また、逢いたい。
そして、彼女に謝りたい。
あの日のことを、全てー。
そして、もしもできることならば、
また彼女と一緒に―・・・。
------------------------------
「・・・・・・」
土砂降りの雨ー。
雷の鳴る中ー。
彼女は傘を差しながら走っていた。
だが、この雨の中では、傘なんて意味がない。
「--もう帰れよ!
グチグチグチグチ…!
俺だって忙しいんだよ!」
彼氏の治の言葉を思い出す。
自分は邪魔なのだろうかー。
確かに、おせっかいすぎるのかもしれない。
けれどもー。
それは全て、これからも治と一緒に居たいから。
ーなのにー。
自分の想いは、彼に何一つ伝わってなかったのかもしれない。
治の家から飛び出した麻美は、近くの公園まで
やってきていた。
雷が鳴り響いて、
大雨が降っている。
「--治・・・わたし、邪魔だったんだよね・・・
ごめんね・・・」
麻美は一人呟きながら、その場で涙を流した。
麻美は、中学生の頃に、
いつも可愛がっていた弟を交通事故で亡くしている。
弟も、自分にだらしがない性格で、
姉である麻美がよく世話を焼いていたー。
ちょうど背も弟と同じぐらい。
麻美は、知らぬ間に、彼氏の治と自分の弟を
重ねてしまっていたのかもしれない。
「---」
鞄の中に入った治への誕生日プレゼントを見つめる。
麻美は、サプライズで治の家に、ケーキを届けるように
ケーキを注文してあった。
それが届くタイミングで治に誕生日プレゼントとして、
彼が欲しがっていた音楽プレイヤーを渡すつもりだった。
けれど・・・。
顔なじみのケーキ店に
”ごめんなさい ケーキは今回は中止にしてください。
お金は払います” とメッセージを送る。
「---」
雨がさらに強くなり、麻美は思わず近くの木陰に
移動した。
雷の日に木陰にー
いけないことは分かっていた。
けれど、悲しみのあまり、それさえも忘れていた。
そして、治に伝えたかったー。
色々な思いが込み上げてくる。
その場で泣き崩れたかった。
でも・・・
そんなことをしても何も始まらない。
「--私も言い過ぎたかな」
麻美がそう呟くと、
悲しそうに微笑んで
スマホを取り出した。
”ごめん、わたし もうー”
そこまで入力したところで、今まで聞いたこともないような
天が割れるような大きな音が聞こえた。
思わず、麻美が上を振り向いた。
頭上からの光がーーー
曲線を描きながら麻美をめがけて一直線に・・・
「----治・・・」
麻美は、最後にそう呟いて、
雷の直撃を受けたー
彼女の体が力なく、その場に倒れ、
スマホがその場に落ちる。
鞄からは、
治にプレゼントするはずだった音楽プレイヤーの
入った箱と、どことなく雰囲気が治に似た、麻美の弟が
写っている写真が、こぼれ落ちた・・・。
降り注ぐ雨がーー
その写真を皺くちゃにしていく・・・
そしてーー
麻美はそのまま助からなかった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2か月前のことを、思い出しながら治は思う。
あの日、何故彼女は、木陰に居たのだろう。
あの日、彼女は最後に何を自分に伝えようとしたのだろう。
学食の列に並びながら真剣な表情で考える治。
だが、いよいよだ。
いよいよ明日、その全てが分かる。
明日が雪の日。
美野里をなんとか例の場所に誘導し、
言い伝え通りに、死者の魂を憑依させる。
体は美野里だけど、
心は麻美ー。
麻美に、もう一度会える。
「どうしたの?難しい顔して?
何か悩み?」
食堂のおばちゃんが言う。
「---!」
我に返って治が前を見ると、
満面の笑みでおばちゃんがラーメンを用意していた。
「あ、、、あ、、どうも」
治は苦笑いしながらお礼を言う。
今日はカツカレー食べたかったんだけどな・・・。
「--あ、ラーメン治!」
幼馴染の美野里が笑いながら、正面の座席に座る。
美野里は少なめのカツカレーを持っていた。
「あ、、カツカレー・・・」
治が美味しそうにカツカレーを見つめながら呟くと、
美野里が笑う
「ん?食べたいの~?」
美野里がニヤニヤしながら言う。
「--お、くれるのか!優しいなぁ美野里は!」
治が手を伸ばすと、美野里はカツカレーの置かれたお盆を
移動させた。
「だーめ!あげない!」
意地悪そうに笑う美野里を見て治はため息をついた。
しばらく間をおいて、
治が言う。
「そういやさ・・・明日、空いてるか?」
治が言うと、美野里は「うん、空いてるけど」とほほ笑む。
「じゃあさ・・・
ちょっとイイ場所見つけたから一緒に行かないか?」
治が言う。
美野里は何だかんだいつも、治の誘いには
乗ってくれる。
だから、今回も乗ってくれる自信があった。
「うん、いいよ」
美野里がそう言うと、つけ加えた。
「イイ場所 って怪しい言い方ね~?」
美野里が冗談めいて言う。
治はギクッとしながら
「そ、そんなことないよ」と言い返した。
まさか
美野里の体に、死んだ麻美の魂を憑依させようと
しているなんて、口が滑っても言えない。
とりあえず、約束をこぎつけたことに一安心し、
治は、明日の事を考え始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
その日は休みだった。
山奥に進む二人。
「ねぇ、もう疲れたんだけど、、
しかも雪降ってるし・・・」
美野里が不満を漏らす。
「もうすぐだって!
ホラ、凄い絶景なんだよ!
付き合ってくれたら、
美野里の好きな、スイーツおごってあげるからさ!」
そう言うと、美野里は「たくさんおごってもらうからね!」
と言いながら少し機嫌を取り戻したようだ。
そしてー
彼らは到着した。
伝承の場所に。
雪の日に同性の体をささげると、
死者の魂がー憑依して蘇えるというその場所に。
神社のような場所。
端の方にひっそりとそびえたつ、
小さな祠。
そこに、呼びだしたい死者の写真を置き、
祠の前で、手を合わせさせれば、
その写真に写った死者の魂が、憑依し、
現世に戻ってくるーー
そういう言い伝えだ。
ネットで調べた限り
”この言い伝えは本当だ”
治が緊張した様子で祠を見つめる。
そして、美野里にばれないように、
ポケットから麻美の写真を取り出す。
屈託のない麻美の笑顔ー。
大切な宝だったのに、
その笑顔を、この手からこぼしてしまった。
今度はーーー
もう離さない。
ゼッタイにー。
何があっても。
「……わかった……帰る」
あの日の麻美の悲しそうな表情を思い出す。
「ごめんなー。
俺が餓鬼だったから・・・
もう、、あんなひどいこと言わないから・・・」
そう呟いて彼は麻美の写真を祠に置いた。
「どこが絶景よ・・・」
美野里が怒った声で言う。
「---アンタ、こんな雪の日に
山奥に連れてきて何よ!
この無人の神社!?
これが絶景?」
不満を爆発させる美野里。
「まあまあ」
治は苦笑いしながら祠の前に美野里を連れていく。
ついに、麻美が帰ってくる。
麻美ー。
「---何よこの祠は?」
美野里が不機嫌そうに尋ねる。
麻美は、スタイルの良い女性で、
少し背も高めだった。
モデルのスカウトがあったこともあるらしいが、
本人にはそんな気は全くなく、
寧ろ控えめで心優しい雰囲気だった。
綺麗な黒髪がよく似合っていたー。
美野里も、美人の方に部類される子だろう。
身長は平均で、治より少し小さい。
見た目は優しいそうだが、ちょっと気が強い。
二人はー、
同じ人間ではない。
けれどー
美野里と麻美は仲良くしていた。
麻美のためなら、美野里だって・・・。
そして、何より麻美に謝りたい。
治は、美野里を犠牲にしてしまうことに
自責の念を感じ始めていた。
無人の神社。
雪のせいで、さらに静かな印象を受ける。
「---」
美野里が祠に置かれた裏返しになっている写真を見る。
治は言った。
「--この祠にお祈りすると、今年1年間
健康で幸せな1年になるんだってさ」
治が笑いながら言うと、
美野里はすねた様子で呟いた。
「それだけのために私をここに・・・」
美野里はじっと治の方を見ている。
「---美野里には幸せでいて欲しいからさ!
ホラ、一応俺たち小学生からのなじみだろ!」
治がそう言うと、
美野里は目をつぶって頷いた。
「じゃあ、やってみる」
そしてーー
美野里が祈りをささげると、
祠から突然白い煙のようなものが
湧き出始めた。
異変に気付いた美野里が目を開く
「ちょ、、な、、何これ!?」
美野里が驚いて声をあげたその瞬間、
煙が美野里の方に移動し、
美野里の耳から体内へと侵入し始めた。
「ヒッ・・・な、、なにこれ・・・いや、、、いやぁ!」
美野里が恐怖に表情を引きつらせる。
治はーーー
笑っていた。
「お、、治!助けて!」
手を伸ばす美野里。
だが、治は言った。
「ごめん、美野里」
申し訳なさそうに目を閉じる。
「俺は、麻美ともう一度やり直したいんだ」
治が言うと、
美野里が驚いた様子で言う。
「--な、、何言ってるの・・・
いっいやぁ・・・な、、、、なに・・・
わ、、、わたし・・・・・・消え・・・」
美野里の言葉が朦朧とした雰囲気になる。
そして美野里の体が光に包まれ、
美野里が悲鳴をあげた
「いやああああああああああ!」
治は叫ぶ。
「麻美!麻美!俺だよ!!!治だよ!!!」
光が消えーーーー
美野里が、顔を上に向けたまま固まっている。
「-----」
治が緊張した面持ちでその様子を見つめる。
そしてーー
美野里が顔を前に向けて、治の方を
寝起きかのような表情で見つめた。
「------」
流れる静寂ー。
そしてーーーー
美野里が口を開いた。
「------治・・・?」
麻美も美野里も”治”と呼ぶ。
だがーー
治には分かった。
この呼び方は・・・
「---麻美・・・逢いたかった・・・」
治が涙をこぼしながら美野里の方に近づく。
「-----治・・・」
美野里が悲しそうな表情で目を涙ぐませた。
不思議そうに自分の体を見て、美野里は微笑んだ。
「麻美・・・
あの日のことーーー
本当にごめん・・・」
ずっと、
ずっと、謝りたかった。
ずっとーーー。
「----俺、、、馬鹿だった・・・
自分のことしか考えてなかった。。。
麻美が居なくなってみて初めてわかった・・・
麻美が、俺にとって、どんなに大事な存在だったか・・・」
治の言葉に、美野里は切ない表情でうなずいた。
「--麻美、、もう一回、、やり直そう・・・
今度は絶対にこの手を、離さないからー」
治が手を差し伸べると、
美野里は笑ったーー
その笑顔は、美野里のものではないー
麻美の笑い方だった。
そして、彼女は微笑みながら言った。
「ありがとうー。
でも、私ーーーー
あなたとはもう行けないー」
美野里が、悲しそうにそう呟いた。
「----え?」
治が唖然として、美野里の方を見つめる。
空から降る雪がー
さらに大粒になってきていたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回で最終回です!
憑依に辿り着くまで時間がかかりました(汗)
今回はハッピーエンド?それともバットエンド・・・??
続きは明日です!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
どんなラストが待ち受けているのかッ!!
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> どんなラストが待ち受けているのかッ!!
今から書きます!笑