂ったように叫び続けた。
ゴキブリを潰しながら逃げ惑う樹里。
だが、潰されるたびに男がゴキブリの数を増やした。
既に部屋には16匹のゴキブリがいる。
「あ・・・・・・・あ・・・・・」
樹里はその場で魂が抜けたかのように
座り込んだ。
太ももや手にゴキブリが居るのに
反応すらしない。
「---ゲームセット。」
男は呟いて、部屋の明かりをつけた。
「---樹里、きみの体を譲ってくれーーー?
そしたら、出してやる」
樹里はうつろな目で、声のした方を見る。
「ーーーーー」
返事をしない。
「---返事はどうした!このクソ尼が!
一生その中からださねぇぞ!?
最後のチャンスだ!私に体を提供するか??」
男が本性を現したーーー
「----げます…」
樹里がつぶやいた。
魂が抜けたような状態で。
「---聞こえねぇぞ!?
大きな声で言ってみろ!
体を差し上げます と!」
「---からだを、、、差し上げます」
樹里はうつろな目でそう呟いた。
「---よろしい」
男がつぶやくと、部屋の天井が開き、
ゴキブリたちが吸引されていった。
男が部屋に入る。
「許可をくれて、ありがとう。
ではお言葉に甘えて体をもらうよ」
樹里は泣きじゃくったまま返事をしない。
男はニヤリと笑うと、樹里にキスをした。
「---んくっ…!」
樹里が驚いた顔をするーー
そして男は倒れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後。
「おらぁ!」
乱暴な少女の声が響き、
無の部屋の扉が蹴り開けられた。
「くくく…
可愛い少女で乱暴なことをする
何度やっても萌えるな…」
男・・・
いや、樹里が歪んだ表情で呟いた。
「--さ、今度はこの体で楽しむとするか」
樹里はそう言うと、
妖艶にほほ笑んだ。
「わたしはー、木川田 樹里
うふっ♡」
嬉しそうに歩き出す樹里。
樹里が歩く廊下にはさまざまな扉があった。
”無の部屋”
ー樹里が閉じ込められていた部屋
”制御室”
男がさっきまで居た部屋
”姥捨て山”
使い終わった体を処分するため、
永遠に幽閉するための部屋ー。
”極楽”
この部屋については、ここでは語れない。
男は、これまでにも他の少女に憑依しては
遊びまくった。
前の少女は”妊娠”してしまったから
姥捨て山に捨てた。
「---私は紳士」
樹里は呟いた。
男の憑依は
”許可をとることから始まる”
そして、
最後にはちゃんと”ゴミ捨て場に捨てる”のだー。
「----うふふ♡」
樹里は”解放”された。
外の世界へと歩いていく。
何も変わらない、いつもの樹里。
ただ、一つ、”心”を除いてはー。
おわり
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コメント
男の拷問は恐ろしいですね…。
樹里も、これから使えなくなるまで
使われつくすことでしょう^^
許可をとって、ちゃんと捨てる。
ある意味、彼は紳士なのかもしれません(え?)
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