婚約した若きカップル。
周囲の誰もが、二人の婚約を祝福した。
しかしー
二人の婚約は”破棄”に向かって動き出す。
憑依の力を持った男によって…。
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とあるファミレスで3人の男女が談笑していた。
「--にしても、二人とも、本当にお似合いだな」
爽やかそうなイケメン風の男、
原田 誠一郎(はらだ せいいちろう)が言う。
ティーカップに入った紅茶を飲みながら、
反対側に座った二人を見つめると、
二人は微笑んだ。
野川 竜輝(のがわ りゅうき)と
尾島 真由里(おじま まゆり)。
3人は同じ大学の出身で、
大学卒業後も親しくしてきた間柄だ。
そして、大学の頃から付き合っていた
竜輝と真由里が、ついに結婚をすることを決めたのだった。
共通の友人である誠一郎は
二人の婚約を誰よりも喜んだ。
「…お前、最初の頃は”三次元の女になんて興味はない”なんて
言ってたのになぁ」
誠一郎が笑いながら言うと、
ちょっとのんびりした感じの竜輝が言う。
「--た、確かに言ったけどさ」
気まずそうに、ステーキを口に運ぶ竜輝。
「ま、真由里とお前はよくお似合いだよ」
誠一郎が言うと、真由里がほほ笑んだ。
優しそうな、落ち着いた雰囲気の女性。
現在は24歳で、とある会社に勤めている。
「--ありがとう 原田君」
真由里がほほ笑むと、
誠一郎も笑った。
「で、結婚式はいつするんだよ?」
誠一郎が訪ねると、
竜輝が答えた。
「あ~まだ決まってないんだよ。
ま、決まったら必ず呼ぶからさ」
竜輝が言うと、誠一郎は「そっか。楽しみにしてるぜ」と笑う。
そしてー
二人に向かって、ほほ笑んだ。
「何かあったら何でも言えよ。
俺が力になるからー。」
誠一郎は容姿、性格ともに華やかな男だった…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰路。
既に同棲を始めている二人は、
スーパーで仲良く買い物をしながら話していた。
「--原田くんって本当に親切だよね」
真由里が言うと、竜輝も頷いた。
「ああ、アイツ、学生時代からみんなに
好かれてたしな」
竜輝がそう言って、ふとあることを疑問に思い、
尋ねた。
「--そういや、真由里はなんで俺なんかを
選んでくれたんだ?
アニメやゲームにしか興味なかった俺なんかを」
そう言うと、
真由里は今晩のすき焼きの材料をカゴに
入れながら笑う。
「---好きだから」
真由里はそう言うと、
優しく微笑んで続けた。
「竜輝のことが好きだったから、竜輝を選んだの。
他に理由がいる?」
その笑みに、竜輝は顔を赤らめながら言う。
「--はは、なんか、、照れくさいな…」
真由里は、とても心優しい女性だった。
本人は、アニメに興味など無さそうなのに、
竜輝がアニメの話をしても、嫌そうな顔をすることなく、
楽しそうに話に付き合ってくれた。
それだけじゃない。
竜輝の好きなアニメを、真由里自身も見たりして、
話題を合せようとしてくれた。
大学のとあるイベントで知り合って以降、
竜輝は、真由里に惹かれて行った。
”初めて、3次元の存在を好きになった”
そんな時、手伝ってくれたのが誠一郎だった。
真由里とも親しかった誠一郎は、
竜輝と誠一郎をつなぐ橋掛け役として、
竜輝をサポートしてくれたのだった。
「結婚したら…
二人で幸せな家庭、作ろうな」
竜輝が言うと、
真由里は「うん」とほほ笑んだ。
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翌日。
真由里の会社では少し早い忘年会が
開かれる日だった。
「真由里ちゃ~ん!」
太った男性社員の永坂 陸男(ながさか りくお)が
真由里の方に近づく。
スーツはぴちぴちで今にもはちきれそうだ。
「彼氏さんとは順調かい?」
イヤらしい表情で尋ねる陸男。
真由里は笑みを浮かべる。
真由里はーー
この陸男が苦手だった。
何かとセクハラのような発言をしてくるし、
何より見る目が凄くイヤらしい。
一度、大雨の日に会社に竜輝が迎えに来てくれた際に
偶然、陸男が居合わせたことがある。
その際に、竜輝に「いい彼女さん 持ちましたね。 体もエロいし」
などと言った時には
はっ倒してやろうと思ったぐらいだ。
「う~ん、いい体だなぁ」
じろじろと真由美を見る竜輝。
「---あんまり見ないでください」
真由里が嫌そうにして言うと、
「ふふ、ごめんごめん」と
笑いながら視線を逸らした。
そして陸男は言う。
「今日の忘年会、僕は行けないけど、
”楽しんでね”」
そう言うと、陸男は、フー、フー、と息を切らしながら
廊下を歩いて行った。
「---もう…」
真由里は小声でそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
忘年会が始まった。
真由里はいつも、飲み過ぎないように心掛けて
適度にお酒をたしなむタイプだった。
彼氏の竜輝から着信が入ったため、
一旦外に出る。
家の関係の他愛のない話をして、真由里が
戻ろうとしたその時だった。
突然、体の中に”何かが入ってくる”感じを覚えた。
「---な、なに?」
真由里が驚く。
体の中に風が吹いているような不気味な感じ。
「--え、、、」
驚いて、けれども、何もできず、ただうろたえる真由里。
そして、彼女は体の自由が奪われていくことに気付く。
手が、
足が、、、
動かなくなっている。
「--ひっ…?」
真由里はわけもわからず、恐怖の表情を浮かべる。
そうだーー
救急車…?
でもーー
手が動かない
「---だ、、、誰か!」
真由里は唯一動く口を使って助けを求めようとしたーー。
だがーー
「-----な~んちゃって!」
次の瞬間、不気味な笑みを浮かべて、真由里は
何事も無かったかのように、忘年会の会場へと戻って行った…。
「--お~尾島さん、遅かったじゃないか!」
部長が言う。
真由里は笑みを浮かべると、
座席につき、
日本酒を注文した。
「あれ?珍しいな、尾島さんが日本酒なんて?」
周囲が違和感を覚える。
しかし、真由里は気にも留めず微笑んだ。
”いい、体だー”
真由里は、自分の体を見つめて微笑む。
胸の感触、
髪の感触、
体の感触。
全てが”彼”を興奮させた。
今すぐ、近くの男性社員にキスをして
この場で狂ってしまいたい。
けれどー
それではだめだ。
真由里を傷つけるつもりはないー
”真由里が欲しいのだからー”
憑依した男はそう思って笑う。
「くふっ…」
思わず、表面にまで笑いが出てしまった真由里。
「---?」
周囲が少し変な目で真由里を見たが、
すぐにみんな、料理の方に意識を戻した。
「あ~~~~おいしい!」
真由里が日本酒を平らげる。
そして、カクテルやハイボール、ビールなど、
あらゆるお酒を注文し、どんどん飲んでいく。
「お、、おい、尾島さん、だいじょーぶか?」
酔った部長が訪ねると、真由里は据わった目で、部長を見た。
そして、上着を脱ぎながら
「ちょっと暑くなっちゃいました♡」と色っぽくつぶやいた。
周囲の男性社員の視線が真由里に集まる。
スタイルの良い真由里が、
上着とはいえ、突然脱ぎだしたのを前に、
男性社員たちは内心、興奮し始めていた。
「----このぐらいが限界か」
真由里はそう呟いた。
もっと誘惑したかったが、襲われてしまってはダメだ。
”真由里”を自分のものにしたいのだからー。
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深夜。
「遅いな…真由里…」
竜輝が心配していると、乱暴に玄関の鍵が開く音がした。
「---真由里?」
竜輝が行くと、そこには泥酔した真由里の姿あった。
「ただいまぁ~~帰ってきてやったよ」
真由里がフラフラしながら、リビングのソファーに座る。
だらしなく足を広げて座る真由里。
「~~~竜輝ぃ~私が帰ってきて嬉しい~~?
嬉しいよね~~?」
完全に酔っている。
憑依された彼女は、大量の酒を飲みほした。
そして、今、彼女に憑依している男は
”酔ったふり”をしている。
酔ったのは体であって、
憑依している男の意思には影響はない。
「ずいぶん飲んだんだな…」
竜輝が苦笑いして、水を差しだすと、
真由里が乱暴にそれをはたき飛ばした。
コップが壁にぶつかり、音を立てて割れる。
「調子のんなよ!竜輝ィ~~~
わたしが、あんたみたいな二次元オタク相手にすると
思ったぁ~?」
酔った様子で言う真由里。
目が完全にイッちゃっている。
「---真由里、もう今夜は寝よう」
竜輝は”どうしてこんなに酔ったんだろう?”と思いながら
真由里を寝室に運ぼうとする。
しかしーー
「根性なしー!
男のくせにわたしとエッチもできないなんて根性なしー!」
真由里が竜輝を罵る。
確かに、二人はそういう関係をまだ持ったことが無い。
真由里が、そういうのを苦手としていたし、
お互い結婚してからと約束していた。
「---お前のコレはかざりかよ!」
真由里が汚い言葉で罵る。
だが、竜輝は酔っぱらいの言葉だと、
それを気にしなかった。
「---きもいんだよ!オタク野郎が!
わたしが、あんたとつきあったのはぁ~~~
従順な働きアリとして働いてくれるからなの~~
うふふふふふふっ♡」
竜輝は酷く傷ついた。
これが、本心なのかー?と一瞬そうも思った。
だが、
竜輝は真由里を信じていた。
「---おやすみ」
竜輝はそう言って、まだ意味不明なことを叫ぶ真由里を無視して
リビングへと戻った。。
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翌日。
真由里は今日、休日だった。
仕事の準備をしている竜輝。
「---おはよう…
き、、昨日、わたし、何時ぐらいに帰ってきたの…?」
真由里が頭を押さえながら言う。
「--あ、真由里、おはよう。
昨日は深夜1時ぐらいだったかな…」
竜輝が言うと、真由里が青ざめる。
「ごめんねーーー。
どうしてそんな飲んじゃったんだろう…
昨日の記憶がなくて・・・・」
水を飲みながら真由里が言う。
彼女の中に憑依していた”男”はいったん彼女から
抜け出したようだ。
「---わたし、、竜輝に酷いことしたり
してないよね?」
不安そうに言う真由里。
竜輝は昨日のことを思い出す。
男のプライドがひどく傷ついた。
だがーー。
竜輝は笑った。
「大丈夫。いつも通りだったよ」
真由里は「そっか」と微笑む。
だがーー
真由里には分かってしまった。
今の竜輝の笑みは
”人に遠慮して、嘘をついているときの笑み”だとー。
「--ごめんねーー」
仕事に向かう竜輝を見て、真由里はそう呟いた。
竜輝は、本当に怒ってなどいなかった。
真由里のことを、それだけ愛していた。
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夜。
カギの音がする。
竜輝だ。
二日酔いも大分回復していた真由里は、
玄関の方に歩いていく。
扉が開く。
「おかえり」
竜輝に微笑みかける真由里。
しかしーーー
「---お前…昨日、俺のこと馬鹿にしたよな?」
竜輝が激しい形相で言う。
「---え?」
真由里が驚いた表情を浮かべると、
竜輝が叫んだ。
「このクソ女!俺を馬鹿にしやがって!」
竜輝が真由里の頬を叩いた。
「---ひっ…!? …りゅう、竜輝…?」
真由里が竜輝の方を見る。
竜輝が恐ろしい形相で、真由里を見つめていた。
「---」
竜輝には”男”が憑依していた。
全ては”自分が手に入れるため”
竜輝と真由里の仲を裂かなければならない。
男は、自らの欲望のために竜輝に憑依したのだ。
鞄を放り投げて
もの凄く不機嫌そうに食事を食べる竜輝。
真由里が何かするたびに、怒鳴り声をあげる。
その日ー
真由里は生きた心地がしなかった。
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翌朝。
竜輝はいつも通りの竜輝に戻っていた。
「あ、おはよう真由里」
「お、、おはよう…」
真由里の体は震えていた。
昨日の恐怖が、頭から抜けない。
「ほ、、、本当に…ごめんね」
真由里が言うと、
竜輝は笑った
「まだ気にしてたのか?だいじょうぶだって、
本当に何もなかったから」
竜輝は、いつも通り、真由里に気遣い、
真由里が酔った日のことは追及しなかった。
”男”は竜輝から抜ける際に、
竜輝の記憶を適当に書き換えて、
昨日の”普通の一日”を過ごしたことにしておいたのだ。
お互い仕事に向かう二人。
しかしーーー
”亀裂”は少しずつ、
けれども確実に広がっていたー
”婚約破棄”に向かってーー
②へ続く
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結末が予想できる方は…
たぶん居ないと思います(え?)
続きは明日です!
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