<憑依>デンジャラス・バーガー② ~復讐~(完)

ハンバーガーショップ店員に憑依して、
その子の心を追い出して、
ハンバーガーに挟んで食べる。

彼が奇行を繰り返すのは、
とある復讐のためー。

そして、復讐の時がやってきたー。

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菅原 益男は、1年前まで、女子大生と付き合っていた。

女子大生の花森 敦美(はなもり あつみ)。

益男がよく通っていたバーガーショップの店員だった敦美。
店に通ううちに次第に、距離が近くなっていき、付き合いだしたのだった。

10歳の年齢差。
始めは幸せだった。

だが、ある日ー。

「ねぇ、バーガー食べすぎだよ?」
敦美が心配そうに言う。

「ははっ!心配すんなって!
 俺のガソリンはダブルチーズバーガーだ!」

そう言いながら益男は
5個目のダブルチーズバーガーを口に放り込んだ。

「食べ過ぎだって…」

益男は太らない体質だった。
だからこうして、ハンバーガーを食べまくっても問題なかった。

だが…
栄養士を目指している敦美には我慢ならなかった。

「---ねぇ…もうやめてよ…。
 体壊すって…」

敦美が言う。

しかし、益男はそれを聞き入れなかった。

「うるさい!」
しつこい敦美に手をあげる益男。

敦美は涙を浮かべながら叫ぶ。

「ダブルチーズバーガーとわたし、どっちが大事なの!?」
叫ぶ敦美。

益男は答えた。

「ダブルチーズバーガーに決まってるだろうが!」

「最低!」

敦美は、そのまま走り去っていき、
二度と自分から、益男の前に姿を現さなかった。

2か月後。
益男は、謝ろうと、敦美の働くバーガーショップを訪れた。

しかしーーー
彼女にはもう、新しい彼氏が出来ていた。

バーガーショップのバイトを終えて、
彼氏と合流した敦美の姿を、その日、益男は目に焼き付けた。

「---俺のことを捨てて、
 もう新しい彼氏か」

益男の目に狂気が宿る。

彼は復讐を決意した。

あれから1年。
彼は憑依薬を手に入れ、
究極の復讐を思いついた。

敦美の体に憑依して、
敦美の魂を吐きだし、
その魂をサンドしたハンバーガーを新しい彼氏に食べさせるー。

彼氏の歯に、敦美の心は砕かれ、
彼氏の胃液によって、敦美の心は消滅するー。

これが、益男の復讐だ。

そのために、何度かバーガーショップの女性店員に憑依して練習した。

数名が今も意識不明のままー
いや、もう2度と目を覚まさないだろうが
そんなことはしったことではない。

「---敦美…俺はお前に復讐する」

益男はそう呟き、憑依薬を飲み干した。

今度使った憑依薬は、
幽体離脱できるタイプ。

それでー
敦美の家まで向かうー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

花森 敦美は、
彼氏とLINEをしながら
一人、自宅の中で過ごしていた。

彼女は上京してきて一人暮らし。

そのため、バイトをしてお金を稼ぎながら
なんとかやっている。

「---」
彼氏からのLINEを見て微笑む敦美。

そのときー
”声”が響いた。

”よぉ、久しぶりだな”

「---え??」
敦美が驚いて立ち上がる。

”覚えてないか?”
益男が、既に敦美の体内に憑依を終えて、
脳に直接語りかけていた。

「---ま、、、益男くん???」
敦美が目に恐怖を浮かべる。

”新しい彼氏作ってご機嫌そうじゃないか。
 え?俺のことはもうお払い箱か?”

益男が憎しみをこめて言うと、
敦美が叫んだ。

「---な、、何よ今更!
 私よりダブルチーズバーガーが大事なんでしょ!?
 
 付き合う前は良い人だと思ったけど、
 あなたはいつも自分のことばっかり!」

敦美が続ける。

”待ち合わせ時間に1時間遅れて、
 第1声が、昨日の競馬が云々かんぬんだったこと”

”誕生日プレゼントがフィレオフィッシュ1個だったこと”

”クリスマスデートの際につれていかれた場所が
 バーガーショップだったこと”

”敦美が熱を出したとき、笑顔で
 チーズバーガーを買ってきたこと”

敦美の不満が次々と述べられた。

”はん、それの何が悪いってんだよ!
 俺はお前に尽くした。
 それなのにお前は俺を見捨てた。

 ゼッタイにゆるせねぇ”

「---ふざけないで!どこに居るのよ!」

敦美が叫びながら部屋を見回す。

”お前の中だよー”

「えー?」
敦美が驚いた声をあげると同時に、
益男の意識が敦美の中にブワッと広がり、
体がビクンと震え、そのまま、主導権を奪われた。

「くくく…やっぱ良い体してやがるぜ」
敦美が歪んだ笑みを浮かべる。

「でもよ…」
敦美が鋭い目付きで鏡を見た次の瞬間…

「おらぁ!」
敦美は突然、自分の手で、自分の頬をなぐりつけた。

「テメーの顔見てるとむかつくんだよ!
 っラァ!」

敦美の声で乱暴な言葉を口走りながら、
自分の体を殴る敦美。

自分で自分を殴って、敦美がよろめく。

「くふっ…いっ…てぇ~~~」
敦美が唇から血を流しながら笑う。

「---……っ…何笑ってんだよ!」
自分で、敦美を笑わせておきながら、
笑った敦美の顔を見て逆上する。

敦美はさらに自分を殴り続けた。

1発、2発、3発と…。

「ひ・・・ひひ・・・いたたたたたた…」
顔が腫れた敦美が笑う。

「---くふふふふ・・・このぐらいにしといてやるか」

あまり外見に変化が出ると”明日”に影響する。

敦美はそう思いながら血のついた手でスマホをつかみ、
彼氏に連絡を入れる。

”明日、私のバイト先にハンバーガー食べに来てよ!”と
彼氏を誘う。

数分後、彼氏から
”え?おう、行く行く”と返事があった。

その返事を見て、敦美は笑みを浮かべた。

「わたしをーー
 食べさせてあげる♡」

と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

いつもより上機嫌で敦美は、仕事をしていた。

既に、お手洗いで自分の心を吐き出している。
敦美の心は黄色だった。

それをポケットにしまう。

「今日は、花森さん、ご機嫌だね?」
男性店長が言う。

「え?そうですか~?うふふっ♡」

いつもとは明らかに違う雰囲気に
店長は違和感を感じながらも、
”ま、上機嫌ならいっか”と、
特に気にも留めなかった。

そして、彼氏がやってきた。

同じ大学の彼氏ー
栗嶋 興毅(くりしま こうき)。

笑顔で敦美に挨拶すると、
敦美も笑顔でそれを返した。

「---よ、来たぜ。
 とびっきりのおすすめバーガーがあるって
 言ってたけど…」

興毅の言葉に敦美はうなずく。

「うん!今作ってあげるね!」

そう言うと、敦美は奥で、バーガーを作り始めた。
普通のチーズバーガー。

だが、敦美はその過程で、ポケットから
”敦美の心”を取り出し、バーガーの中にサンドした。

敦美の心入りのハンバーガー…。

「---くふふ・・・じゃあな、敦美」
敦美は小さくそう呟くと、出来立てのハンバーガーを
彼氏の興毅のところに届けた

「はい!わたしのとっておき、敦美バーガーの完成~」
嬉しそうに拍手しながら、
彼氏に”自分の心”が入ったハンバーガーを差し出す敦美。

「---ふーん…
 普通のチーズバーガーみたいだけど?」
興毅が訪ねる。

「ほらほら、とにかく食べてみて!」

敦美が言うと、
興毅は不審な表情をしながら
チーズバーガーを食べ始めた。

真ん中の部分に差し掛かる。
敦美の心がサンドされているあたりだ。

敦美はニヤニヤしながらそれを見つめている。

カウンターの奥では店長たちが、
なかなか戻ってこない敦美のことを気にしている。

「----」
興毅が突然手を止めた。

”助けて”

そう聞こえた気がしたのだ。

「----どうしたの?」
敦美が言う。

「---」
興毅が難しい表情をしてハンバーガーを見つめる。

”助けて、栗嶋くん!”

何故だろう―?
敦美の声が聞こえる気がする。

「ねぇ、どうしたの”興毅”、
 早く食べてよ!
 わたしのとっておきだよ?」

敦美が少し苛立った様子で言うと、
興毅は敦美の方を見た。

「---…どういうつもりだ?」
興毅が訪ねる

「どういうつもりって…?」
敦美が不思議そうに返す。

何が起きているのかは分からない。
だが、興毅には不思議と何かが伝わってきた。

敦美本人の意識が、興毅に助けを求めているのかもしれない。

「---敦美!」
興毅は直感的に、3分の1ほど食べたハンバーガーの
パンの部分をめくった。

そこにはー
敦美の心がペースト状にされた物体ー。
黄色いスライムのようなものがあった。

「--なんだこれは?」
興毅が敦美の方を見る。

「---わ、、わたしの隠し味よ!
 気にせず食べてよ!”興毅”!」

「---敦美は、俺のことを興毅とは呼ばない!」

そう言われて、敦美、
いや…敦美の中に居る益男は動揺した

自分のことは下の名前で呼んでいたから
てっきり、新しい彼氏のこともー。

「お前は誰だ!?」
興毅が立ち上がる。

突然の騒ぎに周囲が騒然とする。

「---誰だって…?敦美に決まってるじゃない!
 わたしは花森 敦美よ!」

敦美が言い返すと、
興毅は言った。

「違う。俺には分かる…
 敦美は…ここいいる」

興毅がバーガーの上の黄色いペースト状のものを指さす。

「---な、、何言ってるんだよ!
 わたしが敦美だって言ってるだろ!」

焦るあまり、益男は声を荒げた。

「ホラ!喰えよ!わたしが作ってやったんだろ!?
 食えよ!わたしをイライラさせんなよ!!!」

敦美が叫ぶと、
興毅が、突然敦美を壁の方に押し付けた。

「---俺の敦美に手を出すな」
さっきまで優しい雰囲気だった興毅が
敦美を睨む。

「----ひっ」
敦美がその迫力に気圧される。

そしてーー
興毅はその手につかんだ敦美の心、
黄色いペースト状のものを、敦美の口の方に向けた。

「---」
興毅には憑依がどんなものだか、分からない。

けれども、奇跡なのだろうか。
どうすれば、敦美が戻ってきてくれるか、分かったような気がした。

「---敦美…俺が助けてやるからな!」

そう言うと、興毅は敦美の心を、敦美の胸のあたりに押し付けた。

心が光を発して敦美の中に吸い込まれていく。

「や、、やめろ!うぎゃああああ!」
敦美が悲鳴をあげる。
そしてーーー口から”紫色の球体”を吐き出した。

そのまま、その場に倒れる敦美。

「---お、、おい!」
店長が事態を理解できず叫ぶ。

「---お前・・・よくも俺の敦美に…」

敦美が口から吐き出した球体状のドロドロしたものー。
それは、憑依していた益男の心だった。

敦美の心の代わりに、益男が追い出されてしまったのだ。

そしてー
「ーーそんなに喰って欲しけりゃ…」

興毅は食べかけのハンバーガーに紫のペーストを
挟み、叫んだ。

「俺が喰ってやるよ!!」

彼は、ハンバーガーを力強く噛み砕き、
そして、コーラで一気に喉の奥に流し込んだー。

”ぎいあああああああっ”

断末魔が聞こえた気がしたーーー。

「・・・・・・・あれ・・・わたし・・・?」
敦美が目を覚ます。

「---敦美…大丈夫か?」
興毅が優しい笑みを浮かべて敦美を起こした。

「---栗嶋くん……」
怯えた様子の敦美に、興毅は優しく言葉をかける。

「--大丈夫。俺が敦美を守るからー」
その言葉に敦美は安心した様子でほほ笑んだー。

心を食べられてしまった益男はーー
二度と意識を取り戻さなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

栗嶋 興毅の自宅。

興毅が部屋で何かを眺めている。

部屋には…
彼女である敦美の写真がそこら中に貼られていた。

その数、100以上。

「---敦美は俺のものだ。
 俺の敦美に手を出すことは許さないー」

敦美に憑依した益男は知らなかった。。

いや、敦美自身も。。

新しい彼氏の興毅は、
益男以上に”危険人物”だと言うことをー。

「敦美の全ては、”俺だけのもの”だー」

興毅は写真の敦美にキスをしながらそう呟いた…。

おわり

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コメント

あのまま食べられてしまうよりは
ハッピーなのではないでしょうか!

余談ですが
「わたしと〇〇どっちが大事なの?」と言われて
とある答えを返した知り合いのネタを作中で使ってみました(笑)

ご覧いただきありがとうございました!

コメント

  1. toshi9 より:

    SECRET: 0
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    一筋縄でいかない展開は、無名さんらしいですね。最後のオチにはそう来るかと。面白かったです。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 一筋縄でいかない展開は、無名さんらしいですね。最後のオチにはそう来るかと。面白かったです。

    ありがとうございます!
    良くも悪くも、最後に捻ってしまうのは私のクセみたいです(笑)